
どうやら帰ってくるらしいんです、あの作品が。
湯村輝彦さんの絵と糸井重里の文章によって
1970年代に連載された、伝説的はちゃめちゃマンガ
『ペンギンごはん』の新作が出ます!
令和の時代に、はたしてどんなペンギンが飛び出すのか、
飛び出していいのか、いけるのか?
糸井が湯村さんのスタジオを訪ね、打ち合わせという名の、
しみじみ陽気なおしゃべりをしてきました。
湯村さんと糸井の、前回の対談はこちらです。
湯村輝彦(ゆむら・てるひこ)
1942年、東京生まれ。
イラストレーター、デザイナー、マンガ家。
R&Bなど、ソウル・ミュージックを
こよなく愛する。
別名、テリー・ジョンスン。
「Flamingo Studio」主催。
『湯村輝彦のヒットパレード』『テリー百%』
『決定版 ヘタうま大全集』など著作多数。
糸井重里との共著に『こども用』、
『月刊漫画ガロ』に連載していた
『ペンギンごはん』を単行本化した
『情熱のペンギンごはん』、
同じくペンギンが登場する絵本
『さよならペンギン』がある。
- (14年前の対談と同じく、お互いに、
ひじょうに照れながら再会しました)
- 糸井
- (部屋の入口から)
あ、どうも、すみませんね。
- 湯村
- (部屋の奥から)
いやいや、お久しぶりです。
- 糸井
- 失礼します。
- 湯村
- どうぞ、どうぞ。
オレの席はここでいいかな。
- 糸井
- 近いほうがいいですよね。
僕がちょっと寄りましょうか。
- 糸井
- お久しぶりです。
- 湯村
- お変わりなく?
- 糸井
- 妙な‥‥妙なものです、相変わらず。
- 湯村
- なんかねぇ。急にごめんね。
オレが『ガロ』(『月刊漫画ガロ』)に描いた絵が
カプセルトイになるっていう話は
聞いてると思うんだけど。
合わせて展示もやるっていうんで、
図録をどうしようかと話してたら、
いつの間にか「ガロに連載してた
『ペンギンごはん』の新作をつくりましょう」
って話になって。
こっちが勝手に決めちゃってさ、ほんと申し訳ない。
- 糸井
- いえいえいえ。
『ペンギンごはん』の新作を出すなんて、
僕は思いつきもしなかったから、うれしいですよ。
- 湯村
- ねえ、びっくりしちゃうよね。
- 糸井
- お話をいただいて、
すぐ「やるよ」って言ったんだけど、
どうやって『ペンギン』を書いてたか、
勝手を忘れちゃってて(笑)。
- 湯村
- オレも、ほとんど描き方を忘れてた。
当時の『ペンギンごはん』も、
自分の手元に見つからなくてさ。
- 糸井
- わかる! 僕もそうでした。
- 湯村
- しかたないから、ネットで探して買ったんだよ。
ちょっと値段が高かったけど、我慢して買った。
- 糸井
- あはははは。
- 湯村
- 本が届いて、懐かしくってね。
手に取って改めてしみじみした気持ちになった。
- 糸井
- まあねえ、手元にないのも寂しいからね(笑)。
- 湯村
- なんかさ、今回も自分のスタジオだから、
ちょっと恥ずかしいな。
- 糸井
- 僕が前回おじゃましたときも、
恥ずかしがってましたよ。
もう、しょうがないんですよ。
- 湯村
- 毎日のように会ってたころは
若かったから平気だったのに
なんか今また、急に恥ずかしくなっちゃったよ(笑)。
「さて、なにを話そうかな」って感じになっちゃってさ。
- 糸井
- 物心がついちゃったからね。
- 湯村
- そうそう。
- 糸井
- やっぱりなかなかね、難しいものですよ、
お互い物心がついちゃうと(笑)。
何回か、知り合いのお葬式で
会ったりはしていましたね。
- 湯村
- ああ、ちょこっと会うことはあったね。
でも、ちゃんと話すのは、もう15年ぶりくらいかな。
なんだかんだでさ、自分のまわりを見渡すと、
ほんとに、みんな、いなくなっちゃったんだよねえ。
まぁ、オレもいついなくなるか、わからないしさ。
- 糸井
- それは、自分も思います。
- 湯村
- いやいや、糸井さんはまだ若いよ。
まだ、76だろう? 悔しいなあ。
オレ、もうすぐ83なんだよ。
でも「人間は85を過ぎると死が怖くなくなる」
と誰かが言っててね。
だから、もうちょっとの辛抱だなと思って、
85歳になるまでは恐怖に耐えるつもりでいるけどさ。
- 糸井
- やっぱり怖いですか。
- 湯村
- やっぱり死ぬのは、嫌じゃない?
