こんにちは、ほぼ日の奥野です。
尊敬する編集者にしてゆかいな大先輩、
宝島「VOW」二代目総本部長・古矢徹さんとともに、
ちいさな連載をはじめたいと思います。
スマホや携帯を持たない“丸腰人”人生65年の
古矢総本部長と、スマホは愛用するが
ときどき海に投げ捨てたくなるわたくし奥野が、
世界の片隅にひっそり存在するであろう
愛すべき“丸腰人”を探しに行く‥‥という企画です。
まず手はじめに、“丸腰人”ご本人さま、
もしくは“丸腰人”のまわりにいるみなさまから、
スマホや携帯を持たないがゆえの
困難とペーソスに満ちた日々のエピソードを、
送っていただきたいなと思ってます。
それらを、当連載で紹介していきたいと思います。
投稿どしどしお待ちしてます!
採用された方には、素敵なプレゼントも考え中。
古矢徹(ふるや・とおる)
「止れま」「まさる死ろす」「聞け、わだみつおの声」などのおまぬけネタで知られる、雑誌『宝島』の読者投稿企画“VOW”(バウ)二代目総本部長。『宝島』休刊後、女性誌『sweet』(宝島社)に拾われ今も連載継続中という知る人ぞ知る事実は、21世紀雑誌界の奇跡と言っても過言と言えなくもなくなくない? 声優の古谷徹さんとは別人。最近「久しぶりにVOWのサイトを見たら、二代目総本部長がお元気そうで何よりだった。東秋留の辺りを通りがかるたびに古矢さんっぽい人を探すんだけど見つからないなぁ」との読者のSNSへの書き込みあり。古矢さんっぽい人は、今は西東京市あたりで探すと見つかるかもよ。
- 古矢
- あのね、今回の企画のために調べたら、
総務省が2022年8月に
スマートフォンについて調査していて、
20代30代のスマホ利用状況は、
なんと「99%以上」なんだって。
- 奥野
- そんなに! ほぼ全員ってことですね。
- 古矢
- 奥野さんは何歳だっけ。
- 奥野
- 47です。
- 古矢
- 40代は、98%以上。
オレは65歳なんだけど、60代は85.9%。
- 奥野
- 20代~40代から丸腰人を見つけ出すことは、
いまや、至難の業だってことですね。
60代くらいであれば、
発見できる可能性がまだちょっとある(笑)。
- 古矢
- ちなみに、10代は91.5%。
- まだ、親にスマホを持たされていない子も、
けっこういるってことかな。
- 奥野
- でしょうね。そういった厳しい状況のなか、
どうやって丸腰人を探せばいいんですか。
- 古矢
- 『八犬伝』とか『ドラゴンボール』の
逆バージョンだよね。
持ってない人を探さなきゃいけないわけで。 - 8人、9人‥‥10人くらい探せたら、
すごいんじゃない?
- 奥野
- ぼくのまわりには、ひとりもいませんよ。
仕事の場面でも、プライベートでも。
スマホを持ってない知り合いは、
生まれたばかりの赤ちゃんと、
生まれて数年の幼児くらいです。 - 会社の仲間や仕事の相手は
100%持ってるし、
そもそも、スマホを持っていない人と、
どうやって出会ったらいいのか、
ちょっとわかんないような感じさえあります。
- 古矢
- そういえば、
鳥山明さんが亡くなったときのネットの記事で、
鳥山さんは
スマホを持ってなかったってご友人が語られてたね。
『ドラゴンボール』の作者も丸腰人だったのかなあ。
でも、そういった著名人にはいつか話は聞くとして、
まずは「市井の丸腰人」を探し出して話を聞きたい。
- 奥野
- たどりつきにくい人に、たどりつきたいと。
- 古矢
- 仲間を探したい。
- でもね、ぼくはもう、身近でふたり発見してるの。
ぼく(=丸腰人)と合わせて
勝手に「丸腰三銃士」と呼んでるんだけど(笑)。
- 奥野
- 徒手空拳の三銃士(笑)。
- 古矢
- そう。ようするに、持つべき武器を持っていない。
それぞれに、けっこう難儀な人生でね。
- 奥野
- いまやスマホって時代を生き抜く武器ですもんね。
スマホを持ってなかったら、
就職で不利になるみたいなことさえありそうです。
昔から就職「戦線」って言うくらいだし。
- 古矢
- 三銃士のひとりと、よく飲みに行くんだけど、
スマホでQRコードを読んで、
そこからメニューを開いて
注文してくださいって店があるでしょ、いま。
- 奥野
- ありますね。どんどん増えてる印象です。
- 古矢
- ひとりならまだしも、
ふたりとも持ってないと恥ずかしいのよ。
- 奥野
- メニューを前に、手も足も出ない三銃士!
