「風の谷」ってなんだ？

安宅和人さんと糸井重里による
『「風の谷」という希望』プレ読書対談。
読む前に知っておくとよさそうなお話が
いくつかあるので、先にご紹介させてください。

安宅さんが出した本『「風の谷」という希望』

2025年７月30日、安宅和人さんが
『「風の谷」という希望』という
900ページ以上ある分厚い本を出されました。

これは、安宅さんが８年ほど前に突然ひらめいた
「このままでは都市にしか人が住めない
未来が来てしまう。
‥‥そうだ、風の谷が必要だ！」
というイメージをきっかけにスタートした、
未来創造プロジェクトの本。

「風の谷」という漠然とした問題意識が
おりてきた安宅さんは、
さまざまな専門家の人たちに声をかけ、
思いに共感したメンバーの方といっしょに
「どうすれば都市だけではない違う未来を作れるか」
について、さまざまな方向から
たっぷりと検討を重ねてこられています。

「風の谷」のある未来をつくるためには、
どんな課題があり、何をしていく必要があるのか。
幅広い検討から見えてきたなかで、
とくに基本となるようなところを、
安宅さんが１年半かけて書かれたのがこの本です。

そもそも「風の谷」とは？

とはいえ「風の谷」とは、
どういったものなのでしょうか。
安宅さんたちのプロジェクトのウェブサイト内の
「風の谷について」という文章が、
おそらくいちばん思いが直接伝わると思うので、
その文章を引用してご紹介させてください。

つまり、このままでは来てしまいそうな
「都市しかない未来」に対して、
別の未来のありかたを探るプロジェクト。
背景には
「残すに値する未来をつくりたい」
という強い思いがあります。

そのため、安宅さんたちは2020年に
「一般社団法人 残すに値する未来」を立ち上げ、
プロジェクトを推進する母体にされています。

きっと100年とかかかる話。
検討すべきジャンルも、さまざま。

また、この「風の谷」の動きについて、
安宅さんたちは
「きっと100年とかかかる話」とも
言われています。
そのくらいの長いスパンで考えられているお話。

また「風の谷」のある未来を現実化するために、
メンバーのみなさんが検討しているジャンルは
非常に多岐にわたります。
自然（森）、インフラ、エネルギー、
ヘルスケア、教育、食と農などなどなど。
あまりにさまざまなことに関わる大きな話なので、
多種多様な方向から、徹底した検討をされています。

これらをゼロベースで問い直し、
そこで見えてきたものをたっぷりと紹介しているのが、
今回出された「『風の谷』という希望」という本。

いろんな方がこの「風の谷」の運動を知り、
それをきっかけに、この未来の問題について
それぞれに考えを深めていくことが、
「都市しかない未来」ではない未来にたどりつくための、
ひとつの追い風になるのでは、とも思います。

キーワードとなる言葉「疎空間」

また「風の谷」の話のなかで頻繁に登場する
安宅さんたちが新たに考案して使っている言葉を、
ひとつご紹介させてください。

それが「疎空間（そくうかん）」。

意味は文字どおりで、
「疎」（人がまばら）な「空間」を
意味している言葉です。
人口密度が低く、社会基盤の維持が
困難とされがちな場所。
具体的には人口密度が「50人／平方キロ」を
下回る場所のイメージです。

これは「風の谷」の議論にあたり、
「都会 vs 田舎」という発想では
答えをうまく出せないと気づいた安宅さんたちが
「密空間（都市）」に対立する概念として
設定したもの。

そういった場所をあえて“再設計”の対象とし、
都市とは異なる原理で成り立つ空間として
捉えなおすため、さまざまな付随する
イメージがある「田舎」や「地方」ではなく、
「疎空間」という新たな言葉を
使いながら議論をすすめられています。

この言葉を使って説明する「風の谷」とは、
「存続可能かつ、持続可能な状態にある、
自然豊かな疎空間」のこと。

もう少し別の言い方をすると、
「風の谷」とは、自然豊かな疎な空間を、
都市に頼らずとも人が住み続けられる
“もう一つの未来”として再構築する構想の呼び名のこと。
また、これは都市を否定するものではなく、
都市と自然、両方を生かす
空間デザインの試みとして提案されます。

どうすればそういう場所を実現させることができるのか。

この対談から「風の谷」プロジェクトについて
知っていただき、
すこしでもこの問題について
興味を持ってみていただけたら嬉しいです。