ずっとおもしろい芸人で、
ずっとすごいプロデューサーとも言える活躍をしてきた
笑福亭鶴瓶さんが、なにを大事にしてきたのか。
50歳で落語に挑戦し、たくさんの人を笑顔にしている
鶴瓶さんに、「おもしろい」について
「ほぼ日の學校」で話していただきました。
この授業自体が芸になっていて、
しかも本音で本当を語る時間です。

糸井の質問に鶴瓶さんが答えるかたちで進んだ
終盤のお話を、一部読みものでご覧ください。

>笑福亭鶴瓶さんプロフィール

笑福亭鶴瓶(しょうふくていつるべ)

落語家。
1951年12月23日生まれ。70歳。
本名は駿河学(するがまなぶ)。
昭和47年2月14日、六代目笑福亭松鶴に弟子入りし、
昭和47年上方落語協会会員として登録。
落語家、タレント、俳優、司会者、
ラジオパーソナリティなど、
さまざまな分野の第一線で活躍中。


  • 「笑福亭鶴瓶」であり続けられた理由

    糸井
    鶴瓶さんが今まで
    「鶴瓶」であり続けられた理由は、努力ですか?
    鶴瓶
    努力というか楽しみですよね。
    この世界におったから
    いろんなことができるんです。
    こんなふうに「ほぼ日の學校」に来て
    しゃべれるというのも楽しいし。
    ここに来たいと思うても来れない人いますよね。
    この人(糸井)が判断しないと出られんのやから。
    こんな偏固いませんよね(笑)。
    うどん屋のおっちゃんにも
    ほぼ日の學校に出てもらおうと思ってんからね、
    すごいですよ。
    そういう意味では、自分のひらめきですよ。
    「この人!」と思った人というか。
    だからここに呼んでもらうことが
    嬉しいというのはあります。
    何してええのかわからへんけど。
    僕でよかったら喋るわっていう。
    糸井
    運ってどう思いますか?
    さっき縁は努力だと言っていたけれど。
    鶴瓶
    運はね、みんな当たり前のように
    「運使うてしもた」とか言うやん。
    それは絶対違う。
    運は、ひとつ出てきたら
    石油のように湧いて出ると思うんですよ。
    「運は使うた」という言葉を一切使わない。
    「うわ、こんなええことあったやん。
    これどんどん出てくるで」と、
    運は油のように出てくると思う。
    「棚からぼた餅」って言っても、
    ぼた餅の落ちるところまで努力しないとあかんよ。
    何でも落ちてくるわけやない。
    いかにそのぼた餅の落ちるところにおれるかどうかよ。
    それが努力やと思うね。
    誰でも1回ぐらいは来るよ。
    でも誰もがそこに来るということは、
    あり得ないと思うね。
    自分の中でこうであった方がいいな、
    こうした方がええなとやっていると
    そこに来るんじゃないかなとね。
    糸井
    先日社内の人たちと喋っていて、
    大体の人が
    運か、人の助けか、試すことか、
    3つぐらいのことしかやってないからと言ったら、
    「自分でできるのは試すことだけですね」
    と言っていて、なるほどと思って。
    鶴瓶さんの話を聞いていても、
    試してばっかりいますよね。
    質問もしているし。
    鶴瓶
    まくらひくこさん、マスカットさん、
    ミスターXさんもそうですけど、
    本当に自分がそう聞こえたから
    そう言おうとするところに
    何かが生まれると。

    ※まくらひくこさん、マスカットさん、
    ミスターXさんは、授業の前半で紹介された
    鶴瓶さんが聞き間違えをした名前です。
    生まれるために行くんじゃないねんけど、
    「本当に疑問に思ったら絶対に聞く」
    ことはすごく大事やと思うね。

    忙しい人には時間がある。暇な人には時間がない。

    糸井
    鶴瓶さんは「後でやろう」と思ってないみたいですね。
    鶴瓶
    全然。
    よう見てはるやろうけど、「今」ですよ。
    今せなあかんことですね。
    ある方が僕に言ったんですよ、
    「忙しいのに『閉鎖病棟』(映画)に
    よう出てくれはりましたなぁ」って。
    そしたら帚木蓬生さんが、
    「忙しい人には時間がある。暇な人には時間がない。
    鶴瓶さんは本当に時間をうまく使いますね」
    って言ったんです。

