（7）本気と本音が見えたとき | ほぼ日刊イトイ新聞「笑顔で戦うジャパンラグビー」 | 中竹竜二

まさにいま、ラグビーワールドカップ2023
フランス大会が開催中です。
前回大会ベスト８の日本代表の戦いぶりを
糸井重里もたのしんでいます。
じつは大会前の６月の合宿最終日を見学して
中竹竜二さんと対談するつもりが、
なんと、ジェイミーヘッドコーチの判断で
合宿最終日の練習が打ち切られることに！
練習を見るのはたのしみにしていましたが、
それより、その判断ってすごいことなのでは？
勇気ある判断ができるジェイミー監督のもとで、
過酷な練習を乗り越えてきた日本代表。
戦う目をしている中で笑顔も見られる、
ジェイミージャパンの強さを語りましょう。

※『Sports Graphic Number』1080号で
掲載された対談記事の内容を、
「ほぼ日」編集バージョンで掲載しています。

Photo：杉山拓也

＞中竹竜二さんのプロフィール

中竹竜二（なかたけりゅうじ）

株式会社チームボックス代表取締役。
公益財団法人日本オリンピック委員会
サービスマネージャー。
一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟副理事長。
一般社団法人スポーツコーチングJapan 代表理事。

1973年福岡県生まれ。93年早稲田大学人間科学部入学。
学生時代に全身麻酔をともなう手術を７回経験し、
ケガをするたびにラグビーをやめようと考える。
４年時にラグビー蹴球部の主将を務め、
全国大学選手権準優勝。97年に大学を卒業後、渡英。
ロンドン大学で文化人類学を学び、
レスター大学大学院社会学部修了。
2001年三菱総合研究所入社。
2006年早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。
監督経験ゼロながらコーチングを徹底し、
2007年度から２年連続で全国大学選手権を制覇。
2010年２月退任。
同年4月、日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクターに就任。
U20日本代表ヘッドコーチも務め、
2015年にはワールドラグビーチャンピオンシップにて
初のトップ10入りを果たした。
2019年、日本ラグビーフットボール協会理事に就任し、
2021年に退任。
今大会では指導した選手たちの活躍ぶりを見守る。

＞にわかラグビーファン、U20日本代表ヘッドコーチに会う。

＞サンド・中竹・糸井の Ask me / Teach

＞コロッケパンを食べてラグビーを語ろうか。

糸井: ChatGPTとか、AIの発達は、
中竹さんの考え方に影響していますか。

中竹: ぼくにとっては、たのしみが増えていますね。
ぼくは、人間らしさが際立ってくる方が
価値が多いと思っているので。
ビジネスでもスポーツでもすごくシンプルで、
ぼくらのやっている仕事は
相手の本気と本音を引き出す役なんです。

糸井: 本気と本音ね。

中竹: 本気と本音って感動するじゃないですか。
本気の姿はわかりやすいですけど、
本音も「やっぱり心配なんですよね」
という言葉を引き出すことができたら、
「お、その一言いいですね」と褒めるんです。
なぜ言えなかったのかを訊いて、
恥ずかしさが原因だってわかったら、
「恥ずかしいってことも言いましょうよ」
みたいな感じで行動を促すんですよ。
本音の言葉は感動しますから。
ぼくらはその支援をしているんだと思ってます。

糸井: ビジネスのチームと、スポーツのチーム、
どっちを変えるのが難しいですか。

中竹: ビジネスの方が難しいですね。
言い訳をしますから。

糸井: そうか、言い訳ねえ。

中竹: ビジネスの場合は、参考事例を紹介しても、
「いや、うちの業界と違うから」というような
言い訳が出てくることが多いですね。
スポーツは勝ち負けがはっきりしているからか、
言い訳をすることが少ないんですよ。
「うちはバレーボールのチームで、
ホッケーとは違います」と言えなくはないですが、
やっぱり、そう言う人は勝てませんから。
本質的には、スポーツやビジネスといった、
そのくくり方も取った方がいいなと思っています。

糸井: 言い訳と説明は紙一重だから、
いたちごっこになりそうですね。

中竹: そこから垣間見えるちょっとした本音を拾うんです。
「あっ、恥ずかしくて言えなかったんですね。
なんでぼくの前では言えるのに、
みんなの前では言えないんですか」
というアプローチをかけるんです。
ぼくはコーチングの場では、
相手に嫌がられることも言いますけど、
サポートに来ているわけであって、
戦ったり、ぼくにマウントを取ったりしても、
それはもったいないことなんです。

糸井: 新入社員が相手でも、社長が相手でも、
中竹さんは同じような態度ですよね。

中竹: 同じですね。
ただ、新人の方が自分の見られ方を気にしますね。
価値のある人間だと思われたいから。

糸井: はじめてのことをやるときって、
どこかで、こうありたいって思いますよね。
罫線に合わせて文字を書いてるみたいな。
でもそれは、自分でもそうですよ。
人前で正式な挨拶をする場ってありますよね。
ぼくは段取りのあるものが、まったくできません。
社内のみんなからもそう思われてますよ。
スポーツでも段取りっぽくやるのは
自分をダメにしちゃいませんか。

