現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その1

「リモコン」

初回から「最近」じゃないんだけど、すいません。もう20年以上前から集めてます。まだ西海岸にいたころ‥‥あ、ぼくサンフランシスコにいたんですけど、当時1個99セントとかで売ってたんです。ジャンク屋で。それをアメリカ人のおっさんたちが超真剣に見てるんですよ。品定めで。へぇ~と思って。で、ぼくも何となく集めはじめたんですけど‥‥あるとき100個まとめて出てたんです。メルカリに。それで一気に増えました。3000円とかだったかなあ。だから1個30円とか、そういう世界。まだ使えるものもあると思いますよ。使いようもないけど。これとかアクオスのやつですよね、テレビの。何だこれ「JUMBO」って(笑)。無闇にデカイから、わざわざ書いたのかな。いやあ、でも久しぶりに見ました。棚の奥のほうにしまってあったんで。え、何でこんなに買ったのかって? それいまさら聞きます? 何でだろう‥‥こんなにたくさんリモコンあったらどうかなと思って。リビングに。家族とかと「リモコン取って」「どれよ?」つって。「シルバーのやつ」「だからどれよ?」って(笑)。あとは、安かったから。100個で10万円ですなんて言われても買わないでしょ。まあ、3000円としても「いい晩メシ食えるじゃん」とかね、わかりますよ。でも「3000円」出して「100個のリモコン」を買う行為が、自分のなかではパフォーマンスに近かったのかな。誰も見てないのにね(笑)。え、じゃあ100個のリモコンが届いたとき、アーティストとしてどう感じたか‥‥って? 「重てぇ」ですかね。そりゃ重いよね。これだけあったら。テレビ、ビデオ、エアコン‥‥これとか何だ、レーザーディスクかな。よく見ると、人類の工夫のあとが刻み込まれてるんです。ボタン大きくしてみたり、ちっちゃくしてみたり。電源ボタンはだいたいついてるとか。はい? 価値ですか? ないですよ。お金的な価値は当然ゼロだし。かといって飾ってうれしいもんでもないし。価値のないものが好きなんですよ、そもそも。ん、まだまだ集める気かって? もういいかなと思ってます。ここから10個20個増えたところで、何も変わらないでしょ。1万個くらい一気に増えて、有栖川公園にリモコン敷き詰めるみたいなね、そういうクリストみたいなことができるんなら別ですけどね。そうじゃなければ、もう要らないです。とにかく、いまの数でも十分満足してるし、これだけリモコン集めてる人もいないと思うんで‥‥あ、メルカリに出してた人は、なんで100個も持ってたんだろう?

リモコンって便利ですよね。コタツから出る必要ないから。ラクをしたいという気持ちが生んだ、われわれ人類の渾身の発明品。つまりは人間の怠け心の結晶ということで、すばらしいです。ただ人間の怠け心の結晶がこれだけ集まると、ちょっとコワイような気もしました。ムダという概念は、何か、あるひとつの観点からのものなのかもしれませんね。

加賀美さんの「カッコいい」

VANS AUTHENTICVANS
20年以上、これです。いつもジーパンなんですけど、いちばん合う気がしてます。サイズはUS10の28センチ。ふだんからなぜか爪先を曲げる動きが多いのか、すぐにサイドの部分が壊れちゃう。で、それもカッコいいなと。この靴とコンバースは、汚ければ汚いほど、ボロボロであればあるほどカッコいいと思ってます。

2022-03-16-WED

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