糸井

この本のタイトルに「希望」ってありますけど、
いまってほんとに誰もが強い行き詰まりを感じてて、
「どこに希望を語れるんだろう？」
という時代だと思うんですよ。

子どもだったり、自分自身がこれから成長する人は
希望を語れますけど、
ある程度成熟した人間なり組織が
希望を語れるかというと、相当難しくて。

GAFAMだなんだって、数字が大きくなる話はできる。
だけどそこでの成長って、
脳の部分の話でしかないですから。

一方で先日、うちの子どもの子どもが
自転車にはじめて乗れたときの写真を
見せてもらったんですけど、
もう表情とか、すごいんですよ。

安宅

超絶輝き、でしょう？

糸井

そう。それを見るだけで大人もすごく嬉しくなるし。

なかなかうまく言うのが難しいですけど、
たぶん、ぼくらがやりたいことって
ああいうことだと思うんです。

安宅

そういう喜びを生み出す。

糸井

そうですね。そこでの、体や心とつながった喜びというか。

そのときにこれまた
「別に実際に乗れなくても、デジタルで
自転車に乗れたつもりになればいいじゃないか」
みたいな方向にいろんなことが
進んでいくとしたら、かなわないですよね。

安宅

ああ、そうですね。

糸井

ただ、「風の谷」もそうだと思いますけど、
地域の動きって、そういうぼんやりした
イメージはありつつも、
やっぱり具体的に言うのは難しいというか。
「結局何をやりたいの？」って言われても、
自分たちにもなかなか本当の答えはわからないんです。

いまの価値観に合わせるとしたら
「団地つくるの？」「温泉旅館やるの？」
とかの形に１回収める必要がある。
だけどそういうことをやりたいわけじゃない。
「いや、もっと違うんだよ。まだ曖昧だけど」
という思いが常にあって。

安宅

次々と言葉を生み出し続けなきゃいけない。

糸井

ええ。で、いまぼくが感じている、
違うかもしれないけど捨てきれないイメージが
「疎開地」なんですよ。

田舎に親戚がいるわけじゃないけど
「行ける場所があるよ」。
そういう場所としての、みんなの疎開地。
そういうものを作りたいのかなって。

安宅

それ、すごくいいですね。

糸井

だから「その場所には何があるのがいいのかな」
というのを、ずっと考え続けているんですけど。
そこにすごい便利さを求めるはずがないし。
とはいえ電気もないところは嫌だし。

そして、なにか企画があって行くというより、
ただ行きたい場所にしたくって。
「名前のついた行動に移さなくてもいい場所を、
なんとかつくれないかな」というイメージなんです。

たとえば「３連休どこか行くの？」って聞かれたときに、
「どこも行かない」とか言いながらそこに行ってて、
そしたら友だちがたまたまいて、
お茶飲んで帰って来たでもかまわない。

どうしたらそういう場所ができるんだろうって、
ずっと考えてる感じなんですけど。

安宅

ああ、なるほど。

糸井

ひとまずぼくらは、赤城山頂にある
昔のケーブルカーの駅の施設を持つようになったんで。

「ほぼの駅 AKAGI」のある赤城山頂・鳥居峠からの眺め。

安宅

あそこ、本当にいいですよね。
絶景だし。
大沼の周りも、伸び代しか感じないというか。

糸井

いいこと言うなあ。
そう、だから、景観があります。
少し下りて行けば、山のご神水を汲める場所もあるし。

ひとまず「来た人が、その駅から
自分なりのいろんな希望に向かえる」
というテーマでつくりたいんです。
モチーフとして「切符」とかを売ろうと思ってて。

安宅

それ、めちゃめちゃいいですね。

赤城山は我々の「風の谷」のコアメンバーも
コミットしてますよ。
ランドスケープデザイナーの熊谷玄さん。
ほかにも「こんな人がいたら」みたいなことが
あったら、紹介もできるかもしれませんし。

糸井

本当ですか。つながらせてもらおう。

安宅さんたちがいま「風の谷」でやっているお話を、
ぼくらは現実にどんどん動いてみるところから
登ってるので。
お互いに何がどうダメだったか、良かったか、
これからも情報交換させてもらえたら嬉しいです。

