哲学研究者の永井玲衣さんは
答えのない問いをみんなでじっくり考える
「哲学対話」という活動を行っています。
どういうものなのか知りたくて、
永井さんの哲学対話を見せていただきました。
舞台は都内の小学校。
「強いとはなにか」という問いから、
子どもたちと永井さんが考えを深めていきます。
第1回から第3回は哲学対話のレポート、
第4回から第6回は永井さんと、
サポートにきてくれた大学院生の
奥田時生(とき)さんのインタビューです。
ほぼ日の安木が担当しました。

>永井玲衣さん プロフィール

永井玲衣(ながい・れい)

1991年、東京都生まれ。哲学研究者。学校、企業、自治体など幅広い現場で、答えのない問いを深めていく「哲学対話」を行う。エッセイの執筆なども手がけており、著書に『これがそうなのか』(集英社)、『さみしくてごめん』(大和書房)などがある。2021年に刊行された『水中の哲学者たち』(晶文社)で第17回「わたくし、つまりNobody賞」受賞。趣味は念入りな散歩。

前へ目次ページへ次へ

第1回 強いだけだと、負けたら意味がなくなるじゃん

永井
こんにちは。
今日をたのしみにしてきました。
私は永井玲衣といいます。
レイチェルって呼んでください。
一緒に哲学対話を手伝ってくれるお兄さんは、
トッキーといいます。
奥田
トッキーです。
よろしくお願いいたします。

こどもたち
(口々に)レイチェル! トッキー!
永井
みなさんは、哲学って聞いたことある?
こどもたち
(口々に)ある! なーい!
永井
哲学はかんたんに言うと、考えるってことです。
みなさん、考えるのは好きですか?
こどもたち
(口々に)すきー。
想像のほうがすきー。
永井
考えることも、想像することも、似ていますね。
どちらも、一人で考えることが多いと思うけど、
今日はみんなで一緒におしゃべりをしながら考える、
「哲学対話」というものをしたいと思っています。

永井
対話というのは、相手の話をちゃんと聞くことが大事です。
そして今日は「しゃべらなきゃ、だめ」とか
「かっこいいこと言わないと、だめ」
という場では、全然、ありません。
だからみんな、無理していいことを
言おうとしなくてだいじょうぶです。
一緒に悩みながら考えて、
考え途中でうまくまとまってない言葉でも、
教えてくれたら、すごく嬉しいです。
こどもたち
はーい。
永井
今日はみんなのお名前は、
食べ物の名前で呼ばせてもらおうかな。
好きでも嫌いでも、なんでもいいよ。
「今日はこの食べ物の名前で参加します」って決めて、
わたしに教えて下さい。




 
永井さんは小学1年生から3年生のメンバーと、
奥田さんは4年生から6年生のメンバーと
哲学対話を行うことになりました。
今回は永井さんのチームの様子をレポートしていきます。

なっとう(永井)
じゃあ、今日は「強いもの」について話そうかな。
みんなは「強いもの」ってどんなものがあると思う?
‥‥じゃあ、すずきから順番に教えて。

△ぬいぐるみを持った子が話すルール。
自分の番が終わったら、次の子にぬいぐるみを渡します。 △ぬいぐるみを持った子が話すルール。 自分の番が終わったら、次の子にぬいぐるみを渡します。

すずき
えっと、勇気強い。
なっとう(永井)
あ、勇気強いね。
きなこもち
ぼくは、アイアンマンだと思う。
すごい強いし、変形できるから。
チキン
マイクラ(※マインクラフト)の敵。
あんこ
トンカチ!
えっと、たたいたら、痛いから。
きなこもち
えー、たたいたら、ケーサツにつかまるよ。
ナゲット
いや、こどもだったらつかまらないよ。
きなこもち
つかまるよ!
なっとう(永井)
じゃあ、次はアイスの番だよ。
アイス
レンガ。
だって、固いじゃん。
ナゲット
えー、すぐ崩れそうだけど!
なっとう(永井)
じゃあさ、みんなに質問だよ。
「こわれにくい」ってことが、強いってことなのかな?
きなこもち
アイアンマンは誰にもこわせないよ。
なっとう(永井)
きなこもち、
アイアンマンはなんで強いのか、教えて。
きなこもち
いろんな装備をもってるし、
ハルクと協力できるから。
ナゲット
おれはドラえもんだと思う。
世界破壊爆弾とか、
やばい道具をもってるから。
すずき
力が強くても、勇気がないと強くないから、
勇気強いのほうが、強いと思う。
なっとう(永井)
みんな、すずきの話、きいた?
「力が強くても勇気強くないと、強くないんじゃないか」
って言ってたけど、みんなどう思う?
ナゲット
ドラえもんの方が強い!
ドラえもんはロボットだからさ、
こわい道具も、持ってるしさ!
なっとう(永井)
じゃあ、強いっていうのは、
誰かを攻撃できるってことかな?
それとも、攻撃しないってことが、強いのかな?
ナゲット
‥‥うーん。
やっぱり、爆弾でもこわれないものは、
固いかもしれないけど、強いじゃないと思う。
攻撃できるもののほうが、強いと思う。
どんな固くても、
攻撃しないと受けてるだけになるからさ、
攻撃しないと一生、おわらないじゃん。
自分がどんなに強くても。
きなこもち
勝負がつかないよね!
なっとう(永井)
他の人はどう思う?
ヒレカツ
でも‥‥。
なっとう(永井)
あ、ヒレカツがなにか言いたいみたいだよ。
ヒレカツ
でもさ、強いだけだと、
負けたら意味がなくなるじゃん。
なっとう(永井)
ヒレカツの話を聞いて、どう?
一同
はい! はい!

きなこもち
まわりが自分より強かったらさ、
トレーニングしたり、修行して、
強くなればいいんじゃない?
でさ、ほかの人に暴力されたら、
仕返しするとか、いろんなことができる。
すずき
仕返しはしないほうがいいと思う。
ナゲット
まあね。
なっとう(永井)
次の人はどう?
ナゲット
はい。
仕返しすると最終的に、戦争になっちゃうよ。
アイス
やっぱり仕返ししないほうがいいと思う。
なんでかというと、頑丈にしておいて、
そのままにしておいたら
いつか攻撃してくる方も気がなえると思うから、
戦わないほうがいいと思う。
きなこもち
でもさ、ピンチになった時にさ、
強くなかったら、自分が困るだけでしょ?
だから、強くなったほうがいいと思う。
ヒレカツ
あのさ、ケンカしてもあやまれば
すぐ終わること、あるじゃん。
それで終わる戦いもあると思うから、
暴力を先にやっちゃったとしても、
すぐにあやまれば
相手もゆるしてくれるんじゃないかな?
なっとう(永井)
なるほど。他の人はどう思う?
すずき
あの‥‥。
なんか、戦う話になってるけど、
戦っても、あきらめないほうが強いと思う。

(子どもたちの哲学対話は、明日へつづきます。)

2025-12-05-FRI

前へ目次ページへ次へ