    ※小説家・帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)さん
    『閉鎖病棟』などを執筆。
    ええ言葉やな思って。
    今しないとあかんことは今する。
    その代わり、こんなんやからいろいろ来ますよ。
    本の帯を書かなあかんとかね、
    でもすぐ書きますよ。
    「あれいつ書こう」とかじゃない。
    来たら「よっしゃわかった」とすぐ書く。
    これは自分に対しての枷ですよね。
    ここが一番大事なのは、
    あんまり忙しかったら
    心の中で「順番に順番に」っていつも言うんですよ。
    物事を横に並べる人、多いんですよ。
    「あれせなあかん、これせなあかん」って、
    そんなもの無理です。
    順番に並べるんですよ。
    糸井さんはそれをわかっているやろうけど、
    「これ終わった、これ終わった」
    と、順番にやっていくことが大切です。
    忙しいときは「順番に順番に」と、
    今でも思いますよね。
    糸井
    縦に並ばないものは適当に散らばしておくと、
    手に取ったり出来るから。
    鶴瓶
    とっ散らかってしまうじゃないですか。
    「これやって、あれやって」って。
    その代わり、その中に絶対ひとつ
    遊びも入れとかなあかんのですよ。
    ずっと仕事ばっかりじゃなくて。
    明日うちの奥さんとゴルフに行くんですけど、
    必ず朝早く起きて行かないかんのです。
    けど、それは至福のときっていうか。
    そういうものをひとつ入れると、
    自分自身がリセットできるっていうかね。
    すごい大事ですよね。

    ドキュメンタリー出演の大計画

    糸井
    そんな鶴瓶さんでも、
    「これは骨が折れるぞ」みたいなことを
    考えることあるんですか?
    鶴瓶
    これは骨が折れる...
    糸井
    大変な大計画みたいなこと、あるんですか?
    いつも、いかにもすぐできそうに考えていますよね。
    鶴瓶
    ドキュメンタリーに出たんですけど、
    僕、別にドキュメンタリーを撮るためにやってないから、
    撮影する人が来たときに
    「お前絶対それ流すなよ。死んでから流したらいいから」
    って言うて。
    「死んでからやったら何に使ってもいいけど、
    今何かしようと思って撮りに来てんねやったら
    もうさせへんで。知らんでそれ」って。

    ※ドキュメンタリー映画『バケモン』
    表舞台から楽屋裏まで、鶴瓶さんを17年間撮影。
    コロナ禍で窮地に立たされている映画館に
    無償で提供する目的で製作され、
    入場料はすべて映画館の収益になります。
    でも映画業界って、
    だんだん疲弊していっているところがあって。
    うちの社長が「(映画のために)何かできひんか?」
    と言って、決まったんですよ。
    「あれをドキュメンタリーにしたらどうや?」と。
    お金とらんでミニシアターなどにあげて、
    値段はその人たちが決めていい。
    すぐに映画がいらん人は保管しといたらええから、
    いつでも出したいときに出したらええやないか
    ということになって。
    「それええな」って言うてOKしたんですよ。
    その時はそうなったから、やるんであって。
    17年間ドキュメンタリーを撮っていると、
    観たときにすごい重みがあるなって。
    『ディア・ドクター』でお世話になった
    映画館にお渡しして、
    「自由に使ってください」というのをやろうと思って。
    糸井
    大計画だけど、
    自分のプランではないですね。
    鶴瓶
    そう。
    ただ、学校の先生とか僕のまわりの人が
    そのドキュメンタリーに出ているわけですよ。
    その人たちが画面に流れることは、
    全部ちゃんと言っといてくれよってスタッフに頼んで
    手紙をみんなに書きよったんですよ。
    うちの兄弟子とかみんなに
    「出てるから」と手紙を書いて渡したんですけど。
    そのなかに、
    ちょっと勘違いして電話がかかってくるんです。
    80なんぼの僕の恩師が、
    「駿河!お前映画やんのか?」言うから
    「はい」
    「俺出んのか?」
    「いや、すみません」って言うと、
    「俺先生役か?」って。
    いやいや違う…
    こっからがややこしいねん。
    「なんですか?」って
    「先生役やろ?俺そんなできるかな」
    「いや、もうやってます」と返すと、
    「俺やってんの?」
    「いややってんちゃう、ドキュメンタリーですから」
    って、何べん言うてもわからへん。
    「いつやねんそれやんの?」
    「いや、やらないんですもうやってるんです」
    「やってんの?」
    「やってんのて、もう撮ってますから」
    「いつ撮ってん?」
    「この間先生が来はったときにもう撮ってますやんか」
    「それは俺、先生役としてか?」
    って長いことかかったよ(笑)。
    そういう手間はありますけど、
    おもろいなとは思いますよね。
    大計画で何かするときは、僕は喋ったらいいだけ。
    スタッフはそれをまとめたらいいっていう。
    スタッフの方が大変やと思いますよ。

    おもろいことは妥協しない

    糸井
    いろんな番組で、
    「今度はこうやるああやる」
    「あいつとこうやってみたい」っていうようなことを、
    鶴瓶さんは軽く「それはおもしろいな」
    と思って言うんだよね。
    鶴瓶
    そうそう。
    例えば『スジナシ』なんかそうじゃないですか。
    名古屋でやっていた番組です。

    ※『スジナシ』
    鶴瓶さんとゲストが台本ナシ・打ち合わせナシ・NGナシで
    「即興ドラマ」を演じる。
    「若者にウケるやつをやってほしい」
    と最初は言われたけど、全然おもろないんですよ。
    若い人と一緒に何かやることがおもろい
    っていう発想やったから、
    「僕がおもろいと思うものを提供しないと、
    向こうは乗ってけえへんよ」と言ったんです。
    「じゃあそれは何なの?」って言うから、
    『スジナシ』という番組をやりだしたわけですよ。
    僕はインタビューという演技をするから、
    向こう(ゲスト)がひとつずつ設定を決めて、
    それを撮るという形でやって。
    それでやりだして長いこと続いたけど、
    この業界はやっぱりお金がなくなってきていて、
    「(お金が)もうない」って言われたんです。
    そうするとTBSの伊與田さんという
    プロデューサーがこの番組が好きで、
    「どうにかして(東京に)持ってこれないか」と言うんで、
    その名古屋の同じCBC系列からTBSに持ってきたんですよ。
    伊與田さんは『半沢直樹』をやっていた人だから
    TBSは「伊與田の言うことなら」となるんでしょうね。
    それで今もずっと続いている。
    僕があれをやろうとか言ってないですよ。
    いいように回っているというか。
    糸井
    最初の一点の、点になりたいタイプの
    動きをするんですね。
    鶴瓶
    いろんな人が勝手に寄ってくるように
    なってくるんでしょう。
    この歳になったら、
    そんな嫌な人は寄って来うへんからね。
    わかった人がやってくるっていうか。
    そうなるでしょ?どうしても。
    糸井
    「自分でできることは少ない」ってわかってからの方が、
    おもしろいですね 。
    鶴瓶
    点をポーンと向こうに出すと、
    できあがってるって言うか。
    「それおもろいやないか」という。
    違うときもあったんですけど、
    「そこ違うよ」と、すぐに言います。
    ちょっとおかしくなると
    変なところに行ってしまいますからね。
    糸井
    そのしつこさもありますね。
    鶴瓶
    なんべんも電話入れますよ。
    「そこちゃうからな」って。
    糸井
    飽きっぽさとしつこさと、両方ですね。

    鶴瓶さんのようにおもしろくなるには?

    糸井
    (鶴瓶さんへの質問を)僕じゃない人から…
    女性
    鶴瓶さんのおもしろい遺伝子を
    何かひとつ受け継いで帰りたいなと。
    鶴瓶
    一番難しいよなあ。
    みんな性格が違うからね。
    ある時「本を出してくれ」と言われたんですけど、
    僕本を出すのが嫌やから
    「出さない」って言ったんです。
    でも、タモリさんと
    一緒にやっているフジテレビの番組のコーナーで、
    本を出すことになりました。
    「まあそれやったらしゃあないわ」って…
    「こんな経験あった」とか
    「こんなおもろいことがあった」っていうのを、
    本にしたいって言わはったんですよ。
    でも、その人は根本的におもろさを
    わかってないんですよ。
    そういう人っておるやんか。
    別に悪いわけやないのよ。
    僕とタモリさんがめっちゃ笑ろうてるのに、
    全然笑わんと、ずっと書いてはるんですよね。
    それがおもろい。
    糸井
    それがおもしろい(笑)。
    鶴瓶
    「ちょっと待って」と言うて
    「これはどれがおもろいかわかるの?」
    「ちょっと喋って」って言うたら、
    「ここですか」って全然違うことを言わはった。
    「あそうですか」って返して。
    「それは違う」とは言わないからね。
    「あぁそうかそうか」言うて。
    本ができあがったんやけど、
    全然かすってばっかりなんですよ。
    それもおもろいやん。
    『タモリ鶴瓶のおぼえてるでェ! 』という
    本なんですけどね。
    糸井
    僕ね、鶴瓶さんの代わりにみんなにプレゼントできるよ。
    もっとトイレを我慢しろ。
    トイレを我慢していると、
    トイレに行きたい自分とその場の自分が戦うから、
    何かが起こる。
    いっぱい水を飲めばいい。
    鶴瓶
    そうそう。
    人間の日常の「トイレ行きたい」とかが
    ものすごくおもろいのよね。
    いっぺん水飲んで我慢せいと。
    それが全然おもろいことになると。
    『鬼滅の刃』観に行ったとき、
    意味わからへんのやけど、最後死なはるから
    それまで動いたらあかんやんか。
    でも「うわもうしたい」ってなって、
    ずっとがまんして。
    でも一番ええところで、トイレ行ってしもたんや。
    ほんでずっと通路で観てた。
    そういう人間の現象っておもろいよね。
    そういうのって自分で俯瞰で見ることが大事ですよ。
    俯瞰で見ないと、絶対に。
    昔からあるんやってね。
    自分の姿を見てどうおもろいかっていうんかね。
    「離見の見」って言うらしいです。
    「これ言うたらおもろいやろうな」
    「こんな恥ずかしいことしてるな」とかね。
    それを楽しむことですよ。
    ひとつないですか?そっち側(質問者の女性)が
    こんなおもろいことあったいうの。
    「こんなおもろいことあったんや最近」って
    言ってごらんなさい。
    みるみるうちに顔が赤なってますよ。
    これがおもろいやんか。
    これはちょっと助け舟ですけど、
    最近ね、伊丹空港で千枚漬け屋のおばちゃんが
    朝、誰も人いないのやけど小さい声で
    「千枚漬けいかがですか〜...千枚ないけど」
    って言うてはった。
    これいいでしょ?
    人がボソッと言う、
    誰も笑わそうと思ってない言葉って
    すっごい大事なんですよ。
    女性
    一昨日打ち合わせで
    最近よくいる困ったおじさんについて話をしていたとき、
    「おじさんって電話するとき、何でマスク下ろすんだろうね」
    ってチームの子が言ってたんですよ。
    「ああそうだよね!」って
    その場ですごい笑っていたんですけど、
    昨日宇木さんから電話いただいたとき
    思いっきりマスク下ろしていました(笑)。

    ※宇木さん
    鶴瓶さんのマネージャー
    鶴瓶
    うまいやん。
    ちゃんとネタ振りがあって、ちゃんとオチがあると。
    うまいやん。
    1回「宇木さん」って
    注目を振っていますからね。
    あかんかったら向こうに。
    (宇木さんを指して)あいつ無茶苦茶ですよ。
    この間も、えっらい雨降ってきたから
    「傘買ってきます」って宇木が言うたんよ。
    それで戻ってきた時にはタクシー来てて、
    買ってきた傘を自分でパッとさして
    先に乗りよったんですよ。
    僕はバー!って雨に打たれて。
    何のために傘買うてきたん。
    何の行動やねん。
    変わってますよ、あの人(笑)。

    笑福亭鶴瓶さんの授業のすべては、
    「ほぼ日の學校」で映像でご覧いただけます。

    「ほぼ日の學校」では、ふだんの生活では出会えないような
    あの人この人の、飾らない本音のお話を聞いていただけます。
    授業(動画)の視聴はスマートフォンアプリ
    もしくはWEBサイトから。
    月額680円、はじめの1ヶ月は無料体験いただけます。