80年代に世界的に大ブレイクした、
プリンスとモリッシーという、
ふたりの偉大なミュージシャンがいます。
音楽ジャンルはぜんぜんちがいますが、
ふたりの哲学、姿勢、生き方には、
どこか共通するものがあるように思うのです。
そのあたりのことが知りたくて、
プリンスを師と仰ぐ二重作拓也さんと、
モリッシーファン歴36年目の上村彰子さんに、
たっぷり語っていただきました。
プリンスとモリッシーについての全8回。
ふたりのおしゃべりは音楽の話から、
愛と、勇気と、自尊心の話になっていきました。

イラストレーション:秋元机

>プリンスについて

プリンス・ロジャー・ネルソン プロフィール画像

プリンス・ロジャー・ネルソン

ミュージシャン

1958年6月7日生まれ。
アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス出身。
78年『フォー・ユー』でデビュー。
82年『1999』84年『パープル・レイン』が、
立てつづけに大ヒット。
2004年にはロックの殿堂入りを果たす。
これまでグラミー賞を7度受賞。
47枚のアルバム(サントラ、ライヴ盤含む)を発表し、
12作品がプラチナ・アルバムを獲得。
アルバム累計は1億枚以上のセールスを記録。
2016年4月21日、急逝。享年57歳。

YouTube:Prince

>モリッシーについて

スティーヴン・パトリック・モリッシー プロフィール画像

スティーヴン・パトリック・モリッシー

ミュージシャン

1959年5月22日生まれ。
イギリス・マンチェスター出身。
83年に「ザ・スミス」のボーカルとしてデビュー。
ポスト・パンク時代のカリスマ的存在として、
若者から絶大な人気を獲得。
4枚のアルバムを発表したあと、
87年にザ・スミスを解散。
その後、ソロ活動を開始させ、
ソロ1作目『ビバ・ヘイト』は全英1位を獲得。
以降、現在にいたるまで35年以上、
精力的に活動をつづけている。

YouTube:Morrissey
YouTube:The Smiths

>二重作拓也さんのプロフィール

二重作拓也 プロフィール画像

二重作拓也(ふたえさく・たくや)

挌闘技ドクター・ツアードクター

福岡県北九州市出身
1985年、プリンスに衝撃を受ける。
プリンス所有のペイズリー・パーク・スタジオや、
映画『パープル・レイン』の舞台となった
ファースト・アヴェニューでもライブを経験。
96年福岡公演後、元プリンス&ザ・NPGの命により
アフターパーティ―を開催する。
以降、プリンス・ファミリー来日時の
ツアードクターとしてミュージシャンをサポート。
2016年4月のプリンス訃報直後に現地入り、
密葬時のシーラEとの再会の写真が
ニューヨーク・タイムズ紙等に掲載される。
帰国後『プリンスの言葉』を発表。
次いで英語版『Words Of Prince』
『Words Of Prince Deluxe Edition』が
世界リリースされ、米国Amazonの
ソウルミュージック部門ベストセラー1位を獲得。
2020年ソニー・ミュージック・エンターテイメントから
再発されるオフィシャル・アルバム
『The Rainbow Children』にて西寺郷太氏と対談。
プリンストークイベントでは、
音楽ジャーナリスト・吉岡正晴氏、湯浅学氏、
ソラミミスト・安齋肇氏、
プリンスがプロデュースした唯一の
日本人シンガー・小比類巻かほるさんらと共演。

ブログサイト『Purple University 紫大学』、
日本語最大のFBグループ『プリンス・ラヴ・ジャパン』、
Twitter『プリンス名言@Princewords1999』を主宰。
著書に『Dr.Fの挌闘技医学』『プリンスの言葉』など。

Twitter:
@takuyafutaesaku
@Princewords1999

>上村彰子さんのプロフィール

上村彰子 プロフィール画像

上村彰子(かみむら・あきこ)

