「ほぼ日マンガ部」の、
「はじまりの旗」になるようなポスターを。
糸井重里からのそんな依頼を受け、
横尾忠則さんが描きあげてくださった1枚の原画が、
500枚の「オフセットポスター」になって販売されます。
このオフセットの印刷を担ってくださったのが、
師匠の代から横尾さんとお仕事をされている、
TOPPANのプリンティングディレクター、富岡隆さん。
今回、『デザインのひきだし』の編集長、
津田淳子さんが聞き役を引き受けてくださり、
このポスターに込められた富岡さんの
「オフセット職人の矜持」とも言える部分が、
ひとつの連載になりました。
本物に迫る、「嘘とごまかし」。
その鮮やかで泥臭い情熱と技術を、
全3回でお届けします。

>富岡隆さんのプロフィール

富岡隆(とみおか・たかし)

1972埼玉県生まれ。TOPPAN株式会社のプリンティングディレクター。
1991年に入社し、98年よりプリンティングディレクターとして写真集・絵本・美術印刷など出版物全般の制作に携わる。

>津田淳子さんのプロフィール

津田淳子(つだ・じゅんこ)

1974年神奈川県生まれ。編集者。『デザインのひきだし』編集長。編集プロダクション、出版社を経て、2005年にデザイン書や美術書などをあつかうグラフィック社に入社。2007年、毎号、発売してはすぐに完売してしまう『デザインのひきだし』を創刊。現在は株式会社水鈴社に移籍し『デザインのひきだし』を続刊。デザイン、紙の種類や加工、印刷技術にまつわる、さまざまなテーマを追求し続けている。

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第1回 オフセットの戦い。

津田
こんなにたくさん、横尾さんとの作品を
持ってきてくださってありがとうございます。
私、大興奮です。
富岡
今日、どんな話をすれば
よろこんでもらえるかわからなかったんで、
隣りにいる弟子の大場とも話をして、
とにかく横尾先生とのこれまでのお仕事を
持ってきてみました。

津田
横尾さんと富岡さんは、
かれこれどれくらいのお付き合いになるんですか?
富岡
私自身がちゃんと先生と
お仕事させてもらうようになったのはもう‥‥
20年ぐらい前になるんですかね。
都内のある美術館でやっていた展覧会がきっかけで。
もともと私のお師匠の山本篤が
先生とずっとお仕事をされていたんですが、
そのころは山本ももう、半分引退してて。
で、あるとき、夜、急に先生に呼ばれたんですよね。
私の師匠はもう年も年でしたし、
ちょっと遠くに住んでて行けなかったんで、
ちょうどそのとき代々木上原かどこかで飲んでた私が、
近くだからすぐ行けるじゃんって、すぐ向かって。
津田
いいところで飲まれてましたね。
富岡
たまたまね(笑)。
で、どうも聞いてみると、
展覧会がもうすぐはじまるのに、
ある会社に印刷を依頼してるものが全然うまくできなくて、
このままだと校了できないよ、
みたいな状況になっちゃってて。
そこで突如ピンチヒッターとして
「あと2週間でTOPPANでつくって!」と言われて。
それが一番最初にぼくがガッツリ入った仕事です。
津田
衝撃的な初仕事ですね(笑)。
富岡
それまではもうカバン持ちで、
師匠と先生がやり取りしているのを
ずっと隣で見てる感じでしたけど。
お師匠は引退するとき、
お客さんを一切ぼくに引き継がせなかったんですけど、
横尾さんとの仕事だけは、
「これからは富岡ひとりでやっていくんで、
いろいろ面倒みてほしいです」
って頭を下げてくれて。
だからやっぱり私も、
先生との仕事には特別な思い入れがあるんですよね。
今回の「マンガ部」のオフセットポスターも、
お話をいただけてうれしかったです。

津田
今回、横尾さんから依頼が届いたとき、
まず率直にどんなことを思ったんですか。
富岡
まあ、これは私の勝手な印象ですけど、
今回は先生もすごく、力が入っている気がしましたね。
津田
おおー。それは、どういった理由で。
富岡
やっぱり、糸井さんとの
お仕事がうれしかったんじゃないかな。
糸井さんの話は昔から、
「一緒に旅行に行って卓球してた」とかね、
私もよく聞いてるんで。
やっぱり糸井さんとはどこか、
特別な部分があるんじゃないですかね。
「糸井さんのだからしっかりやってね」
と言われたわけじゃないですけど、
勝手にそう感じました。
津田
富岡さんも自然とちょっと、気が引き締まるというか。
富岡
まあ実際、今回初校は失敗してますけどね、1回。
津田
えっ!