中竹: あ、それは性格にもよりますね。
準備した通りにやりたい選手もいますから。

糸井: 言われてみれば、
イチロー選手のルーティンもそうか。

中竹: もちろんその場その場で、
いろいろ変えているとは思いますけど。
両極端な選手をいろいろ見てきまして、
型通りにやったらパフォーマンスが上がる選手と、
型を作っていくプロセスで挫折するけど、
自由にやらせたら伸びるっていう選手がいます。

糸井: それ、何が違うんですかね。

中竹: その人が生まれ育った環境や、性格、
いろんな経験によって変わるんじゃないかと。
人間って、いろんなことで学習していきますから。
強化学習といって、ひとつ何かをすると
無意識にまた同じことを繰り返して、
どんどん強化されていくんです。
段取りと準備を徹底的にやってうまくいく人は、
一度成功すると、その方面が伸びていきます。
ですが、若ければ若いほど、
「今まではそうだったかもしれないけど、
あなたは本当はこっちの人間かもよ」
みたいな感じで逆に振ってあげると、
意外と逆側の方面で伸びたり、
両方が使えるようになったりすることもあります。

糸井: 段取りって、みんなで磨いてきたものなんで、
それを借りると都合がいいんですよね。
で、その素晴らしさがわかってるから、
社会がどんどんそっちに寄っていくんです。
でも、みんなが同じになると、
「コンピューターの方がすごいぞ」となっちゃう。
段取りじゃないものがあるって知るだけでも
変わってくるものがあるんじゃないかなあ。
ぼくは、段取りの部分って、
「得だから使う」っていう方向に
持っていけたらいいなあと思ってるんですよね。

中竹: 道具として使うわけですね。

糸井: そう、段取りは道具です。
段取りとかマニュアルには、
自己を入れてはいけないみたいな
イメージがありますよね。
でも、自分で決めていいことだって
いくらでもあるわけです。
中竹さんもいろんな組織に所属しながら、
不自由に感じることはありましたか。

中竹: 不自由だなって思ったときには、
昔からよく反発していましたね。
早稲田大学でラグビー部だったころ、
１軍から10軍くらいまであって
ぼくはずっと試合に出られていないのに
キャプテンに選ばれたんです。

糸井: ということは、実力ではなくて。

中竹: おかしいなとか、嫌だなってことは、
体育会系の中では珍しく
先輩にも文句を言っていました。
「試合にも出てないお前が何言ってんの？」とか、
「お前みたいなやつにわかるわけない」と、
監督や先輩たちには馬鹿にされていましたけど。

糸井: よくめげないで続けましたねえ。

中竹: みんなが嫌だなって思っていたけれど、
やっぱり言えなかったことを知っていたので。
どうせぼくはレギュラーになれないけれど、
言いたいことはちゃんと言った方がいいと思って。
みんな、組織の掟に従う方が楽なのもあるし、
文句も言わずに優しいなぁと思っていたんです。
そこでぼくは、３年生のときに
４年生のキャプテンにガーっと文句を言いました。
４年生の先輩方も本当は
キャプテンに対して言いたいことがあっても、
今さら言うと裏切った形になるので、
「じゃあ、ぼくが代弁しますよ」という感じで。
それでも、やられっぱなしなんですけどね。

糸井: やられっぱなしかぁー（笑）。

中竹: ぼくが早稲田で監督になったときも
周りの大人たちからは
「本当にお前は文句ばっかりだな」と言われて、
うまくいかないこともありましたね。
でも、ぼくは自分が考えて言いたいことを言う。
決めたことをやるために来たわけなんで、
自分に正直に生きていたと思いますね。

糸井: よく言い続けましたね。

中竹: そうですね。
なんでも意見を言えばいいだけじゃないんだって
わかったのは、ラグビー協会に入ってからですね。
コーチの改革をしているときに、
いろんなコーチや大先輩たちと関わりながら、
それでも中で戦っていたんです。
そのときに大先輩から
「組織の中で戦うのはいいけど、
お前が切られたら俺たちはどうするんだ。
もう少し言い方には気をつけろよ」
とアドバイスを受けてハッとしましてね。
正論を吐くことや意見を言うことが目的になると、
ぼくが取り組んでいるコーチ改革ができなくなるし、
変わろうとしていた日本のラグビーにも
水を差すことになってしまいます。
そこでちゃんとコントロールするようになりました。

糸井: つまり、さっき話に出ていた、
人間関係の技術を道具として使うってことですよね。

中竹: そうそうそう。
そこはまだ未熟だなと思います。

糸井: 「あの人は柔らかくなったね」と言われている人は、
その技術を覚えた人が多いんじゃないかな。

中竹: そこですよね、たぶん。

糸井: 今日はラグビーの話をしてるのか、
ビジネス、人間関係、ブランド、
どの話なのかわからないですけど、
全部似たところの話をしましたよね。
ラグビーのにわかファンのみなさんには
どうだったんでしょう。
ぼくは本当におもしろかったです。
なんか、全体に勇気が出ましたね。
ありがとうございました。

中竹: こちらこそありがとうございました。

（おわります）

2023-10-04-WED