身長166cm、体重72kgの自分を目がけて、
100kg以上の大男が集団で襲いかかってきた！
怖いです、悪夢です、逃げたくなりますよ。
でも、ラグビーワールドカップに３大会出場した
田中史朗選手にとっては、これが日常。
しかも、自分に向かってくるということは、
むしろチャンスだって捉えているんだとか。
ラグビーワールドカップフランス大会の直前に
糸井重里と話した内容を再編集してお届けします。
激闘ばかりのワールドカップが終わった今、
これから日本で、間近で、選手を応援できますよ！
田中史朗（プロラグビープレイヤー）
たなか・ふみあき。
1985年１月３日生まれ（38歳）、京都府出身。
身長166cm、体重72kg。
小学４年生の頃にラグビーと出会い、
中学校で本格的に競技を始める。
伏見工業高校、京都産業大学、
三洋電機（現パナソニック）、キヤノンを経て、
2021年よりNECグリーンロケッツ東葛に所属。
パスのスキルはもちろん、
ゲームをコントロールする能力が高く、
日本を代表するスクラムハーフ。
ラグビー界のパイオニアとして
2013年にはハイランダーズ（NZ）と契約し、
日本人初のスーパーラグビープレイヤーに。
日本代表には2008年に初選出され、
2011年、2015年、2019年と
ワールドカップに３大会連続で出場。
糸井重里がにわかファンになったきっかけ、
2015年大会の南アフリカ戦「ブライトンの奇跡」で
マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれるなど大活躍。
2019年のワールドカップ日本大会では
全５試合に出場し、
史上初のベスト８進出に大きく貢献。
大会後の記者会見やパレードでの号泣ぶりは、
にわかファンの間でも話題を呼んだ。
愛称は「ふみ」。
- 糸井
- ラグビーとちゃんと向き合うようになって、
たくさん食べて体を大きくして、
伏見稲荷で走って体力もつけたんですね。
- 田中
- それから、スーパーラグビーといって、
世界のラグビーの試合を毎日２試合見るようにして。
CS放送が家では見る環境がなかったので、
友達にビデオを録ってもらってました。
１回はゲーム全体を見て、
もう１回は細かいプレーを見るようにして、
２回ずつ見ていました。
- 糸井
- ラグビーに対して目が覚める前は、
そんなことしたいと思ってもいなかった？
- 田中
- まったく。
試合もほとんど観ていないぐらいで。
- 糸井
- 外国の試合を観て気づいたことを、
この頃ならしゃべる仲間もいたんですかね。
- 田中
- そうですね、その時には仲間もいました。
ぼくが２年生の時に出て負けた試合に、
同級生も何人かは出ていましたし、
試合に出られなくて悔しかった人もいるので。
「ぼくらの代では絶対に全国に行って、
一人ひとりがもっとすごいプレイヤーになろう」
とみんなで話していましたね。
- 糸井
- その頃なら、できると思うわけですよね。
- 田中
- 「できる」じゃなくて、
「やらないといけない」でしたね。
先輩への罪滅ぼしと恩返しの気持ちで。
- 糸井
- その負け試合は、やっぱり大きかったんだ。
- 田中
- 大きかったですね、ほんとに大きかったです。
- 糸井
- 泣きました？
- 田中
- ずっと泣いてました。家へ帰っても泣きましたし。
あの時に負けたからよかったとは言えませんが、
本当に、その試合がきっかけで変われました。
- 糸井
- 苦しさもおもしろさになっていくのかな。
- 田中
- そうですね、たのしかったです。
フィットネスの練習も、昔だったら
「わーっ、もうやめたい！」ってなっていたんです。
ただ、ぼくの能力が上がってきているので、
逆に周りが、ぼくについてくる感じになって。
それがすごくたのしかったんですよね。
- 糸井
- かっこいいなぁー！
周りは自分より大きな選手ばかりで、
田中さんを突き飛ばしていた人たちですよね。
そこから、田中さんが逆に
リードしてくるようになったわけですか。
- 田中
- そうです、はい。
ぼくの声と、走りでリードしていった感じです。
ラグビーってこんなにたのしいんだ！ って、
高校３年生でようやく知れました。
- 糸井
- この話を知ってからラグビーを観られたら、
ぜんっぜん違うと思うんですよ。
嫌々やっていた時代からの変化があって、
その延長線上に今があるわけですよね。
ある意味で、その負けは強運だったのかな。
- 田中
- 先輩方には申し訳ないですけど、はい。
- 糸井
- それを理解してくれる
同学年の仲間がいたのも、宝物ですね。
- 田中
- 今でもすごく仲がいいですよ。
