次第に日差しがあたたかくなってきました。
きれいで、やさしくて、おいしいものが
大好きなわたしたち。
親鳥であるニットデザイナー・三國万里子さんの審美眼に、
ときめきに花を咲かせる4人が水鳥のようにつどい、
出会ったもの、心ゆれたものを、
毎週水曜日にお届けします。
「編みものをする人が集える編み会のような場所を」と、
はじまったmizudori通信は、
ニットを編む季節の節目とともに一旦おやすみします。
ニット風景も一挙ご紹介です!

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♯002

2020-11-04

雨の朝、乗り換えの駅で
混み合うエスカレーターを避けて階段を上っていると
背の高い女性に追い越されました。
膝上20センチのぴったりした黒いニットのワンピースに
ストレートの長い髪、
右手で大きなスーツケースを持ち上げて
ひょいひょいと段を上る彼女の足元は
高さ10センチはありそうなピンヒールのパンプスでした。
一見危ういけれど、足取りは確かで
こういう、10センチヒールで右手に20キロの
荷物を提げて階段を上る、なんていう
障害物競技があるとしたら
彼女は名選手の部類に入りそうです。
その集中力の気配のようなものに
圧されて見上げていると、
靴底に塗られた赤い色がちらっと閃きました。
まぎれもない、フランスの高級靴メーカー、
クリスチャン・ルブタンのトレード・カラーです。
こういうこと、つまりルブタンのハイヒールを履くことは、
ある人にとっては意味があるけれど、
そのほかの人にとってはどうでもいいことで、
だからこそわたし、あなたのことが
ちょっとだけわかるし、そのことがうれしいよ。
ルブタンは持ってないけどね。
心の中で声をかけながら、
改札口に向かう彼女の背中を見送りました。
ヒールの高い靴にトライしたことのある人なら、
何かしらそれらを履くことにまつわる
思い出を持っているものではないでしょうか。
そのありふれた出来事は
たしかわたしが14歳の時に起きました。
自分の住む小さな町から電車に乗って新潟市に行き、
街を見て回り、お昼ご飯を食べて本を買って帰る、
という楽しい一人遊びを始めた時期で、
その日わたしは靴箱に入っていた
祖母のヒール靴を拝借して出かけました。
木型から職人に頼んで作ってもらったという
姿のいいパンプスで、
ヒール靴といっても3、4センチほどの
ロー・ヒール(低いかかと)だったと思います。
朝家を出た時には履き心地に
それほど違和感を感じなかったのが、
街を1時間ほど歩くうちに、かかとの後ろに靴擦れができて
血が滲んできました。
足を一歩前に出すたびに痛い。
どうしたものか途方に暮れ、
公衆電話から家に電話をしました。
母が出て、わたしの泣き言を聞いてくれ、
呆れて言うには
「絆創膏でも買って貼って、早く帰っておいで」。
もっともな対処法ですが、
当時はコンビニも、もちろんスマートフォンも存在せず、
街ゆく人に声をかけて尋ねることもできない
恥ずかしがりな子供が薬屋を探すには、
新潟市は途方もなく広かった。
ただ、その公衆電話と情けない自分のいる情景と、
泣きそうな気持ちもありありと蘇るのですが、
結局どうしたかはよく覚えていないんです。
薬屋で絆創膏が買えたのか、
あるいは安売りの靴屋を道沿いに見つけ、
スニーカーを買って履き替えて、
無事いつもどおり街をめぐって帰ってきたのか…。
ともあれそれが、わたしの初めてのヒール靴の思い出で、
人のパンプスを考えなしに借りるもんじゃない、
という教訓を残してくれました。
やがて大人になり、必要に迫られ、あるいはただ単に欲しくて、
いくつもヒールの靴を買いました。
わたしが好きな形は尖ったつま先に、
カーブを描いたかかとがアスファルトに刺さるような
ピンヒールのパンプスです。
とはいってもわたしは背が高い方ではなく、
全身のバランスを考慮して、
ヒールの高さは5センチ強くらいまで。
それがわたしが快適に歩けて、
かつ見た目にもちょうどいい高さです。
少しだけきついと感じるサイズを選び、
内側の硬い革を自分の体重と
肌の温かみでじわじわと緩め、
やがて五本の指が靴の内側に溶けていくのを待つ。
そうして自分の足と一体化した尖ったつま先を見遣ると、
鋭いひづめを備えたきかん気の強い動物に変身したようでもあり、
他では替えのきかない、愉快な気分になります。
ただいくら愉快でもすぐに遠出すると
困ったことになりかねないので、
まず履き始めは近所のスーパーの往復くらいに留め、
慣れてきたら電車に乗って仕事先まで、
次は街にショッピングに行くときにも履いてよろしい。
そうやって履き慣らしていくのは、
靴と地面を征服する喜びだとわたしは思う。
華奢なヒール靴を履く喜びというのは
その美しさを楽しむことに加えて
言葉通りの背伸び、つまりちょっと無理をすることのうちにも
潜んでいるのでしょう。
少々の負荷が気分をハイにする。
しかしかくいうわたしも普段の外出はローヒールも多く
(ペタンコのバレエシューズも大好きなんです)、
パンツスタイルに女性らしさを足したいときなどに
ヒール靴を選びます。
尖った靴を履くには気力も体力も要るので、
毎朝スクワットを100回欠かさないんですよ、わたし。

