ほぼ日オフィス、引っ越します!
通いなれた「青山」を離れ、
次なる新天地「神田」に大移動です。
しかも今度の新オフィス、
これまでのはたらき方を見直し、
まったく新しい発想でつくるとか。
えっ?なにそれ?どういうこと?
というわけで、秋頃までつづく
新オフィス完成までのてんやわんやを、
不定期連載でおとどけします。
担当は「ほぼ日」稲崎です。

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07 未完成の完成。

みなさん、お久しぶりです!
お引っ越しコンテンツ、久々の更新です!

いやー、びっくりびっくり。
不定期更新という言葉に甘えてしまい、
前回から約1ヶ月も期間があいてしまいました。
なんだか毎年どんどん1年が
短くなっている気がするのですが、
みなさんの時間にお変わりありませんか?

さあ、近況をかけあしでご報告します。
9月初旬に基本プランはほぼ決まり、
移転先ビルの内装工事もはじまりました。

これまで未定のままだった
「お引っ越しの日にち」ですが、
最新情報によりますと
11月中旬頃が濃厚になってきました。
つまり、あと1ヶ月半でお引っ越し!
おぉ、いよいよって感じですね。

工事のようすは後日お伝えするとして、
本日は、まだご紹介していなかった
オフィスのコンセプトやデザインの話を
おとどけしようと思います。

ということで、先日、
オフィスの設計を担当してくださっている
「SUPPOSE DESIGN OFFICE」におじゃまして、
共同代表の谷尻誠さんと吉田愛さんに
お話をうかがってきました。

ほぼ日のオフィスのことから、
これからの働き方のことまで、
いろいろと訊いてきましたよ。
きょうと明日の2回連載です。

まずは前編から、どうぞ!

▲「SUPPOSE DESIGN OFFICE」共同代表の吉田愛さん(左)と谷尻誠さん(右)です。 ▲「SUPPOSE DESIGN OFFICE」共同代表の吉田愛さん(左)と谷尻誠さん(右)です。

──
最初の打ち合わせでは、
どういう話をされたんでしょうか?
谷尻
ほぼ日さんのほうから、
「こういうオフィスにしたい」みたいな、
具体的な話はあまりなかったんです。
もっとご近所付き合いできる
「開かれたオフィス」がいいねっていうくらいで。
吉田
キーワードをいくつかもらった感じでしたね。
神田という町に引っ越すとか、
そこはお祭りがあるような場所だとか。
昔の純喫茶みたいな空間もいいよね、とか。
──
そういう言葉からイメージを膨らませて。
谷尻
そうですね。それで最初、
ぼくたちが考えたオフィスを提案しました。
そうしたら糸井さんから、
「こういうのじゃないかもね」という話になって。
吉田
というのも、ちょうどその頃って、
日本でコロナの感染者数が
増えはじめたような時期だったんです。
ちょっと微妙なタイミングで。
──
2月、3月くらいでしたよね。
吉田
そうなんです。
いちばん最初のミーティングは、
ほぼ日のみなさんが「社食堂」に来てくださって、
ここでごはんを食べたりしたんです。
それくらいまだ警戒心がなかった頃で。
ところが、それから状況がどんどん変わって、
最初のプレゼンのときは、
もう外出自粛期間になっていて、
プレゼンもオンラインだったんです。

──
ちょうどリモートワークの頃でした。
吉田
そういう時期だったので、
たぶん糸井さんの中でも、
「これからのオフィスはどうなるんだろう」って、
あらためて考えられていたと思うんです。
私たちはここの経営者なので、
そのきもちはすごく理解できました。
ただ、世の中がどういう方向に行くのか、
まったく予測できない状態だったので、
そういう話をプレゼンに盛り込んでいいのか、
それもわからないような状況だったんです。
谷尻
だから、ぼくらがすごく感動したのは、
そのあと糸井さんの口から、
「夜逃げできるオフィスがいいんだよね」
っておっしゃったことなんです。
──
夜逃げできるオフィス?
吉田
もちろん比喩でおっしゃったわけですが、
すぐに夜逃げできるくらい、
軽やかに変化できる
オフィスがいいんじゃないかって。
──
あー、なるほど。
それで「夜逃げ」という言葉が
出てきたわけですね。
谷尻
もともとぼくらが設計するときって、
じつはネガティブな要素にこそ
豊かさがあるんじゃないかと思って、
そういう逆説的なものを
気にしてやっているところがあります。
だから「夜逃げ」という言葉を聞いたときも、
ネガティブな印象はぜんぜんなくて、
むしろその考え方は
いまのタイミングにピッタリだなって、
感覚的にものすごくしっくりきたんです。
さすが糸井さんだなって。

