鈴木おさむさんの仕事ってなんだろう。
テレビ、ラジオ、映画、舞台、小説、マンガ‥‥、
「放送作家」という職業が
どんな仕事かわからなくなっちゃうぐらい、
いろんな企画を考えてきた鈴木おさむさん。
糸井重里を相手に「ほぼ日の學校」で
ご自身の半生をたっぷり語ってくださいました。
夢を掲げた青年が放送作家になるまでの道。
大人に認められたくて続けたこと。
圧倒的なスター SMAPとのめぐり合わせ。
いつもいつもお題を与えられては、
研究とアイデアで乗り越えてきたおさむさんの、
なんだか勇気がもらえるお話です。
鈴木おさむ（すずき・おさむ）
1972年生まれ。放送作家。
千葉県千倉町（現・南房総市）生まれ。
19歳の大学在学中に放送作家となり、
初期はラジオ、20代中盤からは
テレビの構成をメインに数々のヒット作を手掛ける。
30歳の時に森三中の大島美幸さんと結婚。
その結婚生活をエッセイにした
『ブスの瞳に恋してる』はシリーズ累計60万部。
小説では
『芸人交換日記～イエローハーツの物語～』（太田出版）
『美幸』（KADOKAWA）
『名刺ゲーム』（扶桑社）など。
映画脚本では「ハンサム★スーツ」
69億円のヒットを記録した「ONE PIECE FILM Z」
「新宿スワン」なども担当。
ドラマや映画の脚本、舞台の作・演出、
ラジオパーソナリティなど様々な方面で活躍。
- 糸井
- 20歳ぐらいの若い頃って、
大人がちょっとかわいがってくれるのが、
すごくありがたいですよね。
- 鈴木
- それは大人に認められたいっていう
気持ちだと思うんです。
- 糸井
- ああ、そうかあ。
- 鈴木
- ラジオの放送作家になりたてのころ、
「毎日映画を観ろ」と言ってくれた人がいるんです。
もともと映画は好きだったんですけど、
レンタルビデオもないところで育っているんで
高校までは気軽に観られなかったんですよ。
で、大学では毎日レンタルビデオで
映画を観るようになったんです。
仕事もあったし、バイトもしていたので
１日１本を観るのって大変でしたけど、
とにかく365日観ようと思って毎日観ました。
- 糸井
- そういうことするよね、ちゃんとね。
- 鈴木
- いやいや、全然（笑）。
ぼくがなぜ続けられたかというと、
「自分もこれ観たんですよ」って言いたくって。
人に話して、おもしろいかどうか聞きたいんです。
- 糸井
- その話を続けてできる人がいないと
つまんないんだよね、やっぱり。
- 鈴木
- あと、言われたこともできていないと、
大人がぼくのことを、
認めてくれないじゃないですか。
やっぱり19歳のガキなんで。
- 糸井
- やるだけのことをやった人と
会いたいんだよね、大人って。
- 鈴木
- そうなんですよ。
ただ１日１本観ているだけじゃ
ダメだなってことに気づいたんです。
いろんな人に映画のベスト３を聞くようにしたら、
おもしろいもので、
ぼくのことをバカにしているような人とか、
普段は目を合わせてもくれない人でも、
映画のベスト３は意外と教えてくれるんです。
- 糸井
- そりゃそうだよ、自分が好きなんだもん。
- 鈴木
- 大人に教えてもらった映画を観て、
監督を知ったり、作風を覚えたりするんです。
おもしろい作品もあれば、
全然おもしろくない作品もありますが、
おもしろくないとは言いません。
教わった映画を３本観て感想を伝えると、
大人は「え、観てくれたの？」って驚くんですよ。
ホントに観るヤツはなかなかいないんですよね。
ぼくは教えてもらった立場なのに、
「えっ、ありがとう！」って言われて、
すっごい距離が近くなるんですよ。
- 糸井
- わかるわ～。
- 鈴木
- 映画の好きなベスト３って、
けっこうその人のセンスが出ちゃうじゃないですか。
その人のセンス、背骨を知れるというか。
- 糸井
- しかも、お礼まで言われちゃって。
- 鈴木
- なんだったら、
「メシ食いに行こうよ」って言われたり。
その習慣は２年間ぐらい続けたんですよ。
- 糸井
- それが20歳ぐらい？
- 鈴木
- 19歳の終わりごろからで、
20歳、21歳ぐらいは毎日１本の映画を観て、
800本ぐらいになりましたかね。
おかげで、その２年間に知識が増えました。
おもしろいもので、
映画を観たからってすぐにコントの設定が
浮かぶようにはならないんですけど、
数年経ってある日突然、
自分の頭の中にGoogleみたいな
検索エンジンができるんですよ。
お題を頭の中に放り込むと、
ポンってコントの設定が出てくるみたいな。
何年かかかってできるようになったことです。
- 糸井
- 知識や経験を取り入れている時に、
数を気にしちゃダメだよね。
- 鈴木
- ホントにそう思います。
少ないデータベースで検索なんかしても
なんも出てくるわけないんですよね。
自分のデータベースを作るまでに
時間がかかるんだなって後で気づきました。
- 糸井
