33歳のときにチェンソーアートに出会い、
世界大会で優勝したのは41歳のとき。
いまも精力的に活動をつづけ、
制作されたものは神社に奉納されたり、
町のモニュメントになることもあるそうです。
27歳で一家離散を経験し、
不思議な縁に導かれるようにして
いまの場所にたどりついたと話します。
灼熱の太陽が照りつけた2024年、夏。
和歌山県の山奥で暮らすチャンピオンのもとを訪れ、
現在に至るまでの話をうかがいました。
担当はほぼ日の稲崎です。

＞城所ケイジさんのプロフィール

城所ケイジ（きどころ・けいじ）

チェンソーアーティスト。

1967年愛知県生まれ。
2000年に愛知県東栄町で
ブライアン・ルース氏の公式招聘に成功し、
アメリカン・チェンソーアートの技術者を
日本で育てるイベントなどを企画・運営。
その後、自身もチェンソーアートをはじめる。
2003年国内全国大会優勝。
2005年USA・Xトリーム国際大会で総合チャンピオン。
2006年東栄町・世界大会優勝。
2007年ドイツ・国際大会優勝。
2008年ドイツ・世界大会優勝で競技大会を引退。
その後は国内のチェンソーアート指導、
カービングショウ、個展など精力的に活動をつづける。
2014年に「どらごんワンコの会」を設立し、
和歌山県内で保護された犬の保護活動にも尽力している。
和歌山県田辺市龍神村在住。

チェンソーアートジャパン公式サイト
https://www.chainsawartpro.com/

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03 アメリカ武者修行

──
城所さんはどうして
チェンソーアートをはじめたんですか。
城所
もともとぼくは民間のシンクタンクで
はたらいていたんです。
産官学で構成された団体で、
愛知県の地域振興につながる
研究や提言をおこなったりしていました。
そこでの仕事の一環で、
愛知県東栄町というところに、
当時のチェンソーアートの世界チャンピオンだった
ブライアン・ルースという人を呼んだんです。
そこでの町おこし的なイベントに。
──
それはいつ頃の話ですか。
城所
2000年のイベントだったので、
ぼくが33歳のときですね。
──
ブライアンさんとは
お知り合いだったんですか。
城所
最初に会ったのは97年くらいかな。
「大道芸ワールドカップ」というイベントで、
チェンソーを使って彫刻をする彼を見て、
「あ、これは何かに活かせるかも」と思って、
そこで声をかけたのがきかっけです。
当時、愛知県の奥三河と呼ばれる山間部では
スギ材がたくさん余っていて、
そのスギを何とかしようという課題があったんです。
その頃はスギの価値もどんどん下がって、
山にあり余っている状態でした。
なので、もしスギの丸太で彫刻ができたら、
町おこしにもなるっじゃないかなって。
それで村にある木でチェンソーアートができるか、
一度ブライアンに見てもらおうということで、
愛知県の山奥にまで彼を招待したんです。
──
反応はどうでしたか？
城所
ブライアンもびっくりするくらい
「日本のスギは素晴らしい」と
お墨付きをもらいました。
それで2000年に愛知県東栄町の
ある記念イベントで予算が取れたので、
そこであらためて来日してもらったんです。
そのときはショーだけじゃなく、
地元の林業をやってる人や大工さん、
ログビルダーたちを呼んで、
チェンソーアートのレッスンもやりました。
──
もしかしてそこで城所さんも？
城所
いえ、ぼくはイベントの運営側だったので、
自分でやることは考えてなくて、
他の方の面倒をずっとみていました。
だけど、みんなの作品を見るうちに、
「俺だったらもっとこうするな」とか、
「あの動物のラインはああじゃないな」とか、
いろいろ感想が出てくるわけです。
美術を勉強したわけじゃないんだけど、
「なんか自然界にあるデザインとは違うなぁ」とか。
──
「自分ならもっとうまくやれるのに」と。
城所
そうなんです。
それで自分でもやってみたくなってきて、
冬のボーナスでチェンソーを買って、
はじめて彫刻にチャレンジしてみたんです。
そしたら案の定、すぐできちゃって（笑）。
──
できちゃった（笑）。
城所
それを見たブライアンが、
「おまえは筋がいいから
アメリカでやってみないか？」
って誘ってくれたんです。
そのとき33歳くらいでしたけど、
そういう人生もおもしろそうだなと思って、
ブライアンのことばを信じて、
夫婦でアメリカに行くことにしました。

──
日本での仕事をやめて、
ってことですよね。
城所
そうですね。
──
かなり思い切った選択ですね。
城所
日本とアメリカを
行ったり来たりという感じですけどね。
当時ブライアンは、アメリカ国内で
チェンソーアートのアーティストを集めて、
イベント会場へ派遣する仕事をしていたんです。
カントリーフェアから依頼があると、
誰かがそこに行ってチェンソーアートを披露するんです。
──
へぇー、そういうお仕事があるんですね。
城所
その会社にぼくもジョインして、
仕事が決まれば現場に夫婦で向かう。
キャンピングカーに荷物を全部積んで、
そこで寝泊まりしながら、
いろんな各地のフェアを巡りました。
──
仕事はけっこうあるんですか。
城所
その頃は日本人が珍しかったのか、
ぼくはけっこう仕事をもらえましたね。
ショーに出るとギャラがもらえるんですけど、
作品はオークションに出されて、
落札されたお金は主催者のものになります。
──
えっ、全部ですか？
城所
ただ、作品が高値で売れると主催者が儲かるので、
次のフェアのときにご指名があるんです。
「あいつに来てほしい」と。
そんなふうにして仕事をふやしていきました。
──
つまり、作品が売れないと仕事はもらえない。
城所
そこはけっこうシビアな世界なので、
売れるものをつくりつづけないといけない。
その感覚はかなり鍛えられました。
そういうのも全部独学でしたけど。
──
ブライアンさんは教えてくれないんですか。
城所
ブライアンはブライアンで、
自分の現場に行ってますからね。
仕事場で会うことはほとんどないです。
──
チェンソーアートの作家さんは、
アメリカにはけっこういるんですか。
城所
アメリカにはショーの仕事があるので、
チェンソーアーティストはけっこういます。
田舎のほうに行けば、
国道沿いに自作の作品が並んでたりします。
田舎だとだいたいチェンソーをもってますし、
趣味でやってる人もけっこう多いと思います。
ただ、売れる作品をつくれるかどうかは、
また別問題ですけどね。
──
どのくらいアメリカにいたんですか。
城所
33歳から38歳くらいまでなので、
約５年って感じですかね。
いまみたいにカーナビもない時代なので、
ぼくが運転して、嫁さんが紙の地図を見て、
あっちじゃないこっちじゃないって、
ケンカしながら全米を旅してましたね。

（つづきます）

2024-12-25-WED

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