
おしゃれな女性ファッション誌『sweet』で
連載中の「シンVOW」では、
毎回、すてきなゲストをお迎えし、
VOWについてあれこれ語りあっております。
このページでは、紙幅の都合で
『sweet』に載せきれなかった部分を含め、
たっぷりロングな別編集バージョンをお届け。
担当は、VOW三代目総本部長を務める
「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
レ・ロマネスク TOBI
全身ピンクのポップな二人組レ・ロマネスクのボーカル。故ピエール・バルーに愛されフランスで活躍後、帰国。一度聞いたら忘れられない珠玉のソングをYouTubeでチェック。
- TOBI
- これとかもね、地味に好きです。
- 「冷やし中華っぽいのはじめました」
っていう。
『VOW 30周年スペシャル』より
- ──
- っぽいの‥‥とは。
冷えてないとかですかね。ぬるいとか。 - 何にしても注文しづらいです。
- TOBI
- ぼくらに似てるなと思って。
- ──
- 似てる? レ・ロマネスクに?
ぬるい冷やし中華が、ですか?
- TOBI
- レ・ロマネスクも、
ミュージシャンみたいなもの、なので。
- ──
- あ、なるほど。断言しないところがね。
- TOBI
- 想像をはたらかせる余地のあるほうが、
可能性は広がるじゃないですか。
- ──
- ミュージシャンみたいなものでもあり、
タカラヅカみたいなものでもあり、
デコトラみたいなものでもある‥‥と。 - いったいどんなヤツらなんだろうって
思いますもんね。怖いもの見たさでね。
- TOBI
- 同様に「冷やし中華はじめました」だと、
そこには冷やし中華しかない。 - でも
「冷やし中華っぽいのをはじめました」
といえばいろんな可能性が広がる。
つまりメニューの幅も広がるんですよ。
- ──
- なるほど。‥‥って。
- TOBI
- 新たなカルチャーというものは、
そういった「隙間」にうまれるんです。
- ──
- 文化はすき間に生まれる。至言ですね。
それが芽吹いてやがて大きな幹となり。
- TOBI
- そうです。だから、
そういうちいさな芽を拾っていくことが、
大事なんだと思います。 - だって、誰も拾わなかったら、
そのまま朽ちてくだけじゃないですか。
- ──
- VOWの投稿人が拾ってくれるから、
ヘンな看板も新聞の誤植も、
VOWネタとして
生き長らえるわけですもんね。
- TOBI
- その意味では、
閉店のお知らせシリーズもいいですよね。
- ──
- 店主の人柄が出ちゃってるやつね。
- TOBI
- 閉店のお知らせが貼ってあったら、
ぼくは、いちいち拾うようにしています。
見過ごしてたらもったいないから。 - とくに、この店の閉店のお知らせが最高。
あるじの夫婦が、手書きで長文の
「突然の閉店のお知らせ」を出したあと、
何日か経ってから、もう1枚
さらに「更新」しているじゃないですか。
『VOW 30周年スペシャル』より 画像提供:ロケットニュース24 https://rocketnews24.com/
- ──
- そうそう。「続き」を出してるんですよ。
みんなが読んでくれたっぽいのを知って
気を良くしたのか、何なのか。
- TOBI
- その2枚めが、とくにいい。
- 「貧乏少年Aは田舎から片道切符を握りしめ、
上野ステーションへ。
すぐにこの道に入り修行。
ようやくこのメッカ新宿御苑の地に
開店することが出来ました。
その間高度成長、バブル、
そしてその崩壊を目の当たりに」‥‥って。
- ──
- 読ませますよね。
- TOBI
- 閉店のお知らせじゃないんですよ、すでに。
- ──
- ちょっとした半生記です。
己の人生を語りあげるコーナーになってます。
- TOBI
- 「中でも新宿駅騒乱事件は、
この辺りも警察と学生とのにらみ合いで
大変緊張致しました。
今後もこの新宿御苑周辺は
大発展を遂げるでしょう。
では皆様にハッピーな未来を、
グッドラックを再び。店主」 - 一編のドラマですよ。
「片道切符を握りしめて上野ステーションへ」
- ──
- 上京物語ですね。
- TOBI
- そうなんですよ。
- ──
- 上野に着いた‥‥ということは、
北から来たということですよね。 - 夜汽車に揺られて。
- TOBI
- そうです。東北地方から、北の玄関口へ。
1枚の片道切符をぎゅっと握りしめてね。
- ──
- 東京で一旗揚げるまでは帰らないつもりで。
- TOBI
- でも、1枚めのお知らせは、
店のあるじ夫婦の連名で描いてるんだけど、
2枚めは店主しか署名がない。 - つまり、2枚めに妻は関わってないんです。
『VOW 30周年スペシャル』より 画像提供:ロケットニュース24 https://rocketnews24.com/
- ──
- わはは、よく見てるなあ(笑)。
たしかに。本当ですね。 - 思いがあふれる店主、それほどでもない妻。
- TOBI
- 閉店のおしらせシリーズは名作ぞろいです。
こっちもこっちで、すごいです。
『VOW 30周年スペシャル』より
- ──
- 宝くじで5億円でも当たったのかなあ。
- ともあれ、
ちゃんと業者に発注してるっていうのがね。
手書きじゃなくて。
- TOBI
- 看板屋さんにつくらせてるんですよ。
- あと「雨漏りのため」ってありましたよね。
雨漏り、直さないんだと思って。
雨が漏ってきたら「即、閉店」なんですよ。
- ──
- 濱田庄司さんみたいな人間国宝が
「ちがう!」とか言って
焼き上がったツボを
叩き壊すみたいな潔さを感じます。 - ちなみにトレジャー・アイランド社の場合、
「閉店のお知らせ」にあたるものって。
- TOBI
- ありませんよ。ないです。夜逃げですから。
- 誰にもナイショで、
ぼくら従業員にさえお知らせせずに、
ある朝、突然「閉店」してしまったんです。
- ──
- なんでも、洋式トイレの「便座」まで
持ち去られていたという話ですよね。
- TOBI
- 社員のデスクや椅子、棚などの家具類、
冷蔵庫やコピー機、
パソコンなどの電化製品はもちろん、
じゅうたんはきれいに剥がされ、
キッチンのシンクもなくなってましたし、
ウォシュレットや便座まで含めて、
トイレは無残にも便器だけの丸裸でした。
- ──
- 閉店。完全なる閉店。
- TOBI
- だからぼくは‥‥「閉店のお知らせ」に
憧れているのかもしれない。 - あの日、ぼくらは、
こうやってお知らせしてほしかったんだ。
- ──
- 閉店、をね。
トレジャー・アイランド社の閉店、を。
- TOBI
- たぶん。
◎頭の上からこっちを見てる 👉️この値段なら……ちょっと欲しいなと思ってしまう自分がいます。(青森県/りんちゃん) ♨️うさぎの皮を被ったデューク東郷か。
(つづきます)
2025-05-14-WED