糸井さんは平気なんだ。
- 糸井
- 僕は、わりと平気なんです。
- 湯村
- そうなんだ、度胸いいなあ。
- 糸井
- 度胸なんですかね(笑)。
- 湯村
- やり残したこととか、ないの?
- 糸井
- ないない。
でも「全部やり切った」とも思わない。
- 湯村
- もともと、そんなにいろんなことをやりたいと
思ってないって感じなのかな。
- 糸井
- うん、あまり‥‥
だから、きょう人生が終わっても、別に
「しょうがねえか」と思う。
- 湯村
- オレは、イラストは、
全部やり尽くしているから
いいんだけどさ。
いよいよ死ぬとなったら、
いろんなことがあるじゃない。
死ぬ前にちゃんとこれは大事、
あれはいらないとか指示をしておかないと、
残された者が路頭に迷うしさ。
- 糸井
- 湯村さん、きれい好きだからね。
- 湯村
- うん、まぁ、そうなんだけどねぇ。
- 糸井
- 僕は、きれい好きなところがないからなぁ。
年齢の話に戻ると、
横尾忠則さんは今年89歳ですよ。
89で、ぜんぜん平気そうですよ、あの人は。
- 湯村
- こないだ、横尾さんがテレビに出てて、
「最近、絵がヘタになったから、
すごいラクになった」と言ってたんだよ。
それで言ったら、オレなんかさ、もう、
若いときから随分と
ラクをしてたってことになるよね(笑)。
- 糸井
- とっくに(笑)。
湯村さん、昔
「右手がダメなときは、左手で描いてる」とか
言ってましたもんね。
- 湯村
- 「湯村さんは寝ながらでも
描ける絵だからいいですね」とかも
言われてたからね。
- 糸井
- あと、カメラマンの操上和美さんも89歳ですよ。
- 湯村
- オレも昔、操上さんと一緒に仕事を
したことがあってさ。身近に見てて。
なんかカメラマンって、カッコイイんだよね。
一年中陽に焼けてるし。
イラストレーターっていつも真っ白い顔して
Zライトの下でシコシコ描いてるだけだからね。
それで、オレもカメラマンみたいな感じで
アクティブに仕事したいなと思って、
絵は出来るだけ速く描いて、
余った時間は屋上でのんびり
日焼けするようにしたの(笑)。
- 糸井
- シャッターを切るように。
- 湯村
- そう、シャッターを切るように
イラストを描くんだよ。
頭に浮かんだイメージをパッと絵にする。
ぐずぐずしてると絵が腐っちゃうからね。
- 糸井
- どうだったんですか、それは。
- 湯村
- 板前は熱い料理は熱いうちに食べてもらう。
冷たい料理は冷たいうちに食べてもらうのが
鉄則でしょ。
絵を描くのも同じだよ。ぐずぐずしちゃダメなの。
オレ、いまでもすごく絵を描くスピードは速いよ。
- 糸井
- すごいなあ!
マンガをやっていたころも、
だいたい1日で描き終えてましたね。
- 湯村
- 『ペンギンごはん』はさ、
糸井さんから絵コンテもらって、
「ああ、コマ割、面倒くさいなあ」とか
考えてるうちに、夜のごはんになって、
だいたい10時ぐらいから描き始めるんだよ。
眠くなったらダメだから、
気合入れて一所懸命描いて、
朝の10時ぐらいになんとか完成させるという
パターンだったね。
- 糸井
- まったくもってひと晩ですね。
- 湯村
- それ、ずうっとやってたからね。
- 糸井
- すごいよねえ。
(明日につづく)
2025-07-16-WED
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湯村輝彦さんが描いた
『月刊漫画ガロ』の表紙が
カプセルトイになります!
発売は2025年11月予定です。そちらに合わせ、
2025年7月16日(水)~7月31日(木)
東京駅エキナカ グランスタ東京
「VINYL GALLERY」で、
湯村さんによる『ガロ』表紙絵の
展示イベントが開催されます。
くわしくはこちら
(VINYL GALLERYのInstagramにリンクします)。『情熱のペンギンごはん』の絵を使ったアイテムや、
『ガロ』の歴代の表紙が集合した圧巻のグッズも
販売されます。
この連載の「打ち合わせ」を経て完成した、
湯村さんと糸井による
『ペンギンごはん』新作が収録された図録は、
イベントでの発売以降も、
オンライン他、各所で発売予定です。