
クスッと笑いを誘うユニークな雑貨がならび、
「生活のたのしみ展2025」では
とても大きな反響があったミチルさんのお店
「架空が実在する雑貨店」。
このたび、オンラインショップとして
ほぼ日にオープンすることになりました。
「架空」のアイテムを生み出した張本人
ミチルさんがどんな人なのかもっと知りたくなって
どんな発想で生まれているのか、
ミチルさんが興味関心を寄せることなど、
「実在」するアイテムを見ながら
ご本人といろいろおしゃべりをしました。
ミチルさん
「架空の雑貨」をテーマに、
心くすぐるプロダクトを生み出すクリエイター。
2020年よりSNSを中心に活動を開始し作品を発表。
現実ばなれした世界観と独創的なデザインが注目を集め、
企業とのコラボ実績も多数。
これまでの作品を一冊にまとめた
『こういうの好き 架空雑貨集』(学研出版)が発売中。
- ――
- 「生活のたのしみ展2025」で
「架空が実在する雑貨店」はつねににぎわっていて、
来てくださったお客さまたちが、
商品を手にとって
顔をほころばせていたのが忘れられません。
- ミチル
- わたしもその光景を目の当たりにして、
胸がいっぱいになりました。
- ――
- 「ミチルさんのファンです」とおっしゃる方も
たくさんいらしてくださって。
- ミチル
- ほんとですか!?
うれしいですね。
- ――
- 「架空が実在する雑貨店」の店長の女性を
ミチルさんだと思っていた方もいたんですよ。
「ミチルさんですか?」って(笑)。
- ミチル
- SNSで顔や性別を明かしたことはなくて、
名前から女性だと思われたのかもしれませんね。
会期中は、イベントのテキスト中継を見ているうちに
会場に行きたい気持ちを抑えられなくなって、
マスクを着けてみなさんの様子を見に行きました。
リアルに体験できる場で、
お客さまが商品を手にとって
喜んでくれている姿を見るのははじめてで、
とてもうれしかったです。
- ――
- いままでイベントなどに
参加されたことはなかったのですか?
- ミチル
- 展覧会は2、3回したことはありますが
会期中は会場に行ったことがありませんでした。
「生活のたのしみ展」にうかがったときに感じたのが、
とにかくみなさんが、なごやかな雰囲気で。
会場に来ているみなさんあたたかく、
ブースの方々も商品に対しての愛が感じられて、
参加してよかった、と心からそう思いました。
- ――
- 「生活のたのしみ展」に参加される前、
ほぼ日は知ってくださっていたのですか?
- ミチル
- はい、もちろん存じ上げていました。
糸井さんのエッセイも毎日読んでいて、
『MOTHER』も大好きなんです。
「生活のたのしみ展」も、『MOTHER』のお店が
出店するので知ったのがきっかけです。
- ――
- たのしみ展に出店することをご快諾いただいてから、
“架空”だったいくつもの雑貨を“実在”させるよう
奔走くださいました。
- ミチル
- ほぼ日さんに架け橋になっていただき、
いろいろな会社にご協力いただいて、
ひとりではできなかったことが、叶いました。
- ――
- 今回のラインナップで、
ミチルさんの思い入れがあるのはどれですか?
どれも、だとは思いつつ‥‥。
- ミチル
- そうですね。すべてに思い入れはありますが、
しいて挙げるとすれば「賛辞のおやつ」、
「氷山になるティッシュケース」、
「名画のメモブロック」でしょうか。
その中でも頭をなやませて完成までに時間がかかったのが
「名画のメモブロック」でしたね。
- ――
- 最初は「名画の付せん」という作品を、
ミチルさんのSNSで拝見して、
ぜひこれを商品化したいとお願いしました。
ドット絵というか、モザイクアートというか、
付せんを寄せ合わせて
1枚の絵ができるアイデアが目あたらしくて。
- ミチル
- ありがとうございます。
そこから、糊つきの付せんより、
メモ用紙のほうが使いやすいんじゃないか、
と考え直しましたね。
- ――
- モチーフとなったのは『モナ・リザ』、
『真珠の耳飾りの少女』、ゴッホの自画像、
東洲斎写楽の浮世絵という4枚の名画。
どうしてこの4つの作品を選んだんでしょうか?
