18歳でデビューしてからというもの、
あの印象的なポカリスエットの広告、
サカナクションや
星野源さんや米津玄師さんのМV、
大河ドラマ『麒麟がくる』の
メインビジュアル‥‥などなどなど、
みなさんもきっと、
どこかで目にしているはずの作品を
次々と作ってきた奥山さん。
さぞ「撮影漬け」な日々なのかなと
思いきや‥‥。大切なのは、
シャッターを切ることよりむしろ、
一回の打ち合わせ、一通のメール、
ひとつひとつコミュニケーションだと。
その創作論、全5回でおとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第1回 離れるほど見えてくるもの。

──
はじめまして‥‥と言いますか、
これまでに何度か
お仕事をお願いしているんですけれども、
毎回、ご都合が合わず‥‥。
奥山
あ、申しわけございません。
──
いえいえ、ぼくらがもっと
余裕を持ってお願いすべきなんですけど、
でも、ようするに
めっちゃ忙しいってことなんだろうなと。
奥山
そうですね…正直、忙しいです(笑)。
すみません。
──
ご自身の作品制作に加えて、
広告、雑誌、CM、MV‥‥と、
オファーが
途切れなく続いているんだろうなあって
勝手に想像してるんですが、
じゃあ、お休みとかも取れなかったり?
奥山
休みは、ないですね。
ぼく自身は年末年始もありませんでした。
12月31日も、明けて1月1日も。
──
そんな日にも、撮影が入ってるんですか。
奥山
いえ、撮影じたいは1ヶ月に1回‥‥か、
2ヶ月に1回くらいなんです、じつは。
──
え、あ、そうなんですか?
じゃ、何やってるんですか、他の時間。
奥山
とにかく、引き受けた依頼の準備だとか、
撮影後のアウトプットでいっぱいで。
映像であれば、編集作業などもあります。
写真は、撮るだけじゃなくて、
レイアウトを組んだりもしていますので、
個々のプロジェクトが
はじまってから終わるまでの
コミュニケーションに時間がかかるんです。

──
来る日も来る日も‥‥みたいな勢いで
撮影をしてるんだと思っていたんですが。
奥山
ちがうんです。
ここ2ヶ月、3ヶ月の間も、こんど出る
自分の作品集と、
タレントさんの写真集を作っていただけです。
──
はあ‥‥ひとつひとつのお仕事に、
めちゃくちゃ時間をかけていたんですか。
奥山
なので、引き受けられる案件自体が、
映像にしても、
写真にしても、すごく少なくて。
忙しそうなイメージがあるのに、
数えてみたら、案外少ないんですねって、
よく言われます。
自分としては、個々のお仕事が、
きちんと伝わってるからなのかなあって、
都合よく解釈してるんですけど。
──
いや、そうですよ、きっと。
とにかくひっぱりダコなイメージなのは、
ひとつひとつが、ぼくらに、
印象的に、濃く伝わってるからですよね。
奥山
あと、写真なら写真で、
自分自身の作品制作を続けながらも、
クライアントワーク、
つまり広告があって、雑誌があって‥‥。
映像にしても、ミュージックビデオ、
CM、
あと映画もひとつ進行していたりすると、
仕事をルーティン化できなくて、
時間が、すごいかかっちゃうんです。
──
ああ、なるほど。毎回、中身が違うから、
同じような仕事を数こなせば
自然と身につくような合理的なやり方が、
ノウハウとして蓄積されない。
奥山
そう、こんなときはこうすればいいとか、
パッと動けないんです。
いちいち立ち止まっては考えて、
今回はどう向き合ったらいいんだろうと。
つまり「毎回、素人」なんです。
全案件に新参者の気持ちで取り組むので、
とにかく仕事が遅いんです‥‥。

「GINZA」エンポリオ アルマーニ(2014) 「GINZA」エンポリオ アルマーニ(2014)

──
どんな写真を、どんな映像を撮ろうかと、
考えている時間が長いってことですか。
奥山
同じことはやりたくないんです。
仕事は、すべてファイリングして
記録を残しています。
もちろん、毎回毎回、
完全に新しいことなんてできないですが、
こう取り組むのははじめてだなとか、
自分の中で、
すこしでも新鮮味を感じるような仕事を、
毎回、やりたいんです。
──
ええ。
奥山
そうすると、もうやったことばっかりが
増えてっちゃって。当たり前ですけど。
何て言えばいいか、生きれば生きるほど
やったことばっかりに‥‥。
──
ははは(笑)、生きれば生きるほど。
つまり生きる=撮影ってことですね。
過去の自分がライバルってことかあ。
奥山
まわりを、
いくつもの白いキャンバスに囲まれていて、
こっちにちょこっと描いたら、
次、別のキャンバスにちょこっと描いて、
また別のキャンバスにちょこっと描いて。
それも油絵と水彩とクレヨンと‥‥って、
そんな感じなんです。
クレヨンで描くのは2年ぶりだけど、
どうやったらうまく描けるんだっけ‥‥
みたいなところから、
毎回はじめているような感覚があります。
──
うらやましいですね、それは。
奥山
あ、そうですか?
──
はい、うらやましいです。
ご本人は大変かもしれませんけど(笑)、
あらゆる「何かをつくる人」は、
めちゃくちゃ、うらやましいと思います。
何かをつくる人がおそれているのって、
「停滞」とか「マンネリ」とか、
「新鮮な気持ちになれない」とかですし。
奥山
ああ‥‥。
──
いまも、ずーっとお話をうかがっていて、
とはいえ、
楽しそうに話すなあって思いましたもん。
奥山
楽しいは楽しいです(笑)。
──
ですよね。最高だと思います。
どんなことが楽しいですか。
そんなふうに仕事していると。
奥山
知らなかった感情に出会えることですね。

