いま、世界中で新作が待たれている映画監督、
そのひとりが、間違いなく、
クリストファー・ノーラン監督です。
最新作の『TENET テネット』公開のタイミングで、
ノーラン監督にオンラインで
インタビューできるチャンスが訪れました。
『ダークナイト』でその名前を意識してから、
ノーラン作品のほとんどを
追いかけているという糸井重里が、
モニター越しにノーラン監督に問いかけました。

>クリストファー・ノーランさんのプロフィール

クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)

映画監督、プロデューサー、脚本家。
1970年、ロンドン生まれ。
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで
英文学を学ぶかたわら、映画クラブで
16ミリ映画を撮影しはじめる。
1998年初の長編映画『フォロウィング』を監督。
2000年の『メメント』で注目され、
2005年には『バットマン ビギンズ』から始まる
ダークナイト三部作を監督。
二作目の『ダークナイト』では
米アカデミー賞8部門にノミネートされた。
2010年『インセプション』2014年『インターステラー』
2017年『ダンケルク』も高く評価され数々の賞を受賞。
2020年最新作『TENET テネット』が公開。

>映画情報

『TENET テネット』 プロフィール画像

『TENET テネット』

クリストファー・ノーラン監督最新作。
「時間が逆行する」という、
未体験の世界をリアルに描く。
主人公のミッションは、
人類がずっと信じ続けてきた、
「時間のルール」から脱出すること。
時間に隠された衝撃の秘密を解き明かし、
第三次世界大戦を止める‥‥。
ミッションのキーワードは「TENET(テネット)」。
突然、巨大な任務に巻き込まれた名もなき男は、
任務を遂行することができるのか。
7か国でロケを敢行し壮大なスケールで放つ
タイムサスペンス。

・『TENET』公式ウェブサイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/

ノーラン監督宣材写真
Photo by Oliver Nolan

「TENET」場面写真
© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc.
All rights reserved.

前へ目次ページへ次へ

第1回 観る人の価値観を揺るがす映画

糸井
まず、『TENET テネット』の感想からお伝えします。
率直に、とても興奮しましたし、
おもしろかったです。
観ていて、自分がどこにいるのかが
わからなくなったというか、
ずっと困惑していました。
映画でこんな経験はしたことがないです。
いままでもノーランさんは映画を通じて、
記憶や時間について、
あるいは現実と夢について、
観客を不安定な状態にしてしまうことを
試みてきたと思うんですけども、
過去のノーランさんの映画のなかで
ぼくは一番困惑しています。
そういう意味では、
クリストファー・ノーラン監督に
「またやられた!」と思っているのですが、
観た人からこういう感想が出てくるのは、
ノーランさんの予想したとおりですか?

ノーラン
どのように反応していただくかというのは、
これはもう観客のみなさんに委ねているので、
正しい、正しくないということは
ぼくからは申し上げられないんですが(笑)。
私の狙いとしては、まず、
ジョン・デイビッド・ワシントンが演じる
主人公と一緒に旅をしてほしかった、
ということがあります。
彼と一緒に旅をしていくなかで、
この世界にはこんな可能性があるんだ、
というのを体感してほしかったんです。
この映画をつくるうえで、
もうひとつの狙いとして言えるのは、
「スパイ映画」という既存のジャンルに、
時間というSF的なコンセプトを練り込んで
ひねりを加えたいというのがありました。
派手なカーチェイスがあったり、
格闘シーンがあったり、飛行機が衝突したりという、
これまでのスパイ映画的な文脈に
違った要素を組み込むことで
あたらしいものを提供したかったんです。
そういう意味では、私が映画をつくるときは、
人がはじめて映画を目にしたときの興奮というか、
幕が上がって、スクリーンが映し出されて、
「ああ、この映画は自分を
どこにだって連れて行ってくれる。
映画のなかではどんなことでも起きるんだ」という
わくわくするような気持ちを味わってほしい、
という気持ちがあります。
糸井
いままでも、ノーランさんは、
観客席でいつもどおりに観ている人たちの
安定した気持ちをかき混ぜたり、
揺るがしたりすることに、
挑戦されていると思うんですけど、
観る人の価値観を揺るがすということは、
映画をつくるとき、つねにテーマとして
意識されているのでしょうか。

