和田彩花さんは、アイドルを卒業後、
音楽やアートの分野で活躍なさっています。
とくに、フランス美術の知識は専門家並み。
そんな和田さんが「美術に出会った場所」である
三菱一号館美術館が、2024年に再開館しました。
しかも、記念すべき最初の展覧会では、和田さんが
パリでも展示を見に行ったほど好きだという
フランスの現代作家、ソフィ・カルの作品が登場！　
尊敬するアーティストを訊かれたら
「日本では和田彩花さん、
フランスではソフィ・カルさんです」と
答えてきましたほぼ日の松本が、和田さんとともに、
見どころたっぷりの展示へうかがいました。

＞和田彩花さんプロフィール

和田彩花（わだあやか）

2019年にハロー！プロジェクト、
アンジュルムを卒業。
現在は、
オルタナポップバンド「和田彩花とオムニバス」
ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド
「LOLOET」にて、作詞、歌、朗読等を担当。
また、実践女子大学博士前期課程美術史学を修了し、
美術館や展覧会についての執筆やメディア出演も。
2020年には、
Forbes JAPAN 30 UNDER30に選出される。
アイドルグループでの活動経験を通して、
フェミニズム、ジェンダーの視点から、
アイドルの労働問題についての発信もおこなう。

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第１回　あたらしくなった三菱一号館美術館。

「再開館記念『不在』―
トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」展
担当の杉山さん、
三菱一号館美術館の広報をつとめる酒井さんに
展示を案内していただきました。
和田
私にとって、三菱一号館美術館は
「美術に出会った場所」なので、
再開館した姿を拝見できるのが
とてもうれしいです。
酒井
ありがとうございます。
──
この機会に、まず、
三菱一号館美術館さんの建物の歴史を
お聞きしてもいいでしょうか。
酒井
この建物は、最初に
丸の内初のオフィスビルとして1894年に建てられました。
老朽化のため
1968年に一度取り壊されたのですが、
最初の建物を可能な限り復元して、
2010年に美術館としてあたらしくよみがえりました。
──
へえーっ。
建て直しの際は、
建材もあたらしくそろえたのですか。
酒井
そうです。
ですが、一部、
旧三菱一号館で使用していた保存部材を用いたり
復元に役立てた箇所もあります。
柱の彫刻などは、
当時の図面、資料、保存部材をもとに復元しました。
1894年と同じ工法で復元しているので、
鉄筋鉄骨が入っておらず、
全部レンガでできています。

──
そうだったのですね。
ということは、
かなりの数のレンガが積まれているのでは。
酒井
はい、約230万個あります。
現代の職人さんがレンガを積んで、
壁を漆喰を塗って仕上げるなどして建てられました。
レンガや漆喰や見えている部分にすぎず、
復元にはたくさんの技術者や職人の手によって
完成されました。
──
うわーー、すごい。

酒井
ここからが展示室です。
じつは、展示室の壁の色が、
今回の再開館から変わりました。
和田
たしかに‥‥白くなりました？　

杉山
そうなんです！　
和田さん、さすがの目の付けどころですね。
以前は、ピンクがかったモーヴカラーだった壁が、
乳白色になりました。
今後、いろんな展示に対応できるよう、
汎用性を高めるための変更です。
1894年に建てられた、
もともとの三菱一号館に近いのは、
いまの姿だと思います。
当時は壁が漆喰で塗られていたので、
いまと同じ、白だったんです。
それから、すごーく微妙にですが、
床の色も変えました。
和田
少し暗い色になりましたね。
杉山
はい。以前は赤茶色だったのですが、
あたらしい壁の色に合うように変更しました。
──
へえーー！　
和田さん、壁と床の色に気づくなんて、
すごすぎます。