ライター・翻訳者

東京都浅草出身。
13歳のときにザ・スミスと出会って以来、
モリッシーファン歴は35年以上。
2012年にモリッシー来日を記念して、
「Action is my middle name
かいなってぃーのMorrisseyブログ」を開設し、
モリッシーに関する情報発信をはじめる。
2013年、モリッシーのライブDVD
『モリッシー25ライヴ』(キングレコード)の
字幕翻訳、解説を担当。
2019年、モリッシーの若き日を描いた映画
『イングランド・イズ・マイン
モリッシー, はじまりの物語』で字幕監修を担当。
著書に『お騒がせモリッシーの人生講座』。
2020年7月17日に
翻訳書『モリッシー自伝』を刊行予定。

Twitter:@KAINA0912
ブログ:かいなってぃーのMorrisseyブログ

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第6回 過去ではなく、いま。

二重作
プリンスは2016年に亡くなるまで、
ずっと現役で作品をつくりつづけました。
プリンスとモリッシーは、
キャリアが長いという共通点があります。
上村
はい。
二重作
それだけキャリアが長いと、
人気のアップダウンというのは
必ずあるわけで。
上村
ありますね。
二重作
プリンスは84年の『パープル・レイン』が
世界で2000万枚以上売れてしまったので、
いちばんの敵が「過去の自分」になりました。
たぶんそれはモリッシーも同じで、
ソロになったあとも「元スミス」というのが、
ずっとつきまとっていたはずです。
上村
そうだと思います。
いまだに再結成を求められて、
うんざりしているようです。
モリッシーはスミスのことを聞かれて、
「スミスは死んだ」って言ってました。

二重作
あー、なるほど。
上村
この前、元スミスのドラムだった
マイク・ジョイスが来日して、
私がトークショーの司会をしたんです。
マイク・ジョイスが24歳くらいのときに
スミスは解散して、彼はそのあとも、
いろいろなバンドで活動はするんですが、
どれも長くつづかなかったそうです。
いまは地元のラジオ局でDJをやって、
家庭菜園をちょっとやったりして、
おだやかな余生を過ごしてるみたいです。
ドラムはもう10年以上、
触っていないとも言ってました。
二重作
現役から抜けちゃったんですね。
上村
すごくいい人だったんですけど、
そういう姿を見ると、
「モリッシーとなんたる違い!」って、
ちょっとびっくりしました。
過去の栄光だけで生きていくのも、
ひとつの生き方だと思うんです。
イギリスで「元スミス」なんて言ったら、
いまでもVIP扱いなわけだし、
それはそれで幸せだと思うんです。
二重作
それも、ひとつの生き方ですよね。
上村
一方でモリッシーは、
「スミスは死んだ」と言います。
彼はスミスに対して、
「remote」 という単語を使います。
「remote」って、距離的に、時間的に、
遠く「離れた」という意味なので、
いまの自分とは「関係ない」ってことです。
二重作
自分の意思で遠ざけてるんだ。
はー、かっこいいですね。
上村
モリッシーはスミス時代の歌を
ライブでもやりますが、
いま聴くほうが断然かっこいいです。
過去を切り離して、過去をあざ笑うかのような、
いまの自分の表現力で歌います。
そういうところが、いちいちかっこいい。
二重作
過去の自分を潔く捨てられるのは、
ふたりの共通点ですね。
プリンスも過去の自分を葬り去る過程を、
アルバムにして残しています。
上村
プリンスは名前すら捨てましたよね。
二重作
はい、自分の名前さえ捨てます。
しかも「プリンス」って本名なんです。
上村
え、本名なんだ!
二重作
プリンスは本名さえも捨てます。
92年リリースの『LOVE Symbol』は、
マイ・ネーム・イズ・プリンス
という曲からはじまるんですが、
これはプリンスがプリンスを
葬り去る過程を描いたアルバムです。

上村
ロックオペラみたいになってるんですね。
二重作
しかも、この頃の
プリンスのライブのオープニングは、
金のジャラジャラ帽をかぶって出てきます。
あ、そうそう、じつはきょう‥‥。
上村
え、まさか‥‥。
二重作
そう、あるんです。
プリンスのジャラジャラ帽。
はい、じゃーん!

上村
強烈(笑)!
二重作
そのときのライブでは、
この帽子をかぶったプリンスが登場します。
マイクはピストル型になっていて‥‥。
上村
あの、ちょっと、ごめんなさい。
二重作
はい?

