
うちの中川、とタイトルにありますが、
正確には中川實穗さんは
ほぼ日の乗組員ではありません。
肩書としては、フリーの演劇ライター。
しかし、「ほぼ日の塾」の出身で、
「コロナと演劇」や「舞台の人。」など、
ほぼ日で演劇にまつわるコンテンツを
たくさん手掛けてくださいました。
そんな彼女が拠点を福岡に移します。
そして、福岡の演劇を盛り上げるために、
ひとりのライターとしての役割を超えて、
「とにかくしばらくがんばります!」と。
そんな決意を固めた中川さんの話に
「おおっ」と胸を打たれたほぼ日の永田とスガノが、
彼女を応援するべくインタビューしました。
取材のまとめは、同じく「ほぼ日の塾」出身の
鼈宮谷(べっくや)さんにお願いしました。
がんばれ、中川さん! 福岡のみなさん、
うちの中川をよろしくお願いします。
中川實穗(なかがわみほ)
一般社団法人「街と劇場」代表。福岡県出身。2013年に上京し、演劇ライターとして活動したのち、2024年末に福岡にUターン。福岡の演劇情報を掲載した月刊フリーペーパー「観劇せん?」の作成や福岡の演劇公演の取材、東京で制作される演劇公演のパンフレット制作などに携わる。2021年より「ほぼ日」で「コロナと演劇」「舞台の人。」シリーズを企画、取材、執筆する。
- 菅野
- 中川さんは、お金儲けのために
福岡に帰ったんじゃないんですか?
- 中川
- いや(笑)、お金儲けというか‥‥
東京より福岡のほうが
もうちょっと安定した暮らしができるかなと思って。
- 菅野
- そうでしょ。
- 中川
- なんのために帰ったかというと、
一番は老後のためなんですけど。
- 永田
- おお、リアルだね。
- 中川
- 本当に、死ぬときに福岡にいる想像しかできなくて。
- 菅野
- へぇー。
- 中川
- でも東京で仕事するのは楽しかったし、
老後になってから帰る選択肢もあったから、
いつ帰ろうかとずっと考えてたんですよ。 - 直接のきっかけになったのは、お仕事でご一緒した
あるアーティストの方から、九州に行ったときの
話を聞いたことなんですけど。 - 「(九州で)こんなに親切なことをしてもらった」
「みんな優しくてすごく嬉しかった」という話を
生き生きと語られてたんですけど。それを聞きながら
「いや、普通それくらいするよなあ」と思ったんですよね。
- 菅野
- 九州の人たちはそれくらい普通にするよ、と。
- 中川
- そう、そう。そのとき、私が東京でときどき
寂しい気持ちになるのって、
この「当たり前」のギャップのせいなんだなあと思って。
- 永田
- 「東京もんは冷たか!」と。
- 中川
- いや、違うんです(笑)。
東京でもみんなにやさしくしてもらってたけど‥‥
なんだろう、「ここにギャップがあったんだ」って
初めて気づいたんです、そのとき。
- 菅野
- なるほどね。
- 中川
- そしたらもう、思考が完全に
「帰る」モードになって。帰ろう! と思いました。
- 菅野
- でも、そこから1年2カ月で社団法人の
立ち上げまで行くってすごいですね。
- 中川
- もっとぼんやりするつもりでした。
でも、福岡の演劇の現状を見て、
何かやらないと自分が腐りそうだなと思ったんです。
やっぱり私は、演劇がないとちょっとつらいなと。
- 菅野
- なんでつらいの?
- 中川
- 私、演劇と出会う前って、
「人間未満」だったと思うんですよ。
- 永田
- 人間じゃなかった!?
- 中川
- いや、人間ではあったか(笑)
でも昔は社会のことはもちろん、
自分のことさえわからないくらい、
何も考えずに生きてたんです。 - 演劇を観始めてから、
社会問題に興味を持つようになったり、
逆に「生きることを真面目に考えすぎてたな」
って肩の力が抜けたり。
そういう、自分にとって
良いことがたくさんあったんですね。
- 菅野
- それは、映画とか小説では
カバーできないものなんですか。
- 中川
- それが、できないんです。
舞台に生の人がいて、こっち(観客)と
共鳴してるからこその感動があるから。
- 菅野
- じゃあ、演劇を知らない私たちは
まだ「人間未満」ってことだ。
- 中川
- それは人それぞれなんですけど(笑)
でも私に限って言えば、
演劇に「育てられた」感じがしますね。
演劇がないと、自分を保てる自信がない。
- 菅野
- それはもう切実だね。
- 中川
- 切実なんです。
- 永田
- 中川さんには
「最終的にこうなりたい、こうしたい」
っていう野望はあるの?
- 中川
- 野望‥‥。観る観ないは別として、
街の人たちの生活の中に
「演劇がある状態」をつくりたいです。
映画やスポーツや音楽は、
根付いているじゃないですか。
- 永田
- そうだね、たしかに。
- 中川
- でも演劇って、ない人にとってはない。
「今つらいから演劇でも観に行こうかな」
みたいな選択肢って、
あんまり一般的ではないですよね。
- 永田
- 映画は「気晴らしにちょっと観るか」とかあるもんね。
演劇はだいぶ気合入れないと、という感じがする。
- 中川
- そうなんですよ。
たとえばサッカー好きな人が
サッカー観てどう楽しんでいるかって、
なんとなく想像できるじゃないですか。
- 永田
- うん、うん。
- 中川
- でも、演劇を好きな人がどう楽しんでいるかって、
あんまり想像できないと思うんですよ。
演劇がもう少し生活の中にあれば、
コロナ禍でも「不要不急」って
言われなかったのかな‥‥って。
みんなが「演劇がないのは
誰かにとってはよくないことだよね」と
想像できるぐらいに、浸透すればいいなって思います。
(続きます)
2026-05-08-FRI