テレビ最盛期といわれた時代、
とんねるずは画面の中で
驚くようなことを次々と突破していきました。
いまYouTubeにも活躍の場所をひろげる
石橋貴明さんが、誰も越えられないような
人気の塔を築いた理由はなんなのでしょう?
渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で開催する
「わたしの、中の人。」対談シリーズです。

写真 小川拓洋

>石橋貴明さんのプロフィール

石橋貴明(いしばし たかあき)

1961年生まれ。
1984年、高校の同級生だった木梨憲武と
お笑いコンビ「とんねるず」を結成。
テレビ番組では
『とんねるずのみなさんのおかげです』
『ねるとん紅鯨団』『うたばん』
『とんねるずのスポーツ王は俺だ!』、
映画では『メジャーリーグII・III』に
謎の日本人選手「タカ・タナカ」役で出演。
2020年、YouTubeチャンネル
「貴ちゃんねるず」を開設。チャンネル登録者数130万人を突破する。
→石橋貴明さんのTwitter

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最終回 みんなが喜ぶ顔を、 まじめな石橋君は、 見てきたんだ。

糸井
これまでの話を聞いていると、やっぱり
石橋さんは悩まないですよね。
悩んだことはないですか?
石橋
これまでの人生において、
ちょっとずつはあるんです。
だけどまぁ、いつも
「なるようになるのかな」と思っています。
そんなふうに歳を取ってしまいました。
昔は40や50になったら
カッコいい大人になっているだろうし、
なりたいと思ってました。
でも、全くなってない。
ぼく、今年は60なんですよ。

糸井
そうらしいですねぇ。
石橋
自分が思っていたような40歳も迎えられなかったし、
50もダメだった。
でも、いくらなんでも60なら、
ちゃんとカッコよくなってんだろうなと思っていました。
だけど、この10月で60になるときにはおそらく
「えー! また違うじゃん!」
になりそうな気がします。
「違う違う、もっと落ち着いてて渋くて、
言葉少なくて、片手にはいいウィスキーと葉巻」
なんて思ってたんだけど、ぜんぜん‥‥。
糸井
違いますよね。
たぶん、一生、ダメでしょうね。
石橋
ダメなんですね。
糸井
ダメだと思いますね。
石橋
糸井さんは、いままで生きてきて
「うん、俺は歳相応に大人になったな」
と思った瞬間、あります?
糸井
これは先輩ぶって言うことでもないんだけど‥‥、
それはね、いや、
ないってことはないんですよ。なくはないんです。
でも「チリも積もれば」程度なんですよ。
石橋
チリも積もれば‥‥(笑)。
でも、これまで数々の
仕事をなさってきたわけじゃないですか。
「よし!」と思ったことも、当然あるわけでしょ? 
「これは、時代をつくったぜ!」と。

糸井
「よし!」はないですね。
石橋
え?
「よし!」ないんですか?
糸井
たとえあったとしても、わからない。
「よし!」というくらいのタイミングで
次を見てますから。
石橋
あ、もう?
糸井
うん。これはカッコいい話ではなく、
落ち着きがないということです。
「マンネリになるぞ」
「飽きるぞ」「つまんなくなるぞ」
そういうことばっかり考えているから、
すぐに次を見ちゃう。
だから「よし!」なんてことはありません。
でもね、こんな自分ですが、正直なことを言えば、
次のことばかり考える自分は嫌なんです。
ほんとうはいつも
なんにも考えなくていいところにいたんです。
石橋
そうかぁ。
糸井
「石橋貴明」みたいに
サイコロの目をまるごとつかむような生き方は、
ぼくらにはできないことです。
いつも「ダメだ、ダメだ」と思ってばかりです。
石橋
はぇ~。
糸井
だいいちぼくのこの世代、
数多く生まれすぎたんじゃないでしょうか。
タラコみたいに生まれちゃってますからね。
石橋
そうですか?
糸井
そう。粒が多すぎるんで。
そっからタラになる人はあんまりいない。
「このまま食われちゃうのかな」という思考で
ずっと生きてきたせいだと思いますが、
団塊の世代は
嫌なおやじと心配性なおやじしかいないですね。
だからさっきから聞いてて、
石橋さんがうらやましくてしょうがないです。
「やったー!」とバンバン次に行って、
推進力があって(笑)。

