突然ですが、質問です!
仮に「ミィ」というポケモンと、
「ガルルドン」というポケモンがいたとすると、
どっちが体が大きいと思いますか?
もしかして
「なんとなく『ガルルドン』の方が大きそう」
と、思いませんでしたか?
この「なんとなく」が「おそらく、なんとなくじゃない」
ということを教えてくれるのが、言語学者の川原繁人さん。
名前と音の不思議な関係をたっぷり話していただきました。
題材はまったく堅苦しくなく、
ポケモン、プリキュア、メイドさんの名前ですよ。
川原繁人(かわはら・しげと)
慶應義塾大学言語文化研究所 教授。2000年カリフォルニア大学サンタクルーズ校に交換留学。同大学言語学科、名誉卒業生。2002年マサチューセッツ大学言語学科大学院入学。2007年同大学院より言語学博士号取得。
- 川原
- つぎは、ポケモンの話にいきますね。
- どっちも本物のポケモンじゃないんですが、
ポケモン風のキャラクターの絵を
許可をもらって、つかわせてもらっています。
仮に、ちいさいポケモンと大きいポケモンがいたとして。
- 川原
- どっちが「ピィ」ですか?
どっちが「グラードン」だと思いますか?
- 川原
- ‥‥こっちが「 ピィ」ですよね。
- 川原
- こっちに「 ピィ」 はつけられないのよ。
- 川原
- こっちも、「グラードン」はダメなのよねー 、うん。
- ここで、
ソクラテスとソシュールの話に戻ると、
「名前が私とあなたの約束だけで決まるなら、
約束する前に名前をつけられるっておかしいでしょ」
という話ですよ。 - じゃあ、なんでわかるのかなということで、
データをまとめてみました。 - ポケモンって、進化すると名前が変わるんですよ。
で、進化前の名前と進化後の名前を比べてみたのが
この図になります。
- 川原
- どこに注目してほしいかっていうと、濁音なんですよね。
- 進化する前の名前に濁音ついてないのに、
進化すると濁音が出てきちゃう。
「イワーク」が「ハガネール」になったり、
「メッソン」が「ジメレオン」になったり。 - もともと進化する前に、
濁音は0個、あるいは1個しかなかったのに、
2個以上になる例が、いっぱいあるんですよ。
さらに言うと、
「進化すると濁音が増えるし、名前もちょっと長くなるな」
という感じなんです。 - で、ちゃんと統計をとって調べることになりました。
これは2016年じゃないかなぁ。
‥‥って、もう8年前ですよ。やんなっちゃうね!
- 川原
- これは第6世代までのデータ、「サン&ムーン」が出る直前ですね。
首都大学東京、今の都立大学で集中講義をやったときに、
学生が見つけたんですよ。 - X軸が進化レベルですね。
0から、「ヒトカゲ」・「リザード」・「リザードン」
と2回進化するということです。
マイナス1は「ベイビィポケモン」っていって、
「『ピチュー』は『ピカチュウ』の進化前の形ですよ」と、
後付けで進化前が出てきたポケモンです。 - それぞれの名前の平均濁音数をとると、
右肩上がりになるんですね。
これは、あくまで統計的なことで、傾向です。
例外ももちろんありますよ。 - あとポケモンは、高さと重さが決まってるんですね。
ポケモンの世界って、
いろんな数値を持った個体がいっぱいいるから、
統計的な分析がしやすいんですよ。
- 川原
- 左のグラフは高さですね。右が重さです。
それぞれの名前に含まれる濁音の数を比べてみると、
こちらも右肩上がりの傾向が見られます。 - そうなんですよ。
「濁音数が増えると、進化するし、大きくなる、 重くなる」
という傾向が見つかりました。名前の長さも同じです。
- 川原
- Y軸の名前の長さは、
「ひらがな何個か」ぐらいに思ってください。
これも進化レベルとともに右肩上がりで上がっていくんですよね。 - どうやらポケモンを見ると、
「濁音が増えると大きくなる」
「名前が長くなると大きくなる」
という傾向がある。
だから、「ピィ」と「グラードン」が与えられたときに、
ちゃんとどっちがどっちか判断できるんだなと思うわけですよ。 - で、つぎは、
私がすごく、面白いと思ってることなんですけど。
「なんで濁音が名前に入ると
ポケモンは大きくなるんですか?」
っていう、ここを!
私はみなさんに教えたいんです。
(つづきます)
2024-10-16-WED
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こちらの授業のダイジェスト版が
ほぼ日の學校YouTubeでご覧いただけます!
『「あ」は「い」より大きい!?』
(だいわ文庫 2024年10月12日発売)
著/川原繁人今日お話ししたようなことが音声学的に詳しく書いてあります。
まだアメリカから帰ってきて間もない川原くんがけっこうガチな話をいかに面白くしようとしているかの奮闘記とも読める本です。
(川原さん)『フリースタイル言語学』
(大和書房 2022年5月)
著/川原繁人コロナ禍で溜まったストレスを書くことによって自分で癒してる感じ。
裏話的なエピソードが多いのがこっちです。ちなみに上白石萌音さんが気に入ってくれた本でもあります。
(川原さん)