富岡
最初、原画の撮影データが送られてきたんです。
それを開いて、見て、まずは1回、
そのデータをもとにつくってみることにしたんですね。
津田
ふむふむ。
富岡
でも、やっぱりそれってあくまでも
「撮影データ」なので、
はたしてどこまでちゃんと「絵の感じ」が出てるのか
ちょっとわかりきらないぞ、という問題があって。
生々しいテクスチャとか絵の具の感じって、
撮影データだけだとどうしても
写らない部分もあるじゃないですか。
津田
そうですよね。
富岡
なるべく汲み取ろうとはしたんですけど、
やっぱり「データに写ってないもの」は
私にもどうしても描けなくて、
初校ではやっぱりそういう部分が出てなかったんですね。
なので結局、先生から原画をお借りしました。
津田
えっ、そこまで。
大場
リアルスキャナーという機械で、撮影し直したんですよね。
富岡
撮影し直しました。
「ちょっと持って帰っていいですか?」って、
あのでっかい原画をクルマに積んで持って帰って。
嫌なんですけどね。歴とした美術品ですから、扱うのも怖くて。
それでも今回は、持って帰りました。
津田
そこまでやったからこんなにしっかりと、
「キャンバスのテクスチャ」の感じまで出てるんですね。

富岡
そうですね。今回は本当に
「原画を持ち帰った」のが全てかなと。
ちゃんと、イチから全部やったというか。
そこまでやらないときももちろんあるんですけど、
今回はそこまでやらないと再現できないくらい、
「原画が持っている力」が強かったので。
津田
撮影データでやるのと実物をもとにしてやるのでは、
やっぱりだいぶ違いましたか?
富岡
まったく違いますね。
やっぱり、「厚み」の部分とかはとくに。
津田
厚み?
富岡
先生の原画を見ると、
絵の具をたくさん重ねて
分厚くなっている部分があるんですよ。
先生本人は「汚れじゃなく絵の階調」って言うんですけど。
そういうインクの「厚み」みたいな部分って、
原画が持つ「印象」を届けるうえで
ものすごく重要なポイントなので、
やっぱりポスターであってもできるだけ表現したいんです。
ましてや今回はサイズが「B全」なんで。
「B全の大きさで見られても耐えられるクオリティ」
を出さないといけないので。

津田
私も普段ポスターをつくるときは
いつもオフセットなんですけど、
「オフセット印刷」って正直言えば、
いま富岡さんがおっしゃった
油の厚みとか奥行きみたいな「立体」の部分こそが、
苦手とする領域じゃないですか?
それこそ本当に質の高いシルクポスターは、
手で触ると実際に少し「立体」を感じるくらい、
物理的な「厚み」まで
表現してしまうものもあると思うんですけど、
オフセット印刷はどれだけ頑張ったって、
触れば平面というか、「つるっ」としてるわけで。
富岡
はい。そこはどうしたって原画やシルクには敵いません。
やっぱり「一品もの」をつくるとなったら、
「100枚いいものつくる」ってなったら、
シルク印刷というのはとんでもないんですよ。
正直、とてもじゃないけど勝てっこない。
ただ、「500枚いいものつくる」っていうんなら、
ぼくらの得意領域なので。
そういう世界の中で、できる限りの
「おもしろいもの」をご用意できたとは思います。
津田
紙と印刷のオタクとして、
ちょっといま、キュンとしました(笑)。
富岡
いやいや(笑)。
まあでも本当に、
「本物が持つもの」には絶対に追いつけないなかで、
「どれだけ本物っぽく見せられるか」っていう。
そういう勝負なので、オフセットの世界は。
津田
そのなかで今回、
オフセットポスターにおける「厚み」というのは、
どういうふうに表現されたんでしょうか。
なんというか、いまここで実物を見てると、
ものすごく立体感を感じるんですけど。
富岡
まさにいまおっしゃっていただいた通りで、
オフセット印刷は「立体感」を表現するんです。
原画やシルクのような「立体そのもの」ではなく、
そこにないはずの「立体感」を感じてもらう。
つまり、「ごまかし」。「目の錯覚」を生み出すんです。

(つづきます)

2026-06-26-FRI

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  • 横尾さんが手がけた伝説のポスターや希少なポスターをぴったり90点厳選。渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」に展示します。

    ポスターのご購入はこちらからどうぞ。

    横尾忠則さんの原画から生まれた、「ほぼ日マンガ部」の100枚限定「シルクポスター」について。『デザインのひきだし』の編集長・津田淳子さんがインタビューを担当します。横尾忠則さんが描き上げた「ほぼ日マンガ部」の原画が、100枚限定の「シルクポスター」になりました。

    マンガ部ポータルサイトはこちらからどうぞ。

    「マンガ部ポスター」の誕生について、
    横尾忠則と糸井重里がはじめて話した日。

    「ほぼ日マンガ部の、
    『はじまりの旗』になるようなポスターを」
    糸井重里からのそんな依頼を受け、
    横尾忠則さんは1枚の原画を
    描きあげてくださいました。

    その原画がこのたび、「100枚のシルクポスター」
    「500枚のオフセットポスター」になって
    世に飛び出していきます。

    それを記念して、横尾さんと糸井が
    このポスターの誕生についてはじめて話したときの、
    5分と少しの動画を公開します。
    「わからなさ」こそを
    おもしろがるふたりのことばを、
    どうぞおたのしみください。