ノーラン
おっしゃるように、
観客が映画館にやってくるときに抱えている
ある種の先入観や期待感を
よい意味で裏切るというのは、
昔から意識していることです。
映画館に来たお客さんは、
こういうジャンルの映画だからとか、
ポスターがこんなビジュアルだったからとか、
予告編はこうだったからとか、
そういうことを判断材料にして、
「きっとこういう映画だろう」という
期待感や先入観を持っていますよね。
お客さんがそういう気持ちでいるときこそ、
映画監督は彼らとおもしろい対話を
することができると私は思っています。
「こういう映画だろう」と思っている観客の
期待を満たしつつも、
それを凌駕するものを提供する。
私はつねにそれを意識しています。
「こういうものを観たい!」という
期待どおりのものをつくりつつも、
それを裏切るようなものを提供する。
映画のジャンルに留まらないものをつくったり、
俳優のイメージからはみ出るものをつくったり。
ですから、おっしゃったように、
観ている人をちょっと混乱に陥れるというか、
そういう狙いが私の作品にはありますね。
そうすることによって、
いつも新しい何かを提供したい。
既視感があるものではなく、
「こんな映画観たことない!」
というものを提供したいと思っているんです。

(つづきます)

2020-09-21-MON

前へ目次ページへ次へ
  • ヴィレッジヴァンガード下北沢店の
    長谷川朗さんは、大のノーラン好き。
    公開初日は有給をとって待ち望むほど、だそうです。
    はじめてノーラン作品に触れる方へ、
    おすすめのノーラン作品を教えてもらいました。

    はじめて観るならこの3本!

    この映画監督なら好みかどうか問わずにまず観に行く。
    現在の映画界でいちばんにその名前があがる一人であろう、
    映画監督クリストファー・ノーラン。
    僕自身、作品すべてが大好きというわけではないが、
    すべてがすごい。なんというか、
    映画の本気度というか作りこみというか壮大さに圧倒される。
    僕も、ほとんどの作品を2回以上みているが、
    充分に理解できているのだろうか。
    まず、現実離れしているのにリアル
    (ほぼCGなしで実際にセットを作ったり、
    爆発させたりしている)。
    そしてそこには常に”新しい映画体験の興奮”が用意されている。
    『TENET テネット』も「まったく理解できない」と
    一部の試写を観た人たちが騒いでいて(笑)
    とてもたのしみだ!

    ここからは、ノーラン作品を未体験の方に
    ぜひ見てほしい作品を紹介。
    この順番に見てもらうのがおすすめです。

     

    『インターステラー』(2014)

    デジタル配信中
    ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
    © 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc.
    and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

    これまでで、映画館で味わった最高の体験だったかもしれない。

    「IMAXがこんなにすごいのか」というのを
    初めて感じた作品でもあった。
    地球の寿命がつきかけ、
    宇宙に居住可能なほかの惑星を探しにでた男の話。
    このあらすじだけだと俗にいうハリウッド大作に
    よくありがちなものに聞こえるけど、そうじゃない。
    ノーラン作品において重要なキーワードの「時間」がポイント。
    宇宙空間と地球での時間の進み方が違うことによるドラマ、
    そしてブラックホール、からの想像を超えて、
    スピリチュアルな方向に‥‥。
    これ以上は言えない。
    というか言葉で説明できない。
    まぁ一言でまとめると
    「愛が起こす宇宙レベルの壮大な奇跡にボロ泣き」。
    あと個人的ツボがTARSというロボットが最高!ほしい。

     

    『ダークナイト』シリーズ

    デジタル配信中
    ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
    © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
    BATMAN and all related characters and
    elements are trademarks of and © DC Comics.

    過去に何度も作られて、
    今後も作られるであろうバットマンの中でも
    最もリアルな世界観で最も人気と思われるのが
    ノーランの3部作。
    もちろん順番に「バットマン ビギンズ」(2005)
    「ダークナイト」(2008)
    「ダークナイト ライジング」(2012)
    の順で観てほしいけど、
    なかでもダントツに評価の高い『ダークナイト』に注目。
    アメコミ原作ということを忘れさせる
    今の世界に地続きのリアルな世界観、
    そしてこの作品の役にはまりすぎていた
    ヒース・レジャーによるジョーカー。
    アクション映画としても、
    悲惨な犯罪映画としても、超見応えあり。

     

    『インセプション』(2010)

    デジタル配信中
    ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
    © 2010 Warner Bros. Entertainment Inc.
    and Legendary Pictures. All rights reserved.

    一度予告編を見てください。
    この映像を初めて予告で見たときの興奮ったら。
    人の夢の中に侵入して情報を盗んだり、
    別の記憶を植え付けたりするSFスパイアクション。
    夢の中といったら想像したことが何でもできる場所であり、
    それを映像にするとこうなるのか! という
    こちらの想像を遥かに超える創造。
    そして夢の中でさらに夢とか、
    「あれ今現実? 夢?」みたいに、
    とにかく混乱する映画。
    そう、ノーランは複雑でややこしい。
    だから病みつきになるんだけど。
    『TENET テネット』を観る前に予習するなら
    この作品かなと思う。

    (つづきます)

    ハマったならこの2本を観ましょう!

