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2025年のNHKの大河ドラマ
「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の
メインテーマ曲で指揮をされています。
大河ドラマ主題曲の指揮は「江～姫たちの戦国～」
「花燃ゆ」「真田丸」「西郷どん」
「いだてん〜東京オリムピック噺〜」
「鎌倉殿の13人」に続き、
７回目になりますね。
指揮者としては最多でしょうか？

下野

大河ドラマ64作の歴史には
そうそうたる先輩指揮者の方々がいらっしゃるので、
最多ということはないと思います。
でも、それなりに回数が多くなってきたので、
大河ドラマファンの私としてはうれしいですね。
「べらぼう」のテーマ曲「Glorious Edo」は
アメリカの作曲家ジョン・グラムさんによるもの。
初めて楽譜を見て音楽を思い浮かべたとき、
「輝かしい江戸」というタイトルどおり、
キラキラしている印象を受けました。

私はもともと社会科の教師になろうと思っていたので
歴史が好きなんです。
ただ、「べらぼう」の舞台となる、
江戸時代の八代将軍吉宗の時代から幕末の
中間あたりの時期は、
詳しくは知りませんでした。
浮世絵などの文化が爛熟していった時期だとは
わかっていたけれど、
それをジョン・グラムさんは
「キラキラと表現するんだ、なるほど〜」
と思いました。

──

海外の作曲家が大河ドラマのテーマ曲を作るのは、
珍しいですね。

下野

ジョン・グラムさんは
明智光秀が主人公の「麒麟がくる」でも
テーマ曲を手がけていますが、
外国の人が見た日本の歴史のありようが伝わってきて、
とても興味深かったです。

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実際のメインテーマの収録はいかがでしたか？　

下野

なかなか演奏難度の高い曲で‥‥。
グラムさんからも
「これは果たして演奏できるだろうか」という
心配されていました。
音符が細かく、
パッセージ（メロディの間を上り下りする音符）が
とても速い。
そこをN響（NHK交響楽団）のみなさんが
卓越した技術で軽々とクリアしたので、
グラムさんも驚いていました。
指揮した私としても、特段の苦労はなかったですね。

グラムさんがその場にいるので、
「こういうパッションをもっと出したい」とか
「もう少しなだらかな表現がいい」と
直接リクエストがあって、
それを目指して音を作っていくのはむしろ楽しかった。
収録の場に作曲家が立ち会うのは緊張もしますけれど、
安心感もありますから。

──

コンサートとは違う緊張感がありますか？

下野

コンサートでの演奏よりも難しいタスクはあります。
ドラマのタイトルバックに
「何秒目に◯◯さんの映像が出てくる」と
設定されているので、
そのタイミングに曲の変調をぴったり合わせる必要がある。
ずれないように計りながら、
全員で合わせていきました。

レコーディングではアンサンブル力や仕上げなどで、
生の演奏より、さらに高い精度が求められるので
緊張します。
でも演奏者のみなさんとキリキリしながら
音をそろえる楽しさはありますね。

──

「Glorious Edo」は三味線、箏（そう）という和楽器のほかに、
チェレスタ、ダルシマー、フィンガーシンバル、
ツィンバロンというあまり聞いたことがない
珍しい民族楽器も使ったということですが‥‥。

下野

そこは私が指揮をしていないんです。
まず私たちのオーケストラの音を録り、
その上にまるで絵を描くときに色を塗るように、
それらの楽器の演奏を重ねていきました。
私も視聴者のみなさんと同じように
第１回の放送で映像を含めた完成形を初めて見て、
おおーという感じ（笑）。
多国籍な響きになっていました。

──

この曲では、
ホルンやチェロという中低音の楽器が
重層的に壮大なメロディを奏でています。
管弦がいない吹奏楽で演奏する場合は
どの楽器が担当すればいいですか？

下野

チェロのパートはサキソフォンで演奏するのかな？
私も中学と高校では吹奏楽部でした。
毎年、だいたい新学期が始まった頃、
吹奏楽部のみなさんが
大河ドラマテーマ曲をアレンジしたものを演奏しますよね。
それが楽しみでもあります。

「Glorious Edo」は基本的に元気のいい曲だけれど、
それだけではなく、「人間の優しさ」も感じさせる
旋律だと思うので、そのあたりを意識して演奏すると、
ジョン・グラムさんもきっと喜んでくれると思いますよ。

写真提供：NHK交響楽団