アーティストの荒神明香さん、
ディレクターの南川憲二さん、
インストーラーの増井宏文さん、
3人を中心とした
現代アートチーム目[mé]。
2020年夏、彼らは
《まさゆめ》というプロジェクトを
実施する予定でした。
東京の空に、
実在の「誰か」の顔を浮かべるというもの。
そのプロジェクトを前に、
「ほぼ日曜日」では、
街と人のつながりについて、
「見る」ことについて、
東京の風景について、
目[mé]のみなさんと、
3人のゲストを迎えたトークセッションを予定していました。
しかし、4月にはほぼ日曜日はお休みとなり、
このトークセッションは
それぞれの登壇者がオンライン上で顔を合わせ、
配信で行うことになりました。
直接会えない状況のなかで交わされた言葉たちを
ここに採録します。

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トークセッション#03  石川直樹×目[mé]  東京の風景のこと 3 東京の「瞬間」

荒神
東京と関係ない話なんですけど、
石川さんは大学院の先輩で、
入学した時から噂の存在でした。
日本からアメリカ横断の気球の冒険に出られて、
太平洋で遭難してしまったと。
そこで見た景色で印象的なものってありましたか?
石川
想像以上に雨雲が分厚くて、
球皮の部分が湿気を吸いすぎて重くなり、
着水しちゃったんですよ。
そのあと海上では洗濯機みたいにぐるぐるまわって、
ゴンドラのなかに水が入ってきて、
沈むにつれて小窓の外に
だんだん海水が見えてくる。
そのときの風景はいまも思い出しますね。
そのとき写真撮りたかったけど、
それどころじゃなかった…。
南川
なんで撮りたくなったんですか?
石川
記憶って薄れていっちゃうけど、
写真に撮っておけば思い出せる。
単に思い出すだけでなく、
そこから別の情感にも繋がったりする。
写真ってつきつめれば、記録そのものだし、
それが本質だと思う。
だからこそ、撮っておきたいと思ったんだよね。
僕からも聞きたいことがあって、
目 [mé]の作品って
今まで郊外での発表が多かったけど、
《まさゆめ》は東京でやる。
心構えが違うところはありますか?
荒神
東京って写真的というか、瞬間的だと思うんですよ。
ハロウィンのとき、渋谷のなんでもない交差点や路地に
人が集まるじゃないですか。
あれの面白さって、たくさんの人が集まって、
今を共有している行為だと思えて。
生物学的にも謎とされている、
ムクドリの群れが突然空に集まる行動、
誰が指揮をすることもなく集まって、
存在を確かめ合うようなことと、
リンクするなって思うんです。
公式に「こうやっていいよ」と言われたら
こういうことは起こらない。
なんの制度もなしに人間がかぎわけて、
集団でいま生きているという瞬間を共有する。
東京ってそういう場所なんだなと。
南川
あれが広場じゃなくて、交差点なのが面白いですよね。
はかなくて瞬間的。
石川
雰囲気が伝播して陶酔状態に
なっているってことだよね。
僕もワールドカップの試合直後に
渋谷スクランブル交差点で
群衆を撮影したこともあるし、
全力疾走する人や人の寝顔なんかも
「無意識」が表れていて面白い。
あとはお祭りでトランス状態に
なっている人とかね。
東京では人の無意識が表出する場面を
撮ったりすることが多いです。
荒神さんの群衆の話は
腑に落ちるところがありました。
南川
少し質問に答えていただきましょうか。

写真集「東京」では、どういう基準で
撮影場所を選んだんでしょうか?

(Twitterからの質問)

石川
完全に身体の反応です。
ちょっとでも自分の気持が動いたときに、
考えずに撮っている。
それは東京でも他の場所でも同じで、
いつも自分は反応でしか撮っていないですね。
いいな、うわ、きれいだな、きたないなとか、
意味になる以前の感情が動いたときに撮っています。

東京を撮ろうとした動機は?

(Twitterからの質問)

石川
どこに行くのも旅だと思ってるから。
僕の感覚では東京という固有名詞を撮っているつもりはなくて、
東京で自分とその場所とのかかわりを撮っているつもり。
東京という固有名詞を撮っているつもりはない。

石川さんが《まさゆめ》を写真として捉えるとしたら、
どんなことに留意して撮りますか?

(Twitterからの質問)

石川
きっとびっくりすると思うから、
ファーストインプレッションの一発で
撮るだけじゃないかな。
南川
さっきおっしゃっていた、「あっと思う前に撮る」?
石川
意味を撮っちゃったら物撮りになっちゃうわけで、
意味になる前の、音とか叫びのときになるべく撮りたい。
これが○○である、と認識する前に
撮りたいっていう気持ちが強い。
南川
視覚情報を脳が認識するまでの時間と言われている「0.1秒」の前に
シャッターを押すってことですね。
石川
難しいですけどね。
ていうか、ほとんど不可能だと思うけど、
気持ち的には、ね。
南川
僕、オランダにしばらく住んでいたときに見た、
旅行代理店に貼られた「東京へ行こう」というポスターが
秋葉原の交差点を人がわたっている写真だったんですよ。
石川さんの写真もだけど、
それは人を撮っていたんだなって。
紫牟田さんの言ってた「街は人だ」っていうことが
現れているのが東京なのかなって。
こじつけだけど、《まさゆめ》とつながる気がして、
考え続けたいなと思います。
荒神
3回のトークがいまの状況とも重なって、
いまを捉えた人の感性が、
生き抜く課題を感じさせてくれるなって思います。
そのなかで、石川さんのお話を今日うかがって、
ここで一回荷物を下ろすことが必要な気がしました。
生活、責任、欲望、背負っているものを精査していって、
必要最低限のものをもって
出発し直さなければいけないのかなって。
石川さんはじめ多くの冒険家がやっていることと同じことが、
私自身にも突きつけられている気がしました。
南川
荷物があるとシャッターが押せないからね。

(おわります)

2020-06-24-WED

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  • 目 [mé]
    アーティスト 荒神明香、ディレクター 南川憲二、インストーラー 増井宏文を中心とする現代アートチーム。
    個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/導線を重視し、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。
    主な作品・展覧会に「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー 2014 年)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ 2016)、《repetitive objects》(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018)などがある。第 28 回(2017 年度)タカシマヤ文化基金受賞。2019 年は、美術館では初の大規模個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館)が話題を呼んだ。

    《まさゆめ》とは
    年齢や性別、国籍を問わず世界中からひろく顔を募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を東京の空に浮かべるプロジェクト。現代アートチーム目  [mé]のアーティストである荒神明香が中学生のときに見た夢に着想を得ている。
    東京都、 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京が主催するTokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13の一事業。
    公式サイト