白いニットが好き。

 
こんにちは、シブヤです。
このお仕事をしていると、
やはり秋冬のお洋服はかわいいニットが気になります。
結果、クローゼットにはどんどんニットが増えていく‥‥
のですが、とくに「白いニット」がお気に入りで
模様違い、形違いで何枚か持っています。
この秋も、ひとつ欲しいニットがありまして、
それはビッグシルエットのアラン編みベストです。
( 『ミクニッツ 大物編』のおまけでついてきた
 「ドロップショルダーのベスト」を編むつもりです)
編むにあたり、何色にしようか迷ったのですが、
やはりここでも白い毛糸に目がいってしまいました。
合わせやすいし、陰影がくっきり出るし、
流行に左右されなさそうだし‥‥。
先住の白ニットたちにまぎれて
引き出しのなかで見分けにくそうなのが難点ですが、
いいんだ、かわいいから。
出来上がる前から
「シルクのメンズシャツに重ねよう」
「あえてアウトドアっぽいジャケットから
 ちょっとのぞかせたい」
「Iラインのワンピースにも合うかな」など
合わせる服の妄想がむくむく膨らみ中です。
さあ、はりきって編まねば!

来春のおたのしみ。

 
今年の春、たまたまチューリップ文様が美しい織物の写真を
本で目にしました。それはオスマン帝国のものでした。
今までチューリップといえばオランダをイメージしていましたが、
オスマン帝国ではチューリップがとても大切な花として敬意を払われ、
建築から様々な工芸品の文様として扱われていたことを知りました。
当時は長くすらっとしたアーモンド型が主だったようで、
文様はキリッとしたラインが特徴的です。
色とりどりで、可愛らしいフォルムが印象的なチューリップですが、
新たな一面を知ってからさらに魅力的な存在です。
話は少しとびますが急に肌寒くなってきたここ最近、
チューリップ熱が冷めないわたしは、球根を買ってみることにしました。
(10月と11月は植え付けの時期なのだそうです。)
こんなにまじまじと球根を観察したのは小学生ぶりだなぁと、
かたちも色も個性があってころころとした球根たちに
なんだか愛着が湧いてきました。
うまく育てば来年の春には咲く予定です。
オスマン帝国のような華やかさからは程遠いですが、
来春のたのしみがひとつ増えました。
編みかけのマフラーを進めながら、
じっくり育てていこうと思います。

朝から衣替え作業です。私は寒くなるこの時期がとても苦手ですが
手編みのミクニットたちが元気づけてくれます。午後もがんばれそうです。

衣替えの季節ですね。ニットがたくさん並んでいる風景、
とっても可愛いですし、創作意欲がわきますね!
わたしも早く、こんな景色にしたいです。編み物がんばります。

ニットのワードローブ、壮観ですね〜〜
上段左端は『うれしいセーター』のsoilを
色違いで編まれたのでしょうか? 
素敵です!


 

“わたしのニット風景”を、募集します。
大人数があつまる編み会がかなわない今年ではありますが、
ほぼ日の中で編みものの進み具合やできばえを
みんなでたのしみあえたら、と思います。
完成した作品のコーディネート、お供のお菓子やお茶など
写真とひとこと添えて送付ください。

送り先→postman@1101.com 件名→わたしのニット風景

Miknits2020で完売していた編みものキットuneune再販売されました!
アウターとしても着られるボリュームたっぷりのカーディガンです。

2020-11-04-WED

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