
2026年5月20日(水)、
日本全国の土地の高さの基準となる
「日本水準原点」が一般公開されました。
ふだんは見ることのできない国の重要文化財が、
年に一度だけ姿を現すという、
なんともロマンあふれる特別な一日です。
この一般公開に「行きたーい!」と手を挙げたのが、
ほぼ日の
と
のふたり。
それならばということで、
イマコレキニジャーナル特派員として
その様子をレポートしてもらいました。
取材に応じてくださったのは、
国土交通省国土地理院の西城祐輝さんです。
それでは、よろしくお願いします!
イマコレキニはこちらのリンクからどうぞ。
日本水準原点
日本水準原点は、
1891年(明治24年)に設置された
日本の土地の高さ(標高)を測るときの
基準となる点のことです。
現在、東京都千代田区永田町の
国会前庭に設置されており、
現在の標高は24.3900メートルと定められています。
富士山をはじめとする日本の山の高さや地図上の標高は、
すべてこの場所を基準にして計算されています。
-
そもそも「日本水準原点」とは?

- ──
- きょうはよろしくお願いします。
「日本水準原点」についてくわしくないのですが、
おもしろそうだから来ちゃいました。
- 西城
- なんでも聞いてくださいね。
- ──
- それではおことばに甘えて‥‥。
「日本水準原点」というのは、
いつ、どのようにしてできたのでしょうか。
- 西城
- 「日本水準原点」は1891年につくられました。
当時の政府は欧米の技術を
積極的に取り入れようとしていて、
そのひとつに「測量」の技術がありました。
そこで土地の高さを測る「水準測量」を行うには、
どこかに「0」となる基準が必要だったんです。
- ──
- そもそもの話なのですが、
どうして「土地の高さ」を知る必要があったんですか。
- 西城
- 水がどこからどこへ流れるかを知るためです。
河川の工事や水道を引くためには、
正確な高さの情報が必要だったんです。
明治の初め頃に、各河川の河口に「量水標」という
大きな定規のようなものを立てて、
その目盛りの「0」を基準にしていました。
だから全国の各河川ごとで、高さもちがったんです。
- ──
- 地域ごとにバラバラだった?
- 西城
- バラバラでした。
でも、それだと効率も悪いので、
とりあえず基準になるものを
1か所にまとめようということになったんです。
- ──
- 「うちが基準だ」みたいに、
ケンカになったりしなかったんですか。
- 西城
- いろいろ綱引きはあったようですが、
最終的には陸軍の「陸地測量部」という組織が、
基準点もふくめて
日本全国の地図をまとめてつくることに決まりました。 - じつはいま「憲政記念館」の
建て替え工事をしているあたりに、
戦前は陸軍参謀本部があって、
その前に陸地測量部の建物がありました。
あの時計台のあるあたりが、
ちょうど正面玄関だったそうです。

- ──
- なるほど。
だからここに「日本水準原点」があるんですね。
- 西城
- そういうことです。
ただし、ここは0地点ではありません。
- ──
- 0地点はどこにあるんですか?
- 西城
- 当時、0メーター地点に選ばれたのが、
東京の中心からいちばん近い
隅田川の河口付近の「霊岸島」という場所でした。
そこで6年間、海面の潮位を観測して平均したものを
「東京湾平均海面」として標高0メーターとし、
日本全国の基準として使うようになったんです。


- ──
- 基準になる0は平均値なんですね。
- 西城
- 平均海面なので実物があるわけじゃないです。
ただ、0メーターを決めた
「霊岸島」の量水票の側には、
量水票の「附属水準点」という補助的な水準点もあります。
当時はすぐに水をかぶっちゃっていたのですが、
いまでも水準点「交無号」として残っていますよ。
- ──
- 水をかぶっちゃうような場所だと、
基準としてはちょっと不安になりますね。
- 西城
- なので、内陸の1段階高く、
地盤が安定したところに
「日本水準原点」が設置されました。
この地図でいう黄色いエリアですね。

