新しい連ドラがスタートする頃、
歩みを合わせるかのようにスタートするのが
この「連ドラチェック」シリーズです!
‥‥って、あかんやろ。遅いやろ。
はじまる前にスタートしろっちゅう話や。
ああ、すみません、編集者の作業が遅くて。
それはさておき、お待たせしました!
ほぼ日刊イトイ新聞が誇る、
超弩級テレビッ子、あややが
脚本家、森下佳子さんと
マンガ家、荒井清和さんといっしょに
今クールの連続ドラマについて
たっぷりこってりまったり語ります。
語ったのはドラマがはじまる前ですから
願望、予想、妄想などが交錯しますが、
脱線上等の心持ちでのんびりと
たのしんでいただければと思います。
進行は、テレビドラマについての造詣が
まったく深くならない
「ほぼ日」の永田が担当します。
味わい深いイラストと、魂の漫画は、
「沼のハナヨメ」でお馴染み、
「気仙沼のほぼ日」のサユミが描きます。
じゃ、はじまりますよー!


第3回
派手で活劇的要素満載?
森下さんの心の中に住むものは。
──
さて、NHKの食堂で、
かなりのびのびと語ってきましたが、
そろそろ話をまとめて帰りましょう。
あやや
えーーーーー! もっといたい!
「子どもか!」って言われようと、
帰りたくない気持ちです!
──
子どもか。
荒井
ええと、第1話は1月8日からですね。
森下
そうです。
どうぞよろしくお願いします。
あやや
やっぱり、はじまる前に
あらためて思うんですけど、
私たち、この「直虎」という人のことを
ぜんぜん知らないんですよね。
だから、いつもの大河と違って、
知らない物語がはじまる、
っていうたのしみがすごくあります。
荒井
そうですね。
はじまりも、結末も、見当がつかない。
森下
これまでの大河ドラマって、
だいたい歴史的に有名な人が主役で、
ドラマによって解釈や演出は異なるにしても、
まあ、ガイドラインはみんな知ってるんですよね。
ところが、今回、あまりにも知られていない。
あやや
そうなんですよ。
だから、全体的に悲劇なのか、出世物語なのか、
もう、方向性までわからない。
といっても、まったく知らない世界の話ではなく、
徳川家康とか今川義元とか、
わたしたちが知ってる人が、
ちょいちょい出てくるわけですよ。
だから、ときどきは知ってる事実が
よりどころになるんでしょうけど、
メインの話をまるで知らない。
それが混ざったときにどうなるかが
私はかなりたのしみです。
森下
私たちも、はじめは、
登場人物の人間関係を把握するだけでも
すごくたいへんだったんですよ。
あまり記録が残ってない人ばっかりだし、
いくつか伝わっている物語も
すんなりと読めるようなものではないし。
だから、まず、最初に心がけたこととしては、
人間関係やお話の構造を
できるだけシンプルにして、
とにかく、わかりやすく、わかりやすく、
予備知識がなくてもたのしめるように
っていうふうにはつくってます。
あやや
なるほど、なるほど。
森下
あとは、大河ドラマというものを、
どういうふうにたのしみたいか、
ということだと思うんですよ。
たとえば、ふつうのドラマは、
先の展開がわからないものとして
たのしみますよね。
でも、大河ドラマは、ちょっと違う。
もともと知ってる歴史的なエピソード、
名場面や名台詞が、どう表現されるかを
たのしみにしている人が多い。
史実を再現するほうがたのしいか、
先のわからない展開をたのしみたいかは、
もう、人それぞれなのかな、という気がします。
──
歴史的な事実に忠実に展開していく
「待ってました!」みたいな
大河ドラマもおもしろいですし、
続きがどうなるのかまったくわからない
「ドラマそのもの」の力を持つ
大河ドラマでもいいわけですね。
森下さん個人としては
どちらの方向にウェイトを置いてますか?
