数ヶ月前、レ・ロマネスクTOBIさんが
初の小説を出版したのを機に、
しまりすボーカル教室主宰・ボーナムさんと
「ムード歌謡」について
月刊「ムー」の三上丈晴編集長と
謎の未確認動物「ヒバゴン」について
深く語り合っていただきました。
今回はその第3弾として、
東京・檜原村の若き林業集団、
東京チェンソーズの青木亮輔さんを訪問。
木や林業について、語っていただきました。
なぜ木? なぜ林業? 読めばわかります。
木や林業にたいし
かたく閉ざしていた(?)TOBIさんの心を
青木さんのにこやかなスマイルや
檜原の大自然が
徐々にときほぐしていくかのような全7回。
担当は「ほぼ日」の奥野です。さあ、どうぞ。

>青木亮輔さんのプロフィール

青木亮輔(あおきりょうすけ)

東京農業大学農学部林学科卒。大学時代は探検部に所属し、モンゴルの洞窟調査やメコン川の源流航下に熱中していた。卒業後、1年間の会社勤めを経て「地下足袋を履いた仕事がしたい」と林業の世界へ。2006年、東京チェンソーズ創業。森林整備事業をベースに、木をまるごと1本使い切ることをコンセプトにした木材販売など展開。1976年、大阪府此花区出身。目標は、「林業に縛られず、林業にこだわる」

>東京チェンソーズとは?

東京チェンソーズ

東京都唯一の村(島嶼部を除く)である檜原村を本拠地とした林業会社。2006年7月1日、メンバー4人が1人15万円ずつ出し合って、チェンソー、刈払機、ヘルメットなどの道具を揃え、代表・青木の自宅を事務所兼倉庫として創業(2011年法人化)。林業の現場から木材の加工、販売までを一貫して行う。現在とくに注力しているのが、木を1本まるごと使い切る「1本まるごと販売」。2021年7月、曲がっているなどの理由で、市場には流通しないヒノキの幹を原料にしたエッセンシャルオイルを発売(詳しくは、こちら)。11月にオープンする「檜原森のおもちゃ美術館」ではミュージアムショップの運営も担当。公式サイトは、こちらです。以前「ほぼ日」で青木代表にインタビューさせていただいた記事は、こちら

>レ・ロマネスクTOBIさんのプロフィール

TOBI(トビー)

広島県比婆郡(現在の庄原市)出身。フランスで結成された音楽ユニット「レ・ロマネスク」のメインボーカル。相方・MIYA(ミーヤ)と、ピンク色のコスチュームで歌い踊るキッチュな楽曲とパフォーマンスで徐々に人気を集め、2008年春夏パリコレでのライブをきっかけに、世界 12カ国50都市以上で公演。09年フランスの人気オーディション番組に出演した動画のYouTube再生回数が、フランスで1位、世界で4位を記録し、「パリで最も有名な日本人」となる。11年フジロック出演を機に日本に拠点を移す。18年、自らの稀有な体験をまとめた書籍『レ・ロマネスクTOBIのひどい目。』(ほぼ日・青幻舎)が話題に。「お伝と伝じろう」(NHK Eテレ)、「激レアさんを連れてきた。」(テレビ朝日)などメディアに出演し、最近では、ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』(19〜20)、映画『生きちゃった』(石井裕也監督、20)への出演など俳優や、ラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げている。20年9月から放送の「仮面ライダーセイバー」にタッセル役としてレギュラー出演中。はじめての小説作品となる『七面鳥 山、父、子、山』(リトルモア)が好評発売中。
@rmnsq

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第2回 4メートルの丸太が2500円。

──
せっかく林業の町からはなれて
生活していたのに、
都会の北欧風カフェの
木の切り株の腰掛けに腹を立て。
TOBI
都会の若者にとっては、
切り株も新鮮なんでしょうがね。
──
そんな言い方(笑)。
その点、青木さんは、
たしか都会のご出身でしたよね。
青木
大阪ですね。
TOBI
えっ、あ、そうだったんですか。
檜原村じゃないんだ。
青木
ええ、団地みたいなところです。
だから、TOBIさんとは真逆で、
木に囲まれて、
自然の中で暮らしたいなあって、
ずーっと思ってました。
うちではたらいてるメンバーも、
そういう人間が多いです。

