待ってました、ラグビーワールドカップの開幕です!
糸井重里が「にわかラグビーファン」になった
2015年のラグビーワールドカップから4年、
にわかなぼくらのお祭りイベント、
ラグビーワールドカップ日本大会がやってきました。
ようこそ世界! どうなる日本?
にわかファンがたのしめる読みもので
ラグビーワールドカップを満喫しましょう。
ラグビーのいろはを教えてくれた中竹竜二さん、
何人もの選手を取材してきた生島淳さんをお迎えして、
にわか目線でラグビーをたのしむ座談会を開きました。
ワールドカップで役に立ちそうな話題はもちろん、
仕事に活かせそうな組織論の話も聞けました。
あっ。そうそう、ラグビー関係者のみなさん、
ラグビーとコロッケパンって相性バツグンですよー!

ラグビーワールドカップを特集した
NumberPLUS「ラグビー日本代表超入門」に
掲載した対談記事の内容を、
「ほぼ日」編集バージョンで掲載します。

>中竹竜二さんのプロフィール

中竹竜二(なかたけりゅうじ)

日本ラグビーフットボール協会理事。
株式会社チームボックス代表取締役。
一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長。
1973年福岡県生まれ。93年早稲田大学人間科学部入学。
学生時代に全身麻酔をともなう手術を7回経験し、
ケガをするたびにラグビーをやめようと考える。
4年時にラグビー蹴球部の主将を務め、
全国大学選手権準優勝。97年に大学を卒業後、渡英。
ロンドン大学で人類史を学び、
レスター大学大学院社会学部修了。
2001年三菱総合研究所入社。
2006年早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。
監督経験ゼロながらコーチングを徹底し、
2007年度から2年連続で全国大学選手権を制覇。
2010年2月退任。
同年4月、日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクターに就任。
U20日本代表ヘッドコーチも務め、
2015年にはワールドラグビーチャンピオンシップにて
初のトップ10入りを果たした。

にわかラグビーファン、
U20日本代表ヘッドコーチに会う。

サンド・中竹・糸井の Ask me / Teach

>生島淳さんのプロフィール

生島淳(いくしまじゅん)

1967年、宮城県生まれ。
早稲田大学卒業後、博報堂に入社。
勤務のかたわら、取材・執筆活動に携わる。
1999年に独立。
著書に『奇跡のチーム』
『エディー・ジョーンズとの対話
コーチングとは「信じること」』
『気仙沼に消えた姉を追って』、
『箱根駅伝ナイン・ストーリーズ』、
『箱根駅伝』『箱根駅伝 新ブランド校の時代』、
『箱根駅伝 勝利の方程式』など。
また、構成本に黒田博樹の『決めて断つ』、
『中村勘三郎物語』などがある。

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第4回 怖さを自覚して強くなる

生島
中竹さんは早稲田大学の監督をしていたときから
ミーティングを選手に任せていたんですか。
中竹
そうしていました。
選手中心に考えると何が効果的かな、
とロジカルに考えた結論です。

糸井
選手を当事者に変えたんですよね。
チームの8割ぐらいが当事者として
試合運びができたら、
すごいチームができそうです。
生島
当事者意識を若い頃から植え付けて、
慣れさせていくのは大事ですよね。
糸井
当事者じゃなければ好き勝手なことを言えますが、
当事者意識を持つことで、
恐怖心や逃げたい気持ちも
同時についてくるはずなんですよ。
恐怖をどう克服して、勝ちにつなげるか。
その第2段階のところに、
次の山があるんだと思うんです。
中竹
いや、本当にそのとおりです。
生島
ラグビーでは、フィジカルの面でも
恐怖心と直面しなきゃいけないから。
糸井
怖いですよねえ。
そこで指導者の質が問われますよね。
中竹
メンタルが強いといわれるチームであっても、
当事者になったら怖いじゃないですか。
怖さを認めないといけないし、
弱さを認めないとスタートできないんです。
タックルが「怖い」って認める文化を
コーチが作れるかどうかが、めちゃくちゃ大事なんです。
けれど、実際は逆で、実績のある監督が、
「なに怖いとか言ってんだ。怖くねえだろ、行け!」
と無理強いしてくるわけです。
そんなこと言われた選手たちは心のなかで、
(いや、怖いって言ってんじゃん)と思うんです。

