いま、さいたま国際芸術祭2023の会場付近で
日々、出没している「スケーパー」を
「ディレクションしている」のが
振付家・ダンサーで
コンドルズを主催している近藤良平さんです。
「スケーパー友の会・会長」という
興味深すぎる肩書もお持ちの近藤さんに聞く
独自のスケーパー考。深く、おもしろい。
担当は「ほぼ日」奥野です。
近藤良平（こんどうりょうへい）
彩の国さいたま芸術劇場芸術監督、コンドルズ主宰・振付家・ダンサー。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。96年に自身のダンスカンパニー「コンドルズ」を旗揚げし、全作品の構成・演出・振付を手がける。TBS系列『情熱大陸』、NHK総合『地球イチバン』、『AERA』表紙などで脚光を浴びる。NHK教育『からだであそぼ』内「こんどうさんちのたいそう」、『あさだ！からだ！』内「こんどうさんとたいそう」、NHK 総合『サラリーマンNEO』内「テレビサラリーマン体操」振付出演、NHK連続テレビ小説『てっぱん』、NHK大河ドラマ『いだてん』振付など、親しみやすい人柄とダンスで幅広い層の支持を集める。野田秀樹作・演出による演劇作品や前田哲監督、三池崇史監督の映画、テレビCMなど、多方面で表現者として活躍。0歳児からの子ども向け観客参加型公演「コンドルズの遊育計画」や、埼玉県との共働で障害者によるダンスチーム「ハンドルズ」公演など、多様なアプローチでダンスを通じた社会貢献にも取り組んでいる。多摩美術大学教授、東京大学、立教大学で非常勤講師を務めるほか、全国各地で公演やワークショップを行っている。第4 回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞、第67回横浜文化賞受賞。愛犬家。
- ──
- スケーパーというおもしろい遊びから
いろいろ教わった気持ちですが、
反面で、近藤さんのお仕事のなかでも、
これだけ「役に立たない仕事」も、
なかなかないんじゃないかと思います。 - 舞台をつくって、
観客を楽しませるわけでもないですし。
- 近藤
- そうですね（笑）。
- ──
- 仕事として「やろう」と思っても、
まず予算が下りない類のものですよね。 - 時間の無駄ですねとか言われそう。
- 近藤
- でも、いまの話を逆から言うと、
役に立たないもの、役割のないものを
「つくりだす」のって、
なかなか難しいことだと思うんですよ。 - 予算とかシステムとかいう以上に。
- ──
- つまり「クリエイティブ」として。
- 近藤
- ぼくたちが生活する中で見せる動きも、
だいたい「役割」があるから。 - 退屈の象徴である「あくび」にしても、
新鮮な空気を取り込む動きでしょ。
ぼくは本業で
ダンスだとか舞踊をやっていますけど、
そこでは、たしかに日常の外、
非日常的な動きばっかりになるんです。
- ──
- つまり‥‥。
- 近藤
- 生理的なしぐさに基づかない動きって
表現したらいいのかな。 - ようするに、ダンスや舞踊って、
何かの役に立つわけではない動きです。
無駄の連続。
でも、人間の行動としては無益でも、
そこに「美しさ」を感じたり、
さまざまな感情を引き起こしたりする。
- ──
- わかります。
- ダンスや舞踊などの「身体表現」って、
惹きつける力がすごいですし。
子どもたちも、夢中になりますもんね。
- 近藤
- スケーパーは、そういうところもない。
だから、すごく「謎な魅力」なんです。
- ──
- なるほど。何の意味もない行為‥‥
というところで思い出したんですけど。
- 近藤
- ええ。
- ──
- 本当かどうか知らないのですが、
罪人に、穴を掘らせて埋め戻すことを
繰り返すと、
やがて心がおかしくなってしまう‥‥
という拷問があると聞きますよね。
- 近藤
- はい、はい。
- ──
- スケーパーの行為って、
それとは、どうちがうんでしょうかね。
- 近藤
- あー‥‥なるほど。
どっちも「無駄」に思える行為だしね。
- ──
- そういうスケーパーがいても、