- 西城
- このエリアは「武蔵野丘陵地帯」といって、
地下に非常に硬い岩盤があって、
その上に関東ローム層という
柔らかい土が乗っている地形なんです。
- ──
- 柔らかい土の上で大丈夫なんですか?
- 西城
- 関東ローム層は柔らかいのですが、
地下の岩盤は非常に頑丈です。
岩盤にとどくまで穴を掘り、
そこにコンクリートを流し込むことで
杭代わりにしたわけですね。
- ──
- そっか、岩盤を基礎に。
- 西城
- その基礎の上部に
小豆島産の花崗岩(かこうがん)でつくった
正八角形の「台石」が乗っています。
さらにその上に船形の石を置き、
その先端にメモリを刻んだ水晶板が埋め込まれています。
- ──
- つまり、それが‥‥。
- 西城
- はい、日本水準原点です。

- ──
- その水晶板に刻まれた原点は、
結局、何メートルに設定されているんですか。
- 西城
- 水晶板のメモリの「0」の位置が、
「当時は24.5メートル」の高さでした。
- ──
- 「当時は」ということは‥‥。
- 西城
- じつは2回、高さが変わったんです。
- ──
- えっ!
- 西城
- 1回目は関東大震災のときです。
あのとき、この付近一体が全体的に沈降して、
土地の高さ変わってしまいました。
3年ぐらいかけて復興測量をした結果、
8.6センチほど沈んだということがわかっています。
そのときに「日本水準原点」も、
24.414メートルに改定されました。
- ──
- それが1回目‥‥。
2回目はいつだったんでしょうか。
- 西城
- 2011年の東日本大震災のときです。
あのとき、土地が2.4センチ沈みました。
なので、いまの公式の原点数値は
「24.3900メートル」となっています。
「日本水準原点標庫」を見てみよう
- ──
- 日本水準原点が設置されている建物も、
すごくかっこいいですね。

- 西城
- 「日本水準原点標庫」は、
国の重要文化財に指定されています。
1891年(明治24年)に完成して以来、
ずっとここにあります。
全体として土地が沈んだので、
高さが変わったりもしていますが、
建物自体が傾いたとか崩れたとか、
そういうことは一切ありません。
- ──
- 当時からずっと変わらず‥‥すごいですね。
- 西城
- ひとつ大きく変わったことといえば、
最初は「銅葺き」の屋根だったそうです。
それが戦中の金属類回収令で剥がされて、
現在は石材だけの屋根になっているというぐらいです。
他にも窓や後ろの扉のサッシが
新しいものに変わったりしていますけれども、
正面の扉なども当時のままです。
- ──
- 正面の文字は、なんて書かれているんですか。
- 西城
- 当時の文字で「大日本帝国」と書いてあります。
さらに当時は陸軍の施設だったので、
正面の扉などにも菊の御紋が入っています。


- ──
- これも、当時のまんまってことですよね。
- 西城
- 戦後、GHQが入ってきたときに、
他の陸軍施設は徹底的に壊されるか、
つくり変えられるかしたために、
菊の御紋はほとんど残っていません。
ただ、この「日本水準原点標庫」だけは、
さすがに手をつけてしまうと、
高さそのものに影響があるということで、
そのまま残ったという珍しい建造物なんです。
一般公開は、年に一度だけ
- ──
- きょうは一般公開の日ということで、
この扉を開けていただけるんですね。
- 西城
- それでは、どうぞごらんください。
扉を開けますと、
水晶板がはめ込まれた水準原点があります。
表面にメモリが彫ってあるのがわかりますか?


- ──
- わぁ、見えます見えます!
おぉぉ、これが「日本水準原点」なんですね。
‥‥ええと、これは、どういう状態ですか?
- 西城
- 地盤から伸びるコンクリート柱の上に
「船形台石」が乗っかっていて、
その先端が飛び出しているような状態です。 - 建造物の振動が影響しないように、
建造物とコンクリート柱の間には、
必ず隙間が設けられていて、
わざとつながらないようになっています。


