探検家の関野吉晴さんが 日本人の来たルートをたどった 「新グレートジャーニー」の DVDが出ました。

こんにちは。ほぼ日の田中です。

今年の3月、「ほぼ日」上で
探検家であり医師でもある
関野吉晴(せきの よしはる)さんと糸井重里の対談
「『人類の旅』に魅せられた人」
掲載させていただきました。


©グレートジャーニー


▲関野吉晴さん

関野吉晴さんは
「約700万年前にアフリカで生まれた人類が
 長い時間をかけて世界中に拡散していった過程を
 自分の身体で感じてみたい」と、
南米最南端・チリのナバリーノ島から、
アフリカ・タンザニアまでの5万キロの道のりを、
「近代的動力を使わない」というルールのもと、
8年3ヶ月かけて踏破された方。

この「南米最南端~アフリカ」というのは、
アフリカで誕生した人類が、
いちばん遠く(=南アメリカ南端)まで拡散したルートを
逆にたどっていったものです。


▲関野さんの「グレートジャーニー」のルート。
 南米最南端からアフリカ・タンザニアまで、約5万キロ。
(地図デザイン:棚橋早苗 
 
地図素材©デザインエクスチェンジ株式会社)

関野さんはこの旅を
「できるだけ大昔の人類が体験した旅に
 近いやりかたで行いたい」と、
近代的動力──すなわち、
電車やエンジン付きのボート、飛行機などは
一切使わず、
自転車や徒歩、カヤック、犬ぞりなど
自らの脚力や腕力を頼りにした移動手段「だけ」で、
すべてのルートを踏破されました。


▲たとえばこんなふうに。広大なウユニ塩湖を、
 
自転車で走り抜ける。
 ©グレートジャーニー

この関野さんの
南米からアフリカまでの8年3ヶ月の旅路は
「グレートジャーニー」という名前で、
8回にわたる各2時間のテレビ番組として放映され、
DVDにもなりました。
壮大な景色があり、
過酷な行程があり、
天候に左右されて立ち往生した場所があり、
土地の人との出会いがあり。
DVDは全16時間の長大なものですが、
関野さんの壮大な旅を追体験できる感覚は、
この番組ならではのものだと思います。

ただ、関野さんの旅は
南米からアフリカまでの道のりをたどった
「グレートジャーニー」のあとも続きました。

関野さんは今度は、
「新グレートジャーニー」という名前で、
新しい旅を始めます。
これは他の地域から日本列島にやってきた人々の
道のりをたどる旅。
「北方ルート」「南方ルート」「海上ルート」の
3ルートから日本にきた人々の道のりを体験し、
「グレートジャーニー」のルートと、
日本列島とをつなぎます。


▲関野さんの「新グレートジャーニー」のルート。
 距離は短く見えますが、アップダウンが激しかったり、
 海を一気に渡る必要があるなど、それぞれに過酷なルート。
(地図デザイン:棚橋早苗 
 地図素材©デザインエクスチェンジ株式会社)

この地図のいちばん北側のラインが
シベリアから北海道までを結んだ「北方ルート」。
中央のラインが
チベット高原から、中国大陸、
朝鮮半島を経て対馬へ至る「南方ルート」。
いちばん南から伸びる縦のラインが
インドネシアからフィリピンの島々を経由して
石垣島まで渡った「海上ルート」です。

これらのルートも
3回にわたる各2時間のテレビ番組として、
「新グレートジャーニー」という名前で
放映されました。

ただし、こちらの
「新グレートジャーニー」の番組は、
ずっとDVDが出ておらず、
これまで、再放送を待つ以外に
見る手段がありませんでした。

‥‥なのですが、
少し前の、今年7月31日。

ついに、
「新グレートジャーニー」の
DVDが発売されました!


