日本を代表する劇作家が「おもしろい」と思うことって、
どんなことなんだろう。
もともとどういうものごとを「おもしろい」と思って、
いまの三谷さんになったのか。
いま「おもしろい」ドラマってなんですかとか、しつこく話す。
三谷幸喜さんと糸井重里の対談を配信した
「ほぼ日の學校」の授業の一部を、読みものでご覧ください。
三谷幸喜(みたにこうき)
脚本家。
1961年7月8日、東京都生まれ。
日本大学藝術学部演劇学科卒業。
在学中の1983年に
劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成。
ほぼ同時期より放送作家としても活動を開始し、
バラエティ番組等に参加。
80年代後半より脚本を手がけた深夜ドラマが注目を集め、
以降、舞台、ドラマ、映画 と活躍の場を広げ現在に至る。
最近の主な作品は、
舞台「三谷かぶき「月光露針路日本 風雲児たち」」、
「愛と哀 しみのシャーロック・ホームズ」(2019)、
「大地」 (2020)、「日本の歴史(再 演)」(2021)、
ドラマ「黒井戸殺し」(2018)、「死との約束」(2021)、
映画「記憶 にございません!」(2019)など。
2022年から、「新選組!」(2004)、
「真田丸」(2016)に続く、3作目のNHK大河ドラマ
「鎌倉殿の13人」が放映中。
-
脇役が光る話
- 糸井
- 三谷さんは、まずは小学生のときに、
テレビを観る時間がたっぷりあって、
次々に観てたわけですよね。
- 三谷
- そうですね。
- 糸井
- そのときに憶えたものというのは、
相当大きいですか。
- 三谷
- 「すべて」と言っていいぐらいですね。
- 糸井
- 『ベン・ケーシー』とか。
- 三谷
- 『ベン・ケーシー』も大好きだった。
- 糸井
- 「男、女、誕生、死亡、そして無限」
っていうやつですよね。
- 三谷
- 『逃亡者』とか、
『インベーダー』もおもしろかった。
でも、やっぱりぼくは『コンバット!』だったですね。
- 糸井
- いま挙げたものの中で、
『コンバット』は一番「困ってる」話ですね。
- 三谷
- ぼくの好きな話は、みんな困ってますけど(笑)。
『インベーダー』も、
あんなに困った主人公はいないというぐらい
毎回逃げてましたけど。
『コンバット』は戦争もので群像劇なんで、
自分の中にフィットした感じがありましたね。
- 糸井
- 小学生時代に観たテレビに、
いま三谷さんがやってる仕事のおおもとは、
だいたい入ってますね。
- 三谷
- そうなんですよ。
ぼくはいま、3本目になる大河ドラマ
(現在放送中の『鎌倉殿の13人』)
を書いているんですけど、
ぼくの一番の問題点が、
主人公よりも脇役の方が活躍するという。
- 糸井
- (笑)
- 三谷
- やっぱり好きなんですよね。
脇役が活躍すると言うか、脇役が光る話。
これの原点は何なのかと思ったら、
赤塚不二夫さんの漫画なんですよ。
- 糸井
- ああー。
- 三谷
- 『天才バカボン』なんて、
いちおうバカボンが主人公ですけど、
おもしろいのはバカボンのパパだし、
まちに住んでるまわりの人たちだし。
『もーれつア太郎』『おそ松くん』も
イヤミや、チビ太や、ダヨーンが
おもしろくて大好きだった。
そこがぼくの書いてる大河ドラマの出発点だなと、
すごく感じるんですよ。
- 糸井
- 群像劇ばっかり観てたんですか。
- 三谷
- 群像劇だから好きだなんて、
その頃は思ってもみなかったですけど、
いま思い返すと、ぼくが好きだったのは
赤塚さんの漫画や『ゲゲゲの鬼太郎』で、
鬼太郎もやっぱり、まわりにいる群像の妖怪たち。 - あとは『ムーミン』。
ムーミン谷に住んでる
スナフキンやトロールたちが好きで、
ぜんぶ群像劇なんですよ、いま思うと。
- 糸井
- 主人公以外が活躍するのは、
別に悪いことじゃないですよね。
- 三谷