森下
私は、これを書くにあたって、
司馬遼太郎様とか、
吉村昭様などの行かれた道は
追おうとは思ってはいません。
どっちかというと、山田風太郎様です。
あやや
というと?
森下
司馬遼太郎様のように
歴史物の王道を行くというよりも、
山田風太郎様の娯楽的な作品のように、
もう、奇想天外な、忍者とか出てくるような
どちらかというと歌舞伎的な、
派手なお話を書きたいなと思っています。
あやや
はーー。
荒井
おおー。
──
そういう話が聞きたかったんですよ。
あやや
うんうん、こういう話が聞きたいよね!
──
聞きたいんだけど、あやちゃんが、
予想外のことばっかり訊くから‥‥。
荒井
縦書きとか、横書きとか。
あやや
あー、なるほど、これは失敗!
森下
(笑)
──
NHKの食堂で大河の脚本家と
台本の読み合わせとか
してる場合じゃないんだよ、
あやや
ほんと、そうだ!
コンセプトとかを聞きたいよね!
台本書くときに
ソフトはなにつかってるのかとかじゃなく。
──
そう!
森下
いや、まぁ、ふつうにWordですけどね。
あやや
「この台本、Wordで何ページですか?」
とか訊いてたね、さっき、私。
──
そういうことじゃなく、もっと質問を。
たとえば、「井伊直虎」という
史実上の不明点が多い人を
主人公に据えるということはね、
物語の多くの部分が脚本家の手に委ねられる
ということに他ならないわけですよ。
つまり、『おんな城主 直虎』という
大河ドラマには、史実の解釈も含めて、
森下佳子という人の作家性が、
たいへんよく表れるわけです。
あやや
なるほど!
──
だからこそ、どんなお話かという
あらすじ的なことではなく、
「どう描くか」ということを訊きたい。
あやや
訊きたい!
──
訊いてください。
あやや
ええーと、はい、わかりました。
そうですね、訊きます!
つまり、森下さんが目指す方向のひとつは、
山田風太郎的な世界だと。
じゃあ、あれですか、毎回、毎回、
忍者が側転を! どんどん側転を!
荒井
そ、側転に絞らなくてもいいのでは。
──
どうして忍者が毎回側転するんだ。
仲本工事の体操コーナーか。
森下
まあ、毎回側転はしないですけど(笑)、
たぶん、みなさんが予想しているよりも、
斬り合いのシーンとか、
暗殺っぽいシーンとか、
ある意味「ねーだろ!」って
突っ込みたくなるようなチャンバラとかは、
それなりに入ってくると思います。
荒井
おおおーーー。
森下
けっこう、アクション的というか、
活劇的な要素は入れたつもり。
あやや
はーー、いま宣伝的には、
主人公もスタッフも含めて
「おんなの大河」っぽい色が出てますけど、
はじまってみたら、かなり冒険活劇、みたいな。
森下
そうですね。
ある意味では、大河らしい大河に。
いや、チャンバラが大河なのかどうかは
わからないけど。
あやや
それは正直、予想してなかったです。
森下
思ったより激しいねという、
印象になると思います。
荒井
じゃあ、派手め。
森下
私的には、がんばって派手にエンタメに。
あやや
柴咲さん演じる「直虎」も、
若くして出家した人、という
落ち着いた感じではなく?
森下
けっこう行動的です。
たとえば馬とか、がんがん乗ってもらいます。
もともと柴咲さん、馬はお上手なんですよ。
あやや
直虎さんは女性なんだけど、戦場にも?
森下
彼女は刀は抜きません。
戦場にはいます。
ってか、井伊も戦場になっちゃいますから。
あやや
はーーー。
荒井
へーーー。
──
ほーーー。
あやや
私たちが予想するより活劇的な要素が多い、
ということがよくわかりました。
となると、気になるのが、人間関係ですが、
ラブ系? ヒューマン系? 家族系?
ストーリーはどういう方向に?
