
南伸坊さんと糸井重里が
あちこちを小旅行しながら、
めくるめく雑談をくりひろげる、
そこそこ人気のシリーズ、黄昏。
思えばずいぶん久しぶりの新作です。
奈良に居を移したゲージツ家、
「クマ」こと篠原勝之さんと話します。
それぞれが二十代のころから
とっくに雑談し合ってる3人、
はたしてどこまで行くのやら。
どうぞ、のんびりおつき合いください。
必然、「老いと死」についても語ります。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター
株式会社ほぼ日会長
雑談オールラウンダー。
ダジャレもシモもどんどん行く。
タコの話なども得意。
南伸坊(みなみしんぼう)
イラストレーター
エッセイスト
蓄積した雑学から雑談を展開。
さまざまなモノマネ経験あり。
タコの話なども得意。
篠原勝之(しのはらかつゆき)
ゲージツ家
作家
鉄や土の作品をつくる一方、
文筆家としても活躍し、
泉鏡花文学賞を受賞する。
過去のエピソード豊富。
- 糸井
- 歳をとるとさ、だんだんぼけたり
壊れていったりするじゃない?
そのとき、たぶん、
自分の弱いところから壊れていくんですよね。
もともと自分が弱いと思ってる考え方とか、
目をそらしているところとか。
- 南
- ああ、なるほどね。
- 篠原
- 俺はどっから壊れるかなぁ‥‥。
やっぱり、ゼニかなぁー。
- 南
- (笑)
- 糸井
- 自分のことはうすうすわかるんだけど、
たぶん、母親との関係から壊れるんですよ。
母親のこと、よく知らないから、
そこのところで過剰に何か考えてるみたいな。
- 篠原
- 糸井、みなしごじゃないよなぁ。
- 糸井
- みなしごではない(笑)。
だけど、母親はいなかったからね。
歳取ってから、ああ、こういうのが
ふつうの母と子の関係なんだなとか
理解するようになった。
だから、そこはたぶん、
ぽこーんと穴が開いてるんじゃないですかね。
- 篠原
- うーん‥‥今晩、考えよ。
どっから壊れるのかな。
- 糸井
- クマちゃんは『骨風』
(2015年に出版されたエッセイ集。
第43回泉鏡花文学賞受賞)のなかで、
しっかり自分に目を向けてたよね。
よく書けるなあと思ったよ。
- 篠原
- そうだなぁ。
これまでは絶対書かなかったことまで書いたな。
- 糸井
- そうでしょ。あれ、びっくりした。
- 篠原
- 子どものころの話とかな。
俺、嗅覚がないんだよ。
おっかさんが言ってたんだけど、
生まれて間もなく、ジフテリアにかかって、
室蘭の断崖絶壁の海の見える病院に、
おっかさんと一緒に隔離された。
それで奇跡的に生き延びたんだけど、
嗅覚と、片方の鼓膜がないんだ。
その、においがないってことをね、
このごろ、いろいろ考えるんだ。
タバコも酒も、においがわからないんだよ。
いままで味わったことがないんだ、
においというのを。
キンモクセイがいいにおいだねとか
誰かから言われると、俺も見て、
キンモクセイだなって思ってね、
「いいにおいするな」とか一応言うんだよ。
でも、ぜんぜんわかんないんだ。
- 糸井
- あーー。
- 篠原
- においがしないというより、
においってものは何なのか、
想像しかできない。
- 南
- 「においって、なんなんだ?」
っていうことなんだね。
- 篠原
- わかんないんだよ、感じたことねえわけよ。
- 糸井
- つまり、においがないぶんを
補正した人生を送ってきたんだ。
- 篠原
- そうなんだよな、たぶん。
だからな、たとえば植物があって、
「どんなにおいがするんだ?」って、
教えてもらうんだけど、
「これは何とかみたいな」って言われるんだ。
だから、においって、説明しようとしても、
「何とかみたいな」っていう
言い方しかできねえんだよ。
それがまた、癪に障るんだ。
「何とかみたい」って言われても、
それは何なんだみたいな。
においを直接説明する
ことばってものがないんだよ。
- 糸井
- ああー。
- 篠原
- 赤く見えるとか、赤いとか、
そういうんじゃないだよ。
においってのは「何とかみたい」としか
言いようがねえんだよなぁ。
- 糸井
- 補正っていうことば、
いま、たまたま口から出たけど、
みんなそれぞれに自分の弱いところを
補正してるんだと思うんですよ。
クマちゃんみたいに向き合ってないから、
自分で気づきにくいけど、
みんな、なんかで埋めてるんじゃないかなあ。
だから、自分は、たぶんそれが母なんですよ。
いなかったのを、なんかで埋めてるんだよ。
- 篠原
- ああー。
- 南
- うん、うん。
- 糸井
- 補正してるんですよ、たぶん。
べつにこれまでの日常生活に
差し支えがあったわけじゃないんだけど、
それ、ご苦労さんだったな、って、
歳を取ると思うわけ。自分に対して。
だって、母と子って、一体だったものが
生まれてるっていう関係ですから、
すごいに決まってるわけですよね。
それは、娘と、娘の娘を見てるとよく思う。
しかも、ふたりはものすごく仲がいいわけ。
そういうのを見てると、子どもにとって
母親ってこんなにすごいんだと思って。
それを、なくても俺はかまわない、
って思いながら生きてきたわけだから、
たぶん、補正している部分が
けっこう強固になってるんだよ。
- 篠原
- なるほどな。
- 糸井
- そういうことって、
きっとほかの人にもあるわけだから、
すっごくおもしろいことだなと思って。
(雑談は、浅いところでも、深いところでも)
2026-03-24-TUE
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写真・山口靖雄(MountainDonuts)
これまでの「黄昏」シリーズ
黄昏
黄昏放談
黄昏 日光・東北編
黄昏 あちこち編
黄昏 スカート編
黄昏 ブータン編






