── これまで、日本酒のパッケージって
「書道!」みたなイメージがほとんどだったと
思うんですが、
この「NAMI」と「UMI」は
そういう一升瓶のとなりに置かれるんですよね。
植原 そうでしょうね。
── ずいぶん目立つだろうなあ、と思います。
渡邊 ほとんど真っ白で細い線の絵なんだけど。
高崎 だからこその存在感があるよね。
田中 僕、今回のデザインを見て思い出したのが
イタリアの
ロマーノ・レヴィというグラッパなんです。
── ロマーノ・レヴィ。
田中 もう亡くなってしまったんですが
ロマーノ・レヴィさんという醸造家がいて、
彼は、ラベルを1枚1枚、
すべて「手描き」で描いていたんです。
── へぇー‥‥。
田中 ひとつとして同じラベルが存在しないと
言われるグラッパなんですけど
「NAMI」と「UMI」にも
そのおもしろさがあるなという気がして。
── 工業製品ではあるんだれど‥‥。
田中 工業製品っぽくない、においを持ってる。
「手のぬくもり」を感じるというか。
高崎 一点もののおもしろさ、ですよね。
田中 あらゆる「デザイン」が試されて
飽和している時代に
このおもしろさは、やはり、目を引きますよ。
── あらためて「白地に線画」のすごみ、ですね。
植原 まあ、デザインする側としては
いま現在「マーケットにあるデザイン」とは
ちがうことを、やりたいんです。

だから、こうなったんですよ、きっと。
── では「デザイン飽和の時代」に生まれた
「NAMI」「UMI」を見て
高崎さんは、どのように感じましたか?
高崎 そうですね‥‥逆に言えば
「すべての日本酒が
 こういうデザインになったら?」と考えると
それはそれで
「気持ちわるい世の中」だと思うんですよ。
── なるほど。
高崎 クルマにしても、個人的には
ちょっとレトロなデザインが好きなんだけど、
でも、そういうデザインのクルマが
いっぱい走ってないのが、いまの世の中です。
── はい。
高崎 「みんな、それぞれ好きなもの」があって
それが、ふつう。
── ええ。
高崎 ‥‥なんだけど、
「この日本酒は
 どうして、こんなデザインなんだろう?」
と気になった人が
キギの作品を知っていくことで
世界がパッと、ひらけたりするわけですね。

そのことが、たのしいなあって思います。
── デザインがひらく可能性、ということ。
高崎 たぶん、日本酒というカテゴリーでは
こういう試みって
なかなか、なかったと思うんですよね。

ですから「NAMI」と「UMI」が
市場に出ていったら
デザインの存在に「気づく」というか‥‥。
── はい。
高崎 渋谷で遊んでいる若い男の子も
地方の酒蔵の社長さんも、
寿司屋の大将も、そこで飲んでるお客さんも、
「デザインって何だっけ?」
というようなことを
考えるきっかけに、なると思うんです。
── それが「気づく」の意味ですね。
高崎 で、そう考えた人は「デザイン」のことが
だんだん、気になりはじめる。

気になりはじめたら、
自分のまわりに
すてきなデザインを置きたくなって
選ぶ目が鍛えられてゆく。

そういう人たちが増えていくことで
世の中に、少しずつ
よいデザインが増えていったらいいなあって
思いますけど。
── らせん状に。
植原 そのためには、
ぼくら、いいデザインをつくらないとね。
田中 それこそ、渋谷で遊んでる男の子が
イタリアの醸造家の「手描きラベル」を見て
デザイナーを志したりする時代ですから。
── そう考えると、わくわくしますね。
高崎 ぼくらはぼくらで
いいデザインと出会うきっかけを作りたい。

ていねいに「ものづくり」することが
伝えるものって、大きいんです。
── そのひとつが「手のぬくもり」であったり。
高崎 そう、決して大きくない蔵の日本酒だから、
きちんと手間をかけて
隅から隅まで目の行き届いている感じを
伝えていきたいですよね。
── 日本全国どこの酒屋でも売っている
日本酒ではなく‥‥。
高崎 ちいさな酒蔵から発信しているからこそ
「手のぬくもり」や
「作り手の意思」を感じさせられると
思うんです。
── つまり大企業では、逆にやりずらいこと。
植原 ぼくたちも、そういうことを感じながら
デザインをしていた気がします。

大量生産品のようにはしたくないなって
思いながらやってましたから。
── そこのところの意識が
「ピッ!」とそろってたってことですね。
植原 たぶん、その話し合いをしたことは
ないと思うんですけど。
── へぇー‥‥。
植原 ビンに印刷したの「楕円」ひとつにしても
綺麗なんだけど、
どこか手描き風のタッチにしていたり。
渡邊 あまり色をつかっていない感じも、ね。
田中 そういう意味では、いままでの
日本酒のネーミングやデザインのお作法を
一回、リセットしてますよね。
渡邉 きっと、それって、
みんなで気仙沼を見たことが大きいと思う。
田中 ああ‥‥そうですね。
いちど「ゼロになった場所」ですからね。
── 思いきって
ブランドをつくりかえるような気持ちで。
高崎 その意識を無意識に共有したんだと思う。
植原 それぞれが。
── このメンバーで気仙沼に行ったことって、
すごく重要なことだったんですね。
渡邊 はい、そう思います。本当に。
<つづきます>
2013-09-20-FRI




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