こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
この不定期連載「常設展へ行こう!」が
書籍化されました! うれしい!
‥‥ということで、書籍化の記念として
東京国立博物館さんに、
またまた、ラヂヲ先生と行ってきました。
今回は主にアジアの文化財を収蔵する
東洋館を、たっぷり解説いただきました。
先生の手には、当然スケッチブック!
シリーズの最新話として、
また書籍の続編としてお楽しみください。
なお、東博さんでは、ことし2024年も
1月2日(火)〜14日(日)まで
長谷川等伯による国宝《松林図屏風》を
本館2室にて展示するそうです!
お正月に見る大人気の国宝は、また格別。
ぜひ、足をお運びください。

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第4回 こちらがイケメンNo.1。

ラヂヲ
わぁ、この人はいいぞ。
──
おお、ヘラクレス立像‥‥というと、
ギリシャとかローマの人?
ちょっと、イメージとちがいますね。
何か‥‥ぽっちゃりしてる。

小野塚
そう、そうなんです。
こちらはイラクで発掘されたもので、
いわゆる本場の
ギリシャ彫刻のヘラクレスとは、
雰囲気がちがいますよね。
──
はい、丸みを帯びているというのか。
かわいらしい感じがいたします。
小野塚
地中海地域の文化が
西アジアへ伝わってきたあと、
現地でつくられたものなので、
ガラッと雰囲気が変わってるんです。
ラヂヲ
ただ、一見かわいいんだけど、
なぐられたら痛そうな棒を持ってる。
小野塚
はい、棍棒を持っていますね。
ライオンを仕留めた話が有名ですが、
そのライオンの毛皮を手にしてます。
ここに、ライオンの爪が見えますか。
爪の部分がついたままの毛皮です。

──
ほんとだ‥‥。ほぼ全裸の人が、
獰猛そうな顔つきをしたライオンと
取っ組み合いしてる絵が
ルーベンスにあったと思いますけど、
あの人が、この人?
小野塚
同一のイメージです。
──
ギリシャ、ローマ的な
人間の理想の肉体美みたいな表現が、
伝わっていった先の東の地域では、
こんなふうに
変わっていったということですか。
小野塚
そうなんです。
原田
ギリシャ、ローマ的ということでは、
となりのコーナーに、
ガンダーラの仏さまが並んでいます。
ギリシャ的なエッセンスが
インドの北のほうへ入ってきて、
まさしく
ギリシャ彫刻みたいな感じなんです。
ラヂヲ
ガンダーラ、ガンダーラ‥‥♫
──
いま、歌いました?
原田
ガンダーラというのは、
現在のパキスタン北部から
アフガニスタン東部にかけての地域で、
仏教の源流である
インド文化圏から見れば辺境ですし、
地中海地域からはだいぶ離れています。
ですが、その地に、
ヘレニズム・ローマ世界や
西アジア世界などの文化が流入して、
インド文化とも混じりあって
ガンダーラ独自の文化が生まれました。
──
そんなにも長い旅路を経て伝わった。
土着の文化と混じり合って、
さまざまに変容しつつ‥‥ですよね。
文化の伝播力って、あらためてすごい。
原田
アレクサンドロス大王が東へ東へ‥‥と
勢力を広げ、
そうやってガンダーラを含め、
インド北西部にも、
西のほうの人たちが入植してきました。
一口に「インド」と言っても、
その世界を形成する人々は、じつに多様です。
各地を歩くと、
その土地の彫刻と同じような人に出会ったり。
彫刻を見ると、
その土地の人や風土がわかる気がするんです。
ラヂヲ
それにしても、このヘラクレス立像は、
なかなか立派なぽっこりおなかだね。
ちょっとビールを飲み過ぎてるのかな。
気をつけてほしいです。

──
ときに、先生はお痩せになりましたね。
久々にお会いしましたけれども。
ラヂヲ
痩せました。ビールをやめまして。
──
おお、そうなんですか。それはそれは。
ビールを断ったら、てきめんに。
ラヂヲ
はい。
小野塚
ビールといえば、
こちらはお酒のグッズのコーナーです。
動物の形をした器なんですが、
前脚に「穴」が開けられているんです。
つまり、こぼれちゃう。
そちらのヒツジのカップも、
鼻のところに小さな穴が開いています。

ラヂヲ
もったいない! いったい何のために。
小野塚
当時、ギリシャや西アジア地域では、
ワインを流す儀式が行われていました。
たとえば「旅の安全」を願うために、
出発に際して
足もとにワインを流したりですとか。
あるいは、宴のときなどに、
こういう器で酒を飲んだりしていて。
──
後者の場合は、楽しく飲むために?
つまりはパーティグッズ的な用途?
ラヂヲ
高知にもありますよね、そういう盃。
可杯(べくはい)って。
竹之内
飲み干さないといけないやつですね。
──
たしか沖縄にも「おとーり」の盃で
似たようなのありますね。
仏領ギアナの飲み屋でも見ましたし。
人間、場所や時代が変わっても、
考えることは同じなのかなあ(笑)。
ラヂヲ
この皿なんかフグを盛ってるみたい。

