画家の笹尾光彦さんは、ぼくたちに、
たくさんのものをくださいます。
有形無形、だいじなものを。
こんどは、
この秋に渋谷パルコにオープンする
ほぼ日の空間「ほぼ日曜日」に、
5脚の椅子のロゴマークを。
東北ツリーハウスのプロジェクトに、
111枚のちいさな油絵を。
そのふたつの話を真ん中に置いて、
旧知の糸井重里と、
いつまでも聞いていたくなるような
対話をしていただきました。

>笹尾光彦さんのプロフィール

笹尾光彦(ささおみつひこ)

アンリ・マティスを愛し、「レッドソファ」や色とりどりの花々、本などを描き込んだ室内画で、とりわけ知られているアーティスト。
渋谷のBunkamura Galleryで毎年11月に個展を開いていたり、おいしいケーキ屋さん、キルフェボンとコラボレーションして、お店に作品が飾られたりしているので、ご存じのかたも多いと思います。
ことしもまた、
11月14日(木)~11月26日(火)に、
恒例の展覧会を渋谷Bunkamura Galleryで開催予定。さらに同じ時期、
11月14日(木)~12月2日(月)には
イデーショップ自由が丘店でも、
展覧会を同時開催。
さらには11月22日(金)にオープンする
渋谷パルコ内のほぼ日のスペース
「ほぼ日曜日」のロゴマークも
つくってくださいました。
今年79歳、ますますエネルギッシュに、
各方面で大活躍のアーティストです。

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第6回 うれしい気持ちを知ってる。

糸井
笹尾さんに何かをお願いするとき、
広告をやってらしたことが、
すごく「頼りになる」んですよね。
笹尾
それは、身に染みついてますよね。
いちおう足を洗ってはいますけど、
何十年もの広告の経験のうえに
ぼくの「今」が乗っかってますし。
糸井
ぼくと笹尾さんに共通してるのは、
お役に立ちたいって気持ちと、
古びたくないって気持ちだと思う。

笹尾
ああ、なるほど。
糸井
アルタミラの洞窟の真っ暗闇の中、
牛の絵を描いた人も、
笹尾さんみたいだったと思います。
つまり「牛、描いてよ」って‥‥。
笹尾
ああ、そうそう、頼まれてね。
糸井
昔なら、宣伝美術って言ったかな。
ぼく自身も、
広告をやってきた経験を活かして、
はじめて恩返しができる、
というような気持ちがあるんです。
笹尾
はい、その気持ちはあります。
糸井
プロデュースする力もそうですよ。
ぼくよりも彼のほうが上手だから、
自分じゃないほうがいいとか、
こういう写真を撮ってほしいから、
あのカメラマンに頼もうとか。
笹尾
そうですね、ぜんぶですね。
アートディレクターだったころは、
そういうことばかり考えてた。
糸井
一方で笹尾さんって、
一緒に何かをつくるというときに、
自然に「一部になれる」んです。
その「自分のなくしかた」が、
いわゆる「アート」と言うときの
不自由さから、自由なんです。
笹尾
ああ、なるほど。
糸井
一緒に仕事していて、気持ちがいい。
アンディ・ウォーホルが
スープ缶を現代アートにしたときは、
コンセプトが先行するけど、
笹尾さんが、
絵にevianを描き込むときは、
そこに「好き」という気持ちが‥‥。
笹尾
はい、ぼくは、ただ、
好きなものを、描いているだけです。
それ以外の何でもない。
だから本当にアートかと問われたら、
わからない。
アートじゃないと言ってもいいです。
糸井
目に入れた自分がうれしいんですよ。
笹尾さんのやってることって。
それと同時に、
人の「うれしい」も知っているから。
笹尾
ああ。
糸井
この絵を買った人が家に持って帰る、
そのときの、
うれしい帰り道を思ってますよね。
そういうところが、
広告をやっていた人のいいところで。
笹尾
ちいさなしあわせでも、楽しさでも、
よろこびでも何でも、
少しでも返せたらうれしいですよね。

糸井
上手とか下手とか、
本当は、その次のことなんですよね。
笹尾
うん、上手に越したことないけれど、
上手でなければならない必要は、
ぼくも、まったくないと思ってます。
それより大事なこと、たくさんある。
糸井
だって『星の王子さま』の絵なんか、
あれを上手だの下手のだって、
誰もそんな「評価」はしませんよね。
笹尾
すごいですよ、あの物語は。
純粋な「絵」としては、ともかくも。
糸井
楽しんでくださいって気持ちと、
自分の思いと、どっちも入っていて。
ぼく、大好きなんです。
笹尾
でも「ほぼ日」に集まってくる人は、
乗組員さんもふくめて、
そういう感性の人が多いでしょうね。
糸井
まあ‥‥顔を合わせると
「あいつでいいのか?」って思うけど、
よそにいるかって言ったら、
なかなか、いないかもしれないですね。
笹尾
糸井さん、社長を辞めちゃうんですか。
糸井
まあ、そう遠くない将来、でしょうか。
笹尾
ぼくはね、できるかぎり、
そうしないほうがいいと思ってます。
できうるかぎり、
糸井さんが社長をやっているほうが。
糸井
え、そうですか。
笹尾
ぼくはいま、
糸井さんの8歳上の78歳ですけど、
これくらいまでは、少なくとも。
糸井
まあ、あと5、6年になるのか、
2、3年になるのか‥‥。
笹尾
その選択の場合は、
ぜひ「5、6年」を選んでください。
これは、ぼくの勝手な思いですけど。

糸井
自分がどうしたら、
このチームがおもしろくなるかって
考えると、
ぼくが我慢する場面を減らすほうが
いいと思っているんです。
で、社長って我慢が多いんですよね。
笹尾
そうですよね。
糸井
クリエイティブの仲間同士だったら、
すごくおもしろいから、
どんどんやろうよって誘う場面でも、
社長としては、難しいし‥‥。
笹尾
苦労があるのも、よくわかりますよ。
たしかに社長はたいへん。
副社長までしかやったことないけど、
いろんな会社で、
社長のたいへんさを見てきてますし。
糸井
ええ。
笹尾
だけど、それでも、しばらくは、
やはり社長は代わっちゃいけません。
糸井
そうですか(笑)。
そんな真剣に言っていただいて‥‥。
笹尾
はい。すみません。
これはお願いです。みんなのために。
糸井
辞めるなって強く言われたリストの
いちばん上に載せておきます(笑)。
笹尾
ぼくは、ここの社員じゃないけれど、
みなさんとご一緒して、
この会社の隅っこにでもいたいなと、
そう思える場所だから。
糸井
いや、うれしいです、いまの言葉は。
そんなふうに言われる会社って‥‥、
ちょっと、最高ですから。

(つづきます)

2019-10-21-MON

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  • 笹尾光彦さんの「111枚のちいさな絵」展

    赤の画家として知られる笹尾光彦さんが、
    このたび、気仙沼のために、
    111枚のちいさな絵を描いてくれました。
    これを、気仙沼市図書館に展示します。
    その後、TOBICHI京都と
    TOBICHI東京でも、巡回展を行います。
    すべて、購入することが可能です。
    とってもかわいらしいのに、
    一点ものの美術品の風格もそなえた作品。
    ぜひ実際に、見に来てください!

    くわしくは、こちらの特設ページで。