ほぼ日 今日はいろいろと教えていただきまして、
本当に、ありがとうございました。
仲谷 いえいえ。
ほぼ日 おもしろいはずだと思ってうかがいましたが、
予想以上のおもしろさでした、サメって。
仲谷 そりゃあ、よかったです。
ほぼ日 ちなみになんですが、
先生は、なぜサメの研究家になったんですか?
仲谷 うーん‥‥魚が好きだったんですよ、
子どものころから。
ほぼ日 ええ、ええ。
仲谷 ぼく、千葉県の野田の生まれなんですけど、
親父がね、釣り好きで。
ほぼ日 はい。
仲谷 ぼくも親父に連れられて、よく行ったんです。
で、あるときフナが釣れたんですね。
ほぼ日 フナ。
仲谷 魚って針をはずして地面におくと、
ふつう、目が上を向く思うんですけど‥‥
フナって、下を向くんです。
ほぼ日 へぇ。
仲谷 その目がすごくかわいくてね。
ほぼ日 はー‥‥それから魚好きに?
仲谷 うん。
ほぼ日 すてきな理由ですね。
仲谷 いま思うとね、あの目がかわいかった。
魚を好きになった、
ひとつのきっかけは、あれでしょうな。

古代のサメに非常に似ているサメ・ラブカ。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ラブカ
目 :カグラザメ目
科 :ラブカ科
英名:Frilled shark
ほぼ日 それからは「魚の道」を、ずんずんと。
仲谷 ほかにもいろんな興味はあったんだけど、
結局、大学を選ぶときに、
「魚」のほうに戻ってきちゃいましたね。
ほぼ日 埼玉県の高校から
北海道大学の水産学部に進まれたんですよね。
仲谷 うん、それからは、ずっと函館。
ほぼ日 でも、魚といっても、
たくさんの種類がいるじゃないですか。

わざわざ「サメ」を選んだ理由は
何だったんでしょうか。
仲谷 水産学部って、漁業から食品加工まで
いろんな分野があるんですよ。
ほぼ日 食品まであるんですか。
仲谷 ‥‥あるんですけど、
やっぱり「魚そのもの」に触れたかった。

ただね、魚だったら、何でもよかった。
ほぼ日 何でも?
仲谷 ‥‥よかったんですけど、
卒業論文のテーマをえらぶ段になって、
いっしょに講座に入った女性が
「わたくし、サメやりたい」って
言い出したんです。
ほぼ日 女性が。へぇー。
仲谷 で、その当時の担当教授が
「そうか、わかった。でも、女の子ひとりに
 サメをやらせるわけにはいかんなぁ」と。
ほぼ日 ええ。
仲谷 「よし仲谷、お前もやれ」と。
ほぼ日 はぁ!
仲谷 それでサメに。
ほぼ日 じゃ、きっかけは「受身」だったんですね。
仲谷 そう。でも、実際にやりはじめてみると
これが、おもしろくてね。
どんどん、はまり込んでいったんです。

シャベル・ノーズド・シャークとも呼ばれるヘラツノザメ。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ヘラツノザメ
目 :ツノザメ目
科 :アイザメ科
英名:Birdbeak dogfish
ほぼ日 そのまま大学院へと進んで、研究者に。
仲谷 そうです。

でも、大学院の修士2年の秋くらいのとき、
水産庁から
「船に乗らないか」っていう話が来て。
ほぼ日 船、というと?
仲谷 アルゼンチン沖で漁業調査をやるから、
補助調査員として乗らないかと。
ほぼ日 あ、そういう「船」ですか。
仲谷 全行程で6カ月かかるんだけども‥‥。
ほぼ日 そんなに!
仲谷 修士論文を書かなきゃならない時期だったので、
論文か、船か‥‥どっちか迷って。
でも結局、船に乗っちゃったんですよね(笑)。
ほぼ日 なんといいますか‥‥「やっぱり」といいますか(笑)。
仲谷 おかげで、卒業するのが1年延びちゃったんですが、
自分の将来を決定づける、とても貴重な体験でした。
ほぼ日 サメにも遭遇したりして?
仲谷 ええ、いろいろ会いましたねぇ。

あのね、大西洋にニシネズミザメってのが
いるんですけどね。

ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ニシネズミザメ
目 :ネズミザメ目
科 :ネズミザメ科
英名:Porbeagle shark
ほぼ日 はい、ニシネズミザメ。
仲谷 これが、ぼくらの船にかかったんです。
アルゼンチン沖では、初の発見。

