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#43 新年のカラダ

この漫画のもとになった投稿

クリニックで診療する家庭医、
地域のかかりつけ医です。
老境に差し掛かった親がいます。

入院診療をしていないし、往診もしていないしで
「人生を終える日が近づくまでは、
できるだけ元気でいてね!」
のサポートをするのがわたしの仕事です。
かかりつけの患者さんは、平均年齢80歳代。

生活指導をすると
反応がふたつに分かれます。
「ずっと元気でいたいから、がんばる」タイプと
「もう歳だから長生きしたくない」と拒否するタイプ。

後者は極端になると
「早く死ぬ方法ないかしら」と
真顔でわたしに聞きます。
そんなん、教えられるか!
ここは病院じゃ!(思わず千鳥ノブになる)

さて、後者の皆さんは長生きしたくない、
好きに生きてさっと死ぬと
一様におっしゃるわけですが、
人間一人死ぬのがどれだけ大変かご存じでないのです。
徐々に身体機能が落ち、口から食べられなくなり、
体が動かせなくなり、
褥瘡ができるリスクと隣り合わせの日々をベッド上で、
経管栄養や
ゼリーとかムースの食事を細々取りながら何年も‥‥。

ガンに罹らずとも、人生100年時代、
人はいつかこの世の生を終えるのですが、
その道は決して単純でもあっさりもしていないです。
これから自分がどうなるのか、
ときどき想像を巡らせたり、
情報を集めたり、
よりよく生きられるよう
検診を受けたりしてほしいなと思います。

25年近く前、牧師であり、大好きだった祖父が
91歳で亡くなりました。
舌がんでした。当時としては高齢です。
手術で舌にできた腫瘍をとったものの
首のリンパ節に転移が見つかり、
放射線照射を行ったのですが効果薄く、
次第に腫大して自宅で過ごせなくなりました。
余談ですが、そのギリギリまで運転(!)していたし、
階段の上り下りもできました。
牧師のくせに毒舌で、「だから舌がんになったのかな」
と家族が軽口を叩くほどに元気な祖父でした。

入院しましたが、首の腫瘍はどんどん大きくなり、
皮膚を破ってその姿を表し、
内部にもその手を伸ばして
気管を圧迫するようになりました。
気管の壁を破り、中にも入り込んできました。
主治医を務めたのは祖父の息子である、
わたしの父でした。

「親父さん、どうする?
気管に穴を開けて管を通せば息がしやすいけれど、
しゃべれなくなる。
でもこのままだと、息ができなくなってしまう」

説明を受けた祖父は、こう返事しました。
「体のことは息子に。魂のことは神様に任せる」

わたしが歳をとって祖父と同じ状況になったとき、
同じことを言えるかどうか自信がありません。
でも、祖父の生き様、人柄、信仰が濃縮された一言と、
いまでも誇りに思います。

祖父は気管切開を受け、呼吸は楽になりました。
でも、話ができません。筆談はできましたが、
ずっと付き添っていた祖母は
さぞ寂しかったろうと思います。

さらに半年が過ぎ、いよいよ状態が悪くなりました。
祖父の意識は日によって
浮き沈みするようになりましたし、
痛みや苦痛を取るため鎮静剤も
使われていたことと思います
(この期間、わたしは県外へ勤務に出ていたため
詳細は知らないのですが、
たぶんそうしていたはずです)。

そんな折、祖父は力を振り絞ってメモと鉛筆をとり、
父に書いてよこしたそうです。

「我が家の教育と信仰は正解であった」

祖父の遺言です。父は今でも、
そのメモを手帳に挟み
肌身離さず持ち歩いていると言います。

痛みや呼吸の苦しみでしんどかったとは思いますが、
きちんと家族に相談し、
理性と信仰をもって穏やかに決定を行い、
委ね、穏やかな最期となりました。
祖父そのものでした。わたしの誇りであり目標です。

(タナボタばんざい/いつかのほぼ日への投稿より

2026-01-04-SUN

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    今日マチ子

    漫画家。1P漫画ブログ「今日マチ子のセンネン画報」の書籍化が話題となる。文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に4度選出。戦争を描いた『cocoon』は「マームとジプシー」によって舞台化。2014年に手塚治虫文化賞新生賞、2015年に日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門を受賞。『みつあみの神様』は短編アニメ化され海外で23部門賞受賞。コロナ禍の日常を絵日記のように描いた近著『Distance わたしの#stayhome日記』が、2022年1月『報道ステーション』にて特集された。

  • 漫画:今日マチ子

    編集:奥野武範(ほぼ日)

    デザイン:杉本奈穂(ほぼ日)

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