別府の山の上にある大学「APU」で、
国際環境に刺激を受ける。

こんにちは、ほぼ日の田中です。
ただいまおこなっている「ほぼ日の東京特集」
ご覧いただけていますでしょうか。

ぼくとモギ、そして写真を担当した杉本は
『外国からきたみなさんに聞いた東京のイメージ』
という企画で、大分県別府にある
「APU(立命館アジア太平洋大学)」
という大学にお邪魔しました。
理由は、まだ東京を訪れたことのない留学生のみなさんに
東京のイメージについて聞いてみたかったため。
外国のみなさんが東京について
どんなイメージを持っているのか、
リアルな声を知りたかったのでした。

くわしい結果は、実際のコンテンツを
お読みいただけたらと思いますが、
今日の「ほぼ日ニュース」は、そのこぼれ話。
APUという大学自体の感じがおもしろかったので、
そのときのことをご紹介します。

APUは大分県別府市の山の上にある、
学生の半分が留学生というすこし変わった大学です。

20年ほど前に
「キャンパス自体が国際環境であるような大学を作ろう」
と、別府の山の上に創設されました。
どこかの成功例を真似て作った大学ではなく、
自分たちで一から新しいモデルを作りあげた大学。
作られた過程は、APUの副学長の今村さんと
糸井重里の対談『はたらく場所はつくれます論。』
読むことができます。
(対談内で語られているAPUの考え方も、
どう実現させたかの話も、どちらもおもしろいです。
よかったら読んでみてください)


▲『はたらく場所はつくれます論。』より

さて、APUはキャンパス内にいるだけもたのしくて、
歩いていると、あちこちから
さまざまな言語が聞こえてきます。
スタッフのかたに聞くと、
「あそこはタイの学生たちのグループ。
こっちで話しているのは中国語で、あちらは韓国語ですね」
などと教えてくださいます。
しかもそのなかに
「彼はAPUの卒業生なんだけど、
自分の国では未来の首相と呼ばれている男で‥‥」
みたいな話も混じります。すごい。

学生たちが日常的に利用する生協の品揃えも、
APUはひと味違います。

一見ふつうの大学生協のように見えますが、
よく見るとすみずみまで日英表記が徹底されていて、
日本語ができない学生でも、
気持ちよく買い物できるようになっています。

イスラム教徒のみなさんが安心して食べられる、
ハラール認証の食べ物もたくさん置いてありました。

こういった細やかな配慮も、
長い時間のなかでととのえられてきたものだそうです。

また、食堂にも、国際環境ならではの雰囲気が。

和食、洋食、エスニック、ムスリムフレンドリーフード‥‥。
各国の料理を食べることができます。
ここでもまた、ハラール専用の食器が準備されていたりなど、
学生それぞれのことを考えたメニューになっていました。

意外に思われるかもしれませんが、
APUのみなさんに特に人気の「母校の味」は、
なすの揚げ出し77円。
(上には大根おろしがのっています)
どの国からきた学生でも食べることができる
定番メニューです。

数年前、なすが不作でメニューから消えたときには
大量の問い合わせがあったとか。
そのため、食堂のスタッフのみなさんは
「このメニューだけは採算度外視で、
いつでも絶対に切らさないようにしています」
とのこと。
ぼくらももいただきましたが、とてもおいしかったです。

さて、このとき我々はとくべつに
「APハウス」と呼ばれる学生寮にお邪魔して、
話を聞かせていただきました。

海外から来た学生たちは、
かならず1年目はこのAPハウスで共同生活をして、
日本での暮らし方を学ぶのだそうです。
複数の棟からなるAPハウスの1と2に、
新入生たち1100名が暮らしています。

中に入ってすぐのところに広いロビーがあります。
さまざまな国からきた学生たちが入り混じり、
ビリヤードや卓球をしたり、
わいわいおしゃべりしたりしていました。

ここもまた、APUの他の場所と同じく
いろんな言語が聞こえてくる、完全な国際環境。
(そして、ビリヤードや卓球などのゲームは、
ことばが流暢でなくてもたのしめるから、
仲良くなるのにぴったりですね)

みなさんのご厚意で、寮の部屋も見せてもらいました。

まずはマレーシア出身のリーさんと、
奈良県出身の真麻(マーサ)さんの暮らすシェアルームへ。

「APハウス」のシェアルームは
日本の学生と留学生が同じ部屋というのが基本ルール。
日常の中で異文化交流ができるようにしているそうです。
こういったところにも
「キャンパス自体が国際環境であるような大学に」
というAPUの考え方が貫かれています。

シェアルームとはいえ、それぞれのスペースはあり、
2つの部屋が引き戸でつながったようなかたち。
あいだの引き戸には鍵もかけられるそうです。
(リーさんと真麻さんは「あまり鍵はかけない」と
言っていました)

