USBメモリやマイナスイオンドライヤーなどを開発し、
現在は世界中の企業の「問題解決」を仕事にする、
ビジネスデザイナーの濱口秀司さん。
これまで、1000を超えるプロジェクトに関わってきました。

世界中の経営者が助けを求める問題解決のプロに聞く
「学びのコツ」とは?
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業の一部を
読みものでご覧ください。

>濱口秀司さんプロフィール

濱口秀司(はまぐちひでし)

ビジネスデザイナー。
京都大学卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。
研究開発に従事したのち
全社戦略投資案件の意思決定分析担当となる。
1993年、企業内イントラネットを考案・構築。
98年から米国のデザインコンサルティング会社、
Zibaに参画。
99年、USBフラッシュメモリのコンセプトを立案。
2009年に戦略ディレクターとして
Zibaにリジョイン(現在はエグゼクティブ・フェロー)。
2014年、ビジネスデザイン会社monogotoを
ポートランドに創設。

  • 「学び」にはコツがある。

    話す前に言っておきますが、
    今日のぼくは、けっこう弱いです。

    なぜかと言うと、
    イノベーションとか、新しいことを作ったり、
    事業戦略、商品のこと、マーケティングのことは、
    いつもしゃべってることなので、すごく話しやすいんです。

    だけど、今回は『学び』というテーマで話します。
    たぶん、ぼくにとって史上最高に難しい。

    それでも、今日のためにいろいろ考えてきましたので、
    それを皆さんにお話したいと思っております。

    考えている講義のテーマは「学びのコツ」です。
    「学びにはコツがある」というお話をしようと思ってます。

    『学び』にはいろんなタイプがありますよね。
    子どもの頃は、親から学んだり
    小学校に入ったら、先生から学んだり
    友だちから学んだり、大学教授から学んだり
    大先輩や、後輩からも学んだり。

    そんなふうに、人から学ぶこともあれば
    本を読んで学んだり、メディアを見て学んだり
    もしくは自分の体験から学んだり。

    『学び』は、3分で終わることもあれば、
    30分、3時間、3年間、30年間かかることもあって。

    とにかく『学び』といってもいろんなものがあって、
    すごく難しいものだと理解してます。

    世の中にある、いろんなノウハウだとか
    コツの話をざっと見てみたんですが、
    学校での勉強のし方について、
    いい成績をとったり、高校や大学に入ったり、
    ということに対する勉強方法はたくさん書かれています。

    だけど、試験がない世界に入った時に、
    「どうやって学んだらいいのか」っていうのは
    あまり見つからなかった。

    理解する方法とか、知識を吸収する方法などは
    書かれてるんですが、
    ちゃんと「学びのコツ」みたいなものが、
    どうも書かれてないし、見つからないので、
    今日はぼくの経験から、その辺りをしゃべろうと思います。

    ですから、この話を聞いたからといって、
    学校のテストの成績が良くなる、なんてことはありません。

    「試験がない世界で、どうやって学んでいくのか」
    というお話をします。

     

    「学び」が得意か苦手か?

    ちょっと自分の胸に手を当てて、
    「学ぶのが得意かどうか」考えてみてください。

    みなさんの答えは3つのカテゴリーに
    分けられると思います。

    「うんうん、私は学ぶのは得意だぞ」という人がいて
    「いや、昔から学ぶのは得意じゃないね」という人もいる。
    その重なりの真ん中辺りで
    「時々うまくいったりするけどどっちか分かんないや」
    という人も。

    その3種類があると思います。
    自分がどこに所属してるのか考えてみてください。

    ぼくはどこに所属してるかというと、
    明らかに苦手です。

    「この人、学ぶの得意じゃねえか?」と
    よく誤解されるんですけど。
    それは本当に大きな誤解で、
    ぼくは学ぶのがむちゃくちゃ苦手です。

    たとえばエピソードでいうと、
    幼稚園の頃、親の仕事の関係でアメリカに行ったんです。

    その頃、ESL(English for second language)というのがあって、
    英語を第2言語として学ぶ人のための
    教室に入れられました。

    だけど、教室にいる先生も生徒も
    日本語はしゃべれないので、
    ESLの授業はずっと英語なんです。

    そんなのわかるわけもないし、
    ぼくは学習能力がめちゃめちゃ低いので、
    もう笑ってるだけですよね。

    小学校1年のときに、運動会があったんです。
    運動会がどうなっていて、どこに集まって、
    どういう競技があるのか、先生が説明して。
    みんな「はーい」って、動くんですけど、
    ぼくには、まったく何を言ってるのかわからなかった。

    システムを理解して学んだり、
    たくさんのことを一度に理解するのが苦手なので、
    とにかく笑いながら、友だちの後ろをついていく。
    そしたら、出る予定だった「かけっこ」は終わっていて、
    間に合わなかったぼくは欠場、なんてことがありました。