- ただ、主人公を演じる俳優さんにしてみれば、
「俺、活躍してないじゃん」
という気持ちは当然ありますから、
「いやいや、もうちょっと待ってくださいよ」
って言うしかないんですけど。
- 糸井
- 『新選組!』も『真田丸』も、
たしかにまわりの人たちが、
ものすごくおもしろいですよね。
- 三谷
- そうなんですよ。
もちろん、主人公が嫌いなわけじゃないです。
大好きなんですけど、
まわりがおもしろくなっちゃう。 - 脇役たちの「俺は主人公じゃないんだ」
っていう解き放たれた何かがあるんですよ。
自由度が。それが好きなんですかね。
『大脱走』の世界
- 糸井
- チームプレイが好きなんですかね。
- 三谷
- チームプレイの話は大好きですね。
ぼくが『大脱走』を観たのが、
小学4、5年生ぐらいのときで、
金曜ロードショーで放送されたんですけど、
のちに浦沢直樹さんにお会いしたとき、
同じことをおっしゃってました。 - ぼくと浦沢さんは同じ日に同じように、
テレビで『大脱走』を観てめちゃくちゃハマった。
こんなすごいものがあったんだと。
『大脱走』は結構長い映画なので、
テレビでは前編後編に分けて放送されたんです。 - 前編が、みんなで一所懸命掘ったトンネルが
見つかってしまうアメリカ独立記念日があって、
もう一回、一から穴を掘り直そう
となったところで、後編に続く。 - その後編までの1週間が、もうぼくは耐えられなくて。
この後どうなるんだろうかと、
自分なりの後編を考えて、毎日その夢を見て。
そのことをすごく憶えてるんですけど、
浦沢さんも同じようなことおっしゃっていて。
- 糸井
- (笑)
- 三谷
- 「あの1週間は耐えられなかった」と。
1週間経っていよいよ金曜ロードショー観て、
その後編は、ぼくらの想像を遥かに超えた話だったので、
「これはすごい」と思った。 - 主人公はスティーブ・マックイーンですけど、
たくさんの人が集まったチームの話なので、
それぞれが特技を持ち寄って、
穴を掘るのが得意な人がいたり、
書類を偽造するのが得意な人がいたり、
そういうのも大好きだった。 - その中でぼくが一番憧れたのが、
穴を掘ると砂が出るから、
砂をどうやって外に出すか考える係の人。
ぼくはその人が大好きだった。
ふつうに撒き散らすと、
ドイツ軍の看守に見つかってしまう。
彼らに見つからずにどうやるか。
- 糸井
- いい。
聞いただけでわくわくしますね。
- 三谷
- 靴下に砂を詰めて、
それをズボンの中に隠し、
外に出て歩いてるときに、
ピッと紐を引っ張ると靴下がほどけて、
砂がズボンの裾から出るんですよ。
それを足でごちょごちょとごまかすみたいな、
それをほんとにやってみたくて‥‥(笑)。
- 糸井
- やればできそうですね。
- 三谷
- それが自分ではなかなかできなくて、
『探偵ナイトスクープ』の番組に、
ぜひそれをやってみたいと言って、
依頼人で出させていただきました。 - 同じような装置を作っていただいて、
それをズボンの中に忍ばせて、
大阪のどこかの公園に行って、
おばちゃん達がしゃべってるところに紛れて、
話を聞きながらそーっと砂を撒くのやったんですけど、
みんなから「あんた砂出てるわよ」って言われて。
- 糸井
- 指摘されちゃうんだ。
- 三谷
- すぐ指摘されましたけど、それぐらい好きなんです。
- 糸井
- 好きですねぇ、それは。
- 三谷
- ぼくが大学に入って初めて、
先輩の劇団を手伝うことになって、
お芝居に一から付き合って、
稽古からスタッフとして参加して、
本番を迎えたときに、これは何かに似てると思って、
それが『大脱走』の世界だったんですよ。
- 糸井
- 劇団そのものが。
- 三谷
- 本番中に舞台のセットの裏で控えてるときの
わくわく感みたいなものが、
「これ脱走する夜と一緒だ」みたいに感じた。 - 小学生のときからずーっと、
あんなふうになりたいと思ってたけど、