森下
人間関係は、そうですね、
大きく断言してしまうと、
わたしの心の中には『ベルばら』があります。
──
『ベルサイユのばら』(笑)!
荒井
池田理代子先生ですか!
あやや
なるほど!
森下
ですから、理想としては、
山田風太郎様と池田理代子様の
融合した世界、かなぁ(笑)。
あやや
あ、それはすごい。
おもしろい、おもしろい。
荒井
森下さんのインタビューなどを読むと、
いまの社会に対するさまざまなことへの思いも、
ちょっと下敷きになっているというふうに
おっしゃってましたけど。
森下
そうですね。
直接的には入っていないですけど、
大きな背景としては、あるかもしれません。
ちょっと真面目な話になりますけど、
この1、2年って、いままで私たちが
いいと思ってやってきたことが
世界規模で揺らいだような
時期だったように思うんです。
たとえば、いいものが世界に
広がっていくこととか、
隣の国と争わないようなこととか、
それはもう当たり前だと思ってたようなことが
そんなに単純な問題ではないぞ、
というふうになってきた。
アメリカの大統領選とか、
イギリスのEU脱退とかも
そういう変化の現れだと思うんです。
どっちがいい悪いという単純な問題じゃなくて、
いろいろぐらぐらしている。
いまがそういう状況になってきたときに、
戦国時代というのは、まさにそういう、
人間がさまざまな本音をぶつけ合いながら
獣っぽく活きてた時代だと思うんですよ。
あやや
あああ、なるほど。
森下
少し余談になりますが、最近の学説では、
戦国時代というのはプチ氷河期に
近かったんじゃないかという話があって、
要するに気温がすごく低くて、
作物の実りが少なかったそうです。
だから、ほんとに、隣の領地まで行かないと
食べていけなかった。
上の人たちも、領民を食わすためには、
よそから奪わなければいけなかった。
だから、経済的に満たされないと
人間は獣化するというか、その点においては
戦国時代と現代は、とても近いんじゃないかと。
荒井
ああ、そうかも。
森下
そんな中で、直虎さんという人は、
井伊家を任されるわけです。
家を継いだときは、いろんな人がいなくて、
だからこそ彼女が継ぐことになるわけですが、
人はいないわ、借金はあるわで、
もう、たいへん厳しい状況なわけです。
しかも、井伊が治める土地は、
金山とか鉱山とか、資源がいっさいないんです。
そういうあたりがほんとに、
いまの私たちの国にとてもよく似ていて。
あやや
そんなときに、「おんな城主」に?
しかも、刀を抜かないんでしょ?
森下
はい。彼女は、いっさい戦をせずに、
井伊家を立て直そうとする。
そういう人なんです。
あやや
すっごい、おもしろいじゃないですか。
森下
ちょっと真面目にいうと、
そういう見方もできるんです。
でも、わたしのストーリーラインで言うと、
山田風太郎様と池田理代子様が
心の中に住んでいる、と(笑)。
荒井
うーーーん、おもしろい。
──
おもしろーい。
よかった。どうなることかと思った。
あやや
よしよし、これで、大丈夫だ、この取材。
──
どの口で言ってる。
あやや
さあ、じゃあ、まとめましょう!
『おんな城主 直虎』、
宣伝を頼まれたわけじゃなく、
森下佳子のファンとしてたのしみにしてますが、
撮影を見学し、お話をうかがって、
ほんとに、たいへんたのしみになりました。
キャストもいいですし、
柴咲コウさんはかわいかったー!
荒井
はい。柴咲コウさんと、三浦春馬さんが、
目の前にひょっこり現れたというのが、
テレビウォッチャー的には最高でした。
放送をたのしみにしています。
森下
ぜひ、日曜日の夜8時は、
チャンネルをNHKにして
テレビをつけっぱなしにしておいてください!
──
ありがとうございました!
一同
ありがとうございましたー!


( お し ま い )
2016-12-31-SAT

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN