あの『おカネの教室』著者の高井浩章さんです。
「お金に値段がある?」など、
これからの時代に役に立つ基礎知識を
たっぷり話してくれました。
そもそも「おカネってなんなのか」考えてみると、
聞き慣れない用語が飛び交う経済ニュースが、
わかる話に聞こえてくるかもしれませんよ。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>高井浩章さんプロフィール

高井浩章(たかいひろあき)

経済記者。
1972年、愛知県出身。経済記者として25年超の経験をもつ。
専門分野は、株式、債券などのマーケットや
資産運用ビジネス、国際ニュースなど。
三姉妹の父親で、
デビュー作『おカネの教室』は娘に向けて
7年にわたり家庭内で連載していた小説を改稿したもの。
趣味はレゴブロックとビリヤード。

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高井浩章のnote
「おカネの教室」インプレス

  • 財布の中身を見てみよう。

    今日のタイトルは「大人のためのおカネの教室」。
    テーマは、お金の「値段」です。

    もう、この時点で、言っていることが
    ちょっと、おかしいわけですね。
    お金というのは、
    「値段をつけるためのもの」ですよね。
    なのに、「お金に値段があるのか?」って話です。

    とはいえ、いきなりこんな話をしてもアレなので、
    ひとつ、身近な話をしてみようと思います。

    ちょっと、ご自分の財布を出して、
    中にあるお札を見てみてください。
    そして今、ご自分のお財布をのぞいてみて、
    「中にあるお札の5割以上が1万円札だった」
    という方はいらっしゃいますか?

    ‥‥お、意外といらっしゃいますね。

    まずは、この1万円札のお話です。
    世の中に出回っているお札の中で、
    いちばん枚数が多いお札は、1万円札なんです。

    世の中で流通しているお札の
    3分の2は1万円札なんですね。

    そして1000円札が27%。
    意外とがんばって1%残っているのが500円札で、
    5000円札は4%。かなり少ないんですね。

    ‥‥でも、これって、
    ちょっと変な感じがしませんか?

    自分が持ってるお金の比率と、
    すごくズレがあるような感じがします。
    たぶん、私たちがいちばんよく使うお札は
    1000円札なんですよ。

    では、枚数ではなくて金額でいうと、
    お札は、どんな割合になっているんでしょうか。
    1982年からとっているデータをお見せします。

    これで見ると、
    40年前には、お金が20兆円分ぐらいしか
    なかったんです。
    それが、直近で6倍ぐらいに増えているんです。
    そして増えたのは、ほとんど1万円札。
    他のお金はそんなに増えてないですね。
    金額でいうと、90%以上が1万円札なんです。

    これって、すごく変な感じがするんですよ。
    だって、この金額には銀行預金は入ってなくて、
    現ナマとしてあるお札の額なんです。

    それが今、世の中に120兆円あるんです。
    国民1人当たりに直すと「100万円」なんです。
    みなさん、100万円、ご自宅にあります?
    「そんな額の現金がどこにあるんだろう?」
    って感じがしますよね。

    もちろん、これには企業が使ってるお金も
    含まれています。

    ですが、それにしても、いま、
    ほぼ日という会社の金庫に
    社員1人当たり100万円分の現ナマが眠っているか、
    といったら、今どき、そんなことしないんです。
    防犯上の問題もありますから。

    じゃあどうして、こんなに1万円札が
    世の中には流通しているのか。

    これは、おそらくですけど、
    現ナマで「たんす預金」している人が多いんです。
    銀行に預けてあると、たとえば相続のときなんかに、
    ちゃんと捕捉されちゃうわけです。
    でも、現ナマだったら、見つからない。
    だから銀行に預けずに置いておくんですね。

    あるいは、犯罪取引に使われているとか。
    そこまでいかなくても、
    胸に手を当てて考えていただくと、
    「ちょっといかがわしい店に来てしまったな」
    というときに、
    クレジットカード決済を避けたことのある方が
    いらっしゃるんじゃないか、と思います。
    そういうときには、現金払いしますよね。

    お金の使われ方って、そういう面もあるんです。

    大人気の高額紙幣、1万円札。

    さて、1万円というのは、すごく高額なお金です。
    かなりの高額紙幣。
    そして今、世界では、
    「高額の紙幣を廃止しよう」という方向に
    動いているんですね。

    昔は、ユーロ圏だと500ユーロ札っていうのが
    あったんですが、今は廃止されてます。

    これは、独裁者が大好きなお札として有名で、
    札束を詰めて持ち逃げするときに、
    「高額なのに軽いから、たくさん運べる」
    というお札でした。
    クーデターが起きたら、
    「金額が多くて軽いユーロ札を持って逃げる」
    というわけですね。
    ただ、これは犯罪にも使われてしまうので
    「なるべくやめましょう」という流れになりました。

    それで「日本でも1万円札を廃止したらどうですか」
    と提言している経済学者もいらっしゃいます。
    だけど、1万円札は大人気で、どんどん増えています。
    たぶん、いろんな需要がどんどん増えていて、
    世の中で、必要な以上に
    1万円札が出回っているということだと思います。

    教科書どおりのお金の定義。

    そんなふうにお金って、
    たとえばいまの1万円の話にしても、
    すごく身近なもので
    子どもの頃から使ってるんですけど
    ちょっとよくわからないものなんですね。

    「お金ってなんだろう?」と考えようとしても
    「ただの紙だよな」
    って思ってしまって、よく分からない。

    それでは、よく分からないなりに、
    経済学の世界で言われている、
    教科書通りの「お金の定義、役割」というものを
    考えてみましょう。
    これは、3種類あります。

    その3つがどんなものかといえば、
    「尺度」「交換」「保存の手段」の3つです。

    まず「尺度」。

    これは比較的わかりやすいです。
    もしお金がなかったら、
    なんらかの物々交換をしなきゃいけないんですね。
    だけど、それでは価値がよく分からない。
    そのときお金を使えば、それぞれのものの価値を
    きちんと測ることができるんです。
    物差しとしての役割ですね。

    つづいて、「交換」。
    これはまさに「お金でものが買える」
    ということです。
    これもわかりやすいと思います。

    「保存」というのは、
    もし食べ物で貯金しようとすると腐っちゃう。
    腐らずに、便利にとっておけるのがお金です。

    これらの3つが、
    教科書通りのお金の定義です。

    だけど今日は、さらにもうすこし
    「お金」について考えていってみましょう。

    15万円で売れる10万円玉。

    今日のテーマは、お金の「値段」です。
    「値段をつけるものに、値段をつける」という話。

    そんなふうに言われても、これ、
    ちょっと、よく分からないんですね(笑)

    では、このコインを見てください。

    これは「10万円玉」です。
    昭和天皇の在位60周年を記念して出された金貨なんですね。

    ですから日本銀行に持っていって、
    「お札と交換してください」と言えば
    ちゃんと1万円札10枚と交換してもらえます。

    でも、今これを日本銀行に持っていって
    お札と交換する人はいません。
    それはなぜか。

    メルカリでも14~15万円で売れるからです。
    町のコインショップに持っていっても
    たぶん14~15万円で売れます。

    理由は、この金貨には、20グラムの金が入ってるからです。
    これ、純金なんです。

    今、金というのは1グラム小売りで
    7000円から7800円(2022年3月現在)の
    値段がついているので、
    20gだと14~15万円になるわけです。

    ですから、これは
    「10万円のお金」なのに、
    14万円、15万円の値段がついているという
    不思議なものです。

    私、10万円で買ったんですよ。
    そのときの金の値段は、1グラム3200円とか
    3500円とかだったんです。
    リーマンショックの前に買いました。
    面白いことに
    私が10万円で買ったときには、金の価値としては
    7~8万円しかなかったんです。

    だからもし、金の値段が逆戻りしてしまって
    今の半値になったりすると、
    金の価値としては7~8万円に
    また下がってしまうんですけど、
    お金としての10万円の価値はキープされるんですね。
    なので金が下がっても、10万円。

    金が上がれば、もしかしたら
    どこまで値段が上がるかわからない、
    という夢があります。

    個人的には、金が値上がりするのは、
    あまり良くないことだと思ってるので、
    本心では、よろこんでいないですけども(笑)。

    ‥‥これが「お金に値段がつく」という話です。

    ついでにお話すると、
    もうひとつ持ってきました。

    こちらは、ただの「金のかたまり」です。

    こっちは、さっきのよりも重くて
    100グラムあります。
    これも、さっきの金貨を買った同じ頃に
    「なんだか世の中不安だな」と思って(笑)
    リーマンショック前に買いました。

    だけどこれは、ただの金のかたまりで
    お金じゃないから、
    金が半値になったら、ちゃんと半値になるわけです。

    いっぽう10万円玉は、
    お金の形になってるだけで値段がキープされる。

    こういうことを考えても、
    「お金って一体なんなんだろう」って。
    ちょっと不思議な物体ですよね。

    「お金の値段」3種類のつけ方。

    私の見解ですが、
    お金の値段を考えるときには、
    3種類の「値段のつけ方」があります。

    今日はそれについて説明をしましょう。

    まず、ひとつ目は「為替」です。
    これは、わかりやすいと思います。
    「お金でお金の値段をつける」ということが
    毎日行われていますね。
    1ドル何円とか、毎日ニュースで見ることができます。
    しかもお金の値段が上がった下がったというのは、
    みなさん海外旅行に行くと実感するわけです。

    帰国後、請求されたクレジットカードの
    支払額が、思ったより多い、なんてことが
    ありますよね。

    次、ちょっと分かりにくい話かもしれませんが、
    「物価」です。

    そもそも、モノに値段をつけるために
    お金を使っているわけですから、
    「お金の値段をモノでつける」というと、
    ちょっと変な感じがします。

    まず「物価とは何か」というと
    消費者物価のことですから、まさに、
    みなさんが買い物をしたり、電車に乗ったり、
    宅急便を出したり、家賃を払ったり、
    モノやサービス、全部含めて、
    「みんな平均的にこれぐらい使ってるよね」
    という値段を平均値で出してるものです。

    これを日本とアメリカで過去30年分比べてみます。

    アメリカは、ちょうど30年で物価が
    2倍になっています。
    日本はご覧の通り、ちょっと上がってますけど、
    ほとんど動いていない。

    しかも、ちょっと上がってる間に
    消費税は上がってるわけですね。
    消費税込みの物価なので、消費税を抜いたら
    ほとんど上がってないです。
    アメリカは、インフレがある国。
    日本は、デフレとか、ディスインフレといわれる
    状態の国です。
    時間の経過とともに、これだけ差が開いてるわけです。

    では、アメリカで物価がこれだけ上がったというのは
    どういう意味かといったら、
    「1ドルの価値が下がった」ってことですね。
    「モノで測ったお金の価値が下がった」
    ということは、裏返すと、
    「お金の値段が半分になった」ということです。

    30年前に1ドルで買えた
    「お買い物パワー」というか「購買力」が、
    半分になってる。

    つまり、教科書通りの定義である
    「価値を保存できるお金」という観点でいうと、
    保存していたはずの価値が変わっちゃってるんです。
    現ナマを抱え込んでいると、その値段が変わっちゃう。

    日本では、物価が上がってないから
    現ナマをおうちに持っていても、
    価値が下がらないんです。

    アメリカでは、30年間、後生大事に
    100万ドルを抱えてたら、
    価値が半分とか 、それ以下になっちゃうので
    銀行に預けるとか、あるいは投資をするとか
    何かしないと目減りしちゃうわけです。

    これが、まさに、
    「お金の値段がモノと比べて下がってる」
    という状況です。

    日本は値段が動かないけれど、
    アメリカでは、この30年で物価が2倍になっている。
    これは頭に入れておいていただくといいと思います。

    ‥‥そして、お金の値段のつけ方には
    もうひとつあるわけですが、
    それはこのあと説明していきます。


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