アーティストの荒神明香さん、
ディレクターの南川憲二さん、
インストーラーの増井宏文さん、
3人を中心とした
現代アートチーム目[mé]。
2020年夏、彼らは
《まさゆめ》というプロジェクトを
実施する予定でした。
東京の空に、
実在の「誰か」の顔を浮かべるというもの。
そのプロジェクトを前に、
「ほぼ日曜日」では、
街と人のつながりについて、
「見る」ことについて、
東京の風景について、
目[mé]のみなさんと、
3人のゲストを迎えたトークセッションを予定していました。
しかし、4月にはほぼ日曜日はお休みとなり、
このトークセッションは
それぞれの登壇者がオンライン上で顔を合わせ、
配信で行うことになりました。
直接会えない状況のなかで交わされた言葉たちを
ここに採録します。

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トークセッション#03  石川直樹×目[mé]  東京の風景のこと 1 「顔」の選び方

ほぼ日にもたびたび
登場いただいている石川直樹さん。
世界中のさまざまな景色を
切り取る石川さんと
《まさゆめ》で風景を
作品の一部に取り込む目 [mé]。
二組には「ふだん当たり前にみている景色」
を問い直す、という共通点があります。
今を生き、作品をつくり続ける二組が
東京の景色の「瞬間」、
景色と自分との関係について
話が広がりました。

[profile]
石川 直樹 (写真家)

1977年東京生まれ。写真家。
東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。
人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、
辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、
作品を発表し続けている。
『CORONA』(青土社)により土門拳賞受賞。
著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した
『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。
最新刊に写真集『まれびと』(小学館)、
『EVEREST』(CCCメディアハウス)など。

石川
《まさゆめ》って面白いですね。
いろいろ聞きたくなっちゃう。
「顔会議」では
どんなことが行われているんですか?
1000人を超える顔の写真を撮ったんですよね。
その中からどう話し合って
空に浮かべる顔を選んだんでしょう?
南川
顔会議は
おおぜい参加してくださった方たちに
ダイレクトに「どういう顔が浮かべばいいか」と
聞きたいというのが根本にありました。
日本顔学会の先生や、法廷画家の方にも来ていただいたんですが、
「顔を選ぶ」ってなんだろう? とみんなに投げかけて、
パッと顔が決まってもいいし、
キーワードが出てもいいしと思っていました。
結果としては、
「直視できない顔」「跳ね返しの顔」
という言葉に僕たちはピンときて、
それを軸に選べるな、となりました。
石川
そこから選んでいくのも難しそう。
南川
禅問答みたいになるんですよ。
選ぶ=選ばない、というか。
いったん顔を見すぎてゲシュタルト崩壊して、
それを乗り越えたらあとはピンとくるものを選んで、
それが宙に浮いたときに景色を跳ね返すかどうか。
抽象的ですけど。
荒神
画面に一人ずつ、顔を表示していくんですよ。
それを延々見ていると、だんだん個性も消えてきて、
惑星や石を見ているような感じになってくるんです。
その中からピンときた顔を
東京の風景に浮かべるコラージュをやってみて、
「違ったかな」と、そこからまた
大勢の顔を眺めるという作業の繰り返し。
石川
本番が楽しみだなあ。
『非常にはっきりとわからない』の図録も
読ませていただきました。
あの中に水の中の日記帳みたいなページがありましたけど、
あれは荒神さんの夢日記なのかな?
荒神
そうなんですよ。
書いてあるのはくだらないことなんですけど。
石川
夢日記を書いているのは、前から?
荒神
中学生くらいから、起きてささっと書いていました。
石川
夢を形にしていくって難しい作業だと思う。
これまでトークを聞いていて、
荒神さんが直感で思いついたこと、抽象的なことを
南川さんたちがきちんと受け止めて
形にしているんだなと感じて、
これがチームワークなんだなって思ったんですけど、
実際にそういうプロセスなんですか?
南川
はい。
荒神
私が抽象的なことを発するから困らせてますけど。
石川
1回目も2回目も話していた
「目のパースが変わる」という話、
僕はなんとなく、ちょっとわかる気がするんです。
今は家の中にばかりいるから、窓の外をよく見るんですよ。
外に建物が見えて、その先の空を見る。
「あっちの方角なにあったかな」と見ているうちに
空の見え方がふだんとちょっと違うな、と感じることがあります。
そういうこととちょっとだけつながってるのかなって
聞きながら思っていました。
「パースの違う見え方を特訓している」って話には
そんなの特訓できるのかな、ってツッコミたかったけど。
想像力で補っているというと身もフタもない?
荒神
もしかしたら、直接的に視覚が
変わっているかもしれない、と思っていて。
南川
「グリッドが少しずつ増える」って言うんですよ。
荒神
「こんなに遠くまで見通せてたっけ?」って思うんです。
だから、物理的にも変化しているんじゃないかって。
石川
緊急事態宣言が出されていた期間中に、
ネパールの友達とやりとりをしていて。
カトマンズってふだん
排気ガスなんかの公害がすごくて
空気がとても悪いんです。
けど、ロックダウンが続いて空気が澄んで、
ふだん見えないヒマラヤの山々が
見えるようになったって。
それは物理的に見えてるんだけど。
荒神
人がいるという気配みたいなものを感じたんです。
石川
生活を感じた?
荒神
ここにいる私たちと同じように、
すごく遠くにも人の気配があるってことを感じたという。
石川
なんとなくわかってきた。
こういう感覚が新しい作品につながっていくんだね。
南川
こういう話を聞くと、作品に使えるように、
僕は具体的に考えちゃうんです。
石川
『非常にはっきりとわからない』も
すごくよかったし、
話を聞くと《まさゆめ》もますます楽しみです。

(つづきます)

2020-06-22-MON

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  • 目 [mé]
    アーティスト 荒神明香、ディレクター 南川憲二、インストーラー 増井宏文を中心とする現代アートチーム。
    個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/導線を重視し、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。
    主な作品・展覧会に「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー 2014 年)、《Elemental Detection》(さいたまトリエンナーレ 2016)、《repetitive objects》(大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2018)などがある。第 28 回(2017 年度)タカシマヤ文化基金受賞。2019 年は、美術館では初の大規模個展「非常にはっきりとわからない」(千葉市美術館)が話題を呼んだ。

    《まさゆめ》とは
    年齢や性別、国籍を問わず世界中からひろく顔を募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を東京の空に浮かべるプロジェクト。現代アートチーム目  [mé]のアーティストである荒神明香が中学生のときに見た夢に着想を得ている。
    東京都、 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京が主催するTokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13の一事業。
    公式サイト