- ──
- この水晶板のメモリなどは、
メンテナンスしたりするんでしょうか。
- 西城
- いえ、基本的にそのままです。
メンテナンスなどしなくていいように、
温度変化に強い素材でつくられています。
- ──
- 台座に使われている石材も、
かなり厳選さてたものってことですよね。
- 西城
- 土台・原点となる標石を支える台座には、
経年変化や不同沈下をできるだけ防ぐため、
非常に硬い石材が必要とされました。
その条件を満たすものとして選ばれたのが、
小豆島産の「御影石」で、
三角点や水準点の標石にも同じ石材が使われています。
- ──
- この水晶板のメモリが、
日本の「高さ」を決めているんですね。
そう思うとなんだか拝みたくなります。
- 西城
- 高さの基準がここにあるので、
ここから他の地域まで、
どうやって正確に持っていくのかという技術が、
じつはけっこう大事になってきます。
こういうのを見たことがありませんか?

- ──
- あ、あります!
町中でときどき見かけますよね。
- 西城
- これは「水準儀」と呼ばれるもので、
こういう機械を使って水準測量をおこなっています。
- ──
- ちなみにこれは、どういう機械なんですか?
- 西城
- ものすごくざっくりいうと、
まず大きな定規「標尺」を離れた地点に2本立てる。
機械の上部にある望遠鏡をのぞいて、
2本の標尺のメモリを見るんです。
そして、その数値の差から正確な高低差を求める。
それが終わったら、コンパスのように、
片方の標尺だけを動かしてふたたび差を計測する。
それを何度も繰り返していくことで、
離れた場所まで基準を移動させていくんです。

- ──
- はぁぁ、気が遠くなるような作業ですね‥‥。
石の「頭」が基準になる
- 西城
- 「日本水準原点」のまわりには、
「甲」「乙」「丙」と書かれたマンホールがあります。
- ──
- これもなにか意味があるんですか?

- 西城
- 万が一、この日本水準原点が、
地殻変動などで壊れても大丈夫なように、
予備の「一等水準点」がここに埋められています。
他にも「丁」と「戊」があって、
「丁」は地上にありますよ。


- ──
- この石から、どうやって高さを測るんですか。
- 西城
- この石の頭が基準の高さになるので、
この上に直接「標尺」を立てて測ります。
じつは「一等水準点」は全国の国道沿いにあって、
約2キロごとに水準点となる石が置いてあります。
- ──
- へぇーー、そうなんですね。
- 西城
- 高さを測るときは、
こんなふうに石の上に標尺を立てて使います。


- ──
- あれ、メモリの文字が逆さまに‥‥。
- 西城
- 測量で使う望遠鏡は、
昔は遠くのものが上下逆さまに見えたんです。
なので読みやすいように
メモリも逆さまに印刷されていました。
いまは技術が進んで、
逆さまにせずとも正しく見えるんですけどね。
人工衛生を使った「電子基準点」
- ──
- あちらにある、
ソーラーパネルのついた白い柱はなんですか?

- 西城
- あれは「電子基準点」というものです。
じつは最近の測量は
人工衛星を使っておこなうのがメインで、
そのための基準点です。
ソーラーパネルが付いているのは、
災害などで電源が止まったときのためですね。
- ──
- 電子基準点のデータは、
どういうときに使われるのでしょうか。
- 西城
- 工事で正確な図面を作るときや、
自動運転の機械を動かすときに、
このデータが使われています。
そういう現場では1センチ単位の正確さが
求められるわけですが、
そういうときのスタート地点になってくれます。
- ──
- 電子基準点も全国にあるんですか。
- 西城
- 全国に約1300箇所あります。
20〜25キロに1か所ぐらいの割合で
設置されています。
学校のグラウンドの隅っこなんかに
置かれていることが多いですね。

- ──
- そうだったんですね!
ぜんぜん気づいていなかったです。
- 西城
- 電子基準点は均等に並んでいるので、
マップでみると気持ちいい並び方をしてますよ(笑)。
- ──
- きょうは知らないことがいっぱい知れて、
とってもたのしかったです。
いろいろ教えてくださりありがとうございました。
- 西城
- こちらこそ興味を持っていただき、
ありがとうございました。

取材に応じてくださった国土交通省 国土地理院 関東地方測量部の西城祐輝さん。
(おしまい)
2026-07-03-FRI