どうすればいいかわからない。
自分の人生で脱走することなんてあるんだろうか
と、ずーっと思ってたんですけど。
- 糸井
- (笑)
- 三谷
- 脱走はないにしても、
同じような体験をいまここでぼくはしてる、
と思ったのが、
この演劇という世界でやってこうと
思ったきっかけでもあって、
『大脱走』は本当に
ぼくにとって大事な映画なんですね。
- 糸井
- 芝居の劇団も、たしかに群像劇ですね。
- 三谷
- そうなんですよ。
群像劇で、なおかつ
それぞれがいろんな特技を持っている。
それが一つに集まって何かを成し遂げる
というのが好きなんですよね。
- 糸井
- それはぼくも好きですね。
- 三谷
- 「必殺シリーズ」とか大好きだった。
- 糸井
- 『サイボーグ009』も。
- 三谷
- そうですよね(笑)。
あれもすばらしい。
群像劇が好き
- 三谷
- でも、もっと深く考えていくと、
なぜそれが好きなのか、
まだわかんないんですよね。
- 糸井
- 「すばらしい分業」っていうのが、
ぼくはわりと好きです。
- 三谷
- 分業が好き‥‥。
分業がおもしろいのかな。
- 糸井
- ほかに取り柄はないけれど、
「これはできる」っていうものがある。
- 三谷
- ああ、そうですねぇ。
- 糸井
- 足すと力を発揮するみたいな。
- 三谷
- それぞれは一人では生きていけない人たち。
「砂をどうやって撒くか」
みたいなことしか思いつかない人って、
かなり普通の人生を歩むのは大変だと思うんですけど。
- 糸井
- (笑)
- 三谷
- そういう欠点だらけの人たちでも、
集まると何か完璧なものができる。
そこにおもしろみを感じるんでしょうね。
- 糸井
- トータルにぜんぶできるタイプの人が
集まってるチームというのは、
あんまり贔屓しなくなりますよね。 - いまスポーツって、
アスリートになっちゃったじゃないですか。
何でもできるやつが集まるみたいな。
でも、むかしは腹の出てるやつが活躍できた。
- 三谷
- 『スパイ大作戦』も大好きでした。
変装の名人がいたり、
バーニーという機械専門の男がいたり、
一人なんでいるのかわかんない男がいて、
その男の特技は「力持ち」だったんですよね。
でも、力持ちが力を発揮できる瞬間は、
普段なかなかないので、
そんなに活躍してなかったんですけど、
いざという時に、ものすごい力を発揮する、
というので、そいつが途中から大好きになって。
セリフなんかほとんどないんですけどね。 - トム・クルーズが、
『スパイ大作戦』をドラマから
『ミッション:インポッシブル』
という映画にしたときに、
チーム戦じゃなくなっちゃったんです。
- 糸井
- ああー。
- 三谷
- まだ『1』は、その気配があったんですけど、
『2』からはトム・クルーズがぜんぶ一人で背負って、
かっこよくなっちゃったんで、ぼくは、
こんなのは『ミッション:インポッシブル』じゃない
と言って観てない。
‥‥観てないというのは嘘ですけども。
観て、毎回残念に思います。
- 糸井
- 一人に負うものが多くなっていくんですね。
- 三谷
- スーパースターになっちゃうんですよ。
- 糸井
- その意味では、
団体競技も、みんな群像劇ですよね。
- 三谷
- 不思議なのは、
ぼくは「集団もの」が大好きなくせに、
ぼく本人は、ものすごく個人的な人間なんですよ。
- 糸井
- そっか(笑)。
- 三谷
- 大嫌いなんですよ、集団が。
これは不思議なんですけど。
- 糸井
- どっちなんですかね。
- 三谷
- 何なんですかね。
打ち上げとか、もう‥‥。
- 糸井
- 出ないんですよね。
- 三谷
- むかし劇団で打ち上げやったとき、
二次会は百メートルぐらい離れた
別のお店に行きましょうと、
みんなで歩いて行くことになった。
ぼくはそれが大嫌いだった。
だから、わざと、
ちょっと用事があるんでと一回いなくなって、
