BRUTUS糸井重里特集の舞台裏その5

西田善太編集長に訊きます!
今回のBRUTUSで、
糸井重里が、どうわかりますか?

BRUTUSの糸井重里特集号
「今日の糸井重里」が
本日4月1日、発売開始となりました。
この数か月をかけてじっくり作られた1冊が、
エイプリルフールのこの日に、
一斉に本屋さんに並んでいます。
我々「ほぼ日」一同もドキドキする一日です。

ああああ、ここでモギが、お知らせがあるといって、
横からはいってきました。

「ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー!
 慣れない関西弁で、舌がもつれますが
 ここでスペシャルなお知らせでっせ。

 ほんじつ、4月1日(金)、お昼ごろから18時ごろまで
 紀伊國屋新宿本店の店頭で、
 ブルータス「糸井重里特集」号
 および『さよならペンギン』を
 ほぼ日乗組員がのんびりと販売します。
 (『さよならペンギン』は4月8日の一般発売に
  さきがけて販売です!)
 「ただいま製作中!」でも中継をしますよ〜。

 というわけで、お知らせは終わり!
 本文を存分にお楽しみください〜〜。」

5日間連続で更新の続いた
この「ほぼ日」ニュースの最後は、
BRUTUSの西田善太編集長に
お話をうかがうことにしました。
マガジンハウスまで突撃を担当しましたのは、
「ほぼ日」のスガノ、カメラをいだいた田口です。


▲ここがBRUTUS編集部です。
ブルータス西田編集長 飲みもの、いかがですか。
コーヒーでいい?
ほぼ日 ありがとうございます。
では、コーヒーで。
ブルータス西田編集長 では、コーヒーふたつと、
アイスコーヒーひとつ、と。
ほぼ日 あ、コーヒーといえば、思い出がありまして‥‥。
ブルータス西田編集長 なんでしょう?
ほぼ日 BRUTUSで吉本隆明特集を組んだときの
インタビューでも、
西田さんはコーヒーを頼んでくださって。
ブルータス西田編集長 うん。
ほぼ日 こちらが質問ばかりして
最後まで手をつけずにいたら、
私のコーヒーを見て、
「飲まないの?! 飲んでいい?」
とおっしゃいました。
ブルータス西田編集長 はははは、
「飲まないの? じゃあもらうわ、ずずず‥‥」
ほぼ日 そうそう(笑)、びっくりしました。
これは問題解決型編集長だ、と思いました。
ブルータス西田編集長 いやいや、欲望忠実型ですよ。
ほぼ日 では忠実型編集長、
今回の、糸井重里特集号の
できあがりはどうでしょうか。
ブルータス西田編集長 あのね。

▲今回の特集を振り返って。
ほぼ日 (ドキドキ)
ブルータス西田編集長 すっっごく、おもしろいです。
いくつか傑作ページがありますよ、
ギガおもしろい。
ほぼ日 ‥‥‥‥。
ブルータス西田編集長 ちょっと使ってみたかったの、
ギガおもしろい。
ね?
ほぼ日 ギガおもしろい。
ブルータス西田編集長 特集のなかに
日記的なページがあるんですけど、
まず、ここがものすごくよくて。
ほぼ日 編集の伊藤総研さんと中西剛さん
苦労されていたところですね。

▲密着取材の日付順に読めるページ。
 これは「西田さんの修正」が入った校正紙です。
ブルータス西田編集長 このまま、これを順に追うだけでも
読みごたえがあります。
密着してよかったと思った。
すばらしいできだと思いますよ。
ほぼ日 こういう密着ものって、BRUTUSでは
いままでおやりになってましたか。
ブルータス西田編集長 たとえば、三谷幸喜さんの特集号
同じく伊藤総研と作った
密着ものだったんですが、
こういった、いわゆる「正当な密着」は
はじめてかもしれませんね。
こちらからはアプローチしないで
観察者として参加させてもらうスタイルです。
今回は特に、
まとめるには、ほんとうにありえない、
2か月近い密着を
編集してみせるという‥‥
ほぼ日 よくぞ、ここまでまとまって‥‥(涙)
ブルータス西田編集長 現場担当の中西が
「糸井さん、
 1日8時間しゃべってらっしゃいました」
と報告してきました。
8時間書き起こすことって、
普通に「テープ起こし」っていうのかな?
次元が違うんじゃないの?
という話になって。