ひとりだったら続かなかったので。
- 糸井
- ひとりなら変わったヤツ扱いされそうですね、
「どうしたの？ そんな真剣にやって」って。
海外の優れた選手のプレーを見て
何をやっているかを理解する目玉を養うだけでも、
だいぶ時間が掛かったわけですよね。
- 田中
- そうですね、はい。
- 糸井
- 思いもしなかったような
プレーだらけなんでしょうかね、きっと。
たとえば当時、驚いたことってありますか。
- 田中
- その、ラグビーの本質みたいなものを
正直わかっていなかったんです。
- 糸井
- 本質。
たとえば、どういうことですか。
- 田中
- ラグビーというのは人数ゲームなんですよ。
数的優位を作るのがラグビーの本質で、
それなのに高校までのぼくがやっていたのは、
相手を見ないで、ただボールを出すだけ。
そこには判断もありませんでしたし、
相手のスペースを突いたり、
数的優位を作る過程もなかったんです。
- 糸井
- 練習で相当やり込んでいても、
そんなことは考えてもいなかった。
- 田中
- ただ、投げていただけ。
ただ、しんどいことをやってただけ。
- 糸井
- 先生とかコーチは、どうだったんですか。
- 田中
- そんなに言ってくれはらなかったですね。
先生方も、ぼくがそんなに
能力がある選手だって思ってもいなくて。
普通の小っちゃい男の子って感じだったと
取材でも言ってはったので。
- 糸井
- それじゃあ、補欠みたいな人じゃないですか。
- 田中
- だからこそ、中学校の先生が、
なんでぼくに伏見工業を選ばせたのかも、
ちょっとわかっていなかった感じですね。
- 糸井
- でも、中学校の先生は、
田中さんの中に何かを見出していたのかな。
「こいつは負けず嫌いだな」とか。
- 田中
- 負けず嫌いだけは、ありました。
このサイズなので厳しかったと思いますけど。
- 糸井
- 今までいろんな選手たちに会ってきて、
自分より小柄な人っていましたか？
- 田中
- 何人かはいますけど、代表には選ばれてないですね。
日本代表では、ぼくと同じぐらいの身長で
2015年の代表だった日和佐篤選手も166cmでしたし、
今の日本代表、流大選手も166cmなんです。
- 糸井
- あっ、流さんも同じなんですか。
流さんは顔が細面だから、
ちょっと大きいのかなと思っていました。
- 田中
- そうそう、大きく見えるんです。
自分でも言ってました（笑）。
- 糸井
- 流さんは強気な感じに見えないのに、
世界を相手に戦えてますよね。
- 田中
- スクラムハーフは強気な人が多いんですよ。
優しい顔をしていますが、
ものすごい勢いでフォワードに叫んでいます。
流選手と初めて会ったのは試合で、
まだ彼のことを知らなかったんですよ。
ボールを持った時に、ちょっとからかったら
流選手から「うっさい、黙れ！」って怒られて。
でも、試合の後でちゃんと謝りにきてくれました。
- 糸井
- 田中さんと流さんって、
年齢差はけっこうあるでしょう？
- 田中
- ぼく、８個も上なんですよね。
そこからまた代表で再会してからは、
お酒を飲んだりご飯を食べたりする仲になりました。
- 糸井
- 同じポジションだったら、
教えを求められることもあるんですか。
- 田中
- 「こういう時はどうしてる？」みたいな、
お互いの思ってることを共有してましたね。
- 糸井
- おもしろいですか、そういうの。
- 田中
- たのしいですねー！
流選手だからこそできることもありますし、
ぼくだからこそできることもあります。
たとえば、キックは流選手のほうが得意ですが、
コミュニケーションの部分に関しては、
ぼくのほうが、少し得意じゃないかと思っています。
- 糸井
- 仲がいいっていうのを超えたつながりが、
やっぱりいいですね。
仕事の現場がたのしくなりますよ。
- 田中
- ほんとうに、ブラザーといいますか、
家族としていっしょにいる感覚ですね。
（つづきます）
2023-11-25-SAT
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ワールドカップで高まったラグビー熱を
今度は、国内リーグでぶつけに行きましょう！
「NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24」
で田中史朗選手の所属しているチーム
NECグリーンロケッツ東葛の
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世界を圧倒した田中選手のパスさばきを、
ぜひスタジアムで体感してみてください！