──
都会で育って、森に憧れて。
TOBI
不思議ですね‥‥ぼくみたいに
山で生まれた人間は、
山を離れたい山を離れたいって、
ずっと願っていたのに。
青木
だから自分も東京の大学を出て、
この仕事に就いたとき、
地元の人に、よく言われました。
せっかく都会の大学を出たのに、
なんで
こんな田舎で林業やるんだって。
TOBI
すごくわかる‥‥その気持ち。
青木
当時‥‥いまもかもしれないですが、
林業なんて
街で仕事のない人間がやるもんだと、
そういうイメージでした。
たしかに自分が仕事をはじめたとき、
「ひとつ上の先輩」が、
すでに「50代半ば」だったんです。
──
レ・ロマネスクにそういう曲が‥‥。
TOBI
あるけど。
(レ・ロマネスク「KASOCHI」には
「青年会はみんな70代 It's not セブンティーン」
という歌詞がある)
青木
ぼくが25くらいのときなんですが。
TOBI
25のひとつ上が、50代。
青木
その上は、もう65歳以上の、
大ベテランばかりだったんですよね。
そんなところに、大学を出た若造が
東京からひょっこり現れた。
たしかに違和感があったんでしょう。
──
それまで、そんな人いなかったから。
TOBI
でも、だんだん、
そういう若者も増えてるんじゃない?
青木
そうですね、以前よりは。

──
それこそ東京チェンソーズさんとか、
若い人も多いですよね。
従業員のみなさんは、
青木さんたちの活動する様子を見て、
憧れて来てるんですか。
青木
まあ、憧れて来るっていうよりも、
これまでの林業って、
よくご存知だとは思うんですけど、
待遇が良くなかったり、
ハードだったり‥‥危険だったり。
TOBI
生命を落としたりとかも‥‥。
青木
ええ、その危険性や可能性は、
やっぱり、あったりするんですよ。
それなのに待遇面では、
林業の業界では7割が「日給月給」で、
ようするに、
アルバイトの延長みたいな感じでしか
はたらくことができなかった。
でもうちは、そういう部分については、
きちんとしていこうってことで。
──
ですよね。
青木
そういう点でも、山や木の好きな若者が
集まりやすいのかなとは思ってます。
──
でも、会社の体制を
そんなふうに改善していくことじたいが
大変だったんじゃないですか。
他にそういうサンプルみたいな人たちが、
いなかったわけでしょうし。
青木
まあ、手探り、手探りですね。
でも、ぼくは、
この林業の仕事がすごく好きなんですよ。
TOBI
うん、うん。そうでしょう。
青木
先ほどTOBIさんおっしゃったみたいに、
日本の林業がダメになっていく反面、
戦後に植えられた木は、
どんどん、どんどん大きくなっています。
そういうタイミングで、
運良く、自分たちは林業できているので、
もっともっと、
林業全体を良くしていきたいって思うと、
いろいろ課題が出てくるんです。
──
それらの課題に向き合いながら、
チームのあり方もととのえてきた‥‥と。
青木
そうですね‥‥たとえば、
若い人たちが
安定的にはたらけるような仕組みを
つくろうと思ったら、
それまでは、
土日祝日であっても仕事をして、
なんとかしていかなきゃ‥‥
みたいなはたらきかたもしてたんですが、
やっぱり月給制で、土日休みにしないと。
TOBI
林業の、はたらきかた改革。
青木
そうですね。
で‥‥そういうことをやろうと思ったら、
やっぱり、
これまでの「林業」だけやってたんじゃ、
ダメだとわかったんです。
──
つまり‥‥。
青木
売上ですよね。
きっちりと売り上げが立つような林業を、
やんなきゃダメだよね、って。
TOBI
なるほど。
青木
たとえば、
こうやって4メーターに切ってある丸太、
そのまま市場に持ってったら、
たったの1本2500円にしかならない。
TOBI
えええ! 安過ぎないですか!?
青木
安いです。60年もかけて大きくなった
4メーターの丸太が、その値段。
TOBI
それじゃ、ぜんぜんダメじゃないですか。
青木
はい。ダメです。
ダメ‥‥なんですけど、
そこに補助金とかがいろいろつくので、
ギリギリやれているというか、
ギリギリでやってきた「しわ寄せ」を、
現場の人間が
日給月給ではたらいて成り立たせてる。
そういう構造。
TOBI
もう、ここで大きく変えていかなきゃ、
ダメだってことですね。
青木
はい。
たとえば、そこで伐ってる木だって、
ただ市場に持ってったら、
4メーターで
2500円にしかならないんですが、
こうして、枝付きの丸太で‥‥。