星野源『YELLOW MAGAZINE 2016-2017』
表紙(2017) 星野源『YELLOW MAGAZINE 2016-2017』 表紙(2017)

──
おおー、いいですね。
奥山
でも、同じくらい怖いです。毎回。
──
そのことも、傍から聞いているだけなら、
うらやましいです。
以前、山里亮太さんに取材したときにも、
「緊張できる場所があるのは、
幸せなことだぞ」って、
タモリさんに言われたことがあるそうで、
その言葉を、すごく大事にされてました。
奥山
ああ‥‥なるほど。
たまに、自分の過去の作品を見ていると、
どうしてこんなふうに作れたのか、
ぜんぜん、わからないことがあるんです。
情報としてはその過程が残っていても、
身体に感覚として残っていないので、
自分は「学習しない人」じゃないかって、
不安になったりしてました(笑)。
──
でも、おもしろい経験じゃないですか。
自分自身にびっくりするのって。
ほんのちっちゃいレベルですけど、
自分にも、そういうことがまれにあって。
奥山
そう、このときの自分は、
こういうふうに作りたかったのかあって、
何年かあとに気づいたり。
結局、その写真を撮った瞬間から、
5年なり10年経つと、
細胞もだいぶ入れ替わってるだろうし、
考え方とか思想も変わってるだろうし、
つまり、自分の仕事を、
そこではじめて客観視できる気がします。
──
10年前の自分とかほぼ他人ですもんね。
奥山
ええ、その個々の写真、
そのシリーズが持っていた作品性だとか、
伝わってくるメッセージを、
ある程度の時間を経ることで、
ようやく受け取れる感覚があるんです。
タイムカプセル‥‥みたいな感じです。
土に埋めておいたものが、
掘り出したときに別の顔を見せるような。
──
なるほど。
奥山
ちょうど10年くらい前に、
ぼく、はじめての写真集を出したんです。
──
はい。『Girl』。
奥山
いま、あれと同じ写真を撮ろうとしても、
どうしたらいいか、わかりません。
技術的な理由ではなくて、
あの本では、
写真について何も知らない人が、
頭と心の中で膨らませた抽象的な心象風景を
何とか具現化しようとしているんです。
それなりに技術的な筋肉もついたいまは、
あの「もがく」ような感覚を
思い出せないし、
同じようなつくりかたはできないんです。
──
でも、時間を経たことで、
その作品が持っていた‥‥っていうのか、
そこに潜んでいた作品性や、
コンセプトや、
メッセージに気づくことができる‥‥と。
奥山
ようやく意味がわかった、みたいな。
──
離れれば離れるほど、見えるものがある。
奥山
作品って完成した瞬間がゴールじゃなく、
スタートなんですよね。
作品性、メッセージ、コンセプト、
その作品が持っているそれらの要素って、
人目に触れてからじゃないと、
浮かび上がってこないことがあるんです。
──
ああ、自分がつくったものは、
なるほど、こういうことだったんだって、
あとから「納得」するような?
奥山
はい。そのためにも、ぼくは、
人に見てもらわなきゃ
作品作りではないと思います。
そして、見てもらうときには、
バラバラでは意味がないとも思っています。
──
バラバラ?
奥山
撮った写真を、インスタだとか、
SNSにアップしてるだけではダメです。
パソコンやスマホでは、
見てもらう順番ひとつにしても
コントロールできないし、
デバイスによって、
大きさや写真の色味や明るさも
まちまちですよね。
──
そうですね。
トリミングさえされてしまうこともある。
奥山
だから、
この作品にとって最適な状態はこれです、
と言って差し出さないと、
やっぱり、何年かあとに見返したとき、
その作品が持っていた
作品性やメッセージやコンセプト‥‥に、
気づけないと思うんです。
──
ようするに、
本にすることによる物的な強度が重要。
奥山
それは「つくり手」の側だけじゃなくて、
受け手の側も、同じだと思います。
編集できない状態のものでなければ、
何年か前に買ったこの本、
いま見たらぜんぜんちがうように捉えられる、
みたいなことは起こらないと思う。
──
ようするに「一冊の物理的な本」として
フィックスさせることには、
「土に埋める」みたいな効果があると。
案外、昔気質っていうか‥‥意外でした。
奥山
ぼくは、覚悟を決めて自分を追い込んで、
これが現時点での最善です、
わからないなりの答えなんですと言って、
出さなきゃいけないと思っています。
──
それは、時間かかりますね(笑)。
ひとつひとつを、その感じでやってたら。
奥山
そうなんです(笑)。

「装苑」 小松菜奈(2016) 「装苑」 小松菜奈(2016)

(つづきます)

2022-02-07-MON

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  • 奥山さん、デビューから12年間の クライアントワークの集大成!

    2010年のデビュー以来、
    奥山さんが、これまでの12年間に撮った
    広告、雑誌、映画、アパレルブランド、
    大河ドラマのメインビジュアル、
    俳優やミュージシャンのポートレイト‥‥。
    作品制作と並行して
    撮影してきた写真が1冊にまとまりました。
    あ、これも? ええー、これも!!
    そんな写真集です。
    何より、この物体としての存在感、強さ。
    インタビューでも語られていますが、
    この本の分厚さや重量は、
    奥山さんが、たくさんの人々と結んできた
    コミュニケーションの集積なんだと思うと、
    「何という30歳だろう!」
    と、あらためておどろき、あこがれます。
    そして、この「12年間」が、
    奥山さんにはあと何回あるのか思うと‥‥。
    ぜひ、手にとってみてください。
    この厚みと重みを、感じてみてください。

    Amazonでのおもとめは、こちら

    特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    特集 写真家が向き合っているもの。

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    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。