上村
いや、そのまま話されても、
内容がまったく頭に入ってこなくて‥‥。
それ、二重作さんの手づくり?
二重作
いやいや、売ってるんです。
ロンドンにプリンスのオフィシャルストアがあって、
そこまで買いに行きました。
たしか、94年だったかな。
すみません、ひとまずとりますね(笑)。
上村
ありがとうざいます。
貴重なものを見せていただいて。
二重作
このジャラジャラ帽子は、
みんなが見てるのはほんとの俺じゃないよ、
プリンスを演じてるんだよ、
の表明なんです。
とにかくプリンスは、
自由であるためなら、
自分の名前も捨てます。
バンドだって解散する。
ツアーによっては、
いちばん有名な『パープル・レイン』も演奏しない。
ふつう過去の栄光を手放すって、
怖いことだと思うんです。
上村
そうですよね。うん。
二重作
もちろんプリンスも怖かったかもしれません。
でも、プリンスは臆することなく、
アクセル踏む姿をぼくたちに見せてくれるんです。

上村
プリンスがやってることって、
いつも「いましかない」って感じですね。
二重作
ああ、そうですね。
まさにそういう感じでした。
上村
モリッシーもそうなんです。
彼はステージに出てきて、
「No past, No future, Just NOW!」って叫んで、
その流れで過去のスミスの曲を歌います。
二重作
おおー。スミスの曲は歌うけど、
それはもう「いまだぞ」っていう。
それはかっこいいですね。
上村
過去の自分をなぞるだけって、
それは「いまの自分」じゃないんですよね。
いまやるならやるで、
ちゃんとアップデートしていかないと。
二重作
過去をずーっと引っ張っていたら、
それは「いま」という時間を、
おろそかにしてるのと同じですからね。
上村
ときどき日本でも、
「〇〇アルバムの完全再現」みたいな
ライブ公演をやるじゃないですか。
昔、人気だったバンドが来日して。
二重作
ええ、ええ。ありますね。
上村
過去を思い出してよろこぶ人もいるから、
それはそれですばらしい企画だと思うんです。
同じことやりつづけることで、
そのバンドの価値も上がるわけだし。
でも、なぜか私はそういうのじゃない、
「リアルタイム・アーティスト」が好きなんです。
そのほうが表現者にとっても、
健全なことなんじゃないかって思いますね。

(つづきます)

2020-06-07-SUN

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  • 二重作さんの『プリンスの言葉』、
    デラックス・エディションになって
    近日発売予定!

    生前、プリンスがメディアに発した
    メッセージや歌詞の内容をひろい、
    その真意をわかりやすく解説したのが、
    二重作さんの著書『プリンスの言葉』です。

    二重作さんによると、
    現在「デラックス・エディション」を
    製作中とのことですので、
    発売までしばらくお待ちくださいね。
    英語版『プリンスの言葉』も、
    Amazonから購入できますよ。

    最新情報が気になる方は、
    二重作さんのTwitterからどうぞ!

  • 上村彰子さんの著書
    『お騒がせモリッシーの人生講座』、
    好評発売中!

    「ザ・スミス」のボーカルとしてデビューし、
    ソロ後も世界中を虜にするモリッシー。
    音楽活動30年目の2013年には、
    自伝「Autobiography」を発売して、
    英国で大ヒットをとばします。

    その自伝の日本語版の翻訳作業に
    とりかかっていたのが上村彰子さん。
    ところが7~8割の翻訳を終え、
    出版の最終調整していた段階で
    本人から「英語以外の出版禁止」の通達が‥‥。

    それでもめげることなく、
    その自伝の中のエピソードと、
    ファン歴35年以上になる上村さんの
    モリッシー論を掛け算することで、
    この本が誕生したというわけです。
    Amazonでのご購入はこちらからどうぞ。

    そしてうれしいことに、
    2020年7月17日には7年の月日を経て、
    「モリッシー自伝」の日本語訳版が、
    正式に刊行されることが決定しました!
    現在、Amazonで予約受付中です!