一同
(笑)
中竹
当事者の気持ちがめちゃくちゃ大事で、
コーチとして大事なのは、
選手にどれだけ寄り添えるかなんです。
「怖くありません」と言うのは嘘に決まっていて、
「怖くありません」と言っている時点で怖いんです。
日本でも人事などで注目されている専門用語の
「バルネラビリティ(vulnerability)」を
認めさせる雰囲気を作れるかどうか。
自分の弱さをさらけ出す、怖さをさらけ出す。
コーチングの研究も進んでいて、
バルネラビリティを出せる謙虚さであったり、
人を許容することが
根底にあるのはわかっているんです。
糸井
最高ですね、それ。
中竹
ラグビー界では最強のニュージーランド、
オールブラックスの選手たちも、
ただ強い人たちが集まっているのではありません。
チームの全員が弱さもさらけ出すし、
ダメなことはダメだと認めて、
お互いが謙虚に学び合う文化があるから強いんです。
生島
オールブラックスは
自分たちの弱さをわかった上で、
マネジメントしているんです。
糸井
カッコいいですねえ。
中竹
オールブラックスでは2007年頃に、
強豪国では初めて、メンタルコーチを招き入れました。
「俺たちオールブラックスだけど、メンタル弱いよね」
というのをチーム全員で共有していたんです。
これ、相当な勇気だったと思いますよ。
先ほど、糸井さんが指導者の当事者意識が
大事だとおっしゃっていましたが、
じつは、コーチングのなかでも
バルネラビリティは難しい領域なんですよ。
というのも、わからないことをわからないと
言えないコーチが残念ながら多いから。
強い組織を作っていくためにも、
コーチが自分自身のことを
さらけ出せるかが問われています。
糸井
中竹さんは、わからないって言えますよね。
生島
五郎丸さんから聞いたことですが、
中竹さんが早稲田の監督に就任したときに、
「え、わからない人っているんだ」って、
本当に衝撃を受けたと言っていました。
糸井
永ちゃんがステージに立つ前は、
今でも、怖いそうですよ。
それが言えるようになってからの永ちゃんは、
やっぱりおもしろいんです。
DVDでライブを見ると、
その緊張感がちゃんと伝わってきて、
あえて凄みながら登場するんですよ。
金髪のお姉ちゃんを抱えたり、
ガードマンを連れてきたり、
オートバイに乗って入ってきたり、
「怖さを抱く人間が虚勢を張る」
という演出をするんですよ。
いつだって永ちゃんは緊張しているし、
緊張がなくなったらダメだと言っています。
ステージに怖い顔をしながらバーンと登場して、
普通の「俺」に戻っていくプロセスを、
お客さんがみんな、いっしょにたのしむんです。
永ちゃんは若いときから、
自分の弱さを言えたんですよね。
「誰だって怖いはずだし、俺は臆病だから」って。

中竹
ああ、それは素晴らしいですね。
生島
2015年ワールドカップのジャパンの選手は、
南アフリカ戦の前に、
恐怖を味わっていたと話していました。
寒気が来たり、夜に寝られなかったり。
メンタルコーチの方が
「それは体が準備してることなんだよ」
と言ってくれたおかげで納得したそうです。
糸井
はぁー。
生島
つまり、最終準備段階だと。
糸井
そのとおりかもしれない。
「ここが勝負」というときの怖さって、
あとで思い出すと、ちょっと快感なんです。
だから、やめられないんだよね。
生島
田中史朗選手なんて、
緊張とか怖さを克服するために、
試合前にわざと戻すんですよ。
牛乳とかをめいっぱい飲んで、
ドレッシングルームに行ってワーッと。
新人からビックリされるそうですが、
それが彼の儀式になっているんです。
でも、身体には負担がかかるし、
科学的にもいいわけないと思うんです。
中竹
ルーティンになっているんですね。
糸井
よくないだろうけど、
本当なんだろうなあっていう気はするねえ。
生島
バルネラビリティという言葉は、
否定的な意味で捉えられることが多かったのが、
ちょっと変わってきましたね。
中竹
最近はもう、リーダー育成に関しても
組織を作るにあたっても、
その意識がないとダメですね。
自分の弱さを自覚することから始まると、
研究でもいわれています。
糸井
負けた経験が弱さを上回らせますよね。
経験した中での負けの数が、
自分をものすごく成長させますね。
中竹
本当にそうですね。
糸井
「負けたことはサバサバと忘れて」
とよく言われますけど、
「負け」という子どもが生まれたのを
もっとかわいがったほうがいいんです。
中竹
負けを育てて、学びに変えていく。
糸井
そう。
「負けた」という意識がないと
見えないことがあると思うんですよ。
でも、負けを糧にすることは
自分でもやりたくないことだったりします。
生島
恐怖だとか負けたという経験を
ファンの人は持ってないから、
壁を感じちゃうのかもしれませんね。
糸井
「負けた」という経験が、
「もうかなわない」と思わせるメンタルに
つながることもありますよね。
当事者になればなるほど怖くなることは、
法則として覚えたほうがいいですね。
これだけ激しいぶつかり合いで
勝敗を決めているラグビーが
弱さを自覚しているんだったら、
会社員だってみんなやるべきですよね。
中竹
おっしゃるとおりです。

糸井
負けても、痛くも痒くもないんだから。
精神的な落ち込みはあるかもしれないけど、
ちゃんと落ち込める自分であったほうがいい。
ウサギの細心さと、トラの貪欲さを
同時に持っていたいですよね。

(つづきます)

2019-09-23-MON

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