    学ぶこととか、覚えることが本当に苦手で、
    そんなことが、ずっと続きました。

    「どうして、みんな賢いんだろう?」
    「なんでこんな難しい仕組みが理解できるんだろう?」
    「先生から言われたことが、なんで一瞬でわかるんだ?」
    小学校から中学、高校と、ずっと思ってきました。
    大学に入っても、
    「なんで、みんなこんな講義がわかるんだろう?」と。
    謎の人物たちを、ずっと見続けてるって感じでした。

    だから、その3つのカテゴリーでいうと
    ぼくは「学びが苦手だ」というカテゴリーに入ってます。

     

    苦手な人の「学びのコツ」。

    「学びが苦手」なカテゴリーのくせして、
    なんで今日ここで話をするのか。

    学校の試験はダメだったんですけど、
    社会人になってからは、
    業務上パフォーマンスを出さないといけないし、
    いろんな業界の仕事をする中で
    クライアントさんから学んだり、
    いろんなディスカッションの中から学んでいます。

    意外とそういう、試験がないところでの『学び』は、
    「強いのかなぁ」と思い始めました。
    ちょっと勘違いかもしれないですけど(笑)。
    今日は、そんな話をしたいなと思ってます。

    もう1回胸に手を当てていただいて、
    学びが「得意」か「不得意」か、
    あるいは「どっちかわかんないな」の
    どれに当てはまるか考えてみてください。

    得意だと心から思ってる方は、
    本当はこれからの話は必要ありません。

    なんでかというと、ちゃんと生まれながらにして得意で、
    もしくは得意な方法を持っているということで、
    野球でいうと、素晴らしい才能と
    素晴らしいフォームを持ってるわけです。

    ここでぼくが変なことを言って
    そのフォームが崩れたり、不得意になったら
    本当に申し訳ないです。

    胸に手を当てて、「むっちゃ得意やし!」と思ってる人は
    出ていった方がいいかなと思います。

    …と言いつつ、出ていっちゃう人がいたら
    「どうしようかな」と思ってたんですけど(笑)。
    大丈夫ですか?

     

    「学ばない」で「教える」。

    前置きが長くなりました。
    結論からお話ししたいと思います。

    『学び』というのは、先ほど申し上げたように
    人から学んだり、本を読んだり、ビデオを見たり、
    セミナーに行ったり、何かプロジェクトをやったり、
    チームで話をしたり、いろんな場があります。
    人生から学ぶものもあります。

    『学び』の最大のコツ。
    多分、今日お伝えしたいのはこの1個だけです。

    重要なことは「学ばない」ってことです。
    学ばない。

    「学ばない」なら、どうするのか。
    あとで詳しく説明しますけど、
    ちっぽけな自分がいるとした時に
    その「ちっちゃな自分に教える」っていうのがコツです。

    「学ぶ」っていうと、イメージとして受け身で
    「学ぶのだ!」って言われてる感じがするんですが、
    そうじゃないんです。
    もうちょっと能動的に「教えてやるのだ!」みたいな感じ。

    それから、「学ぶ」には「ダウンロードする」
    みたいなイメージがあるんですけど、
    そうではなくて「アップロードしてやる」 という感じ。

    「受け身」ではなくて「攻め」、
    「受動的」でなくて「能動的」。
    そういう発想の転換が重要なのかな、と思ってます。

    繰り返しになりますが、
    「学ばない」と思った方がいいです。
    むしろ「教えてやるんだ!」と。

    ただし、教える対象は横っちょにいる、「ちっぽけな自分」。
    そういう自分のミニチュアみたいな者がいると想像して、
    その人物に教える、ということをやれば、
    学ぶスピード、学ぶ深度、そして学びの結合性は、
    飛躍的に高まると考えています。

     

    「ちっぽけな自分」とは?

    では「ちっぽけな自分」とは何なのか。
    「ちっぽけ」って何か。

    ぼくはどう想像しているかというと、
    「むちゃくちゃ出来の悪いやつ」と思ってます。
    「ダメなやつ」です。

    このダメなやつには2つ特徴があって、
    まず1個目は、理解力が極端に低い。

    自分でも本当にそう思ってるんです。
    小学校の頃の体験から、自分のことを
    「こいつは、バカだ」と思ってるんです。
    理解力がむちゃくちゃ低い、それから物覚えが悪い、
    そんなやつがいると思ってください。

    ただ もう1個特徴があって、
    本当に理解力が低くて、物覚えが悪いやつなんだけれども、
    ちょっとかわいげがあって個性がある。
    「こいつダメなんだけど 、まあ面白いやつだな」
    という、ちょっとした個性がある。

    じゃあ、そういうやつにどう教えたらいいか。

    まず1個目。
    理解力が低くて物覚えが悪い相手に、
    すごくたくさんのことを一度に言っても
    絶対に覚えられないですよね。
    では、どうしたらいいか?
    情報量を極端に減らさないといけないんです。

    たとえば、あるセミナーに参加した時、
    もしくは、ある本を読んだ時。
    いいことがいっぱい書いてあったから
    「全部を伝えよう」と思っても、
    ちっぽけな自分はキャパシティが小さいから、
    それは諦めた方がいいです。