▲ほぼ社員と化していた中西さん。
ほぼ日 知らない会社に毎日出勤して
中西さんはつらいんじゃないかと
何回も心配になりました。
社員たちみんな、内心、
「いまテープがまわってるけど、
 いや、ずっとまわってる気がするけど、
 あれはどうやってまとめるんだろう」
とドキドキしていました。
ブルータス西田編集長 たぶん、びっくりしてもらえると思いますよ。
まるで糸井さんと
いっしょにいるかのように読めるから。
ほぼ日 特集の構成は、
どうなっているのでしょうか。
ブルータス西田編集長 糸井さんを日々追っていくことと、
ある日を拡大するということ、
この単純な組み合わせです。
いい特集って、シンプルに
一本の筋でやっていくほうがおもしろいんですよ。
糸井さんの百以上の言葉や行動のかたまりを
とにかく集めていって、
ずいぶん経ったあと、ご存知のとおり
一度、白紙に戻しました。
ほぼ日 戻しましたね。
編集リーダーの伊藤総研さんが
「ふりだしに戻りました」と
遠くを見つめていらっしゃった日を
憶えています。
(しかも、けっこうそれが入稿寸前だったので
 ひやひやしましたよ)

▲その日の、アンニュイな伊藤さん。
ブルータス西田編集長 伊藤総研は、迷うことを厭わない編集者なんです。
これだ! と決めて進めていても、
違和感があればゼロから組み直しちゃう。
ほかの編集ならはらはらするけど、
総研の仕事は大きく余裕で見てられる。
いつも二人で話していたのは、
糸井さんによってできた
言葉や意味の塊を
どう並べたらいちばんおもしろいだろうか。
「人と会ってる糸井さん」
「ひとりごと言ってる糸井さん」
「完全オフの糸井さん」
という分け方もあるでしょう。
仕事のジャンルごとにまとめる方法だってある。
また、出てきた言葉を
どうやって選ぶのかも、
最後の最後まで迷っていたんです。
そこの知恵は、
すごく絞った号ではないかな?
‥‥いや、正直言って、すごい恐かった。
ここまで完全に見えてないのは、
久しぶりでした。
ほぼ日 最終型の姿、難問でしたね。

▲今回の表紙の校正紙です。
ブルータス西田編集長 ですから、テーマは結局、
「糸井重里さん、あなたは一体何者ですか」
ということになりました。

うちのアルバイトの子たちに
「糸井重里」という人について訊いてみても
5人が5人、ちがう答え方をします。
「映画俳優、トトロ、ほぼ日、コピーライター、
 犬の奥さんのホントの旦那さん」
その反応に愕然としつつ、同時に
やっぱりそうだろうなぁ、とも思いました。

ひとつ学年が違えば
読むマンガが違うように、
糸井さんが何者か、が人によって違うのは
この特集にとって大事なことなんじゃないかな、
と思います。
ここね、「私の糸井重里」というページが
あるんですけどね。
ほぼ日 どれどれ‥‥。
(校正紙を見る)

▲「糸井重里は◯◯である。」というテーマで
 いろんな人が答えていくページ。
ブルータス西田編集長 ここ、すごくいいページですよ、
全部おもしろい。
糸井さん、愛されてんなぁ、と思う。
ほぼ日 西田さんの、
「私の糸井重里」は
いかがでしょう?
ブルータス西田編集長 うーん‥‥、糸井さんってね、
誰もが欲しがるけどなかなかいない、
斜め上のおじさんのような存在です。
まず、
「あの人の前で嘘ついてもばれる」
という感じが、すごくします。
ほぼ日 ああ、わかります。
ブルータス西田編集長 かといって、すごく頭が「キレる」という
タイプかというと、
そうじゃなかったりします。
ときどき糸井さんだって
迷ったり考え込んだりするわけです。

ずっとお手本にしたい存在って
「あの人はいつも正しい選択をするなぁ」
と思ったりするんだけど、
糸井さんは単純にそうなわけじゃなくて、
ぼくの理解できない行動を
たくさん取ります。
ほぼ日 ははははは。
たくさん取る!
ブルータス西田編集長 オレはちょっとやらないな‥‥という
アクションを
糸井さんはたくさん起こす。
だからそのたびに、
ぼくらは考え込んでしまいます。

「糸井さんのようになりたい」とは、
なれないから思わない。
だけどね、
糸井さんがいてくれてよかった、と
ものすごく思います。
ああいう人は、なかなかいないんですよ。

遠くに見えていて、目標にしたいのに
ちょこちょこ動くから、できない。
距離をはかることしかできないです。
だからまったく糸井さんには飽きないし、
‥‥飽きないどころか
糸井さんと話すときは全身全霊を使うので、
ぐったりしてしまいます。
ほぼ日 西田さんと糸井の会話は
聞いているとほんとうに
たのしいキャッチボールですよ。
ブルータス西田編集長 心地よい疲れですけど、
どう返していいかわからないボールが
ときどきブーーーン! と飛んできて。
ほぼ日 ははははは。
ブルータス西田編集長 かなりねじれた姿勢で打ち返します。
で、背中痛めたりして(笑)。
「次はもうダメだ、
 もう、投げてこないでくれ」
と、内心懇願します。
大リーグボール3号を打つ花形満のように、
ぼくは糸井さんと話したあと、
全身の筋肉がズタズタに切れて
バッターボックスで倒れるわけです。
「でも、話はわかったぜ‥‥」
話の内容は、実はすげぇくだらなかったり
するんですけどね(笑)。
そういうふうに、会話に一生懸命になれるって、
なかなかなくて、ぼくはすごくうれしいです。