つまり、南大西洋にも
ネズミザメの類が住んでいるんだってことが
わかったりね、そういう成果もあって。
ほぼ日 ちなみに、その6ヶ月の船旅って
どういうルートだったんですか?
仲谷 まず、東京から太平洋を横断して
カリフォルニアのサンディエゴに入り、
パナマ運河を通って、カリブ海へ。
ほぼ日 ええ。
仲谷 そこからぐーっと南下してブラジルのサントス、
サントスから
アルゼンチンのブエノスアイレスへ。
ほぼ日 はい、はい。
仲谷 で、ブエノスアイレスから出発して
フォークランド諸島や
アルゼンチンのパタゴニア沖で、調査活動して。
ほぼ日 ははぁ。
仲谷 その後、南アフリカのケープタウンに寄り、
インド洋を通ってシンガポール、
そして、ようやく日本へ帰ってきたんです。

つまり、太平洋・大西洋・インド洋を
ぐるーっと、ひとまわりしてきたんですよ。

飼育に強く、行動や生態が最も良く知られているサメ、ニシレモンザメ。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ニシレモンザメ
目 :メジロザメ目
科 :メジロザメ科
英名:Lemon shark
ほぼ日 印象的な思い出って、何かありますか?
仲谷 そうですねぇ‥‥大西洋を進んでたら
地図にも乗ってないようなちっちゃな島が
いきなり出てきたり、
台風やサイクロンに遭遇したりとか‥‥。
ほぼ日 ええ、ええ。
仲谷 いろいろまぁ、あったんですけど、
ああ、インド洋の夕焼けが、キレイだったなぁ‥‥。
ほぼ日 インド洋の夕焼け、ですか。
仲谷 うん。

鏡のように静かな水面を、
小さなトビウオが、小さな波紋を残しながら
飛んでいくんです。
すごく印象的な景色でした。
ほぼ日 はぁー‥‥。
仲谷 いまでもまぶたの裏に、
そのときのようすが焼きついていますよ。
もういちど、見てみたいですなぁ。
ほぼ日 先生はもう、サメ研究は何年になるんですか?
仲谷 何年だろう? 

えーと、昭和42年からはじめたから‥‥
42足す25で67。
1967年から、今2010年でしょ‥‥43年?
ほぼ日 43年。
仲谷 もう、43年かぁ。
ほぼ日 先生は、サメのどういうところが
おもしろいと思いますか。
仲谷 うーん‥‥そうですねぇ。

申し上げたように、
サメって、まだまだナゾの多い生き物なんです。

だから、わからないことが、ひとつわかっても、
その先に、
ふたつくらい、またわかんないことが出てくる。
ほぼ日 ははぁ。
仲谷 それをまた、知りたくなっちゃう。
ほぼ日 なるほどー。
仲谷 そうやって、43年も続いちゃったねぇ。
ははははは‥‥。

長いヒゲ状の「前鼻弁」が特徴のヒゲツノザメ。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ヒゲツノザメ
目 :ツノザメ目
科 :ツノザメ科
英名:Mandarin Dogfish
ほぼ日 でも、サメという生き物が、
なぜ魅力的で、人々の人気を集めているのか、
先生の話をうかがっていたら
なんとなーく、わかるような気がしました。
仲谷 そう? それは、よかった。
ほぼ日 今日は本当に、ありがとうございました。
とっても、楽しかったです。
仲谷 こちらこそ。
ほぼ日 ‥‥そういえば先生、サメが出てくる映画って
『ジョーズ』以外に何かあるんですか?
仲谷 うん、モノクロの時代なんだけど
『チコと鮫』って映画が、昔、あったんです。
ほぼ日 『チコと鮫』。
仲谷 うん、少年と一匹のサメとの友情を描いたような、
そんな内容だったと思うんだけど‥‥。
ほぼ日 おもしろそうですね。
仲谷 いやぁ、ぼくなんか、しらけちゃってねー。
ほぼ日 え?
仲谷 だって、出てくるサメの個体がさ、
シーンによって、ぜんぶ違うんだもん。
ほぼ日 あ‥‥。
仲谷 個体が違うだけじゃなくて、
もしかしたら、
サメの種類さえ違ったかも知れないな、あれは。
ほぼ日 専門家ならではのご意見ですね。
仲谷 いやぁ、だって、あるときはオスだったのに、
次のシーンでは、メスだったりするんですよ?
ほぼ日 でも先生、それって、
一般の人じゃ、なかなかわからないですよね。
仲谷 うん、ふつうの人はわかんないと思うよ。
でも、ぼくらには一発でわかるから。
ほぼ日 そうですよね(笑)。
仲谷 「なんだい、これは」と思って、しらけちゃいました。
ほぼ日 そうでしたか(笑)。
仲谷 そうそう、たしか『チコと鮫』だったですよ。
あれには、ずいぶん、ガッカリしたなぁ‥‥。
ほぼ日 先生って、本当にサメが好きなんですね(笑)。
仲谷 うん、まぁ‥‥はい(笑)。

はんぺん、フカヒレスープ、ハンドバッグ‥‥など
人間にとっていちばん身近なサメが、このヨシキリザメ。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より 

和名:ヨシキリザメ
目 :メジロザメ目
科 :メジロザメ科
英名:Blue shark
<おわります>



2010-07-29-THU