30分ぐらいして二次会の店に行く
という小技を使うぐらい、
みんなで移動するのが嫌だった。
なのに、群像劇が好き。
到着するまでがおもしろい
- 糸井
- その「お店の移動の間」って、
脚本家なら書かない部分ですよね。
- 三谷
- それが(笑)
ふつう書かないんですけど、ぼくは書くんですよ。
ずっと映画で美術を担当してくださっていた
種田陽平さんに指摘されたことがあって、
「三谷さんの台本の特徴は移動だね」
「必ず廊下のシーンが出てくる」と。
- 糸井
- ほう。
- 三谷
- 移動の間に何か起こったり、
まぁ起こらない場合もあるんですけど、
A地点からB地点に行く時に、
映画だったら、ふつうポンと行けるんだけど、
途中、移動するシーンが必ずあると言われて。
あ、そう言えばそうだなと。
なんか移動が好きなんですね。
- 糸井
- 『新選組!』で東から京都に行く間って、
長かったですよねぇ。
- 三谷
- (笑)
あそこふつう飛ばすとこですから。
- 糸井
- めっちゃくちゃ長くて、
しかも焚き火したり、おもしろかったですよね。
- 三谷
- そこにおもしろさがあって、
到着するまでがおもしろいんですよ。
- 糸井
- よくぼくは仕事の段取り中で、
「道と駅」という言い方をして、
「ここは駅じゃなくて道だから、道の仕事をする」
という言い方をするんだけど、
三谷さんのドラマは、
ものすごい「道と駅」「道と駅」ですね。
- 三谷
- そうなんです。
道が好きなんですよ。
いま書いてる大河ドラマ
『鎌倉殿の13人』でもそうですけど、
プロデューサーとの台本の打ち合わせのときに、
「ここをカットしていいですか」と、
だいたい言われるんですよね。
- 糸井
- (笑)
- 三谷
- もちろん分かるんですよ。
セットとしては大変なんですよね。
移動すると長い距離があるから、
長いセットを作んなきゃいけない。
予算のことを考えると、
カットしたいのも分かるんですけど、
そこは抵抗しますね。
ここは大事なんで。
たしかになくてもいいんだけど、
この移動してる感じ、
この時間が必要なんですよ。
- 糸井
- 道というのは言ってみれば、
結論に関係ない場所ですよね。
- 三谷
- そうですよね。
- 糸井
- 結論を出してない場所ですよね。
- 三谷
- すごい不安定な感じですよね。
だからおもしろいのかな‥‥。
- 糸井
- ぜんぶそうですね。
三谷さんの作品。
- 糸井
- ぼくも種田さんに言われるまでは、
気が付かなかった。 - 一つ、舞台をやってる人間として思うのは、
舞台では移動のシーンを作るの
なかなか難しいんですよ。
セットが一つだったりするので。
だから、その反動で、映像のときは、
移動シーンを作りたくなるのかなと
ちょっと思いましたけど。 - でも、ぼく自身は旅が嫌いなんです。
旅行なんて大嫌いですね。
どっかに行くというのは。
- 糸井
- 行けば行ったで、
楽しくなるところはないですか。
- 三谷
- ‥‥ないですね。
場所に慣れるのにものすごく時間がかかるので、
慣れるといろいろ楽しみを見つけることが
できるのかもしれないですけど、
どっか行って何かを見て、またどっかへ移動して、
みたいなことすごく苦手で。
- 糸井
- 道そのものじゃないですかね。
- 三谷
- ほんと人間って難しいものですよね。
「自分」と「書くもの」ってイコールじゃない。
三谷幸喜さんの授業のすべては、
「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。
「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
授業(動画)の視聴はスマートフォンアプリ
もしくはWEBサイトから。
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