みうらじゅんさんと糸井重里がはじめて会ったとき、
みうらさんは美大の学生でした。
それから長いつきあいになったふたりが、
これまでの道のりを振り返りました。
著書『「ない仕事」の作り方』を
発表されたみうらさんは、
「35年前に糸井さんに教えてもらったことが
本の中に書かれています」

と語ります。
徹底的に「自分を信じない」ことから発生したという、
ふたりの仕事の作り方、じっくりきいてみましょう。

※これは、みうらじゅんさんの『「ない仕事」の作り方』
発売記念トークイベントとしてDESEO miniで行われた対談です。

みうらじゅん 「ない仕事」の作り方 
(文藝春秋)本体1,250円+税

「ない仕事」の作り方 みうらじゅん(文藝春秋)本体1,250円+税 みうらじゅんさんの本業は「イラストレーター」?「マイブーマー」?「ゆるキャラの名付け親」?いったい何がメシのタネになっているの?デビュー35年を記念して発表された、糸井重里から学んだこともたくさん入っているという、みうらじゅんさん流、仕事術の書。

みうらじゅんさんの本業は
「イラストレーター」?「マイブーマー」?
「ゆるキャラの名付け親」?
いったい何がメシのタネになっているの?
デビュー35年を記念して発表された、
糸井重里から学んだこともたくさん入っているという、
みうらじゅんさん流、仕事術の書。
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もくじ

  • 第1回 カセット騒動について話します。 2016-02-01[mon]
  • 第2回 悪い奴じゃなさそうだから。 2016-02-02[tue]
  • 第3回 おまえはもう、来なくていい。 2016-02-03[wed]
  • 第4回 「いちファン」からの電話。 2016-02-04[thu]
  • 第5回 我々の祖先。 2016-02-05[fri]
  • 第6回 Don't believe me. 2016-02-08[mon]

第1回 カセット騒動について話します。

シジュ
<それでは、おふたりのトークイベントです、
どうぞ!>
みうら
‥‥‥‥今日は進行が、
鳥なんですね。
糸井
宇宙鳥です、宇宙鳥。
みうら
宇宙鳥って言われても‥‥。
ちょうどいま、浜松で
「ゆるキャラグランプリ」をやってるんですよ。
糸井
へぇ。
ということは‥‥
みうら
あの方、
ここに出てていいんでしょうかね(笑)。
糸井
ここにいるってことは、
つまり「出てない」ってことですね。
今日は、みうらのの 販売促進の会議だから、
彼もここに来たんでしょうね。
みうら
いや、はもう出ちゃってるので、
会議しても遅いんです。
糸井
あ、そうか。
みうら
あの本に書いてある内容は、
いまから35年ぐらい前に、
糸井さんに教えてもらったことなんですよ。
‥‥といっても、たぶん、
糸井さんとぼくのつながりを
知らない人が多いと思うんで。
糸井
ああ。
つまり、みうらは
ぼくが生んだんですよ。
会場
(笑)
みうら
はい、ぼくは糸井さんの子どもです。
DNA鑑定してみてください。
むかしむかし、「ガロ」という雑誌のある号の巻頭に
『ペンギンごはん』という漫画が載っていました。
作者の欄を見ると
「湯村輝彦」さんと「糸井重里」さんって
書いてありました。

この『ペンギンごはん』という漫画に、
ぼくらはものすごい影響を受けました。
根本敬さんとか久住昌之さん、
そのあたりの人たちもみんなそうです。
「俺もできるんじゃないか」って、
はじめに勇気を持ったというか。
糸井
はいはい。

▲『情熱のペンギンごはん』1980年
 (情報センター出版局)

みうら
あ、いや、 最終的にいい話に落としますけどもね、
あの、そんな顔しないでくださいね、糸井さん。
会場
(笑)
みうら
めちゃくちゃおもしろい漫画で、尚且つ
これだったら俺も描けるんじゃないかと思って
描こうと思ったら、描けなかった。
『ペンギンごはん』はそういう漫画でした。
いいですよね、この説明で。
糸井
いや、ありがとうございます。
会場
(笑)
みうら
描けそうで実は描けない漫画ってあるんだな、と
そのときぼくは痛切に思いました。
劇画みたいな、線がいっぱいの漫画も描けないし、
「こっち側」も描けないんだ――それが
はっきりとわかったのです。
ずいぶん真似しようと思ってやったんですけど、
まったくダメでした。
それはセンスという魔物でした。
糸井
それは、みうらさんを
ぼくに結びつけた最初の出来事ですか?
みうら
そうなんです。
ぼくは、当然、
コピーライターという職業を知りませんでしたし、
まぁ、世の中的にもあまり
コピーライターが知られていない時代でした。
でも当時、同じ美大で、同郷の石井という友達が、
「糸井さんとこに入った!」
「明日から糸井さんの事務所のアシスタントになる!」
と言って、うれしそうにぼくの部屋を
訪ねてきたことがありました。
糸井
一緒のアパートだったんだよね。
みうら
上の部屋が空いたと石井に誘われ入居して、
ぼくが上で、石井が下の部屋でした。
ある夜、ものすごい勢いで階段をかけあがってきて、
「明日から行くんだ!」
「へぇ、そんなすごい人なんだ」