- ミチル
- グリッド上に絵を分割したときに、
パッと見てその絵だと理解できるから。ですね。
そして、人物が描かれている絵は
みなさんと共有しやすい、ということもあって、
この4つを選びました。
じつは、ほかにもムンクの『叫び』や
岸田劉生の『麗子像』もためしてみたんですが、
グリッドにしてみると、むずかしかったですね。
- ――
- 選ばれた4枚の名画は、
その画家ならではの色使いというのが、
粒度が上がってもわかりますよね。
- ミチル
- その粒度のこまかさにも悩みました。
グリッドサイズを小さくしすぎると、
リアルになってしまって、
かつメモの枚数が増えてしまう。
そこで、並べたときに一見して
その名画だと認識できるかどうかを検証したら、
150枚というのがベストでした。
- ――
- たくさんの検証を経てできたんですね。
メモ用紙の紙質や構成は、
紙の専門商社・竹尾さんと進めていきました。
- ミチル
- ほんと竹尾さんなしではできなかったですね。
四角のドット状にしたものの色を見て、
その色に合った紙を選んでいただきました。
そのカラーサンプルをドットと見くらべながら、
手さぐりであてはめていきましたね。
- ――
- 実際に紙をならべてみて、
椅子にのぼって上から見ては紙の色を変えてみて‥‥
と、たしかめながらの作業でしたね。
- ミチル
- 『モナ・リザ』の肌色がここにあるのは
ちょっとちがうかも、というように
ああでもないこうでもないと調整していきました。
たいへんでしたが、この作業がいちばん興奮しましたね。
パソコン上で想像していたことがかたちになっていって、
「これだ!」と確信して、
椅子のぼって俯瞰で見て、
「わぁ、モナ・リザだ」と実感できたとき、
こみあげてくるものがありました。
- ――
- 作業していたメンバーで、わきましたよね。
- ミチル
- とてもきれいで上質な紙をご用意いただいた
竹尾さんに感謝しています。
ならべて『モナ・リザ』だとわかるのはもちろん、
箱を開けた瞬間に、層になった紙の色のたばを見ても
『モナ・リザ』とわかるのも想定外で気に入っています。
- ――
- 箱のすき間から見えている色紙が、
なぜかわかるんですよね。
- ミチル
- 箱もそれぞれに合う色を選びました。
『モナ・リザ』はグリーンの色調なので緑っぽい色。
『真珠の耳飾りの少女』は
背景とターバンの色からとった黒と青。
写楽はお正月っぽさを演出したくて紅白で、というように。
- ――
- 竹尾さんの「ファインルート」という
独自の段ボールがマッチしました。
「名画のメモブロック」、ミチルさんならどう使いますか?
- ミチル
- たのしみ方はいろいろあって、
パズルのように並べて名画を完成させてもいいし、
メモ用紙としても使いたい。
なかでも『真珠の耳飾りの少女』には黒い紙があって、
白いペンで書くと、
ふつうのメモ用紙より映えると思います。
- ――
- 生活のたのしみ展の会場でも、
ミチルさんは黒い紙に白いペンで
コメントを書いてくださっていましたね。
- ミチル
- メモ用紙にはめずらしい黒い紙。
そんなのも想定していなかったおもしろさですね。
- ――
- そして、「賛辞のおやつ」も
試行錯誤したアイテムのひとつで。
- ミチル
- ほめる「賛辞」と「3時」のおやつを
かけ合わせたプロダクトですが、
わたしがおやつの時間が大好きでひらめきました。
おやつにほめられたら、おやつの時間が
もっと充実するかもしれないぞ、って(笑)。
- ――
- おやつを食べるだけでもうれしいのに、
おやつにほめられてさらに気分も良くなる(笑)。
- ミチル
- 絵やメッセージを描ける
アイシングクッキーでつくるなら、
どんな賛辞がいいかを、
ほぼ日さんや実際に製作してくださった
タンデコロリさんと
話し合いを重ねて決めていきました。
「サイコー!」や「天才!」を、
思い描いていたちょっとレトロっぽい感じに
仕上げてくださって、感謝してます。
- ――
- フリーハンドで、
ひとつひとつ書いてくださいました。
- ミチル
- すごいです。
もともと、おやつがふくろに入ったものを
SNSで投稿していたんですが、
クッキー缶のほうが、
よりリッチに仕上がりそうと話して決めましたね。
味もめちゃくちゃおいしくて、
たのしみ展の会場でぺろりとたいらげてしまいました。
- ――
- 会場で!?(笑)
そして、「氷山になるティッシュケース」。
アイコン的な存在のアイデア商品で、
お客さまからも大人気でした。
- ミチル
- これはティッシュケースからティッシュを引き上げたとき、
氷山に見えたのがきっかけです。
商品化するにあたって、
ふたになるところを波模様にしたり、
白くまを置いたりして、
北極のワンシーンを切り取ったような演出を、心がけました。
- ――
- クリアな素材で、
つめたい海を思わせる、波模様までリアルに。
- ミチル
- さらに、ティッシュを入れたときに
ちょっと上からライトをあてると、
ティッシュに水面がうつっているかのように
ふたのデザインをくふうしていただいたのは、
製作してくださった、王様のアイディアさんのおかげです。
- ――
- ミチルさんにお話をうかがっていると、
ひとつひとつ丁寧に作られているのが、
よくわかります。
- ミチル
- わたしの努力というよりも、
これらを実際につくっていただいた
みなさんの協力によって成り立っています。
わたしが妄想で無邪気につくったものに対して、
できるだけ近づけるように
ていねいに、実直に向き合ってくださったおかげ。
精度の高いものに仕上げてくださり、
感謝しています。
(つづきます)
2025-07-12-SAT