▲大リーグボール3号を打つ花形さん。
ほぼ日 なかなか慣れるかんじはない。
ブルータス西田編集長 うん。人って、ある程度話せるようになって
信頼を受けたら、あとは転がっていったりします。
だけど、糸井さんだけは
転がってくれない。
総研や中西と
「糸井さんの言った、あの言葉の意味は
 なんだったんだろうね」
と、打ち合わせのあとにずっと話したりしてね。

だけど、時間が経ったりすると
わかってくるんですよ。
「わかった、そういうことか!」
と思って、次のインタビューで
糸井さんとじっくり話すと、
また別のわけわかんない問題が出てきちゃう。
まったく、不思議な人です。
ほぼ日 不思議な人です。
なんにも見逃してくれないですし(笑)。
ブルータス西田編集長 今回のBRUTUSの中にも
「説明が上手な奴はいらない」
というような言葉がひとつ入ってるんだけど、
これってどういう意味だと思う?
‥‥また余計なことを糸井さんは!
ほぼ日 ふははははは。

▲どうやら気に入らない一行が。
ブルータス西田編集長 すっごく気になるんですよ、この言葉。
ぜんぜんわからないんですけど、
捨てられない。
ほぼ日 説明のなかで
解決したような感じになるから‥‥、
でしょうか。
ブルータス西田編集長 でも、編集者としては
職能の違う何人かの人間に
「こういう意味で本を作る」
ということを説明できないと
本は作れない、ということもあるでしょう。
うまく説明してるんじゃなくて、
わかるように説明するということなんだけども、
でも、糸井さんにそう言われると、
ダメなのかなぁ‥‥ダメなのかなぁ‥‥と(笑)。
ほぼ日 はははは。
ブルータス西田編集長 糸井さんは、おそらく長い間
広告をやってきたから、
ロジックでものをつくるということについて
身にしみてわかっていらっしゃると思います。
だけど、「ほぼ日」やツイッターの、
あの日々変わっていくあの感じを
ぼくらよりはるかに強く体で覚えている。
って、オレがうまく説明することも、
よくないっていうことでしょうか!
悪かったな、説明うまくて!
ほぼ日 どうやっても説明がうまい!
しょうがない(笑)。

▲だって編集長だもの!
ブルータス西田編集長 とにかく、ぼくにとっては
この号はパーフェクトに、その‥‥
「説明できる奴はいらない」の部分以外は‥‥
おもしろい本です!
ほぼ日 糸井は、言葉を信じていないところが
出発点だったということも
以前、言ってました。
ブルータス西田編集長 ‥‥きっと、糸井さんは
自分も説明がうまいことを
知ってるんですね。
ほぼ日 ああ、そうか。
ブルータス西田編集長 言葉で一瞬にして人を
まるめこめちゃうことを、
いろんなところで体験してきたのかもしれない。
自分を含めたそこのところ全体に
警鐘を鳴らしている感じもしますね。
ああ、そういうこと、
もっと訊いてみたいなぁ。

ぼくが糸井さんとはじめて会ったのは、
「ほぼ日」が
はじまってすぐの頃。
「ほとんどの取材は断ってるけど
 あなたの企画書がおもしろかったから
 受けたんですよ」
と言ってくれました。
で、ぼくは数年前まで
コピーライターだったんです、
という告白をしたんです。
そしたら
「どうりでうなずきのタイミングがいいと思った」
と言ってくれて‥‥。

▲西田さんは、マガジンハウスに入る前は
 広告代理店に勤めていらっしゃいました。
ほぼ日 ‥‥ハッ、その言葉。
ブルータス西田編集長 記憶に新しいでしょ?
ほぼ日 この前のワークショップのとき、
いちばん前に座っていた女性に‥‥。
ブルータス西田編集長 そう、あのかわいい子に!
ほぼ日 「あなたはうなずきのタイミングがいいですね」
と‥‥。
ブルータス西田編集長 嫉妬しました。
糸井さんに「嫉妬した」とお伝えください。