──
なるほど、デザインの力で。
青木
そう。
TOBI
付加価値をつければ。
青木
はい。
TOBI
この枝ぶりに物語を感じさせるんですね。
──
この枝に、かわいらしい小鳥が
止まっていたかもしれませんよ‥‥って。
青木
あはは、そうですね(笑)。
TOBI
でも、単なる丸太の姿じゃなくなったら
この木の「人生60年」を感じられそう。
つまり「木材」や「資材」としてでなく、
そうじゃない何かとして‥‥
いやあ、いいですね。すごくいいですね。
──
TOBIさん、
いつのまにか木に寄り添ってる‥‥。
TOBI
そう‥‥いや、
東京チェンソーズさんのやってることは、
昔イヤだった林業とは、ちがうから。
記憶のなかの林業は、資材としての木が、
やっていけなくなったチップ工場で
さびしく放置されていて‥‥
一家離散みたいなイメージしかなかった。
──
なるほど。
TOBI
それがイヤだったんでしょうね、きっと。
──
林業というより、
そのあり方、その思い出や、イメージが。
TOBI
イヤだったんですよ。

(つづきます)

2021-07-31-SAT

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  • レ・ロマネスク TOBIさんの初小説
    『七面鳥 山、父、子、山』発売!

    フランスで最も有名な日本人のひとりであり、
    人に勇気を与える「ひどい目の人」であり、
    最近では仮面ライダーのナゾの語り部である
    レ・ロマネスクのTOBIさんが、
    こんどは「小説家」になってしまいました!
    気になる内容は‥‥版元さんによると、
    4歳・9歳・19歳・38歳の4章で綴る
    ぼくと父の39年‥‥とのこと。
    ピンクではなく緑の表紙で、意外ですよね。

    ピンクと緑は「補色」の関係にあたります。
    いままで
    あまり語ってこなかった僕の緑色の部分を、
    このたび小説にしました。(TOBIさん)

    レ・ロマネスクのTOBIさんが描き出す、
    ピンクな自分の、緑の部分。
    ジ・アザー・サイド・オブ・トビー。
    どうぞ、裸の心で飛び込んでみてください!

    Amazonでのおもとめは、こちらから。

  • 東京チェンソーズの木のおもちゃ、
    ヒノキのアロマミストなどが、
    オンラインストアで販売中です!

    インタビュー中にも出てきますが、
    伐った木を市場に持っていくだけでは、
    その苦労にくらべて、
    さほどお金にならない現状があります。
    そこで東京チェンソーズさんでは、
    木のおもちゃとか収納アイテム….
    だけでなく、
    ヒノキのエッセンシャルオイルや
    アロマミストなども
    開発・販売しているんです。すごい!
    青木さんをはじめ、
    チェンソーズのみなさんのお人柄が
    にじみ出ているような、
    人にあたたかく、やさしげな商品です。
    とくにヒノキのミストやオイルは、
    あの檜原村の、
    気持ちいい森の息吹を感じられるよう。
    オンラインストアで
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    https://www.chainsaws-store.jp/