- まず、仕入れなきゃいけないよね。
- 鈴木
- そうなんですよね。
ぼくがいまだにやっていることとして、
知りたいものを知りたいし、
人に話を聞くのはその時のクセだと思います。
- 糸井
- その時、インターネットはどうしてたの？
- 鈴木
- インターネットはまだ家になかったんですよ。
- 糸井
- そうか、そのおかげだよね。
- 鈴木
- 職場のニッポン放送になら
ネット環境もありましたけど、
ひとつ検索するのにも
めっちゃお金がかかる時代だったんですね。
それがよかったと思います。
- 糸井
- でもさ、その時代に戻れって言われても、
もう戻れないじゃないですか。
- 鈴木
- 戻れませんし、つらくてイヤです（笑）。
- 糸井
- でも、鈴木さんが毎日映画を観ていたことって、
剣道の素振りみたいな基礎体力になって、
ものすごい大事でしたよね。
- 鈴木
- めちゃくちゃ大事でした。
しかも、ただの素振りじゃなくて、
素振りをすると、褒めてくれる人までいて。
- 糸井
- 人だね、また。
- 鈴木
- 褒めてくれて、おもしろがってくれた人が
また違う文化を教えてくれたんですよ。
あの時のぼくには、すごく大きなことでした。
- 糸井
- 聞いていて思ったんだけど、
鈴木おさむを褒めてくれる人って、
褒めることにケチじゃないよね。
- 鈴木
- ああっ！
- 糸井
- なかなか褒めない人ってケチなんだと思うんです。
ケチじゃない人が周りにいたから、
次のチャンスをまたくれるんだよね。
ラジオで放送作家をやっていて、
ある程度、目をつけられる場所に立ったんだよ。
- 鈴木
- 21歳である程度には行けたなと思ったら、
まあ、スムーズにはいかないんですよ。
ドラマで常盤貴子さんが人気が出たときに
『オールナイトニッポン』で特番をやることになって、
ぼくに放送作家の白羽の矢が立ったんです。
その特番が番組としてすごく成功したので、
常盤貴子さんで30分の箱番組ができることになりました。
当然ぼくに作家の話がくると思ってたら、こなかった。
そうしたら、ぼくより４つ上の先輩が来て、
「おさむ、俺は常盤ちゃんのことが好きだ」と言い、
後輩であるぼくが常磐さんの特番を担当したことに
納得してなかったと言いにきたんですよ。
- 一同
- （笑）
- 鈴木
- あっ、いまはその先輩に感謝してますけどね。
その先輩は続けて
「常磐ちゃんの箱番組ができるっていうから、
俺が先に手を挙げてやらせてもらうことになった」
と言うんです。
そんなの‥‥、びっくりですよね。
ぼくから仕事を奪ったその先輩はそのあと、
「自分がやりたいことを口にしていないと、
とられるからな」って言ったんです。
- 糸井
- おお～。
- 鈴木
- めっちゃくちゃムカつきましたよ。
だけど、たしかにそうなんです。
当然、自分に来るもんだと思っていたから
油断していたわけです。
- 糸井
- そうですね。
- 鈴木
- その一言でめっちゃ腹立ったんですけど、
そこからは「俺がやりたい！」とか、
やりたいことを口にするようにしたんです。
- 糸井
- 早く気づいてよかったねえ。
- 鈴木
- その頃、ぼくはAMラジオで仕事をしていたんですが、
FMラジオへの興味がすごくあったんです。
でも、AMのニッポン放送で、
「FMラジオの番組をやりたい」って言うのは、
たとえばフジテレビにいながら
「日テレの仕事をしたい」って言うようなもので、
「なんだアイツ」ってバカにされたんですが、
ニッポン放送と東京FMを両方担当している人が
「おさむ、FMやりたいって言ってたよな？」って。
ちゃんと聞いてくれていたんですよ。
- 糸井
- ああ、よかった。
- 鈴木
- 「ちょっとおもしろい仕事あるから行こうぜ」って、
東京FMに連れて行ってくれたんです。
そこで何個か番組を担当しているうちに、
「木村拓哉って知ってる？」と言われたんです。
木村くんが『あすなろ白書』で人気が出て、
糸井さんの番組に出るようになった頃でした。
「彼で、いままで作ったことのない番組を
作りたいんだけどやらない？」って言われて、
「やります！」と言ったことで、
ぼくの人生が大きく変わったと思います。
- 糸井
- それは鈴木さんも、木村くんも、
お互いの人生が変わったよね。
- 鈴木
- 「好きなことを口にしろ」って言われて
仕事を奪われたのはムカつきましたけど、
そのおかげで木村くんと出会えたんです。
その後、SMAPと仕事をすることにつながるんで、
ホントに人生が変わったなと思ってます。
- 糸井
- なんていうんだろう、
全部が材料になってますね。
- 鈴木
- 人生ってぜんぶつながっていくんですね。
そんなこと、糸井さんは
ぼくの100倍は感じてるでしょうけど。
- 糸井
- いや、ぼくなんてもうボーっとしてます。
- 鈴木
- いやいやいや（笑）。
（つづきます）
2022-10-25-TUE
