ほぼ日刊イトイ新聞

旅・人・20、写真・師・山。

~石川直樹をかたちづくるものたち~

石川直樹さんが旅をしはじめて、
20年の月日が過ぎました。
その間、氷の山にしがみついたり、
無人の荒野を往ったりしながら、
写真家は、それらと同じ気持ちで、
たくさんの人に会ってきました。
旅も人も写真も山も、みんな先生。
石川直樹さんの「学びの20年」、
振り返ってもらいました。
担当は、「ほぼ日」奥野です。

2 ゴールデン街の森山大道さん、アラスカの関野吉晴さん、会えなかった、星野道夫さん。

──
石川さんの写真の先生といえば、
鈴木理策さん、ですよね。
石川
ええ、早稲田に、
理策さんが教えに来てたんです。

で、俺は、その授業にもぐっていて。
ときどき
写真を見てもらったりしていました。
──
それは、おいくつくらいのとき?
石川
23、24くらいのころです。
──
じゃ、そのあたりから、
写真家への道を、歩みはじめた。
石川
そう、理策さんは、当時の俺に、
「こんなのはだめだ」とか、
「こうしたらいい」とか
けっこう率直に、
感想を言ってくださったんです。
──
まだ写真をはじめたばっかりの、
若き旅人だった石川さんに。
石川
そう。いま思えば、
ものすごくありがたいことでした。
──
石川さんて、会いたいと思う人に、
どんどん会いに行きますよね。
石川
そうですね、この20年で、
会いたい人には、ほぼ会いました。
──
石川さんのエピソードのなかでは、
何と言っても、森山大道さんに
ゴールデン街で写真を見てもらった、
というお話が印象的です。
石川
昼間の飲み屋の2階でね。

俺のポジを、
1枚1枚ルーペで見てくれたんです。
何百枚もあったやつを、1枚1枚。
──
誰にも褒められない写真を、
森山さんが「いい」と言ってくれた、
みたいなことでしたよね。
石川
そうそう。
──
それは、お酒を飲みながら?
石川
いえ、昼間だったんで。

ただ、写真を見てもらったあとに、
飲みに行きましたけど。
──
へえ。
石川
あのとき、飲み屋のカウンターに
僕と森山さんがいるところを、
そこにいた誰かが撮ってくれたんです。

そういう写真が残っていて。
──
その後、森山さんとは、
雑誌の対談やトークショーなどを、
何度か、やられてますね。

それなんかもつまり、
もとをただせば、
そのときからのお付き合いですか。
石川
そうですね、たまにお会いしたり、
写真を見ていただいたり、
展示に来てくださったり、
お手紙をいただいたりもしました。
──
そういうときは何を話すんですか。
写真のこととか?
石川
いやあ、話したりもするんですが、
森山さんからしてみたら、
自分なんて
赤ちゃんみたいなものなんで‥‥。

写真についてほとんど知らないころから
かっこいいなと思って、
ずっと憧れていたかたなんです。
──
他には、たとえば、
どんな人たちに会ってきましたか。
石川
そうですね‥‥いっぱいいるけど、
写真家だったら
東松照明さんをはじめ、
たくさんの人に
写真を見ていただきました。

写真家じゃないけど、
大竹伸朗さんとも
お会いすることができました。
──
わあ、大竹さんにも。
石川
大竹さんの作品が昔から好きで、
尊敬していたんです。

あの、こう「貫く感じ」とか‥‥。
強烈な何かを、
急に風景の中に立ち上げたりして、
世界を変えてしまう人だって。
──
そういえば石川さん、
日本のスキーの草分けと言われる
猪谷六合雄(いがやくにお)さんの
山小屋とかも、
見に行ってませんでしたっけ。
石川
行った行った。

行ったんだけど、山小屋自体は
見られなかったのかな。
でも、小屋が建っていた赤城山に
わざわざ登ったりもしました。
──
ええ。
石川
猪谷さんは亡くなられていたから、
会えないわけですけど。
──
それは‥‥何しに行ったんですか。
石川
足跡をたどるっていうか、
いろいろと資料を集めているうち、
行きたくなって、行きました。

本を読んでいるだけじゃなく、
猪谷さんの道具とかだけでも、
残っているものがあれば
直に触れてみたくて。
実際に見ないと何もわかんないし。
──
行ったら行ったで、
もちろん写真は撮るんですよね。
石川
撮りますよ。

「ARCHIPELAGO」(2009)

──
でも、それも、
何かに発表するためというより、
どっちかっていうと、
ひとまずは、
自分自身のためにやってる活動。
石川
そうですね、はじめの動機は、
ただただ深く知りたいという思いだけですね。

ただ、猪谷六合雄さんのときは、
群馬の館林美術館で、
ちいさな展示をしたんですけど。
──
他に、探検などの流れで言うと‥‥。
石川
関野吉晴さんには、
「グレートジャーニー」のころに
出会いました。

関野さんが、アラスカのアンカレジで
準備をしているときに、無理やり
お手伝いさせていただいたりしました。
──
へぇ。無理やり(笑)。
石川
10代の終わりか、20歳そこそこの
ころだったと思います。

関野さんが、北極海を渡れないか、
アラスカに
下調べにいらしてたんじゃなかったかな。
──
はー、関野さんと石川さんのあいだに、
そんなできごとがあったんですか。
石川
でも、間に合わなかったのが‥‥。
──
え?
石川
星野道夫さん。
──
ああ‥‥。
石川
会いに行く前に亡くなってしまって。

星野さんの家を一目見たいと思って、
フェアバンクスまで、行ったんです。
──
フェアバンクスって、
ようするにアラスカなわけですけど。
石川
そうそう。何の手がかりもなくてね。
──
で、見つけたんですか?
石川
はい、見つけました。
たぶんこれかな‥‥という家を。
──
すごい、たどりついちゃうんだ‥‥。

ちなみにですが、石川さんて、
アイドルとかには興味ないんですか。
石川
若いころは、
南野陽子さんとか好きでしたよ。
──
おお。スケバン刑事。
石川
「吐息でネット」みたいな。
──
まさか‥‥会いに行ってたりとか!?
石川
行ってないです(笑)。

「NEW DIMENSION」(2007)

<つづきます>

2019-03-05-TUE

あの、広くて天井の高い
東京オペラシティのギャラリーを
ぎっしり埋めた
石川さんの20年ぶんの写真を見て、
すごいことだと思いました。
石川さんという写真家が、
20年、この地球を移動した軌跡を
たどることができます。
ひとりの作家の大きな節目として、
見ておいたほうがいいと思います!
会期は、3月24日(日)まで。
また、このタイミングで、
石川さん、なんと、本を3冊も刊行。
展覧会と同名、見ごたえたっぷりで、
キギさんの装丁がかっこいい写真集
この星の光の地図を写す』、
ヒマラヤ遠征の8年間を記録した
The Himalayas』、
2013年から断続的に刊行してきた
シリーズの最新作『Ama Dablam』。
どれも20年を飾るに相応しい、
すばらしく、かっこいい写真集です。

展覧会について詳しくは、
こちらのオフォシャルサイトでご確認を。