安宅

それはもう、ぜひ。

糸井

あと、今日の最後に、安宅さんのなかで
「この本の特にここがおもしろいよ」
というポイントを教えてください。
これ、頭から全部読む人のほうが
めずらしいと思うんですよ。

安宅

そうですね（笑）。
ぼくらとしても、気になるところから
読んでもらえたら、という感覚なんです。

どの章もけっこうおもしろい、
というかさまざまな専門的な知見を踏まえつつも、
かなりゼロベースな分析結果と、
解決の方向性をまとめていますが、
今回の議論のからみでおすすめというと、
４章（エコノミクス）、９章（インフラ）、
６章（求心力と三絶）、７章（文化・価値創造）、
どれも重要な話だと思います。
とくに７章は、まさに糸井さんの世界かなと。

糸井

わくわくします。

安宅

文化・価値創造のための理想的な空間って、
ぼくらは「サンゴ礁空間」と言ってるんです。
いろんな生きものが棲める隙間があって、
なぜか混ざりきらず、でも出会うことができる空間。

疎空間も、そういう場所になれば
生き延びれるんじゃないかと思ってて。

糸井

最高ですね。
その「サンゴ礁」って「乳化」の話ですよね。

以前、ある人との対談で「乳化」の話をしたんです。
水と油って別ものだけど、対立してるわけじゃなくて、
乳化するとドレッシングになる。
そういう発想でいろんなことをやっていけると、
実はすごくおもしろんじゃないかとかって。

安宅

はい、まさに！
実は本のなかに「乳化」の話も出てくるんです。
264ページ。

糸井

え、本当ですか？
‥‥おおーっ、まさしく乳化だ（笑）。

安宅

「物理化学ではこの現象を乳化という」って、
絵も入れていて。
さすが糸井さんの千里眼、そのとおり。

そのとき、２つの世界を混ぜる触媒のような存在が大事で。
一定数いるそういう人材のことを、
ぼくらは「界面活性型人材」と言っているんですけど。

糸井

なるほどね。
理系の人たちの発想はいいなあ。

安宅

とんでもない。
ただ、自分たちがやってることって、
そういうことばかりですから。

糸井

安宅さん自身がまさにそういう人ですよね。
AIやデータといった背景とともに、
明らかに富山の漁村があるわけで。

安宅

そうですね、ぼくは心に故郷があるんで。
富山の街中ですらなく、
漁村、米騒動発祥の地で育ちました。

ぼく、富山の街の真ん中にある高校に行ったんですけど、
あまりに田舎の地域出身だったから、
入学したとき、うしろの席の人と
言葉が通じなかったんですよ（笑）。
富山の都心は緩い富山弁ですけど、
ぼくの地域の言葉はものすごく強い、
しかも漁師訛りのやつだったんで。

‥‥そんなわけで、話を戻すと、
まずは本のそのあたりを、それぞれの方の
関心に沿って、読んでみていただくと
おもしろいかもしれません。

糸井

ありがとうございます。

だけど、この本までたどり着いたのは、
本当に力仕事ですよね。
仲間のみなさんの平均年齢って、どのぐらいですか？

安宅

どのぐらいかな。
30代後半から50代ぐらいがメインだと思います。

糸井

逃げられない人たちですね。

安宅

逃げられないです。

糸井

先日、ふっと思ったことで、
「夏の暑さの問題、毎年こんなに語ってるけど、
いつもそのうち秋がきちゃうから、
結論がいい加減になるんだよな」って。

安宅

そりゃそうですね。
いったん過ぎ去るから、解決した感じになる。
だけど、この問題は過ぎ去らない。
ただ、悪化していくだけで。

糸井

これは過ぎ去らない、本当にそうだ。
何となく解決しちゃう問題とは違って、
永遠に残っちゃうんですよね。

この研究会は、永遠ですね。

安宅

永遠です。
でも、一定のところまでは行きたいと思います。

糸井

じゃあ、『「風の谷」という希望』の、
まだ読んでもいないプレ読書会の第１回は、
終わりにしましょうか。

また続きをやってくださってもいいですし。
赤城山でお話をしてもいいし。
お互いのプロジェクトが重なるところもあるでしょうし。
いろんなことをまた、考えたいと思います。

安宅

ぜひ、ぜひ。もちろんです。
今日はありがとうございました。

糸井

こちらこそありがとうございました。