ふたりはシェアルームで暮らしはじめたばかりですが、
すっかり仲良し。
いっしょに出かけることも多いそうでした。

続いては、スリランカから来たという
サディンさんのシングルルームにお邪魔しました。

壁にはマスキングテープを使って
家族や友人の写真がたくさん貼られ、
すっかり自分の部屋になっていました。

「両親はもともと、わたしをスリランカの外に
出すことには反対だったんです。
でも、日本なら安全だからということで、
APUに来させてもらえました」とのこと。

こういった
「安全だから日本のAPUを選びました」
という話は、けっこういろいろな方から聞きました。

最後にお邪魔したのが、ガーナ出身のケニスさんと、
東京出身の別府さんのシェアルームです。

なんと、ふたりのコミュニケーションの基本は、中国語。
ケニスさんはAPUに来る前に、
半年ほど中国の大学に在籍していたそうです。
別府さんはお父さんが中国のかたなんだとか。
そのためおふたりからは、
英語、日本語、中国語の入り混じりで、
いろいろな話を聞かせてもらいました。

話が複雑になると別府さんがケニスさんに中国語で聞いてくれて、
それを日本語に変換して、こちらからは英語で質問し‥‥など、
APUの国際環境を目の当たりにしました。
「もしかしたら未来の日本では、
こういう状況が当たり前になるのかもしれないぞ‥‥」
そんなことを思いました。

ケニスさんは、ガーナという国の抱える問題点と、
それに対して自分がやらなきゃと思っていることを
熱く語ってくれました。

ケニスさんとしては、まずはどこか一地域の教育の水準を
高めるのがいいと思う、とのこと。
「ひとつ良い例を作れたら、そのことが、
ほかの地域でもできるという証明になりますから。
そんなふうに小さな成功例をまず作り、
そこから大きな変化を起こしていくのがいいと思うんです」

また、別府さんのほうは
「ぼくの目標はパイロットなんです。
そのためには国際的な環境に身を置くべきだと思って、
APUを選びました」とのこと。
ひとつずつ自分の頭で考え、そしてその考えを、
目の前の相手にわかってもらえるよう言葉を尽くす。
おふたりの姿勢、とてもかっこよかったです。

そして今回、APハウスでのさまざまな取材は、
寮生たちのお世話係の先輩学生
「RA(レジデントアシスタント)」のみなさんにも
たいへんお世話になりました。


▲今回お世話になった詩子(うたこ)さん、
愛莉(あいり)さん、GANIさん、Fabioさん。

「RA」はみんなの暮らしを支えるサポーター。
留学生たちへのゴミの分別方法、お風呂の入り方といった
日本での暮らし方についての説明や、
歓迎会をはじめとする行事の開催などをされているそうです。
1100名が暮らすAPハウスに、全部で62人のRAがいるとか。
新入生以外の学生がなれるそうですが、
志望者が多く、全員がなれるわけではないとか。
「自分もRAの人にすごく助けてもらったから」
といった理由で志望する人も多いそうです。

RAのみなさんからも、
いろいろと熱い話を聞かせていただきました。
たとえばFabioさんのいまの目標は
メキシコのエネルギー事業の仕事に就くこと。
(Fabioさん、本名はヒデノリさんですが、
国際学生から呼びにくいといわれ、
以前留学先でつけてもらった
ニックネームを使っているとのこと)
「今後、日本の電力会社や発電施設を作る企業が
もっともっと中南米に進出していくと思うんです。
そのなかでぼくは現地の企業と日本企業のあいだに入って、
マネジメントをできる人になりたいんです」
実際にFabioさんはもうすぐ
メキシコに留学することが決まっているそうです。

GANIさんはオーストラリアの大学院に行きたいと思っていて
「いま、そのための奨学金を探しています」とのこと。
発想のスケールが、基本的にグローバル。
みなさんの話を聞いていると
「やろうと思えば、けっこうなんでもできるし、
何よりやってみることが大事」
そんな思いが、胸の奥から湧いてくるような感じがありました。

ちなみに、別府のおすすめの場所を聞いてみると、
みなさん口を揃えて「温泉です!」とのこと。
それぞれお気に入りの温泉を教えてくれました。
ああそうだ、別府ってほんとうに良い温泉が
たくさんあるもんなあ‥‥。

と、いうわけで、
とくに何か結論があるわけではないのですが、
自然の多い、とても気持ちのいいキャンパスで、
みなさんから真剣な話をたくさん聞かせてもらって、
すごく良い刺激を受けて帰ってきました。

APUのスタッフのかたが
「うちにはゆくゆく各国のリーダーになるような
若者がたくさん来てくれているんです。
その非常に志の高い人たちが、
同じ大学出身ということで繋がっています。
これは、うちの誇りなんです」
と嬉しそうに語られていましたが、
まさにその感じを目の当たりにした2日間でした。
「自分が高校生だったら、ぜひAPUに進学して、
この国際環境に4年間どっぷり浸かりたい」
そんなことをみんなで話しながら帰りました。

未来のさまざまなヒントが隠れているような大学、APU。
見学もできるそうなので、興味をもたれたかたは、
ぜひ訪れてみてくださいね。

いろいろと話を聞かせてくださったみなさん、
本当にありがとうございました。
(たのしかったー!)

(おわります)



2017-08-16-WED