渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。

写真 小川拓洋

>小泉今日子さんのプロフィール

小泉今日子 プロフィール画像 photo ©︎今井裕治

小泉今日子(こいずみ きょうこ)

1966年生まれ。
1982年歌手としてデビュー。
同時に映画やテレビドラマなどで女優業も開始。
エッセイや書評など執筆家としても活動している。
2015年には自らが代表を務める
「株式会社明後日」を設立。
プロデューサーとして舞台演劇や音楽イベントなどの
企画、制作に従事。
また、映画制作プロダクション
新世界合同会社」のメンバーとして
2020年晩夏に公開予定の外山文治監督「ソワレ」に
アソシエイトプロデューサーとして参加している。

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第1回

もう逃げられないんだな。

糸井
さて、
とにかくはじめてみますけれども。
小泉
はい。
糸井
ようこそいらっしゃいました。
小泉
本当にね。

糸井
コロナウイルスのことがあるので、
今日はドアを開けて、
空気の入れ替えをしながら行おうと思います。
(この対談は2020年2月26日に
渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で収録しました)
小泉
はい、そうですね。
糸井
今後、ここ渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で、
対談のシリーズをやっていこうと思っています。
そのトップバッターに、
「小泉今日子さんに出てもらいたい」
と言ったのは、ぼくです。
小泉
ありがとうございます。
糸井
それには理由がちょっとあって。
このトークイベントのテーマは
「わたしの、中の人。」といいます。
小泉
はい、そうですね。
糸井
「中の人」って言葉、
知ってました? 
ぼくは2〜3年前くらいからかな。
小泉
はい。わたしも2〜3年前に
「ああ、そういうことなんだ」って
知りました。
糸井
『中の人などいない』という
タイトルの本を
書いた人もいらっしゃいます。
小泉
あ、そうなんですね。
糸井
NHK_PR1号さんという、
NHKの広報的なTwitterを担当していらした方が
書かれた本です。
「中の人はいったい誰なんですか?」という問いに、
「そんな人はいません」という建前で
答えていらっしゃいました。
でも、どんな人にもきっといるよね、中の人。
小泉
うん、います。
糸井
仮に、テレビの『情熱大陸』みたいな
ドキュメンタリー番組で、
どんなに追っかけてもらったとしても、
中の人は「別」にいるよね。
小泉
そうだと思います。
糸井
となると、
中の人としゃべる機会って、
ぼくら、ほとんどないことになっちゃう。
小泉
うん、うん。
糸井
でも、ぼくのイメージでは‥‥、
小泉さんとぼくは、
「中の人」としてしゃべったつもりが、
ところどころあるんですよ。
小泉
ありますね(笑)。
糸井
あるんです。
これを憶えてたんで、
この対談、お声がけしてみました。
でね、さっそくひとつ、中の人について、
質問をさせていただきたいのですが。
小泉
おぉ?

糸井
「何歳の人を自分の年上だと思ってて、
何歳の人を自分の年下だと思ってるか?」
小泉
ああー。
糸井
たとえば、甲子園で高校野球をしてる
18歳くらいの人のことを、
若いときは「おにいさん」だと思ってましたよね?
小泉
はい。
糸井
しかし自分がハタチぐらいになってもまだ、
「高校野球の人はおにいさん」と
思ってるケースがあります。
小泉
うん、ありますね。
糸井
つまり、この質問は、
中の人に対して
「あなたはいま、いくつですか?」
と訊いていることになります。
小泉
ふふふ、そっか、
中の人がいくつか‥‥ですね、
わたし、たぶん47歳ぐらいでしょうか。
糸井
はぁあ、そうですか。
その人は毎年、年をとるんですか? 
小泉
えっと、
一気にドンって、
47歳になった感じがあって。
糸井
えっ、ホント(笑)? 
その直前は?
小泉
それまでは33歳ぐらいだったかな。
会場
(笑)
糸井
はぁあ、なるほど。
小泉
でも、そのときどきで変わって、
68歳くらいになることもある。
対象によって、
コロッと自分の年齢が変わります。
糸井
ああ、それこそが
「中の人」っていうやつだね。
小泉
そうかもしれないですね。
糸井
でも小泉さんは、
デビューがそうとう早かったですよね。
自分の名前が
「たくさんの人が知っている名前」になったのって、
実年齢で何歳くらいからですか。

小泉
ええっとね、17歳ぐらいから
「あ、もう逃げられない」
という感じでした。
糸井
逃げられない?
小泉
15で事務所に入って、
16でデビュー曲を出したんですけど、
そのときはまだ、起こっていることに
自分の心の中が追いついていませんでした。
なんか、雲の上の話みたいで。
糸井
自分でやってるんだけど、
現実感がないわけか。
小泉
うん、全くなかったです。
それが15、6まで。
そこから1年ぐらい仕事して、
「あ、無理だな、これ」
糸井
逃げられない、と。
小泉
そうです。
「もう逃げられないんだな」
そんな感覚になりました。
糸井
でも、15歳のときから
人にワーッと見られるような仕事は、
すでにしていたわけだよね。
そのときにはまだ、
「逃げられる」気があったんですか。
小泉
学校を休むみたいに、
仕事も休めるんじゃないかと思ってました。
糸井
そうかぁ、
そのときは学校にも行ってるわけだよね?
小泉
学校は、やめちゃったんですけどね。
学校、小っちゃいときから
あんまり好きじゃなかったから、
よくサボってました。
だからあんな気分で
「フッ」と通れる逃げ道があるのかなと思ってた。
「これ、ないんだなぁ」と思いはじめるのは、
デビューして1年経ってから。
「もう消せないんだろうな、この1年は」
と思ったんです。

(明日につづきます)

2020-06-06-SAT

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