おかしくはないような気がするんです。 - でも、スケーパーは発狂しませんよね。
- 近藤
- たしかに。
- で、「何かを集めてはバラす人」とか、
実際いそうだよなあ。
そのことをえんえん続けるスケーパー。
ふつうに考えたら「地獄」のようだね。
スケーパー地獄。
- ──
- 地獄‥‥いう言葉とくっついただけで、
一気に様相が変わりますね（笑）。
- 近藤
- だから「言葉」って怖いと思うんです。
- それを「え、スケーパー天国じゃん！」
って言えば、ぜんぜんちがう。
- ──
- だから、そうか‥‥つまり
「これは罰なんだ」と思ってやったら
「罰になる」し、
自分はスケーパーなんだと思ってれば、
スケーパーになるのかも‥‥。
- 近藤
- そうかも知れない。同じ行為でもね。
- それも言葉の「呪い」的な部分ですね。
貼るレッテルのちがいで、
罰にもなれば、スケーパーにもなる。
正解にもなるし、不正解にもなるんだ。
- ──
- やるやらないの自由があるというのは、
前提として、大きいんでしょうけど。 - ともあれ、
正解を求めようのない遊びというのは、
おもしろいんでしょうね、きっと。
- 近藤
- 唯一の正解って、おもしろくないよね。
- おもしろくない以上に「ない」のかも。
だって、「唯一の真実」はもちろん、
「自分の記憶」にだって
「唯一の正解」ってないですもんね。
- ──
- たしかに！
- 四半世紀前、練馬に住んでいたときは
どんなに酔っ払っても
アパートに帰れていたのに、
最近、久々に歩いて行こうと思ったら、
たどり着けなかったんです。
- 近藤
- ああ、わかる。
- ──
- あのころの自分にとっては
目をつぶっても帰れたアパートまでの
「帰り道」が、わからない。 - 当時の自分といまの自分とでは、
まったくの別人なんだろうな‥‥って
思ったりします。
- 近藤
- ぼくも、ずいぶん昔に
ブエノスアイレスに住んでたんだけど、
先日Google Mapを見てたら、
いつもの公園からアパートまで帰れず。 - 昔の自分を、いまの自分がながめたら
かなりスケーパー的かも（笑）。
- ──
- 今日はあらためて、人間というものは、
頭のなかで
いろいろなことをやっているんだなと、
お話していて感じました。
- 近藤
- そうそう。ぼくもいま、そう思ってた。
- スマホの乗り換え検索もさ、
検索した時点で着いた気になってない？
- ──
- わはは、たしかに！
まだ出発もしていないのに（笑）。
- 近藤
- なんで、そんなに
先まわりして生きてるんだろうね（笑）。
- ──
- スケーパーのことをいろいろ考えてると、
たまーに、そうやって
ぼくらの生き方そのものに
再考を迫ってくるところがありますよね。
- 近藤
- そうそう、ハッとさせられるんだよね。
- スケーパーって、
受けとめ方がうまくいかない場合には
ただのドッキリ、
ヘンな人探しになっちゃうんだけど。
- ──
- それだと、少しもったいないですよね。
- この取材自体、
どういうふうにまとめたらいいのかが
わからなくなってきたので、
このあたりでやめていいですか（笑）。
- 近藤
- 取材している方がやめたいって！（笑）
さてはスケーパー記者だな！？
（終わります）
2023-12-10-SUN
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近藤良平会長が
ディレクションしているSCAPERは、
いま開催中の
さいたま国際芸術祭2023の会場に
毎日「放たれて」いるようです。
「旧市民会館おおみや」という
古い建物の内部を
まるで「迷宮」のようにつくりかえ
展示の内容やプログラムが、
日替わりで変化していく芸術祭です。
ディレクターは、目［mé］。
参加作家の展示を鑑賞しながら、
SCAPERのことも
どこかで気にしながら楽しめます。
閉幕も間近。ご興味あれば、ぜひ。
詳しいことは
公式サイトでご確認ください。
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illustration：Ryosuke Otomo