ひとしきりぼくは石井から糸井さんの話を聞いて、
「じゃ、おやすみ」と言って別れたら、次の瞬間、
ドーンって階段から石井の落ちる音がして‥‥
初日から松葉杖だったでしょ、石井は。
糸井
そうでした、
石井くんは初日から遅刻でしたね。
「今日からバイトが来るんだっけな」
と思ってたら、ぜんぜん来ない。
みうら
来れないはずです。
前の夜に階段から落ちたんですから。
糸井
それは、ただ落ちたの?
みうら
ただ落ちたんでしょうね。
うれしさあまって。
ぐしゃぐしゃになってましたから、下で。
会場
(笑)
糸井
それ、みうらさんは何歳のころ?
大学生?
みうら
ええ、21歳ぐらいですね。
石井とぼくは同い年で、
ぼくは二浪、石井は一浪でした。
糸井さんがパルコで講演会をされて、それを
タダで見にいってたのが石井です。
糸井
うん、石井くんは、なぜか講演会に
タダで入ってたんだよね。
みうら
裏口から入ったって
言ってました。
講演会の最後に、「何か質問ありますか」ってとき、
石井はタダで入ったくせに手を挙げて、
プロレスの話をしたと言ってた。
「糸井さんにも大ウケやった~」
と、ぼくに話してくれました。
糸井
うん。コピーライターの会だったのに、
石井くんは急にプロレスの話をした。
みうら
たぶん、そのトンチンカンぶりに
糸井さんはピーンと来て、
あいつをアシスタントに
したんじゃないかと思うんですが。
糸井
そうそう(笑)。
みうら
でも、あの人、タダで会場に入ってたから‥‥
身元不明、誰だったのか
みんながサッパリわからずで。
糸井
うん。
みうら
そのアパートでは、
うちに唯一電話があったんですが、
どなたかがずーっと探して、まわりまわって、
最後にうちに電話がかかってきたんです。
「そちらに糸井重里さんの講演会で
プロレスの話をした人がいますか?」

って。
糸井
そうやって石井くんは
うちの事務所に入ったんだけど、
友達におもろい奴がいるということを、
入ったばかりのときから
ぼくにしょっちゅう話していました。

何かというと「みうらがね」と言う。

「そうか、そうか」とは思ってたけど、
べつに、学生のバイトの、その友達がおもしろくても、
そんなには興味ないんだ。
みうら
そりゃ当然です。
会場
(笑)
糸井
でも、みうらの話は出つづけて、
ある日、みうらがその本人として
事務所に来ました。
みうら
行きました。
糸井
来たんだよ。
みうら
(笑)。ぼくは『ペンギンごはん』の、
つまり‥‥「変な」漫画の原作を書く人としてしか
糸井さんを認識していませんでした。
でもその後、糸井さんは、沢田研二さんの
『TOKIO』の作詞をした人だと知って、
「あ、やった!」と思い、
自分が高校時代にせっせと作詞作曲した歌を吹き込んだ
カセットを持って、訪ねました。
糸井
うん、そうだよね。
みうら
糸井さんは、ぼくを無下にはしませんでした。
「カセット、かけていいですか」と訊ねたら、
「ああ」と糸井さんは応えてくれました。
やった! と思って
90分ギッシリ、オリジナル・ソングが入った
カセットを再生しました。
糸井
(笑)
みうら
「この曲を作ったときは、失恋したんですよ」
などと、ライナーノーツ的に
ぼくは一所懸命しゃべりました。
すると、糸井さんは
「もうちょっと、ボリューム絞れば?」
とおっしゃいました。
でも、切れとは言わなかったんです。
だからちょっとボリュームを下げました。
そして「この曲はね‥‥」と解説しつづけました。
そうしたら、事務所に
打ち合わせの人たちがやってきて‥‥
糸井
そりゃ来るよ。
みうら
事務所ですからね(笑)。
でも、打ち合わせがはじまっても
ぼくの歌が会議のBGMとして
うっすら流れていました。
しかし、糸井さんはまだ「切れ」って言わない。
ま、心地いいサウンドと思われてんのかな、
と思って、また「この曲は」と説明しはじめたら、
ついに
「おまえはなんか大きいことを間違ってるぞ」
って糸井さんが。
糸井
(笑)
みうら
そのとき、大きい間違いって何だろうと思いました。
糸井
小さいのじゃなくてね(笑)。
みうら
ええ(笑)。それはきっと
「カセット持っていくとこ間違ってんじゃないか?」
ということだったのかもしれません。
思い起こせば、それが糸井さんとぼくとの出会いです。

のちに、ぼくがバンドを組んでテレビに出たとき、
「聞いてください」といって
うちの事務所にカセットを持ちこむ人も居て、
ぼくは「なんか大きいこと間違ってないか?」と
思いつつも‥‥無下にできなくて。
やっぱり気持ち、わかりますから。