- 古矢
- 店員の若い子に
「オレたち、ふたりともスマホないんだけど、
注文できるかな」って聞くと、
「えっ! ‥‥てっ、店長ー!」
みたいな大騒ぎになる。 - すでに二度、経験した。
一度は「口頭で注文OK」になって、
もう一度は、タブレットを貸してくれて。
- 奥野
- 若い世代では「1%以下」の丸腰人でも、
同行者のうちの誰かは持ってるでしょうしね。 - 誰ひとり持ってないって、
それ、店側としても完全に「想定外」ですよ。
- 古矢
- いい店でよかったよ。
でも、向こうにしてみたら
「なんか、めんどうな人たちが来たな」
って感じだろうね。
貧乏な人だと思われてるかもしれない。
まあ、実際貧乏ではあるけど。
- 奥野
- ほぼ全員が持っているものを持ってないわけで、
スマホと一緒に育ってきたような
若い子にしてみたら、信じられないでしょうね。 - ほかに「丸腰」で辛かったことってありますか。
- 古矢
- 待ち合わせで、遅れて来た人に怒られたりするよ。
逆に。
「おまえがスマホ持ってないから、
遅れるって連絡できなかったじゃねえか!」って。
- 奥野
- 理不尽! 丸腰人のみなさんは、
そんな理不尽にな世界に生きているんだ!
- 古矢
- 「おまえがスマホを持ってれば、
先に目的地に行ってくれとか連絡できたのに!」。
だいたい今、待ち合わせしないでしょ。
「東京駅の銀の鈴で」とかさ。
スマホがあったら、そんな必要ないじゃん。
- 奥野
- 「新宿アルタ前で」とか、もうだいぶないです。
- 古矢
- だから、ひょっとしたら、
銀の鈴とか新宿アルタ前で探せばいるかもしれない。
丸腰人が。
- 奥野
- ちなみに、総本部長をはじめ丸腰人のみなさんって、
スマホを持ってないということに、
何かこうメッセージ性のようなものがあるんですか。 - いつか将来、
日本から独立して丸腰人の国家を打ち立てたいとか。
「吉里吉里人」みたいに。
- 古矢
- ないなー。国家というのは一種の暴力装置だから、
丸腰の心根とは正反対だよね。
でも、スマホの使えない
「ひょっこりひょうたん島」みたいな島とか町ってのは、
いいかも。 - スマホが使えない代わりに、
街角ごとに電話ボックスがあって。公衆電話の町。
箱の中で膝を抱えて泣いてる人がいたりね
(←昭和電話歌謡フォークの名曲「赤ちょうちん」より)。
- 奥野
- 待ち合わせの話に戻りますけど、
丸腰人のみなさんって、スマホを持ってないから、
待ち合わせのときは、
遅れずに行かなきゃと心掛けてたりするんですか。
- 古矢
- するする。オレはスマホ時代以前は
圧倒的に遅刻派だったけど、
ここ20年くらいは、ほとんど遅刻しなくなった。 - なにしろ、先に着いてても怒られるんだから。
先に着いて、公衆電話探して
「もう着いたよ。そっちはいかが? 遅れそう?」
とかって聞かないといけない。
- 奥野
- 遅れている人からは連絡できないので、
先に着いてる丸腰人が、気を利かせてるんですね。
- 古矢
- でも、うっかりコンビニの前とかで
待ち合わせしたりすると、
最近ないんだよね、公衆電話が。コンビニの前に。
- 奥野
- あ、コンビニにもないですか。もはや。
- 古矢
- しかたないから、わざわざ駅まで戻ったりしてる。
- あと、たぶん家に連絡してるんだと思うんだけど、
駅の公衆電話で
ランドセルを背負った女の子とかが
背伸びしながら電話をかけてる背中を見ると
「がんばれ! 俺も持ってないけど大丈夫」って。
- 奥野
- 「持ってなくても、おじさんは生きてるぞ!」と。
- 古矢
- でも、10代で「91.5%」の人たちが
持ってるってことはさ、
8.5%の10代は持ってないってことだよね。 - まあいろんな事情があると思うけど、
親に「まだ早い」って言われたりするんだろうね。
- 奥野
- たぶん。
- 古矢
- そうすると、学校でも仲間に入れなかったり、
けっこうつらい思いをしてるんじゃないかな。
若い丸腰人も。
- 奥野
- いま、うちの娘が中学3年生なんですけど、
現代の若者にはめずらしく、
そこまでスマホに興味がなかったんですよ。 - さすがにそろそろ買ってあげようかって、
こっちから言っても
「要らないからドラクエ買って」みたいな。
最後はたぶん、
学校でただひとりの丸腰生徒だったんです。
- 古矢
- 惚れる!
