神田に引っ越して早2年目、
すっかり街に馴染んだつもりだったほぼ日ですが、
新型コロナウィルスの影響で中止になっていた
このイベントにはまだ参加していませんでした。
それが「神田錦町ご縁日」、
いってみれば町内のお祭りです!
久々の開催となる今年は
会社としてきちんと参加しましょう!
そう決めたとき、目に入ってきたことばが‥‥
え? 「つなひき大会?」 ‥‥出るでしょ!
そんなわけで急遽立ち上がったこの連載は、
おもしろ半分で抜擢されたマネージャー役の
新人乗組員西村が、「つなひき部」を立ち上げ、
町内つなひき大会でドラマチックに
優勝するまでの物語である‥‥知らんけど。

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第1回 神田のお祭りとつなひき大会

夏に向けて気温が上昇しはじめたある日、
総務小竹のもとに、その知らせはやってきた。
手にしたチラシにはこうあった。

──神田錦町ご縁日2022開催!

「あ、やるんだ!」と小竹は思った。
そう、3年ぶりの開催である。

株式会社ほぼ日が、
ここ神田錦町へ本社を移したのは、
2020年11月のことである。

いつの間にか2年近くが経過し、
私たちはもうこの街の新参ではない。

ランチタイムになれば、
星の数ほどある神田の食べ物屋のなかから、
お気に入りのお店に入っていつものメニューを注文し、
ときには路地の目立たない場所にある
静かな喫茶店でコーヒーを飲む。
乗組員全員で古本屋をめぐる企画をしたこともあったし、
神田で人気のうどん屋さんを取材したこともあった。

私たちは、神田の街に慣れた。馴染んだ。
そう思っていた。

しかし、そうではなかった。
この街には、じつはまだ、
私たちが通過していない様式があったのだ。

なにかというと、町内の「お祭り」である。
わっしょいわっしょいのあれである。
そいやそいやのあれである。

千代田区神田はいわゆる東京の下町であり、
地域の文化としてお祭りはたいへん重要な行事である。
引っ越すにあたり、糸井重里もよく言っていた。
神田の街をほぼ日は盛り上げるぞ、と。
ちゃんと俺らも神輿をかつぐぞ、と。
そして、実際に引っ越してきたときには、
町内のみなさんから法被をいただいたりもした。

いわば私たちは神田のお祭りに対して
準備万端だったわけだが、
ご存知のように2年前から新型コロナウィルスが
世界中のイベントを滞らせた。

神田錦町の町内会が主催するお祭りも、
ここ2年、開催されていなかった。

しかし、今年は慎重に準備が進められ、
どうやらひさびさに催される見通しである。

よっしゃやるぞ、と総務の小竹は腕まくりをした。
すぐさまお祭りの実行委員会に参加の意思を伝え、
社内でてきぱきと話を通し、
若い乗組員を中心に数人のチームをつくった。

お祭りをたのしむだけでなく、
たのしませる側として、テントを一区画借りて
「ヨーヨー釣り」のお店を出す手筈も整えた。

ちなみにほぼ日が出店する「ヨーヨー釣り」では、
糸井重里が考案した
「世界初! 割れてもうれしいヨーヨー」を
たのしんでいただく予定であるが、
それについてはまた後日詳しくお伝えする。たぶん。
(まだうまくいくかどうかわからないんです)

さて、そんなふうに、小竹がばたばたと、
お祭りの準備をしていたときのこと。

町内会からもらった書類のなかに、
こんなチラシがはいっていた。

‥‥つなひき大会?

どうやら、全16チームで競う、
なかなか本格的な「つなひき大会」のようだ。
参加者多数の場合は抽選で選出‥‥。
1等は3万円分の商品券‥‥。

ほぼ日と、つなひき大会には、とくに関係はない‥‥。
しかし、どうにも気になる‥‥。
なんか、ちょっと、おもしろそう?

つなひき大会のチラシを手に小竹が思案していると、
そこに新人乗組員の西村がやってきた。
西村は発足したばかりのお祭りチームの一員で、
先述した「割れてもうれしいヨーヨー」の
試作を任されているのだ。

その進捗についてやり取りしたあと、
小竹は気になっていることについて、
西村に意見を求めることにした。

「‥‥つなひき大会?」
「そう、つなひき大会」

「つなひきって、あのつなひきですよね?」
と西村が確認した。
「そう、あのつなひき」と答えながら、
小竹はつなをつかんで引っ張る動作をした。
「ですよね」と言いながら、西村もつられて
見えないつなを空中で引っ張って見せた。

小竹は、目を見張った。

なぜなら、西村の手に、
「本当のつな」があるように見えたからだ!

えっ! と小竹は声をあげそうになったが、
すぐにその理由に思い当たった。

西村には、学生時代にパントマイムの経験があるのだ。
大道芸人の師匠のもと、学んだという。
「じょうずだねー」と小竹は笑った。
ふふふと西村は笑いながら、空中のつなを引っ張った。

ああ、見事なつなひきだ、と小竹は思った。
この子は、つなひきの申し子かもしれない‥‥。
そんなことを考えていたら、
小竹の口からことばは出ていた。

「じゃあ、西村さん、つなひき大会は任せた!」
「えっ」と西村は空中のつなを持ったまま言った。

「つなひき大会に出て優勝しちゃおう!」

西村は、予想外の展開に、
思わず持っていたつなを離した。
そこにあったはずのつなは瞬時に宙にかき消えた。
しかし、かわりに西村のこころのなかに、
はっきりと一本のつなが現れた。

「つなひき大会‥‥!」

ほぼ日つなひき部マネージャー、西村の誕生である。

(次回、つなひきの専門家に西村が突撃取材!  オーエス、オーエス!)

2022-08-24-WED

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