酒井
では、今回の展覧会の趣旨を
軽くご説明させていただきます。
フランスの現代作家、ソフィ・カルが、
当館では初登場するんです。
彼女は、10代から20代にかけて世界を放浪し、
生まれ故郷のパリに戻ってから
制作活動を始めた、という、
ユニークな経歴のアーティストです。
おもに、インタビューや日記の形式で、
写真と文章を組み合わせた作品が特徴ですね。
自分の内面を率直に、ありのままに提示したり、
他者の感情を丁寧に暗示したりする
独特の表現で評価されていて、
フランスをはじめ、各国の主要な美術館で
個展を開催してきました。
日本でも、2019年に原美術館で
ソフィ・カルの展覧会が開催されましたが、
今回はまた違う内容になっています。
──
原美術館では、失恋の痛みをあつかった作品
《限局性激痛》を展示していましたね。
今回は、別のテーマがあるのでしょうか。
酒井
「不在」というテーマに沿って、
ソフィさんご自身が構成を考えて
作品を選んでくださりました。
《限局性激痛》は、
「付き合っていた男性に捨てられた」という体験が
軸になっているので、
ジェンダーやセクシャリティの観点から
鑑賞されることが多いです。
一方で、今回の展示は、
より多くの観点から見たり、感じたりできる作品が
集まっていると思います。
どんな方でも、
作品のなかのなにかしらを自分にあてはめて
共感できそうなところが、魅力的かなと。
そして、当館の「再開館記念展」でもあるので、
三菱一号館美術館がずっと大事にしてきた、
トゥールーズ=ロートレックのコレクションも、
あらためて展示します。
ソフィ・カルさんとの二本立ての形式です。
和田
私は、ロートレックもソフィ・カルさんも
好きなのですが、
あまり接点を感じたことはありませんでした。
なので、今回の展覧会を知って
「ふたりのコラボレーションだ！」と、
うれしかったです。
どうしてこのふたりの作品が
並ぶことになったのですか？　
杉山
じつは、おっしゃるとおり、直接的には
あまり関係がないのですが‥‥、
ソフィさんが自身の作品で提示してくださった
「不在」というテーマをもとに、
ふたりのフランス人アーティストの作品が、
ゆるやかにつながるような展示になっているんです。
ソフィさんはもともと、
失恋や死、喪失といったテーマで制作することが
多いアーティストです。
今回は、とくにそれらを前面に出した作品を
選んでくださっています。
ロートレックのコレクションも、
「不在」というテーマのなかで構成したことで、
見直すいいきっかけになりました。
いままでは、ロートレックといいますと、
19世紀末の版画芸術の文脈で紹介したり、
作品を時系順に紹介したりことが多かったのです。
ですが今回は、たとえば
「ロートレックを巡る『存在』と『不在』」
などの小タイトルをつけて、
あまり時代を意識せずに展示を構成しました。
和田
ロートレックの作品も、
あたらしい視点から見られるんですね。
たのしみです！　

（つづきます。次回から、実際に展示をまわります！）

2025-01-07-TUE

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  • 2024年11月、
    約１年のメンテナンス期間を経て
    三菱一号館美術館が再開館しました。
    最初の展示は、
    「『不在』―
    トゥールーズ＝ロートレックと
    ソフィ・カル」。
    「不在」をテーマに、
    三菱一号館美術館を代表する
    トゥールーズ・ロートレックの
    コレクションと、
    当館初の現代作家
    ソフィ・カルの作品が並びます。
    ソフィ・カルの作品は、
    現実と虚構を自在に行き来し、
    生と死、存在と不在といったモチーフを、
    少し皮肉なユーモアを交えて提示します。
    ソフィ・カルの
    『グラン・ブーケ』という作品は、
    今回、世界初公開（！）です。
    ロートレックの作品群も、
    「不在」のテーマをもとに
    再構成され、あらたな魅力を放ちます。
    時代を異にする
    ふたりのフランス人アーティストが
    静かに接続し、
    鑑賞する私たちともふしぎとつながってくる。
    そんなすごみとおもしろみが満ちた展示です。
    会期は、2024年11月23日（土）から、
    2025年１月26日（日）まで。
    再開館した美術館の美しい建物とともに、
    ぜひおたのしみください。
    ミュージアムショップでは、
    ソフィ・カル本人も
    お気に入りというグッズや、
    インタビュー中に登場する書籍も販売。
    くわしくは、展覧会オフィシャルサイトを
    ご確認ください。