    そうすると、『たったひとつ』の重要なこと。
    もしくは、『たったひとつ』の面白いこと。
    もしくは、『たったひとつ』の知っておいた方がいいこと。
    それを見つけ出すことが、むちゃくちゃ重要になります。

    これってちょっと面白い行為で、
    たとえば、みなさんは今
    ぼくの話を聞いてるじゃないですか。
    「ああ、何か言ってるぞ」って聞いてるんですけども、
    それが少し能動的になります。

    ちっぽけな自分に教えるとなると、
    ぼくがしゃべってる内容の中で
    『たったひとつ』の何か重要な情報を見つけ出す、
    ということをしなくちゃいけなくなる。
    獲物を探さないといけないんです。

    『ひとつ』しか選べないとしたら、
    「何を伝えればいいかな?」という感じで
    ずっと内容を見ていかないといけないので、
    すごく能動的に、目の前のものを見ることになります。

    すばらしい本を読んでいると、
    「いいこといっぱい書いてある。
    ここもいいな、ここもいいな」って
    マーカーで線を引いていくんですが、
    それを全部伝えることは、絶対に無理。
    だから、その中で『ひとつ』に集中しなきゃいけない。

    その『ひとつ』は何なのかを考えて
    選んであげるということになります。

     

    「たったひとつ」を、工夫して伝える。

    次に意識するのが、
    そのちっぽけな自分は個性的だということ。

    『ひとつ』を見つけて「さあ、どうだ!」と言って
    すぐ伝わればいいんですけど。
    その子は個性的なので、
    たった一言の文章を言ってあげたら、
    「おお!」とわかる子かもしれないし、
    10行ぐらいの物語で書いてあげたら
    「おお!」と思う子かもしれないんです。

    たとえばぼくだったら、文章よりも記号で書いてあって、
    「これがこうなっているのだ」という風に見せられると
    「おお!」と思う子だし、
    別の子だと、絵を見せられたほうが反応するかもしれない。
    もしかすると、ちょっとだけ複雑な、
    小さなシステムを見せてあげたら
    「これはこうなって、こうなってるから、
    こうなのだ!」とわかる子かもしれない。

    これは、みなさんの中にいる小っちゃな自分なので、
    その個性をちゃんと見てあげるしかないんです。
    そこをちゃんと見極めて、ターゲットとした1個、
    『たったひとつのもの』をシンプルに伝えてあげる。
    そのときにちょっとだけ、それぞれの
    「ちっちゃな自分」の個性に合わせて工夫をしてあげる。
    それが、2番目の重要なポイントです。

    たとえば、社会人になったとき、
    本をいっぱい読めと言われるんだけど、
    ちゃんと読めないんですよ。面倒くさくて。

    時間使ってしっかり読んでも、
    内容が何も頭に入らなかったら困るから、
    本の中で、どこでもいいからバーっと読んでみて、
    「自分がいいな」と思うところを探していく。

    この本の背表紙にひとつ「この本の中身はこうなのだ!」
    とタイトルをつけるとしたら、それは何なのか?
    本の内容をものすごく煮詰めた状態のものを、
    自分の頭の中で決めることにしました。

    そうすると、その本をそれぞれ見た時に、
    「この本で言いたかったことは、こう」
    「この本で面白かったことは、こう」って
    頭の中ですごくコンパクトにまとまってるので、
    忘れることもないし、すぐ思い出せる。

    ただし、その他の内容はまったく覚えてない、
    というモードになります。

    たとえば本を読んで5年ぐらい経って、
    「ああ、いい本だったね」みたいなことは
    覚えてるかもしれないけど、
    「何だったっけ?」と言ってる人と、
    「それはこうである」と覚えてる人では、
    どっちがその本の価値を握ってるか。
    これは難しい議論なんですけど、
    ぼくは「1個でも残ってるほうがいい」と思っています。

    ちっぽけな自分は、脳のキャパシティも小さいので
    たくさん覚えられないけれども、
    そのキャパの範囲の中で、
    1個ずつ覚えてるということで許してあげる。

    たとえば、今まで世界中でやってきた
    プロジェクトの数は、多分1000を超えてるんですけど、
    「このプロジェクト何だったっけ?」というのを
    ぼくはむちゃくちゃ覚えてます。

    どう覚えてるかというと、
    「このプロジェクトの結論はこう」
    「面白かったことはこう」「ロジックはこう」っていう。
    それぐらいしか覚えてないんですけど、
    それを思い出すとなんとなく紐解けていけるので、
    そういう理解の仕方、覚え方をしています。

    繰り返しになるんですけれども、
    受動的にたくさんのものを学ぶのではなくて、
    ちっぽけな自分に教えてあげるために
    『たったひとつのこと』を選ぶ。
    『たったひとつ』を選んで、ちっぽけな自分に合うように
    チューンして渡してあげる。

    これが、今日伝えたかったところです。
    本当にここだけです。伝えたいのは。


    濱口秀司さんの授業のすべては、
    「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。

    「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
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