「仕事って、なんだろう?」をテーマに、
糸井重里が3日間で3人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。

最終回のゲスト中竹竜二さんは、
早稲田大学ラグビー蹴球部監督を経て、
ラグビーU20日本代表ヘッドコーチを
3期にわたって務めたスペシャリスト。
また、ラグビーだけでなく、
企業のリーダー育成トレーニングを行う会社や
コーチの学びの場を促進する団体を設立するなど、
ジャンルを超えて人を導いてこられた方です。

そんな中竹さんが話してくださったのは、
「行動」から「考え方」、「ものの見方」まで、
今すぐ挑戦できそうなことの数々。
そしてそれは、
これから就活をする人にも、
何十年も働いている人にも、
届くようなものばかりです。

出席者全員が体験した空気の変化や、
昨年のラグビーワールドカップで日本が強かった理由など、
糸井も何度も感心したお話を
全8回にわけて、「ほぼ日曜日」からお届けします。

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第6回

「差」と「異」を理解すると、できること

中竹
去年、ダイヤモンド社から出た
『オーセンティック・リーダーシップ』
というリーダーシップについての本の監修をしたんです。
「リーダーシップ」には、
カリスマ型とか、召使のようなサーバント型とか、
いろんなカタチがあるのですが、
今、ハーバード・ビジネスという
リーダーシップの権威である大学で
論文数が圧倒的に多いのが
「オーセンティック・リーダーシップ」
というタイプなんです。
「オーセンティック・リーダーシップ」とは、
「自分らしいリーダーシップ」のこと。
この本の最初には
「研究室でいろんなリーダーを調べたが、
結局、パターンはなかった」
と書いてあります。
これが最近の研究でハッキリわかった。
糸井
つまり、優秀なリーダーのパターンはなかった。
中竹
なかったんです。そのうえで、
「あるとしたら、その人らしくあること」と言うんです。
それしか結論が出なかったんですよ。
つまり、優秀な人に特有のパターンがあるというと
そんなことはまったくなくて、
けっきょく、「その人らしさ」を
大切にするしかないんです。
まわりの目を気にして
作り笑いをしているときは、
「その人らしく」ないですよね。
そこに、他の人は気づきますが、
意外と自分は気づかなかったりします。
糸井
そうですね。
中竹
人は、人の評価ばかり気にするんです。
「この人にイヤと思われないように」
と作り笑いをしている人は、
人の評価でしか自分を見てないから、
自分が本当の自分かどうか、
自分が本当に喜んでいるかどうか、
気づかないわけですね。
だけど残念ながら、他の人は気づくんです。
怖いですよね。
だから立ち止まって、
そもそも自分ってなにが好きで、
「自分らしさ」ってなんなのかを考えてみる。
「自分らしさ」というのは、
ほかの人との「違い」であるということで
できると思うんですけど、
「違い」ってふたつあるんですよ。
それは、「差」と「異」。

糸井
「差」と「異」。
中竹
はい。
「差」はギャップです。
ある基準に基づいて優劣がつきます。
「異」はディファレント(different)です。
異なっているということです。
糸井
「異なる」と「差がある」は違う。
中竹
そうです。
おそらくみなさんが生きているうえで
気にしているのは「差」なんです。
「頭が良いかな、悪いかな」
「知ってるかな、知らないかな」
「能力が高いかな、低いかな」
「背が高いかな、低いかな」‥‥
だけど「異」は、ただの違いです。
例えば男か女かって、本来的には差じゃないですね。
性格も、明るいか暗いかは良い悪いじゃない。
色もね、どっちの色が良いかとかないじゃないですか。
「異」は無限大に出てくるんですね。
糸井
ああ、ほんとにそうだ。
中竹
「英語を喋りたいのに喋れないな」とかは、
頑張ろうと思えば頑張れます。
「差」として、
自分にとって高めたほうがいいものは
高めたほうがいいです。
でもほとんどは、
コンプレックスによって、
自分の「異」を、
無理矢理「差」だと思ってしまう。
これは苦しいですよ。
僕が英国の大学院生時代にずっと取り組んでいたのは
差別の研究だったんですけど、
差別って実は「異」だったものを
「差」として人間を評価したものです。
本来的には人の価値は同じであるにもかかわらず、
色で分けたり、男女で分けたり、貧富で分けたり。
多くの人が、これを自分自身でやっちゃうんですよ。
ここを断ち切るには勇気が要ると思いますが、
「自分らしくていいんだ」と決めた人は、
パフォーマンスが上がる。
糸井
ああ、これは、大人に聞かせたい話ですね。

中竹
なんか肩ひじ張ってね、疲れている人は、
早くそのプレッシャーを跳ね除けて欲しいですね。
それは自分で自分にかけている
プレッシャーですから。
糸井
自分を縛っているし、
他人を縛りますからね。
中竹
そうです。
糸井
ああ。いいなぁ、それは。
そういえば、出会ってすぐのとき、中竹さんは、
「ラグビーってもともと差別的な競技だから
僕は一回離れたんですよ」って言いましたよね。
「イギリスのエリートの人たちの遊びだったから」って。
中竹
そうですね。
糸井
「差として下の人を排除するところがある」って。
こんなことを言うラグビー関係者に
会ったことがないので、
それは僕にとって「異」だったんですよ。
それがすごく面白かったんですね。
中竹
それは嬉しいです。

(つづきます)

2020-05-17-SUN

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