▲左から順に「北方ルート」「南方ルート」「海上ルート」

どんな内容なのか、
すこしだけご紹介させていただくと、
たとえば
関野さんのすごさがよくわかるのが、
インドネシアから石垣島までの
「海上ルート」。

「グレートジャーニー」と「新グレートジャーニー」の
全行程のファイナルでもあるこの旅で、
関野さんは「近代的動力を使わない」という
ルールをさらに徹底し、
プロジェクトを「砂鉄集めからスタートする」のです。

旅をするまえに、砂鉄を集める。

‥‥どういうことかというと、
こんなふうに繋がっていくのです。

●九十九里海岸で砂鉄を集める

●その砂鉄を、日本の昔ながらの
 「たたら製鉄」で鉄塊にする

●その鉄塊を刀鍛冶(日本刀を作る職人)に
 鍛えてもらい、
 斧、刀、ノミ、チョウナ(手斧)などの
 舟を作るための道具を作る

●インドネシアに行って、ちょうどいい木を
 現地の人々と2ヶ月歩きまわって見つける。
 その木を
 砂鉄から作った道具を使って切り倒し、
 削り、丸太舟を作る。
 舟の帆も、植物を編んで作る。

(●木の一部が腐っていたことがわかったので、
 それも、昔ながらの方法で修復する)

●できあがった丸太舟で、
 インドネシアから石垣島まで渡る。

つまり、近代的動力を使わないだけでなく
舟を作るのに必要な道具までも
昔の人々のやりかたで作って、
その船でインドネシアから石垣島まで
渡られたのでした。

さらに、昔ながらのやりかたでできた舟は
「風の力(帆走)と人力(パドリング)
 でしか、進まない船」。
風の力と人がこぐ力、
あとは潮の流れだけが頼りの
「向かい風だと全く進まない舟」でした。

舟を作るまでも膨大な時間がかかりますし、
実際に海に出てからも、思うようにはいきません。
だから「海上ルート」を辿る旅では、
プロジェクトがスタートしてから
最終的に石垣島にたどりつくまで、
とても長い時間がかかります。
番組を見る人は、関野さんと旅の仲間たちが
試行錯誤しながら少しずつ進む様子を
ドキドキしながら眺めることになります。

(このあたりの、旅が進むのを
 ドキドキしながら観る感覚は
 南米からアフリカまでの
 「グレートジャーニー」を観るときと似ています)

台風と異常気象による2度の中断もありながら、
ですが関野さんと仲間たちは、
めげることなど全くなく、
数年がかりで石垣島までたどりつきます。
石垣島が画面に映る場面など、
それまでの長い旅路を思うと、
特に胸にくるものがあります。


▲丸太船を作るため、木を削る関野さん(左)。
 ©グレートジャーニー


▲できあがった丸太舟で出航。
 ©グレートジャーニー


▲舟の上での関野さん。ひとりのクルーとして
 オールを漕ぎますし、魚も釣ります。
 ©グレートジャーニー

そして、最終的に「海上ルート」まで成し遂げて、
関野さんが「新グレートジャーニー」を達成するのは
なんと、62歳のとき。
対談のときに関野さんがおっしゃっていた
言葉を思い出させます。

「ぼくはたぶん、特別な能力って持ってなくて、
 他人と比べたら、
 『体力』も『知力』もぜんぜん優れてないんですね。
 そういうのは、とても『ふつう』なんです。
 でも、ぼくには武器がひとつあって、
 それは『時間をかける』ことなんです。
 やりたいことが一回で実現できなくても、
 ぼくは『時間』をかけてクリアするんです」

困難があろうがなんだろうが、
やりたい、という強い思いを頼りに
時間をかけて‥‥つまり、
「やれるまでやって」成し遂げる。
DVDを見ていると
関野さんが本当にその言葉どおりの方法で
やってきた人なのだということが、
よくわかります。

関野吉晴さんの「新グレートジャーニー」、
DVDを見ると対談の「『人類の旅』に魅せられた人」
いっそうおもしろく読めると思います。

対談を読んで関野さんに興味を持たれた方や、
「グレートジャーニー」の番組を見て
面白かった方、
旅行好きの方などなど、
きっとワクワクしながら見ていただけると思います。
よければどうぞ、ごらんになってみてください。

※関野吉晴さんについてはオフィシャルホームページ
 DVDの詳細についてはこちらのサイトからどうぞ
 (動画もごらんいただけます)。

 

2013-09-03-TUE