▲嫉妬は、隠さない。
ほぼ日 伝えます(笑)。
ブルータス西田編集長 ぼくにだけ言ってくれる言葉だと思ったら、
十数年経て、
かわいい女の子には使うんかい!
ほぼ日 (し、しつこく根に‥‥?)
ブルータス西田編集長 ぼくは、あの言葉を、
ものすごく、ものすっごく大事にして、
谷山(雅計)さんとの対談のときにも
谷山さんにこの話をするくらい
和紙に包んで引き出しに入れては、
ときどき出してたんだけど‥‥
もう、捨てちゃおうかな。
ほぼ日 そんなことおっしゃらずに。
ブルータス西田編集長 いや(笑)たとえ、
言葉だけだったとしても
ぼくはものすごくうれしくて、
時を経て、こうしていっしょに「ほぼ日」と
すごくいい距離感で
仕事ができるようになりました。

▲西田善太編集長のチェックした校正紙には
 善マークが入ります。



▲ご自身のデスクで
 原稿チェック中の西田さん。



▲定番の「怒られ席」に
 編集の中西さんをいざなう西田さん。
ほぼ日 では、今回の特集は、
糸井のことが体系的にわかる、というよりは。
ブルータス西田編集長 うん。糸井さんという人はとにかく、
コピーもそうなんですけど、
スカッとはわからないんですよ。
なにか、余地があるんです。
そこには自分の解釈も
挟み込めるのかもしれない。

断言しないし、かと言って、
混ぜっ返したり、
ものを逆から言ってるわけでもない。
どちらかというと
「いつでも、わたしは考え中」
みたいな感じ。
ほぼ日 はい。よくわかります。
ブルータス西田編集長 ただ、それは、ぼくらより
はるか先を行ってるんですよ。
その、はるか先の「考え中」が
おもしろくてしょうがない。
考え中であり、行き着いている。
ほぼ日 なんだか、糸井の見ている時間が
すごく長いような気がするときがあります。
永遠を見ているかのように感じるときがあって。
ブルータス西田編集長 そういうことが言葉に
出てくるのかもしれないですね。
ほんとうに迷ったときに
話を聞きに行きたい人なんだけど、
糸井さんはぜったい、その答えは
くれないと思います。
ほぼ日 答えをくれるどころか‥‥
ブルータス西田編集長 「ほぼ日」の事務所の前の歩道橋で
しばらくぼーっとしなきゃいけない羽目に。
「なんだったんだろう、いまの」

▲歩道橋で空を見上げる西田さん。
ほぼ日 わはははは。
暗くなるまでいて、月を眺めたり。
ブルータス西田編集長 その感じがたまらないですね。
「やればいいよ、なんとかなるよ」
なんて、勢いで言う人が多いなかで、
糸井さんは、一所懸命考えてくれるけど、
答えはくれない。
ほぼ日 だけど、その答えが、
3年後に急に姿をあらわしたり。
ブルータス西田編集長 そうそう、するんだよね。
糸井さんが
「言葉を信じるな」ということって
そういうことかもしれないですね。
もっと考えろってことなんだ。

だからきっと、
言葉に関係する人間にとって
糸井さんという人は、
ぶつけがいのある人です。

たとえば、いろんな考えが出てきて
まとまってないとき、
ひとつ言葉が出ることで、
グイ、と進む瞬間があります。
糸井さんはそこをわかっているのに
出さないことがあります。
いちどとめておいて
とりあえず先進めましょう
ということを、よくします。
それが、ほんとーーに、正しい。

これはこういうことなんだと
「(  )」にしといて、
先に進んで振り返れば、
その「(  )」が取れてることがある。
そのことを実感した人にとっては
糸井さんは神様です。
あ、神様じゃないな。まとめてくれないんだから。
どういったらいいかな‥‥、うん、やっぱり、
ぶつけがいのある人です。
ほぼ日 ぶつけがいのある人。
なんかすごく腑に落ちました。
ブルータス西田編集長 うん。
ほぼ日 本屋さんに行って、
BRUTUSを見るのをたのしみにします。
この号ができるまでの長い間、
ほんとうにお世話になりました。
今日は長い時間、ありがとうございました。
ブルータス西田編集長 これ、コーヒー、
飲んでいい?
ほぼ日 今日は口つけましたよ。
ブルータス西田編集長 あ、そう。

▲オチを忘れない編集長。
ほぼ日 はい(いそいで飲み干す)。
今日はすてきなお話を
ありがとうございました。
ブルータス西田編集長 こちらこそ。
ありがとうございました。

(おしまい)

2011-04-01-FRI
BRUTUS表紙
BRUTUS 706号 特集 今日の糸井重里 2ヶ月間の全記録と127の言葉。
2011年4月1日 
全国の書店、コンビニエンスストアにて発売。
(流通の都合で発売日に
 店頭に並んでいない可能性もあります)

発売日以降は、
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