
おぼえてらっしゃる読者も、
いるかもしれませんが(いてほしい!)、
いまから5年前の2020年に、
個性ゆたかな高校生たちに話を聞きました。
群馬県立尾瀬高等学校自然環境科、
3年生のクラスで学んでいた
「昆虫博士と、魚釣り名人と、鷹匠」です。
取材の終わりに、
「じゃあ、次は5年後に会いましょう」
と言って、ぼくらは別れました。
5年後の今年、その約束を果たすべく、
久しぶりに会ってきました。
再集合してくれたのは、
虫博士の谷島昂さんと鷹匠の小川涼輔さん。
そして、当時の担任だった星野亨先生。
かつての高校生はぐっとたくましく、
先生は、相変わらず愛されキャラでした。
全8回の5年後インタビュー、
お楽しみください。担当はほぼ日奥野です。
左から星野亨先生、谷島昂くん、小川涼輔くん。
- ──
- まだ高校生だったふたりに話を聞いてから
5年が経ちましたね。早い!
- 星野
- もうそんなに経ったのか、って感じですね。
- 谷島
- 早いよね、たしかに。
- ──
- 星野先生は、
いい意味でまったく変わらないですが、
ふたりはオトナになった気がする。
- 谷島
- あ、本当ですか?
- ──
- でも、やっぱり面影あるかあ。
昂(こう)くんは大学に通ってるんですよね。
- 谷島
- はい。ぼくは山形大学に在学していて、
この5年、昆虫に多くの時間を使っています。
- ──
- 毎日、虫を採りに行ってるんですか?
- 谷島
- はい、虫を採る調査などもしていますが、
心境の変化もあって、
いまは「虫を守る」保全も行っています。
いま、日本列島の自然環境は
ものすごく悪化していて、
昆虫でも、
すごい勢いで絶滅危惧種が増えています。
- ──
- 虫の種類が減ってるという話は、
聞いたことあります。
- 谷島
- その現状の中で、
絶滅危惧種の調査活動や保全を行っています。
- ──
- 「保全」に目覚めたのって‥‥?
- 谷島
- 進学で山形へ行くとなった瞬間からです。
山形の自然写真家で、
絶滅危惧種の保全を行っている
NPO日本チョウ類保全協会の
永幡嘉之(ながはたよしゆき)さんの下で
学ぼうと思っていたので。 - 永幡さんは、
昆虫の保全の第一線で活躍されてきた方です。
高校3年のときから
コンタクトを取りはじめて、
卒業して5年間、永幡さんのもとで
虫を守る活動を続けてきました。
昂くん、フィールドでのようす
- ──
- それって、具体的にはどういう活動?
- 谷島
- 虫によって方法はちがってくるんですが、
自分が特に力を入れて活動しているのは、
ヒメギフチョウというチョウの保全活動です。
チョウって
「環境の指標性」にすぐれた生物で....。
- ──
- 指標性。
- 谷島
- チョウは、いろんな環境に生息していて、
湿性・高山性・森林性・草原性と、
各環境に生息しています。
つまり、チョウの種類を見ると、
各環境を評価することができます。 - だから、自然環境を考えるときに、
とても重要な存在なんです。
- ──
- なるほど。
- 谷島
- 具体的には、山形県の鮭川村で、
ヒメギフチョウの保全活動をしています。 - ヒメギフチョウの減少は、
複合的な要因が絡んでいますが、
各地で生息地が減少しています。
そこで、雑木林の手入れや下刈りをして、
ヒメギフチョウを守っていたりとか。
- ──
- すごいなあ。高校生のときも思ったけど、
昂くん、いっそう立派になって‥‥。
- 谷島
- いえいえ(笑)。
- 尾瀬高のときの同級生の女の子や後輩が
手伝いに来てくれたり、
今もいろいろ
尾瀬高の仲間の手を借りているんですよ。
だから、すごくありがたいです。
- ──
- その人たちも、虫好き仲間?
- 谷島
- いや、必ずしもそうじゃないんです。
はじめはヒメギフチョウの存在すら
知らなかった人も、
このチョウを守りたいんだ、
だから手伝ってくれないかって言うと、
全国から集まってきてくれるんですよ。
- ──
- おお、仲間の力。泣ける!
- 谷島
- 尾瀬高校の自然環境科で
長い時間をともにしたからこそ、
それがきっと
大事なことなんだって理解してくれる。 - みんな、本当にありがたいです。
涼輔も、フラっと来て手伝ってくれたり。
- 小川
- そうだっけ?
- 谷島
- 来たよ(笑)。
- ──
- 尾瀬高のネットワークが生きてるんだね。
- 学校を出てからの進路って、
みんなどんな感じなんですか、星野先生。
- 星野
- 4年制大学が3割、専門・短大が3割、
就職が3割くらいです。
谷島くんたちの代で
自然科学系の大学へ行ったのは4、5名。
でも、やっぱり、
自然環境に関わっていきたい、
という気持ちを持った子が多かったです。
- 谷島
- 自然が好きで尾瀬高校に入ったけど、
卒業後、
自分たちの熱量をどう発散したらいいか、
わからない人たちも多い気がしていて、
だから今後、自分が、
自然と関わる窓口になっていけたらなと。
- ──
- いまは大学‥‥何年生?
- 谷島
- 4年生です。
- ──
- じゃあ、もうすぐ卒業だ。
- 谷島
- 卒業したあとのことは悩んでいます。
- いずれにしても
生涯を通じて虫と関わっていきたいので、
何らかの仕事を探して、
山形県に定住したいなとは思っています。
- ──
- 昂くんが山形に行ったのは偶然というか、
永幡さんがいたからだと思うけど、
実際に住んでみて、
ここで人生をやっていこうと思えたんだ。
- 谷島
- そうですね。この5年、年間150日以上、
多い年は230日くらい、
フィールドに出ていたんですが、
調べたい昆虫もまだまだ多いですし、
ヒメギフチョウをはじめとした昆虫の保全にも
関わっていきたいので、
今後も山形で活動を続けていきたいです。
- ──
- 東京から群馬の尾瀬高校へ行って、
さらに山形へ行って‥‥住み続けるって、
人生そのものが「旅」みたいですね。
- 谷島
- そんな感じがします。
- ──
- ちなみに、昆虫が絶滅しそうかどうかは、
どうやってわかるんですか?
- 谷島
- いろいろな方法がありますが、
そもそも「減少している」ということは、
顕著にわかります。
- ──
- なるほど。「いない」ということが、わかる。
- 谷島
- そうです。ゲンゴロウや水生昆虫の場合、
外来種や農薬などの影響で減少しています。
特にアメリカザリガニや
ウシガエルが入った水域には、
水生昆虫が驚くほどいなくなります。 - 山形県でもゲンゴロウが残ってる場所は
本当に少なく、誰も気づかないまま、
外来種などで絶滅するのは、
あまりにも悲しいことだと思います。
- ──
- だから調査が重要だ、と。立派だなあ。
前から立派だったけど、この5年で‥‥。
- 谷島
- 厚みが出ましたかね。
- 小川
- 自分で言うな。
- ──
- ははは。いや、出たと思う。厚み。
ねえ、先生。
- 星野
- 高校の頃からユニークなところがあって、
ぼくも可能性を感じていましたけど、
いまは、
その可能性が実体化してきてる感じです。 - すごいなあと思いますね。
(つづきます)
2025-12-18-THU
-
5年前、 2020年のインタビューはこちら。