吉田
やっぱり糸井さん自身が、
世の中の空気というか、
そういうことにものすごく敏感な方だなって、
そのときあらためて思いましたね。
谷尻
そもそも本来なら、
「夜逃げっぽいのがいいよね」っていう提案は、
みなさんにヒアリングしながら、
ぼくらが導き出さないといけないものなんです。
その、いちばん大事なコンセプトを捉える部分を、
先に糸井さんから言われてしまったことは、
けっこう悔しかったんですよね。
吉田
ほんと、ドキッとしましたね。
──
その「夜逃げ」というコンセプトを、
実際のオフィスに落とし込むとなると、
どういうものになるんでしょうか?
谷尻
「夜逃げ」という言葉には、
「軽さ」とか「変化」とか、
そういう意味が含まれていると思ったので、
感覚的には「仮設性」という言葉に
置き換えられると思いました。
具体的には、内装工事で
つくり込むようなオフィスではなく、
置き家具のようなもので
オフィスをつくれるんじゃないかって。
吉田
空間をつくり込んで固定させるんじゃなく、
道具としてのオフィスだったり、
装置としてのオフィスだったり、
そういうオフィスのあり方を考えたんです。
置き家具自体もパーツを組み替えたり、
別の使い方ができたり。
配置を好きに変えられるので、
空間はいつでも更新できます。
──
なんとなくはわかるのですが‥‥。
えっと、その置き家具というのは、
実際にはどういうものなんでしょうか?
吉田
新しくつくるベンチや机に関しては、
あえてつくり込まずに、
原材料を組み合わせてかたちにしました。
例えば、荷物の梱包に使う
「PPバンド」ってありますよね。
リボン状の梱包用のテープ。
ああいうもので家具を仕上げるんです。
谷尻
そうすることで、
家具なんだけどビスを使わない。
PPバンドをハサミで切れば、
すべての材料がバラバラになるんです。

▲4階ロッカールームのイメージパース。 ▲4階ロッカールームのイメージパース。

▲4階に置くベンチのイメージパース。 ▲4階に置くベンチのイメージパース。

吉田
他の例でいうと、
2階にはボックス型のイスがあります。
このイス、上のクッションをとれば、
ただの四角い箱になります。
それをいくつか積み重ねると、
本棚としても使えます。

▲2階のオープンスペース。 ▲2階のオープンスペース。

▲ボックス型のスツールと丸テーブル。 ▲ボックス型のスツールと丸テーブル。

──
あぁ、なるほど。
イスと棚が同じパーツなんですね。
吉田
イスにもなるし、棚にもなる。
もちろん移動もできるので、
空間のレイアウトを
簡単につくり変えることができます。
小さな単位のパーツで
全体をつくっていくようなイメージですね。
固定しないから、好きに変化させられます。
──
つまり、空間を自由につくり変えられると。
谷尻
そうですね。
ぼくらがいつも使う言葉で、
「未完成という完成」というのがあります。
「完成」という言葉には
「終わり」という意味もありますが、
それはつくり手にとっての終わりで、
それを使う人たちにとっては「はじまり」ですよね。
つまり、ぼくらがつくり込んで、
「これが完成です」とわたすことは、
必ずしも正解じゃないように思うんです。
そういう意味では、
ぼくらの「未完成」という概念と、
今回の「仮設性」という考え方は、
非常に似たところがあると思っています。
引っ越しして「終わり」じゃなくて、
もっと先に進んでいくために、
もっと変化に対応していくための
「仮設性」をもったオフィスなのかなって。
──
「仮設性」だったり「未完成」の話って、
いわゆる「デザイン性」との両立が
難しいようにも思うのですが、
そのへんはどうなんでしょうか。
谷尻
ぼくは未完な状態というのは、
じつは同時に「美しさ」があると思っています。
例えば、建築現場に行くと、
まだ壁が貼られてない柱と梁だけでも、
そのままでいいくらいの
「美しさ」があったりするわけです。
お店でよく見かける「むき出しの天井」だって、
ほんとうは未完成なわけですから。
──
あー、そうですね。
谷尻
世の中には完成したものばかり溢れているので、
完成させることが正解のように思われています。
でも、未完成のままで魅力があるものは、
まだまだたくさんあるような気がします。
「つくりすぎない」という発想は、
設計だけの話じゃなく、
けっこう大事なことだと思うんです。
──
つくりすぎないからこそ、
柔軟に変化できるとも言えそうですね。
谷尻
そうです、そうです。
たぶん、そのへんの感覚を、
糸井さんは感じとられたのかなって気がします。

(明日につづきます!)

2020-10-07-WED

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