    ノーラン作品の代表的な作品をおさえたところで
    さらに突き進みたいかたはこの2本。

     

    『メメント』(2000)

    ノーランの名前が世界的に広がり、
    日本でもミニシアターでヒットした長編デビュー作品。
    数分前の記憶を忘れてしまう男が、妻を殺した犯人を追う話。
    映画の作りも特殊で、話の最後から始まるというややこしさ。
    わりと睡魔に襲われやすい作品なので
    僕も何度も記憶を失いながら観直した作品(笑)。

     

    『ダンケルク』(2017)

    デジタル配信中
    ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
    © 2010 Warner Bros. Entertainment Inc.
    and Legendary Pictures. All rights reserved.

    この作品もIMAXで観たのですが、
    本当に戦場にいるかのような臨場感がものすごい。
    リアルな戦争映画なのですが、
    ただそこだけではないのがノーラン。
    この作品も「時間」がポイントに。
    最初に観たときはそのポイントによくついていけず
    混乱しましたが、解説を読んでその後観直して
    さすがノーラン作品だと納得。

    ノーラン作品ではありませんが、
    作品のことを違った視点でみれるきっかけになる
    ドキュメンタリー映画をご紹介。

     

    「すばらしき映画音楽たち」(2016)
    映画とは総合芸術である。
    このことを改めて思い出させてくれるのがこのドキュメンタリー。
    映画が記憶に残る上で欠かせない要素が音楽。
    ほら、ジョーズを思い浮かべてください。うんうん。
    ではスターウォーズを。うんうん。
    あのメロディが浮かびますよね。
    どちらもジョン・ウィリアムズなんですが、
    このように音楽は映画にとってとても大きな存在なんです。
    このドキュメンタリーのなかでは、
    他にも有名な方々がでてきますが、
    ノーラン作品に欠かせないハンス・ジマーももちろんでてきます。
    インターステラー、バットマンシリーズ、
    インセプション、ダンケルクとノーラン作品に
    ハンス・ジマーはセットみたいなものです。
    テネットはスケジュールの関係で参加できなかったですが。
    映画を違った側面から観る楽しみを教えてくれる作品。

    (つづきます)

    さらに深堀りしたいならこの本を!

    さらに深堀りしたい方にはこちらの本も。
    『メイキング・オブ・TENET テネット クリストファー・ノーランの制作現場』(玄光社)
    まだ映画を観てないので何ともですが、
    予告からすでにその映像の不思議さに
    興奮させられる『TENET テネット』。
    そのメイキング本が公開日に発売。
    「意味不明」といわれる『TENET テネット』を読み解く
    一冊になること間違いなし。

    『インターステラー』の中で、本棚から落ちてきた9冊の本
    映画の中で、娘の部屋の本棚から落ちてきた本にも
    実は意味がある。
    翻訳版がないものもありますが、
    ここまで読んだあなたは本物です。

    • イアン・バンクス『蜂工場』
    • T.S.エリオット『四つの四重奏』
    • スティーブン・キング『ザ・スタンド』
    • トマス・ピンチョン『重力の虹』
    • ジェーン・オースティン『エマ』
    • マデレイン・レングル『五次元世界のぼうけん』
    • ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
    • L.P.ハートレー『The Go-between』
    • エドウィン・アボット・アボット『フラットランド』

    映画とは非日常の世界に連れて行ってくれるもの。
    他の映画もそうなのですが、ノーラン作品はその最たるもので、
    それは本当に映画でしかできない体験です。
    ぜひ、可能であれば、映画館で圧倒されてほしいです!

    (長谷川さん、ありがとうございました。)

    長谷川朗さんプロフィール

    1982年北九州市生まれ。大学を卒業後、
    地元小学校での非常勤講師を経て、
    地元のヴィレッジヴァンガードにアルバイトで入社。
    小倉、新潟、高円寺で店長、マネージャーを経て、
    下北沢店の次長として現在9年目。
    仕事と並行して絵を描き、個展も定期的に行う。
    HBファイルコンペで仲條正義賞受賞。
    ほぼ日では、「小舟の先輩たちのインタビュー」
    出ていただきました。

    『TENET テネット』

    クリストファー・ノーラン監督最新作。
    「時間が逆行する」という、
    未体験の世界をリアルに描く。
    主人公のミッションは、
    人類がずっと信じ続けてきた、
    「時間のルール」から脱出すること。
    時間に隠された衝撃の秘密を解き明かし、
    第三次世界大戦を止める‥‥。
    ミッションのキーワードは「TENET(テネット)」。
    突然、巨大な任務に巻き込まれた名もなき男は、
    任務を遂行することができるのか。
    7か国を舞台に壮大なスケールで放つ
    タイムサスペンス。

    ・『TENET テネット』公式ウェブサイト
    https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/

    大ヒット公開中

    © 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved