『夢をかなえるゾウ』や『人生はニャンとかなる!』など
数々のベストセラーを生み出してきた水野さん。
生き方、人格のもとになった原点は
「モテのピラミッド」を上りたいという欲望だった。
それを突き詰めて突き詰めていったところに
ヒットの原型があったのだとか。
動画で配信中の「ほぼ日の學校」の授業
一部を読みものでご覧ください。

>水野敬也さんプロフィール

水野敬也(みずのけいや)

作家。愛知県生まれ。
著書に「夢をかなえるゾウ」シリーズほか、
雨の日も、晴れ男」「顔ニモマケズ」
運命の恋をかなえるスタンダール」
四つ話のクローバー」、
共著に「人生はニャンとかなる!」
最近、地球が暑くてクマってます。」
サラリーマン大喜利」「ウケる技術」など。
また、画・鉄拳の絵本に「それでも僕は夢を見る」
あなたの物語」「もしも悩みがなかったら」、
恋愛体育教師・水野愛也として
LOVE理論」「スパルタ婚活塾」、
映像作品ではDVD
温厚な上司の怒らせ方」の企画・脚本、
映画「イン・ザ・ヒーロー」の脚本を手掛けるなど
活動は多岐にわたる。

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公式ブログ「ウケる日記」
「夢をかなえるゾウ」(文響社)
「人生はニャンとかなる!」(文響社 )

  • まともに話した異性は母親ぐらい、の青春時代。

    ぼくは、中学高校と愛知県の進学校に通ってました。
    小学校のときは、勉強も運動もできて、
    ちょっと「神童」みたいな‥‥(笑)。

    自分で言うのもなんですけど、
    リレーの選手でしたし(笑)。

    それで、何でもできるぜ、って思って
    東海中学に入学して。

    そのエスカレーター式の男子校で、
    勉強も運動もすべて負けまくって、
    落ちこぼれていったわけです。

    そこで唯一勝てたのが
    ストリートファイターII』っていう
    ゲームだけだったんですよ。

    学校が終わったらすぐに
    ゲームセンターに走っていって、
    本当にずっとゲームをやってました。

    中学高校時代、
    当然、女の子と手をつないだこともないし、
    まともに話した異性は母親ぐらい、
    っていう状況で大学に進学するんです。

    「どうしたらモテるか」を徹底的に考え実践する。

    大学に入る前に、めちゃくちゃ詳細に
    大学デビューの計画を立てて(笑)。
    どうしたらモテるか」っていうことだけを
    徹底的に考えたんです。

    東京に来て、その計画を
    一個一個実践していくのが、
    ぼくの大学時代だったんですね。

    ぼくはもともと、
    スクールカーストっていう言葉がない頃から、
    ピラミッドの図を自分で書いて、
    今は誰が一番モテる」とか、
    自分の立ち位置はこの辺だ」とか
    やってたんですけど(笑)。

    ぼくが進学した慶応大学に、
    同じ中高から来た
    オオタくんっていうやつがいたんです。

    同じ高校からきてるから、
    まずは入学式でもオオタくんを探すんです。

    けど、いまだに覚えてるのは、
    オオタがこうやって、びっくりするくらい
    ふんぞり返って座ってたんです。

    東海高校っていうのは、愛知県ではトップなんで
    めちゃくちゃプライドが高いんですよ。

    それを見て「‥‥あー、これはイカン!」と。
    なんかイキってるのが出ちゃってて。

    だけど、
    こいつを絶対ぼくは仲間にしなきゃだめだ」
    と思ったんです。
    ひとりじゃ、やっぱり不安なので。

    いかにオオタを懐柔するか。
    ふんぞり返って座ってるオオタのところに、
    久しぶり!」みたいな感じで、近づいていって。

    入学式の後、ぼくはオオタを喫茶店に呼んで、
    中高時代のピラミッドの絵を
    紙ナプキンに書いて見せたわけです。

    オゼキってこの辺だったよね」
    俺はこの辺だった」
    オオタはこの辺だったよね」
    みたいな話を。
    ちょっと色を付けて、ピラミッドには
    オオタを実際の位置より、
    ちょっと上の方に書いたりして(笑)。

    どんどんディティールの話になっちゃうんですけど。

    ぼくら二人は「一浪」だったんですが、
    現役」で東海高校から東京にきたやつらっていうのは、
    プライドが抜けきれなくて、
    上に行けないんですよ。

    だからオオタに、
    絶対、俺たちは下から行かなきゃダメだ」と。
    連絡先も絶対交換しなきゃいけないし
    大学のイケてる先輩とまず仲良くなるんだ」と。

    一緒に俺らは上がっていくんだ。
    この大都会東京で!」
    ‥‥って言って(笑)。

    入学式の後、サークルの勧誘でも、
    オオタとぼくはとにかくイケてる先輩を探して、
    すいません、イケてますよね! 
    何やってんですか? 
    もしよかったら入れてもらえませんか?」
    っていう感じで、声をかけて(笑)。

    そんなふうに、ぼくらは入学式の日から
    違ってたんですよ。

    イケてる先輩となかよくなって、
    いかに上がっていくか。
    より女の子たちと出会える場所を探し求めて。

    大学時代は、ずっとそういうことをやってました。

    でも、女の子としゃべったことないんで、
    恋愛マニュアル本とかが必要で、
    脳科学とか、心理学の本とか、買い込むんです。
    ザーッと買ってきて、家で読むんで。

    でも、ふっと不安に思うわけです。
    女の子が部屋に遊びに来たときに、
    ぼくの本棚にこんな本があったら、
    絶対ダメだ‥‥!」って。

    それで捨てに行くわけです。

    だけど家に帰ってきて、
    ‥‥いや、でもあの本に書いてあったことが、
    俺の人生を変えるかもしれない!」
    と思い直して、
    明け方に、ゴミ捨て場から
    もう一回本を持って帰ってきたんですけど(笑)。

    それで「二層式」の本棚を買って、
    見える前側の場所には
    ニーチェとかドストエフスキーを並べて。
    その後ろに恋愛マニュアル本をいれて隠す。
    恋愛マニュアル本ロンダリング」
    みたいなことをしてました(笑)。

    モテなかった中学高校時代があり、
    それを何とかしようとした大学時代があって
    ‥‥というのが、ぼくの青春ですね。

    トップに上がりたい自分と、
    それをひっくり返したい自分。

    このことはまさに、
    就職活動でも聞かれたんですよ。

    面接で「君、何やってきたの?」と聞かれると
    まさに今、ぼくがしゃべった話をするわけです。
    ぼくはモテるために、こんな努力をしてきました」と(笑)。

    そうすると、
    なるほど、なるほど。
    じゃあ君、モテるようになったの?」
    って聞かれるんですよ。

    ‥‥いや、よしんばモテたとしても、
    面接官に
    モテるようになりました」って、
    気持ち悪いじゃないですか。
    口が裂けても言えないっていうか。

    それを自分で言うと、
    人間としてすごく大事なものが失われる気がして。

    だから「いや、モテないんですよ」って
    言い続けたんです。
    そしたら、面接官にはむちゃくちゃウケるんですけど、
    ‥‥全部、落ちるんです。

    面接後は「絶対受かったな」って思ってても、
    ことごとく落ちていくんです。

    でも、あのとき
    モテるようになった」って言えば
    よかったのか?っていう話なんですよ。

    ただ、実際には彼女ができたんですよね。
    大学2年の最初に。
    大学1年のときに、受験勉強の時よりも
    めちゃくちゃ努力をしたからなんですけど。

    たとえば合コンから帰ってきて、
    酔っ払ってても、その日の会話を大学ノートに
    ちゃんと書き出して。

    あのときのギャグは違ってた」とか
    ここは、あいつに笑いを取らせるべきだった」とか。
    そんなことばっかり、ずっとやってたんですけど。

    そんな中で、イケてる先輩にかわれて、
    ぼくは「イベントサークル」の代表になったんです。

    でも、そういうサークルの人たちが、
    すごく嫌いだったんですよ、ぼく。
    自慢するじゃないですか、女性の経験人数とか。
    めちゃくちゃサブいな」と思ってて。

    でも、上にいかなきゃっていう気持ちはある。

    これがまさに、
    資本主義的な価値観」と
    ある種の共同体的な田舎の価値観」が
    ぶつかり合ってる状態なわけです。

    イベントサークルの代表なのに、
    イベントサークルのやつらが大っ嫌い。

    イベントサークルの構造にしても、
    他のイベントサークルに呼ばれると、
    VIPみたいな感じで、
    代表のぼくはいい扱いをされるんですよ。
    クラブの真ん中にいられるわけです。

    その後ろの方に、お金を払って、
    いい思いができるんじゃないか」って
    来てる男たちはいるんですけど、
    この辺境に集められた彼らは、
    何もせずにボーッと立ってるんですよ。
    イケてるやつらだけが集まって、
    ウェーイ!」って楽しそうにしてる。

    ぼく、
    これはサービスとして明らかに愚かだ」
    と思ったんです。

    お金を払って来てる人たちが何もやらずに、
    女の子に声もかけずにボーっとしていて、
    イケてるやつらだけが前で
    ウォーってやってる。
    こんな詐欺あるか」と思ったんです。

    まず、ぼくが代表になってやったのが、
    辺境にいる人たちを真ん中に入れて、
    自分は一番下っ端のサービス側の人間として
    動き回る」
    ということ。
    そしてイベントをやったんですけど、
    これがダダ滑りしましたよね(笑)。
    志は本当にめちゃくちゃ高かったんですけど。

    やっぱり資本主義的なニーズと合ってなかったんです。
    芸能人が来たりして、
    キャー!ってなってるほうがよかった、と。

    ぼくがずっと違和感を覚えてきた、
    ”資本主義的なピラミッドの上に、上っていく戦い”って、
    当時のイベントサークルとか、
    そういうのから始まってたなぁ、と思います。

    うちのサークルは、アットホームでフレンドリーで
    女の子を大事にしていて、
    すごくいいけど、なんか中途半端な感じで。
    まぁ、代表のぼくがこんな感じなんで。

    ちなみにオオタくんも一緒に代表だったんです(笑)。
    彼、そういう状況を楽しんでもいて。
    イベントに500人、600人というすごい数の人間を
    呼べるようになってたんですよね。

    オオタは今‥‥何してるんでしょう?(笑)

    トップに上りたい自分と
    この仕組みをひっくり返したい自分が、
    めちゃくちゃせめぎ合っていたんですけど、
    まずは「上りたい」というのがあったんだと思います。
    だから、『夢をかなえるゾウ』の最初の部分でも、
    芸能人とか、タレントの人たちがいるパーティに行って、
    「居場所がない」って話から始まっています。
    まさに、今話したイベントサークルの
    辺境の人たちの話ですよね。

    でも、
    このピラミッドを上っても、上っても、
    結局、むしろ自分が飲み込まれていく」
    というか。
    その違和感がずっとあって、
    幸せな感じがしない、っていうのが、
    ずっとあったんでしょうね。

     


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