──
わはは、本当だ!
「見えないフグ刺しが見える皿」!
小野塚
はあ‥‥おもしろいですね‥‥。
まったく考えたこともなかったです。
そんなこと‥‥。
ラヂヲ
先生方は考えてはいけません(笑)。
わたしの役割ですので。
この皿に描かれているのは、こぶ牛。

こぶ牛文装飾皿 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
こぶ牛文装飾皿 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

小野塚
はい、こぶ牛。イランのあたりには、
こぶがあるというのか、
首の付け根の出っ張ってる牛がいて。
現地の人たちに好かれているのか、
こぶ牛は
いろいろデザインされています。
さて、ここからが、
さっき原田が言っていた
ガンダーラの仏さまのコーナーです。
ラヂヲ
ガンダーラ、ガンダーラ‥‥♫。
──
また歌いました?
ラヂヲ
ゴダイゴの曲で知っています。
──
あの曲だと、たしか、インド世界に
ガンダーラという国があって、
そこでは
どんな夢も叶うユートピアだ‥‥と。
原田
はい、三蔵法師が、
天竺つまりインドに旅をする話です。
ガンダーラのお像を見ていただくと
わかると思うんですが、
非常に端正なお顔立ちをしています。
ラヂヲ
ほんとだ。イケメンだなあ。

竹之内
以前、東博の収蔵品で
イケメングランプリやったとき‥‥。
──
東博さん(笑)。
いろんなことをやっているんだなあ。
竹之内
このあたりのエリアでは、
たしか、このお像が第1位でしたね。
──
おお、この方がイケメンNO.1。
原田
髪の毛のウエーブのかかり方だったり、
着ている衣のドレープの感じが、
ギリシャやローマの彫刻に
非常に近いと言われるんですけど、
もともと
アーリア系の民族が西からやって来て、
いわゆる
グレコローマン文化をもたらしたので、
西の方の要素がたくさん見て取れます。

──
見れば見るほど、端正なお顔立ちです。
土着の表現と合体している?
原田
そもそも、仏さまを
お像として表現してはいけませんよと
お釈迦さまは言ったんですよね。
つまり偶像崇拝してはいけない‥‥と。
でも、信者さんとしては
やっぱり、何かを拝みたいんですよね。
そこで、紀元後1世紀前後から
ブッダのお像が出てくるんですけれど、
最初に生まれたのが
このガンダーラ、
インド文化圏の北のあたりなんです。
──
へええ。
原田
その動きに影響を与えたのが、
ギリシャとかローマの文化なんですね。
つまり西の神さまのお像も一緒に
ガンダーラに入ってきているんですが、
その影響を受けて
ブッダのお像もできたんじゃないかと。
──
なるほど。そもそも
ガンダーラに仏像が生まれたことも、
ギリシャやローマの影響だった。
原田
ちなみに、ガンダーラより南には
マトゥラーという地域があって、
そこでも、
とても立派なお像ができるんですが。
──
ええ。
原田
インドには、
たとえば「ヤクシャ」という名前の、
土着の神さま‥‥
樹木などの自然神なんですけれど、
そういった
生命力に溢れた神さまがいるんです。
マトゥラーでは、そのような
土着の神のお像をつくっていたので、
それらがもとになって、
釈迦像もつくられるようになったと
言われているんですが、
だいたい、ガンダーラの仏像と
同じような時期なんです。
竹之内
ちなみに、ひげを生やした仏像って、
めずらしいと思いませんか?
ラヂヲ
ほんとだ、たしかに。

原田
このお像は、まだブッダになる前の、
悟りを開いてない、
ひとりの王子さまのときの姿です。
いわゆる「王族」の姿なので、
首飾りや冠をつけたりしてるんです。
ラヂヲ
なるほど。そこはかとない違和感は、
このひげのせいだったのか。
でも、そう考えると、
ひげのカタチって変わってないよね。
いまも昔も。
ダリみたいなひげの神さまは
いないのかな。
「チョビひげ」の神さまとか。
──
そんなクセの強い神さま、いますかね?
どうですか、先生。
小野塚
いやあ、チョビひげの神さま‥‥。
竹之内
あの、浅草のほうにも
「東洋館」ってあるじゃないですか。
──
ありますね(笑)。
漫才師のナイツさんをはじめとした
色物さん専門の寄席ですけど。
竹之内
あっちには、ダリ風のおひげの人や、
チョビひげの人もいそうですね。
──
たしかに(笑)。マジシャンとかで。
ラヂヲ
芸人さんやないかい。

(つづきます)

2024-01-05-FRI

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    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