- 奥野
- でも、いまの中学校のクラスとか部活って、
LINEのグループがあるんですよ。
- 古矢
- LINEね。聞いたことあるよ。
- 奥野
- ひとりだけスマホを持ってないもんだから、
「明日はどこどこに何時集合です」
っていう重要情報が回ってこないんです。 - なので、妻が友だちのお母さんにLINEして、
「明日、何時ですか?」って、
遠征のときとか、いちいち確かめてました。
でも、とうとう買ったんです、最近。
- 古矢
- 娘さん、丸腰人界の未来の逸材だったのに。
で、どうなの。買ったら買ったで。
- 奥野
- 「どっぷり」ですね。今やすっかり。
- 古矢
- 惜しいなあ(笑)。手塩にかけて育てたかった。
- 奥野
- あんなに興味なかったのに、
最近じゃ、そろそろスマホやめたらとか
口を酸っぱくして言う毎日です。
そんな自分も、気づいたら
スマホを何時間も見てたことにハッとして、
海に投げ捨てたくなったりして。 - でも、二代目総本部長の場合は、
スマホがにくらしいって思ってるわけでは
なさそうですね。聞いてると。
- 古矢
- むしろ、ぼくから見ても
iPhoneって、モノとしてカッコいいと思う。
なんかさ、平たくてツヤツヤしてて、
小さいのに「持ち重り」する感じじゃない? - イメージとしては金の延べ棒。
あ、銀の延べ棒かな(笑)。
- 奥野
- たしかにiPhoneがバーンと出てきたときは、
めちゃくちゃカッコよく見えました。
お気に入りだったガラケーが、
いっぺんに「ねずみ色」みたいになったし。
ただ、あのときの感動は、
もうすっかり忘れてはいるんですけど、
スマホのない時代からしたら、
たしかに、これは「魔法の石版」ですよね。 - 何でもできちゃいますから。
- 古矢
- だからさ、オレも、うっかり持っちゃったら、
絶対使い倒すと思う。
そうすると、きっと歩きスマホとかしちゃう。 - ‥‥そうだ! 歩きスマホが大嫌いなんだよ。
オレは、歩きスマホしてるヤツが!
- 奥野
- 厳に慎みたい行為です。
スマホを持つ者として。
- 古矢
- 二宮金次郎じゃないんだから。
- 昔、雑誌華やかなりしころは、
歩きながら
『少年ジャンプ』を読んでる人もいたけど、
スマホを見ながら歩いてるって、
何か、心のありようとして貧しくない?
人生、そんなに
何かを同時にしなきゃいけないほど忙しい?
- 奥野
- はい‥‥本当に。観光地や美術館へ行って、
美しい景色や素晴らしい作品を
自らのまなこでは適当にチラ見するだけで、
スマホで一生懸命に
バエ写真を撮ろうと腐心している自分とか、
いったい何をしてるんだろうと。
- 古矢
- 奥野さんと話していて、ひとつわかった。
- オレはスマホ自体が嫌いなんじゃなくて、
スマホべったりの人間の行動が、
嫌なんだ‥‥って。とくに歩きスマホ(笑)。
- 奥野
- 総本部長、よっぽど嫌いみたいですね。
歩きスマホのこと(笑)。 - この連載が、この先どうなっていくのかが
ぜんぜんわかんないんですけど、
まずは、丸腰人ご本人、
もしくは丸腰人のまわりにいる方から、
苦労話とか笑えるエピソード、
笑えないエピソード、
丸腰人としての思い‥‥などなどを、
ふるって投稿していただきましょうか。
- 古矢
- そこから
「なぜ、わたしはスマホを持たないのか」、
その真実の意味を発見する(笑)。 - やがて、
スマホを持たない人ってどんな人なのか、
共通する特性がわかってくるかもね。
- 奥野
- 広く読者のみなさんから投稿を募りつつ、
そのなかから、もしOKであれば
ぼくと二代目総本部長で、
市井の丸腰人さんに
直接インタビューしにも行きたいですね。
- 古矢
- そうやって、我ら「丸腰三銃士」の仲間が
だんだん増えていって‥‥。
- 奥野
- ええ。
- 古矢
- みんなでLINEでつながるとかね。
- 奥野
- かつてのVOWに、
そういう名作があったなあ(笑)。
(つづきます)
2024-08-14-WED
-
スマホやケータイを持っていない。
ただそれだけなのに、こんなご苦労、こんなひどい目、
はたまた、こんないいことありました‥‥
というエピソードをお送りください。
どんな些細なことでも、けっこうです。
オチなどなくても気にしない。
丸腰人ご本人でも、丸腰人の近くにいるのアナタでも、
誰でも投稿OKです。
総本部長とふたりで、すべての投稿を謹んで拝読し、
「これは!」と感じ入った投稿を、
この連載で紹介してゆきます。
みごと掲載された方には、素敵なプレゼントも考え中。
どうぞ、ふるって投稿ください。
総本部長が長年(?)あたためてきた
この連載の命運は、みなさんの1通にかかっています!イラスト:ゴロー