石橋
YouTubeやったのも自然な流れで。
糸井
そう、それも、すごくうらやましいです。
石橋
テレビに遊び場がなくなってきて、
これはもう現役引退、戦力外通告だなと思いました。
なかなか芸能人にはトライアウトがありませんから、
どうしましょう? と思っていたら、
マッコイ斉藤が
「貴さん、YouTubeやりましょうよ」つって。
だけど、やり方がわからない、
テレビしか知らないから。
糸井
そうですね、でも、いつも部室ですよ。
部室からずっと同じ。
石橋
はい、その延長線ですね。
「自分たちがおもしろいと思うことを、
じゃあまた、やりますか」
という感じ。

糸井
歴史と蓄積のあるテレビの方法を抱えた人たちが
YouTubeに入ってきたら、
テレビ局が引っ越してきたみたいに
デカいわけですし、おもしろいです。
イヤイヤやっているんじゃなければ、
それは絶対におもしろいですよ。
違う場所でどんなことをやろうが、
おんなじだと思います。
石橋さんの今日のお話で、全体を貫いているのは、
ほんとにまじめだ、ってことかもしれない。
石橋
ははは、そうかな? そうかな?
糸井
まじめだなんてあまりに言いすぎると
営業妨害になっちゃうかもしれないけど、
すごい勢いで長いこと走ってきた人ですから、
ほんとうはいろんな転び方があって
おかしくなかったんじゃないかと思います。
だけど、野球からはじまって、親父の話、
就職の話、女の子の話、赤坂でクビになった話、
カメラを壊した話、
不良にもならずに、なんとかこう、
次々にたのしく生きてきてる。
これはやっぱり、なんかある。
石橋
そうですか(笑)。
糸井
たとえばの話、
「勢いだけだと言われる」と
石橋さんはおっしゃってましたけど、
じゃあ、その「勢い」ってなんですか? 
誰でもわかることだけど、
まずは自分が元気を出さないと、
「勢い」は出ないじゃありませんか。
石橋
うん、そうですね。
糸井
きっと石橋さんは、そういうことを
いちいちやってんですよ。
そしてたぶん、その「勢い」のおかげで
みんなが喜ぶのを、
まじめな石橋君は、見てきたんだよね。
石橋
そうかもしれません。
でも‥‥、いまYouTubeの動画をつくってて、
思うことがあるんですよ。
糸井
はい。
石橋
撮影している最中に、
信じられないようなことが重なるんです。

糸井
ほうほう。
石橋
「え? それは、俺ら聞いてないよ」
「うわ、こういうことが起こるわけ?」
というようなことが重なって、
すっごくおもしろい1本の作品に
なったりするんですよね。
そんときに、思います。
「あ、やっぱり‥‥‥‥俺、持ってんだ」
糸井
わははははは、うん。
いや、ホントにそうなんだよ。
石橋
「あ、笑いの神様は、ちゃんと
持ってるやつを応援してくれてんだ」
と思ってます。
糸井
そのとおりなんだよ。
下向いて後ずさりしている人のところに、
何かは来ないんですよ。
「100円寄付してください」って言いながら、
下向いて後ずさりしてたら、
追っかけてってまで100円くれる人、いないです。
石橋
ああ、うん、そうかぁ。
糸井
石橋さんは、そうじゃないことを
いっぱいしたんだと思います。
そして、100円寄付してもらって、
さらに喜んでもらった、
というようないい経験をたくさんした人なんですよ。
それが、なんだか、すごくわかった気がします。
石橋
ありがとうございます。
いやぁ、たのしかったです。

糸井
すごく「中の人」でしたね。
わたしの、中の人。
時間押しちゃったけど、すいません。
まだ電車ある時間ですからね。
ありがとうございました。
石橋
ありがとうございました。
糸井
石橋貴明さんでした!

(拍手。おしまいです)

2021-01-09-SAT

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